Vol.29
「マインドリサーチは、どうなっているか?」
「はっ、今のところ世を儚んで自殺を図る者はおりません!」
「それだけが心配だからな……」
聖鍵派スタッフの報告に、俺は頷いた。
リーズィッヒ・イェーガーが侵攻を開始した頃、俺はマザーシップのブリッジに座っていた。
今回のダーク・ミヨシン卿はコピーボットであり、俺が操っていたのである。
リアルタイムのマニュアル操作なら、感覚すら共有できるレベルに仕上がった。
「くそっ、フェイティスめ……ジャ・アークを表舞台に出す機会を狙ってやがったな……」
もはや彼女の脳内には、ジャ・アークが実在しているに違いない。
あの設定を、現実にものにしようとしている。
ついに彼女の右手の封印が解かれたというわけだ。
この後の台本では、キャンプシップで旗艦に突入したシーリアがダーク・ミヨシン卿を倒し、世界を救う段取りになっている。
ちなみに、フェイティス監督の下、艦内での戦闘の撮影は既に終わっていた。
ダーク・ミヨシン卿は自分が尖兵に過ぎないことを吐き捨てて死亡することまで決まっていて、この様子がリアルタイム映像という扱いで全世界に流されることになる。
そもそもミヨシンという名前が怪しすぎるだろうと思うのだが、アースフィアの人々が気づいた様子はない。
ミヨシという名は、ほとんど覚えられてないようだ。
しかし、あの終わり方……明らかにあの女、続編を作る気だろうな。
「教団本部を吹き飛ばすのは、さすがにやり過ぎだとは思うけど……」
クラリッサ王国の人々がショック死しないことを祈っていたが、どうやら大丈夫らしい。
あとで、たっぷりケアをする必要がある。
信仰している対象を破壊する行為というのは、信者には相当な効果があるからな。
フェイティスはその辺、本当にわかってるんだろうか……いや、わかって、だからこそやっているんだろうな。
必要以上にトラウマになるようなら、俺がヒュプノウェーブブラスターを使って軽減せねばならない。
「嘘は駄目だよ」
ああ、脳内天使ヤムエル様の声が聞こえてきただ。
おら、また大きな嘘をついちまっただ。
こったら自作自演してよぅ、20過ぎてんのに恥ずかしいだ。
ヤムエル様、お許し下せえ。
「お父さん……許してあげる!」
俺の脳内ヤムエル様が両手で大きく○を作り、笑顔を浮かべてくれたので、幾分か罪悪感が晴れた。
こういうとき、妄想力を鍛えたヲタクは強い。
ここで潰れる訳にはいかない。まだやることがあるのだ。
「さて、俺はミヨシンと聖鍵王の二役だからなぁ……」
俺は中枢ヘ向かい、台座に聖鍵を挿した。
テレポーターを使って地上へ降りる。
豪奢なサーコートを着込み、リオミを連れてクラリッサ王宮へと向かった。
『あ、お兄ちゃん』
「こらこら、今のディーラちゃんはダーク・ドラゴニオンだろ」
『そうだった。えへへ』
王宮の庭に予め設置しておいたテレポーターから出たところには、ダーク・ドラゴニオンセットを装備したディーラちゃんがいた。
その名のとおり、ドラゴン形態の彼女に装備する。
凶悪な顔つきの割にかわいい電子音で発声するのがウリらしい。ディーラちゃんも今回は出番があったのでご満悦だ。
最初はもっとおどろおどろしい感じだったのだが、ディーラちゃんの強硬な反対を受け、改良されている。
『言われたとおり、枢姫派の人たちは全員、王宮に監禁しておいたよ。脱走してる人はいないと思う』
「よし。じゃあ、これから俺は聖鍵騎士団と合流して、帝国軍トルーパーを掃討する」
「アキヒコ様、本気でやってしまってよろしいのですね?」
「ああ、帝国に容赦は必要ない」
枢姫派の連中には、実際の戦闘音を聞かせ、王宮奪還後の戦闘跡を見てもらわねばならない。
帝国軍トルーパーの銃はすべて非殺傷だが、だからといって食らえば痛いし、下手すれば気絶する。
本気でかかる必要があるのだ。
『じゃあ、あたしもそろそろ戻るね』
「ああ、さすがにディーラちゃんと戦うわけにはいかないからね」
この様子を見られれば、スキャンダルでは済まされない。
万が一ディオコルトに中継されるなんてことがあったらたまらないので、周囲にはドローンなどは一切配置せず、証拠画像は残さない。
「そういや、お腹の子は大丈夫なの?」
「ええ、ちょっとぐらいの運動なら子供にもいいんですって!」
そうなのか。
だからと言って、戦闘に勇んで参加する王妃って一体……。
万が一のことがないよう、俺が盾になって守らねば。
中では既に戦闘が始まっていた。
帝国仕様トルーパーの応射に対し、容赦なくブラスターを撃ちこんでいく少佐とフランケンが見えた。
彼らは今回の事件が芝居だとは聞いていないので、本気で戦っている。
だからこそ、帝国軍トルーパーも戦闘モードなのである。
『『『『ゴクアック皇帝陛下、バンザイ!』』』』
「っと!」
横合いから帝国軍トルーパーの部隊が出現し、一斉に射撃してきた。
素早くリオミの防御魔法が展開され、俺たちを守る。
「うっ……アキヒコ様。こいつら強いです……!」
「何しろ、普通のトルーパーの3割増の性能だからな……!」
その分、通常仕様ほどの数は揃えられないのだが。
だが、リオミが苦戦するほどではないはずなのに……この違和感はなんだ?
俺はソード・オブ・メンタルアタックを掃射し、ドロイド部隊を片付ける。
「陛下、こちらへ!」
「フォーマン!」
俺は彼らの誘導に従って、一度避難した。
フォーマンには芝居だと教えてあるのに、その表情に本物の焦りがあった。
「聖鍵陛下……非常に言い難いのですが、我々の装備では帝国軍トルーパーを突破できないかもしれません」
「……そんなに無茶な数を配置したか?」
「分析させてみたところ、どうやらクラリッサ王宮にはトルーパーを強化する装置が設置されているようなのです」
なんだって?
教団関係の情報にも、そんなものはなかったぞ。
「魔法的なものです。どうやら、本来は白光騎士アンダーソンを援護するための強化魔法らしいのですが……」
「トルーパーにも働いちゃったってか!? くそ……!」
既に帝国軍トルーパーは、無差別攻撃モードに移行している。
聖鍵のコードを使えば、トルーパーを機能停止することはできるが……!
今は無理だ!
聖鍵は使えない。理由があって中枢区に挿したままだ。
帝国軍トルーパーが味方と認識してくれるダーク・ミヨシンセット装備のコピーボットは南の空。装備を回収するにしても、時間がかかりすぎる。
リオミがダーク・リオミンセットを装備すれば味方識別してもらえるかもしれないが、帝国軍トルーパーに妙な魔法がかかってる以上、確実に効果があるかどうかわからない。
しかも、敵とみなされれば聖鍵騎士団に撃たれる。
事情を説明してもいいかもしれないが、騎士団のメンバーを騙していたとあっては今後に支障が出るかもしれない。
あらかじめ全員に伝えておくべきだった。リアリティを優先したのが仇となったか。
やっぱり嘘はよくない。アキヒコ覚えた。
状況をまとめると、予定通り帝国軍トルーパーを倒した方が早いということだ。
実際はもっと早期にトルーパーを全滅させる手筈だったのに。
くっそ、こんなの間抜け過ぎる。自作自演の報いだ。
「ごめん、リオミ。どうやら、俺達……マジで超宇宙大銀河帝国ジャ・アークと戦うことになるみたいだぞ」
「はぁ……今度から、フェイティスの言うことを鵜呑みにし過ぎないでくださいね」
心の底から同意しつつ、再び俺達は再突入した。
中で聖鍵騎士団の部隊と合流を果たす。
「じゃあ、その装置を破壊すればコイツらが弱くなるってわけね?」
「そうだ! 場所はもう調査でわかってるから、それぞれ3箇所に設置された装置を破壊すればいい!」
少佐の問いに応えつつ、ディスインテグレイターでドロイドトルーパーを分解する。
「了解。 聞こえた、フランケン?」
「ああ! 早いところコイツら倒して、一杯やろうぜ」
「フォーマン、騎士団を二手に分けて、2箇所の破壊を頼む。俺とリオミは一番奥に向かう」
「かしこまりました!」
彼らにこんな茶番に付きあわせたことを内心で謝罪しつつ、俺とリオミは帝国軍トルーパーを掃討し、奥へ向かう。
ドローンの調査で判明したのが、3箇所の装置。
確かに現在発動している魔法に何らかの干渉を行なっているようだが……何かひっかかる。
「フェイティスがこんなミスを犯すなんて……ちょっとびっくりですね」
「……いや、多分だけど。魔法の大元となる装置は、ルナベースの調査ではわからないような死角に設置されてるんだ」
「どういうことですか?」
正面に整列した帝国軍トルーパーをリオミが《フレイムハンド》で焼き払う。
「ルナベースにも弱点があるんだ。調べるのが難しい場所がある」
「それは?」
「……地下さ」
剣の編隊をT字路両方向へ予備発射し、待ち伏せしていた帝国軍トルーパーを粉砕する。
背後から現れた帝国軍トルーパーから銃撃を受けたが、空間収納で防御して光線を遮断。
「我が手に炎! 愚者を焼きつくす球となりて、爆裂せよ! 《ファイアボール》!」
すぐさま振り返ったリオミの手から、帝国軍トルーパーに向かって炎の球が飛んでいく。
耳朶を打つ大轟音と、周囲に吹き荒れる爆風。
戦果を確認することなく、俺達はさらに前進する。
「ルナベースの情報は、アースフィア全土に潜伏した調査ドローンによって集められる。ドローン本体はもちろん、そいつが散布するナノマシン……まあ、ものすごく小さなゴーレムだと思ってくれ。
そいつらが、アースフィアのさまざまな場所で映像や音声、そして心の声を拾っているんだ」
「改めて聞くと、とんでもない話ですよね……」
「でも、こいつらは壁や岩盤を突破することができるわけじゃない。ドローンはその気になれば転移で潜入できるけど、そこに地下空洞があるという情報がなければ、そもそも入り込もうなんてしない。ナノマシンは小さすぎて転移ができない」
だからこそ、迷宮洞窟地帯や地下帝国ゴーディスでは、情報が不足しやすい。
わざわざリッパーにドリルをつけたのは、何もロマンだけを追い求めたわけではない。
超宇宙文明の陸戦戦力には地下活動に向いた兵器がなく、俺が必要だと思うまで全然開発されていなかった。
対地下で唯一有効だと思われる兵装は、戦略爆撃機フライブルに搭載可能なバンカークラスターぐらいだ。
リオミと背中合わせになって、挟み撃ちを試みてきた帝国軍トルーパーを迎撃する。
リオミの《フォースシールド》が、すべての物理攻撃を完全にシャットアウトし、帝国軍トルーパーの銃撃を凌いだ。
その間に空間から発射した剣でもって、帝国軍トルーパーを百舌の早贄に。
「ありました!」
装置は壺に偽装されていた。
リオミが《マジックアロー》で粉砕する。
無線モードになっているスマートフォンに語りかける。
「フォーマン、こちらは破壊完了。そっちはどうだ?」
「こちらも全て破壊できましたが……トルーパーへの強化は、完全には無効化されていません」
やっぱりか!
思わず舌打ちする。
「3つの装置は魔法効果を拡大するだけのものだった……実際に魔法が発動するまでは、まったく無害……だから事前調査でもノーマークだったんだ!」
「アキヒコ様?」
「クラリッサ王国が実は、ヒュプノウェーブで洗脳されてた時期があったって話は覚えてる?」
「はい……少々、複雑な気分ではありますが、必要なことだったんだろうと思います」
「事の善悪は今、問題じゃないよ。俺は聖鍵の情報開示によって、ヒュプノウェーブ発生装置が王宮の地下に設置されていたことを知ったけど……今でもこの情報は、ドローンたちには登録されてないんだよ」
「それってつまり……」
「ああ。クラリッサ王国には、ルナベースに登録されていない地下施設があって、そこをドローンが調査することはないんだ!」
教団を調査対象にはしたが、『クラリッサ王宮に地下がある』というソースとなる元データそのものがドローンにはない。開示された情報が同期されるのは、基本的に聖鍵だけなのだ。
だからこそ、地下にあると思しき超宇宙文明の兵器を強化する魔法装置を発見できなかった。
おそらくは、ゴーレム系を強化する魔法に手を加えたものだ。教団情報になかったということは、クラリッサ王国が後付したものだろう。
俺は迷わず、クラリッサの謁見の間に向かった。
バルバロッサ枢機卿が玉座に座り込んで、頭を抱えたまま震えていた。
「せ、聖鍵陛下……!? わたしは、とんでもないものを……呼び込んでしまいました。身の丈に合わぬ野心など抱いたから、兄は死に……!」
「今は懺悔の時間じゃない。そこをどいてくれ!」
バルバロッサは素直に玉座からどいた。
教団の開示情報は頭の中に入っている。記録どおりに、玉座の背もたれの上に設置された宝石を順番どおりに並べ替えた。
「聖鍵陛下が何故、秘密地下道の入り口を……!」
バルバロッサの言うとおり、玉座が動き出して、その下に隠れていた階段が姿を現した。
彼はここを知っていたようだが、マインドリサーチも万能ではない。
バルバロッサは常日頃から地下のことを思考したり、利用したりしなかったのだろう。
一度でも考えてくれていれば、俺達は事前に地下の魔法装置を知ることができたかもしれない。
だから、思わず理不尽な怒りを込めて、こう言い返してやった。
「俺は聖鍵王国ピースフィアの王だ。アースフィアのことで、知らぬことなどない」
へなへなとへたり込むバルバロッサに構わず、俺はリオミを連れて地下へ飛び込んだ。
此処から先は、帝国軍トルーパーの影も形もない。
階段を下った先にアンダーソンタイプのメタルノイドが突っ立っていたのでビビったが、ごく普通に挨拶された。
「ごきげんよう、聖鍵陛下。どうぞこちらへ……ベネディクト枢姫がお待ちです」
「な、なんなんだ……?」
「どうぞこちらへ」
アンダーソン君は同じ文言を繰り返した。
俺を案内しようと、先に進んでしまう。
「アキヒコ様……」
「大丈夫だ……と思う」
教団の情報開示では、地下深くにヒュプノウェーブ発生装置があるとされていた。
きっと魔法装置もそこだろうと踏み込んだのだが……。
「アンダーソン、質問に答えろ」
「このまま先に進みながらでよろしければ、なんなりと」
「ベネディクト枢姫が、この先に?」
「はい」
「ベネディクトは何者なんだ?」
「存じ上げません。私のデータベースには、仕えるべき主であるとだけ登録されております」
「魔法装置を発動したのはベネディクトなのか?」
「はい。王都に不審な動きがあったため、ベネディクト枢姫が起動しました」
「今すぐに止めろ」
「私ではなく、ベネディクト枢姫にご命令ください。こちらです」
言われるがままに、エレベーターに載せられる。
アンダーソン君はついてこず、俺達だけが地下エレベーターでクラリッサ王宮の地下深くへと送られる。
「アキヒコ様、本当にこの先にベネディクト枢姫がいるのでしょうか?」
「……ここの先にいるんじゃあ、そりゃ情報はないわな」
やがて到着したフロアは、マザーシップ中枢にそっくりな巨大な空間だった。
中央には、やはりミラーボールのような輝く球体が浮かんでいる。
「アキヒコ様、これは一体……」
「リオミはそういえば、中枢には来たことなかったね……マザーシップにも、ここそっくりの場所がある」
あたりを見回すが、他に出口はないようだ。
ベネディクト枢姫もいない。
『お待ちしておりました、聖鍵陛下……』
と思ったら。
部屋全体から、女性の声が聞こえた。
「……ベネディクト枢姫、なのか?」
『肯定です。ようこそいらっしゃいました』
目の前に、美しい女性が映し出された。
にこやかに微笑んでいる。
年の頃はリオミと同じぐらいに見えるが、服装は白いワンピース。
髪の色は瑠璃色で、まるで体全体を包み込むような長さだ。
「お前は一体、何者なんだ……」
『今回会うのは初めてですね。わたしはアイオンと呼称される情報電子生命体です』
……いよいよ、SFらしくなってきたな。
ついに出ちゃったよ。
情報○合思○体。
『なかなか来てくださらないので、そろそろここを出て行こうかと思っておりました。お会いできて嬉しいです』
案外アバウトな電子生命体だなぁ……。
「俺達は、魔法装置を止めに来たんだ。できるか?」
『肯定です。本来あれは私を守るために作らせた装置ですので、問題が解決したようなら構いません』
「じゃあ、今すぐに止めてくれ」
『了解しました』
空気が……魔素が変化していくのを感じる。
「……アキヒコ様、魔法装置が停止したみたいです」
「ああ。これであとはフォーマン達に任せれば、大丈夫そうか……」
会話をしている俺達を、ベネディクトはまじまじと観察しているように見えた。
『相変わらず、リオミ様と仲がよろしいのですね』
「……なんか、その言い方だと……ずっと前から、俺達の事を知ってたみたいな言い方だな」
『肯定です。私はおふたりだけではなく、皆様のことをよく存じ上げております。もっとも、今回がどうなっているのかまでは、まだ把握しておりませんが』
「……ちょっと待ってくれ」
今回?
そういえば、さっきも「今回会うのは初めて」って……。
「一体、何を言ってるんだ?」
「私には、聖鍵陛下に改めて説明するために教えられたキーワードがあります。
聖鍵陛下の状況は以下のとおりです。《なんとなく命名されたシュタインの門を通り、私は何度でも繰り返す、終わらない8月を》」
…………。
…………。
まさかとは思うんだけど……。
「……俺、ひょっとして周回とかしちゃったりしてるの?」
『肯定です』
「あちゃー、マジか……」
「ど、どういうことですかアキヒコ様」
「なんていうんだろう……ごめん、あとで説明するわ」
頭が痛い。
情報量が多すぎて、ついていけん。
まさか、ループ要素まであったなんて……。
『未来に起きることが見えたことは? 前から聖鍵陛下はビジョンと呼んでらっしゃいましたが』
「ああ、そうだけど……そんなことまで知ってるのか」
『肯定です。聖鍵陛下が見てらっしゃるのは未来ではなく、今に至るまでに何度か繰り返し繰り返し行われてきたダークスとの戦いの中、聖鍵陛下が実際に体験したことが見えているのです』
「うえぇ……」
『未来予知や未来観測ではなく、過去視と表現するのが妥当なものです』
ヤムエルやリプラさんを殺されてしまった俺。
ディオコルトにシーリアを奪われた俺。
ザーダスがシーリアによって殺された俺。
ザーダスを庇ってシーリアが去っていった俺。
あれ全部、『実際に起きた事を認識していた俺』がいたってことかよ。
『確かにすべてが起きたことではありますし、繰り返していますが……現在の聖鍵陛下が頑張れるのは、一度きりです。
いずれ聖鍵を次の陛下にバトンタッチするときが来るでしょうが、それは別の並行宇宙の陛下であって、陛下ご自身ではありませんから……精一杯、今を頑張ってくださいね!』
なんか応援されてしまった。
ビジョンの正体のタネ明かし、ぐらいに受け取っておけということか。
「ひょっとして、聖鍵からディオコルトの情報が入ってきたのも、同じ理由か?」
『それは私も詳しくは存じ上げません。ただ私が出会う聖鍵陛下は、常にディオコルトの知識を持っているのは確かです』
……うーん、似たようなものか?
多分、一番最初の俺あたりがNTRされまくって、ディオコルトだけは絶対倒すために聖鍵に情報を託したとかじゃないかなぁ。
俺ならそうする。
「で……お前はこれからどうするんだ?」
『もちろん、聖鍵陛下とご一緒しますよ~』
「なんか軽いなぁ、お前……」
『なにしろ、このことを伝えるため、そして全並行宇宙の聖鍵陛下に会うために、体を捨てましたからね!』
「メチャクチャ重い!?」
『今回も、私用のボディを用意してくださいね』
はぁ……何気にとんでもない情報がわかってしまったが……。
なるほど、”枢姫派”ね。
こりゃ教団的には、担ぐわ。
「……またちゃんといろいろ事情、説明してもらうからな」
『あ、いつもどおりなら今は聖鍵が使えないんですよね。今度持ってきて、私を入れてくださいね』
笑顔で手を振られてしまった。
さっきの発言からして、ここから出られないわけでは無さそうだが、どうやら聖鍵に一度入ることで、この世界で自由に動けるようになるらしい。
いい子みたいだが、彼女と俺が互いを過ごした時間はズレまくってるんだろうなぁ……。
だいたいループだと、そういう感じなんだよ。
ほむ○むとま○かが、いい例。
「ひょっとして、とんでもない秘密を知ってしまいましたか、わたし……」
「大丈夫、俺もだ」
俺達は互いに肩を叩き合った。
ループネタかよ……って怒らないでください。
実際に物語がループすることはないですし、そう大した話ではありませんので。




