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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode03 Sinner Zardas

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Vol.24

 聖鍵領が正式に決まったので、王宮の設備がマザーシップからこちらへ移転される。

 フォスの教団支部とマザーシップを直結し、政治中枢として機能することになる。


 王都であるフォスは、元から都市機能のみ。

 マザーシップが政治中枢だった頃と、ほとんど変わらない。

 だが、この地が紛れもなくピースフィアのものであると主張するには、こういった施設を作る必要がある。


「……アキヒコ様、この内装……!」

「うん。ロードニア王都のお城を参考にしたんだよ」


 リオミは、すぐに気に入ってくれた。

 マザーシップの部屋なども装飾などでそれらしく演出されてはいたが、やはり本場の王宮とは雰囲気からして違う。


 早速聖鍵派のスタッフ……ただし男性を中心としたメンバーが出入りする。

 後宮には何人か女性スタッフが務めることにはなるが、彼女たちには精神遮蔽オプションを与えてある。

 ディオコルトを発見した場合は、即座に通報するように訓練してある。


「以後はこっちに政治中枢を移していくことになる。フォスが王都であることには変わりないけど、こちらは俺の直轄領として王宮が建築されることになる。王都と王宮は本来同じ場所に作られるらしいけど……」

「あくまで慣例というだけで、そのように決められたルールというわけではないですね」


 マザーシップにある中枢機能を、序々に王宮へ移していくことになる。

 衛星軌道上が安全なのは確かだが、前にも話したとおり各国の側室を迎える場所としては不向きだ。

 ディオコルトの件さえ解決すれば、ディメンションセキュリティを固めてマザーシップと同等の防御能力を有するようになるだろう。

 

 陸戦兵力だけで考えれば、むしろ聖鍵領はフォスより安全と言える。

 聖鍵領の西には、元々魔王城があった場所に領土拡張プログラムの本拠地として建造された要塞がある。

 5つの要塞モジュールを五芒星に見立てて配置し、その中央には巨大な要塞塔を建造。

 要塞塔の天辺には要塞砲。マザーシップの主砲と同じ出力のホワイト・レイを発射できる。

 もし西側からゴーディス地下帝国の軍勢が押し寄せてきても、巨○兵よろしく「薙ぎ払え」と命令して終わりだ。


 要塞の中は前に視察したときのような工場がいくつもあり、グロース・イェーガをはじめとした無数の兵器が量産されている。

 この要塞の制御は聖鍵を使わねばできないようにしてあるため、教団支部のようにディオコルトに乗っ取られる心配はない。


 ザーダスの助言に従い、聖鍵領の北と南にも要塞モジュールを投下した。

 もしどちらかから巨人や魔物が攻めてきた場合の防波堤となる。

 突破されても、俺達はその間に安全なマザーシップやフォスまで避難できるのだ。


 東に至っては、大部分が既に魔物もおらず瘴気もない安全な土地になっている。

 テラフォーミングも順調で、最近は緑も豊かになってきた。

 移民を受け入れるとしたら、真っ先にここが候補となるだろう。


 そこより東、永劫砂漠では領土拡張プログラムによる侵略が継続されている。

 魔物が聖鍵領に来ることは、まずない。


「食堂も、ちゃんとあるんですね」

「マザーシップで使ってた施設のいくつかは、こっちでもそのまま採用してるからね。向こうにいちいち戻らなくてもいいように」


 といっても、内装はだいぶ違う。

 ロードニアの城で一度だけ食事をしたことがあったが、そことほとんど同じような作りにしてもらった。

 料理を頼めば作ってもらえる点はマザーシップの食堂と同じだが、最近忙しいフェイティスに代わって人間のシェフも雇った。


「いよいよ一国一城の主か……」

「今更じゃないか?」


 シーリアが憮然とした顔で突っ込んでくる。


「うーん……でも、マザーシップは城って感じはしないからなぁ」

「そういえば、あの船はマザーシップという名前なのですか?」

「いや、あの船には名前をつけなかったんだ……」


 フリーバードだの、グロース・イェーガーだの、いろんな兵器を作っているが、これらの名前は俺が決めている。

 マザーシップも当初、なんちゃら号みたいなかっこいい名前を決めたかったのだ。

 しかし、全容のデザインを見て異星人の侵略船にしか見えなかったため、名前をつける気になれなかったというのが真相だ。


「じゃあ、これまでどおりマザーシップとか、最近皆さんが言うようにピースフィア号でいいんですね」


 最近は、聖鍵戦艦だのピースフィア号だのと呼ばれることもあるが、これもやはり俺が決めたわけではない。

 聖鍵派スタッフが勝手にそう呼び始めたのを、俺が黙認しているのである。


「ここが謁見の間か」


 王妃組が感嘆の吐息を漏らす。

 俺も息を呑んだ。


 無駄に広い。

 これまで見た各国の謁見の間も相当広かったが、ここはそれ以上だ。

 内装はロードニアの格式、クラリッサの絢爛を程よく混ぜたような、俺が見てもセンスを感じるデザインだ。

 フェイティスに紹介してもらった設計技師だったが、頼んで正解だったと思わされる。


「ん? 玉座に誰か座ってるんだが」

「おお、よくきた。我のオリジナルと后達よ」


 ずっこけた。

 王様コピーボットじゃないか。


「なんでお前ここにいるんだよ」

「フェイティスに送り込まれ、我がここでお前に代わり各国からの使者などに応対することになっているのだ」

「そこは俺の席だぞ……」

「ここにずっと座り続ける公務に耐えられるのか? 使者や陳情者はひっきりなしにやってくるのだぞ」

「うっ……」

「それに、同じ時間帯にフォスの聖鍵学院にオリジナルがいれば……十中八九、影武者はオリジナルの方だと思われるはずだからな」

「そうか……」


 そりゃ確かに、王宮と学院なら、どっちが本物かなんて考えるまでもないだろう。


「もっとも、同じ時間に別の場所にいることなど、アースフィアの世界の人間にはほとんどわからないだろうがな」

「まあ、場所が場所だしな」

「と、いうわけでご主人様にかわって、わたくしがここで公務を代行します」


 コピーボットが急にフェイティス口調になった。


「結局、いつもどおり頼ることになっちゃうな」

「いえいえ、礼儀作法の授業はまだ途中も途中ですから」

「へいへい、どうせ俺は前科者だよ」

「姉さん、なのか……?」


 俺達のやりとりをポカンと見ていたシーリアが、横から入ってきた。


「シーリアとリオミには、両隣の玉座に座ってもらいますから、そのつもりで」

「わ、わかりました」

「まかせて、フェイティス」


 初心者シーリアと違って、リオミは慣れたものだろう。

 いずれ、俺もここに堂々と座って公務ができるようにならないといけない。


 謁見の間を出て、空中庭園などを巡って景色に感動したりしつつ、俺達はやがて後宮に到着した。


「今後は、ここで暮らすことが多くなりますね」

「というより、ここが家になるって感じだな……」


 マザーシップの部屋はそのままにしてあるが、基本的にはこちらで暮らすことになるだろう。

 ディーラちゃんやザーダス、そして側室の姫君はここで暮らすことになる。

 あとは、もし望めばリプラさんやフラン、ヤムエルもここで寝泊まりする。


「やっぱり、アースフィアは空気がうまいなぁ」


 魔素の濃さは当然、マザーシップより聖鍵領のほうが断然上だ。


「そういえば、ラディは大丈夫なのか?」

「ん、何が?」

「魔素アレルギーなのだろう。ここで暮らせるのか?」

「ああ、えっと……」


 しまった、考えてなかったな。

 どう言い訳しよう……。


「……アキヒコ?」

「ああ、うん、えっと。どうするかな、ははは……」


 結局、笑って誤魔化してしまった。

 あとでディーラちゃんたちと相談して、新しい理由を考えないといけないな……。


「……アキヒコ様。一体何を隠してらっしゃるのですか……」

「リオミ?」

「アキヒコ様は今、あのときと同じ顔をしてらっしゃいます」

「あのときって……?」

「1週間ほど前の食堂で……」


 あ……。

 ザーダスの件で塞ぎこんでたときか。

 最近はあんまり表に出さないようにしてたけど、今の話題で緩んだか。


「……わたしたちには、どうしても話せないことなのですか」

「…………」

「アキヒコ。私は夫婦だ。どんなことでも話してくれていいんだぞ」

「うっ……」


 ふたりとも、俺を本気で心配してくれている。

 話してもいいのではないだろうか。

 彼女たちなら、俺がちゃんと説明すれば受け入れてくれるのではないか?

 フェイティスにはふたりに決して話すなと言われたが……。


「……実は……」


 ど、くん。

 鼓動が跳ねる。


「……!」


 頭がぐちゃぐちゃにされたようなシェイク感。

 この感じ、ビジョンだ……!


 両膝をついてへたり込んだザーダス。

 そんな彼女に剣を容赦なく振り下ろすシーリア。

 その光景を何もできずに見ている、俺……。


 ここで話せば、現実になるというのか。

 シーリアはあんなにも、俺を慕ってくれているのに。 

 いや、あの顔は……むしろ剣聖アラムと呼ぶべきだ。

 魔王ザーダスの健在を知れば、彼女はアラムに戻ってしまうというのか……!?


「……ごめん、やっぱり話せない!」

「アキヒコ!?」

「駄目なんだ! 今は話せないんだ!!」

「アキヒコ様……」


 俺はその場に立ち尽くす。

 彼女たちも俺の豹変に困惑し、掛ける言葉が見つからない様子だ。

 そんな彼女たちを精一杯の謝罪を込めて、まっすぐに見つめた。


「……わかりました。そこまでおっしゃるからには、相当な理由がおありなのですね。わたしたちに話せないほどの……」

「ごめん」

「アキヒコ……」

「シーリア、すまない。こればっかりは……俺は、お前を失いたくないんだ」


 あるいは、解答となってしまう言葉。

 俺がシーリアに大きな秘密を隠しているという事実を裏付ける言質。


「……アキヒコ。いつかは、聞かせてくれるのだな……?」

「……約束はできない。あるいは、俺が死ぬまで、このことは話せないかもしれない」

「…………」

「本当にすまない」


 深く頭を下げる。


「……そんなに私は信用がないのか」


 シーリアのつぶやき。

 同時に……俺は見てしまった。


 新たなビジョンだ。

 シーリアが俺を悲しそうな目で見て、離れていく彼女の姿……。

 今よりはだいぶ老けて見えるが……このことが後々までシコリになるとでも?

 傍らにディオコルトはいない。自分の判断で出て行くというのか。


(なんなんだよ……俺は、どうすればいいんだよ……)


 シーリアとザーダス、そしてディーラちゃん。

 すべてを選ぶことはできないと、そう言うのか。


 二者択一。

 どっちつかずのツケ。

 八方美人の精算。


 そんなに遠くない未来、俺は決めなければならない……。

 決めたくない。

 曖昧なままにしておきたい……。



「……ならば、余を切り捨てるのがよかろう」


 密談室に呼び出されたザーダスは、フェイティスと全く同じことを言い出した。


「……お前はそれでいいのかよ」

「構わんよ。己の罪が死程度で贖えるとは思えんが」

「だったら、なんとかする方法を……!」

「隠していることが相手にバレてしまった以上、そう長続きはせん。それとも、ふたりから記憶を消すか?」

「俺はそれでもいいと思ってる」

「そなた……!」

「あくまで、俺が何かを隠しているという記憶だけを消せばいい。それで今までどおりだ」

「……本気のようだな」


 俺は無言で頷いた。


「これが、俺の正体だ。偽りと虚飾に塗り固めた仮面を剥いでしまえば、エゴ剥き出しの醜い男がひとり出てくるだけのことだよ」

「確かに、そなたのやり方は独善に満ちている」

「そんなことは、言われなくてもわかっている」


 聖鍵派のやり方は、潔癖症の俺そのものだ。

 どんな小さな犯罪者であろうと、俺は収容所にブチこむ。

 悪に報いを、罪には罰を。

 己を省みぬ愚か者には永久の眠りを。


 そいつに家族がいようと、お構いなしだ。

 つい先日、ヒュプノウェーブの使用を許可した。

 重犯罪者及び性犯罪者の家族から、そいつらの記憶を消去することを認可したのだ。

 家族との絆すら奪う、あるいは死よりも残酷な罰。


 聖鍵王国ピースフィアの正体は、ユートピアではなくディストピアだ。

 俺個人が考える正義を実現する巨大な歯車。

 子供じみた理想を、宇宙規模の力でもって体現する。

 俺にとって都合の悪いことは超宇宙文明の力で塗りつぶす。

 逆らう者は洗脳し、自分の手駒になるよう再教育する。


 その本質は限りなく善ではなく、悪に近い。


 だというのに、ザーダスはただ頷いた。

 俺の在り方を、肯定してみせた。


「王とはそんなものだ。己の信じる正義を貫くため、力を手に入れる。

 そなたは最初から、その力があっただけのことだ。己を責める必要はない」

「慰めなんて、やめてくれ!」

「慰めなどではないわ、愚か者ぉ!!」


 ザーダスは俺を上回る大音量でもって喝破した。

 思わず二の句を告げなくなる。


「余は世界から魔王と恐れられたザーダスであるぞ?

 力を求め、魔物を統率し、ダークスの支配をコントロールして、多くの犠牲を払いつつも破滅だけは回避しようとし続けた!

 だが、それでも余は多くの苦痛を生きとし生けるものすべてにもたらした!

 いいか、すべてにだ! 人間も魔物も等しく、余の圧政によって苦しんだのだ!」


 それは罪の告白、懺悔の類であるはずなのに、彼女には己を責めるようなニュアンスはなかった。

 すべてを受け入れている。

 彼女は覚悟して、そして実行したのだ。


「余は、その選択を後悔などしていない。何故か、わかるか?

 余が、そうすると決めたからだ。

 王が決めた以上、部下は王の決定についてくるものだ。

 ときに王たるもの、大と小を天秤にかけ、小を切り捨てねばならん。

 だが、誰にもその決断を責める資格はないのだ。王がそう決め、すべてを背負うからだ。

 それを責める者は何も知らぬ博愛主義者か、覚悟を知らぬ愚者だけだ」

「……う、あ……」

「勇者よ。そなたは王になることを決めたのだ。

 もはや逃げることは許されんぞ。お前はそもそも何のために王になったのだ?

 シーリアを救うため、リオミを裏切らぬためであろうが。そこまでして救った者と、魔王の残りカス。

 天秤にかけるまでもあるまい」

「だけど、そんなことをすればディーラちゃんが傷つく……」

「そなたはディーラすら、己の言い訳に利用するつもりか?」

「そ、それは……」

「……そなたが決めろ。どちらを選ぶ」


 そこまで言っておいて、彼女は自分を切り捨てろとまで指示はしなかった。

 あくまで決めるのは、王たる俺であると。

 決めないことを決めてきた俺に決めろと。


「俺、は……」

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