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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode03 Sinner Zardas

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Vol.23

 ゴズガルドを完封した。

 ヤツとまともに斬り合ってやりたかったが、こちらにも事情がある。

 俺は今、聖鍵をまともに使う事ができない状態なのだ。


 そのため、現状出せる俺個人の全力はこれが最大となる。

 俺なりにゴズガルドに誠意を払ったわけだが、それがヤツにとって納得の行く敗北となったかはわからない。

 この戦い方は、俺が大好きだった某作品の技を超宇宙文明の技術によって再現したものだ。


 仕掛けとしては単純。

 今回使ったテクノロジーは、俺が聖鍵などのアイテムを収納するのに使っている、空間収納装置。

 そして、超宇宙文明製の3Dプリンタだ。


 空間収納装置は俺が初期から使っている、異空間に作られた鞘だ。

 俺は、この装置をかなりはじめの頃から改良に着手していた。

 つい最近も、部分収納によって聖鍵の一部だけを露出させ、転移することに成功している。


 今回は、ゴズガルドの手足を部分格納して空間固定(ロック)、彼の動きを封じた。

 ブラキニスの切っ先が消えたのも、俺の前面に空間鞘が展開されていたからである。

 このまま空間固定すれば、ブラキニスを奪うこともできた。

 どんな馬鹿力で引っ張った所で、空間に固定されてしまった物質を動かすことはできない。

 とどめのソード・オブ・メンタルアタックの一斉射撃も、空間収納装置に射出機能を搭載した結果である。


 さて、もうひとつの3Dプリンタだが……これはフェイティスも絶賛していたとおり、完全なコピーを作り出すことができるシロモノだった。

 思いついて冗談半分に実験したのだが、なんと武器、防具、魔法のアイテムの類さえ完璧なコピー品を作り出せてしまったのだ。

 有機物はダメのようだが、無機物の類なら問題なくコピーできてしまった。

 どうやら工業プラントで稼働している兵器は、こうして原型をコピーして量産されているようなのだ。


 俺はシーリアに断って、ソード・オブ・メンタルアタックを借りて、これをコピーしてみた。

 結果は成功、当然のように不殺効果も付与されていた。

 こうして、俺の空間収納装置の中には常に1兆本のソード・オブ・メンタルアタックが貯蔵されることになり、いつでも超広範囲に渡って射出できるようになったのだ。

 当然、ディオコルト対策のひとつである。ヤツを悦ばせてしまうだけかもしれないが。


 これまでもチート臭い性能を誇っていた聖鍵だが、何気にこれが本当に一番とんでもない気がする。

 一体どこからコピー用資源を確保してるのだろうと思ったが、どうもこれは並行大宇宙ペズンから、いくらでも確保できるらしい。

 宇宙ひとつぶんの資源を自由にできるとなれば、そりゃ無限のコピーもできるだろうよ。

 フェイティスの先見の明が恐ろしい。


「……くっ、ワシはまだ……」

「もう良い、ゴズガルド。そちはよく戦った」

「ま、魔王様……ですが、ワシは……」

「命令に背いたことは、もう良い。余はこうして生まれ変わり、そちと再会できた。今では勇者は我が同志。魔王として君臨していた時代よりも充実しておるよ」

「……しかし、ワシはそれでも……武人の風上にも置けぬ愚か者であります。取り返しのつかないミスを犯しました……」

「ならば、今後は勇者のもとで挽回せよ。それが余の望みでもある……」


 ゴズガルドは尚も俺を睨みつけた。

 当然勝つつもりであったろうし、負けるとしても勝負にはなると考えていたのだろう。


「ワシは、お前に仕えるつもりはない!」

「お前は武人としての言を違えるのか?」

「それをお前に言われたくはない……!」

「戦いの最中のやり取りに騙し合いがないなんて、それこそお前が言うべきことじゃないだろう」

「くっ……」

「俺はお前が俺に仕えるという話だったから、本来であれば何の意味もない決闘に顔を出してやったんだ」

「おのれ……どこまでワシを愚弄すれば気が済む……!」

「いい加減にせんか、ゴズガルド!」


 ザーダスが喝破した。


「見苦しいにも程がある。自分の犯した過ちを認めるまでは良いが、示された道が己の意に沿わぬからと、一度約束したことを違えるなど……」

「ま、魔王様……ワシは」

「まだ余を主と仰ぐのであれば、勇者に仕えよ。お前は完膚なきまでに敗北し、この者の軍門に下るのだ」


 ゴズガルドの巨体がどんどん小さくなっていく。

 少々気の毒だし、俺に仕えたくない気持ちは痛いほどわかるが、辛抱してもらおう。


 待機していた調査ドローンを呼び出し、ゴズガルドを巨人山脈に転移させた。

 聖鍵を使えない以上、行きのときもドローンの力を使っていたのは言うまでもない。


「ザーダス……悪かったな。泥をかぶってもらって」

「……良い。ゴズガルドの言動に腹が立ったのも事実だ」

「あとであいつの怪我を治してやらないとな……」

「いや、あやつにこれ以上恥の上塗りをせんでやってくれ」


 ザーダスなりに部下を気遣っているようだ。

 今後も、ゴズガルドは彼女に任せればいいだろう。


「巨人山脈にテレポーターを配置する。お前だけが跳べるようにしておくから、使ってくれ」

「……良いのか?」

「お前は本気で贖おうとしている。それを確認できたからな」

「勇者……」

「お前はアースフィアに受け入れられないかもしれないけど、お前を受け入れてくれるヤツもいるはずだ……」

「……」


 フランがそうだったように。

 ザーダスにも居場所はあるはずだ。

 そう信じたい。


「……そなたは哀れに思っているのかもしれないが、余は充分に恵まれておるよ」


 ザーダスは、ふっと微笑んだ。

 彼女にはディーラちゃんもいる。

 正体を隠しているとはいえ、みんなとも家族のように付き合っている。

 なんとか今の状態を守りたいが……いつまで続けられるだろう。


「この先何が起きたとしても、余はそなたを責めたりはせぬ。そなたも自分を責めすぎるな」


 ザーダスは俺の考えを読み解いたかのように、そう言った。



 魔王城跡地を正式に聖鍵王国直轄領とすることを世界に向けて発表した。

 反応は様々だった。


 ある者は、あの地は瘴気が濃く、人が住める場所でないのに何を考えているのかと。

 ある者は、誰も確認できないことを良い事に、出鱈目を言っているだけではないかと。

 ある者は、聖鍵王国ならば瘴気も魔物も退けて、人の住める地にしてしまったのではないかと。


 ピースフィアは、ほどなくして各国の要人を宮廷魔術師とともに招聘し。

 連れてきた場所で宮廷魔術師に《マッピング》を使わせた。

 リオミがやっていたのと同じ方法で、魔王城跡地であることを証明させたのだ。

 

 こうして、魔王城跡地は正式に「聖鍵領」とその名を変えた。


「フェイティス、各国の動きはどうなってる?」

「やはり、三国連合の反応が顕著ですね」


 彼らは迷宮洞窟地帯を突破して、その北に領土を広げることを企図していた。

 だが、ピースフィアに先手を打たれてしまったのだ。

 既に書面上、アキヒコが宣言した領土を認めることになってしまっているため、三国連合は手も足も出ない。


 最も、彼らの意図は見え透いていたため、教団から闇避けの指輪の供与をさせないよう指示していたわけだが。

 既に所有している分でも迷宮洞窟地帯は突破できないわけではなかろうが、領土拡張のために必要な人員までは確保できないため、長いスパンで考えられていたようだ。

 どちらにせよ、これで迷宮洞窟地帯は攻略せず、そのままにすることが決まった。

 下手に開拓してしまうと、三国連合と国境を接することになる。

 通り抜けるのが危険な緩衝地帯として残すのがいい。


「エーデルベルトとカドニアの国境付近は?」

「今のところ、大きな動きはありません。少なくともグラン王は、ああ見えて穏健派ですから」


 前にあった時も、カドニアとの戦争は望んでいないと言っていた。

 だが、裏を返せばエーデルベルトにはカドニアと戦争になった場合の備えがあるということだ。

 食糧援助など、外交努力は今後も続けていく必要がある。


「ロードニア、アズーナン、カドニアはピースフィア側ですね」

「その辺は予想どおりだな」


 ここは今更確認する必要もないだろう。

 ロードニアに至っては、リオミとの結婚が成ったことによって、国内でも公国化へ向けた大きな動きが現れつつある。

 クライン王もタイミングを図っている状態だ。


「クラリッサも教団側から働きかけを続けてくれ」

「わかりました。ですが……最近、クラリッサも教団の声を鵜呑みにすべきではないという派閥が現れつつあります。公国化は時間がかかるかもしれません」

「……」


 これは少々、意外な展開だった。

 教団の言うことならなんでも聞くイメージがあったが……。


「どんな派閥だ?」

「枢姫派です。ベネディクト枢姫を掲げた勢力ですね」

「確か、側室候補だったよな。一体何者なんだ?」

「ベネディクト枢姫は最近まで王室から外に一度もなかった人物なので、情報がありません。現在調べさせてはいますが、彼女を見たという人はいませんね」


 教団側データベースにもベネディクトという人物の情報はない。

 あくまでクラリッサの王族だろう。


「そんな人物が、どうして派閥のトップに挙げられているんだ?」

「王弟のバルバロッサ枢機卿が最近の聖鍵派に不満を持っている勢力を糾合し、これまで表に出てくることのなかったベネディクト枢姫を祭り上げて勢力を作り出しているようです」

「……ひょっとして、この間の暗殺騒ぎの黒幕は」

「はい、バルバロッサ枢機卿……ひいては枢姫派に間違いありません」

「そこまでわかっていながら、聖鍵騎士団では手が出せなかったのか……?」

「流石にそれをやってしまえば、カドニアでやった芝居が無駄になりますからね」


 となると、再び超宇宙大銀河帝国軍の出番なのだろうか。


「バルバロッサ枢機卿の目的は、あくまでクラリッサ王国での実権を握ることです。もし可能であるならば、ベネディクト枢姫をご主人様の側室に送り込んで、最終的にはピースフィアを乗っ取り操ることも考えているかもしれない…というのが、フォーマンからの報告です」

「完全に敵ってわけか?」

「その辺りは、相手側も見極めているところでしょうね。枢姫派は本派の流れを組みながら、国家への不干渉ルールを盾に教団からの助言をほとんど受け付けません。聖鍵王国への公国化を勧めてきたアンダーソンに対し、王国を維持すべきであるという勢力を丸々率いる形となっていますね」

「うーん……邪魔だな」


 残しておくと、火種しか生みそうもない。

 早々に対処すべきだろう。


「それなのですが、ご主人様……少々、お耳に入れておきたいことがあるのです」

「なんだ?」

「枢姫派を中心に据え、他国の反聖鍵派勢力もすべて炙りだしてはいかがでしょう?」


 また始まった。

 フェイティスの悪い癖だ。

 陰謀大好き女郎蜘蛛。


「メリーナ王女のこともだけど……本当に好きだよな、そういうの」

「敵を倒すだけが政治ではありませんから。バルバロッサ枢機卿を排除するのは簡単ですが、各地で吹き出しつつある反聖鍵派勢力を整理して、一網打尽にすべきかと存じます」

「その旗頭に枢姫派を使うっていうのか」

「ベネディクト枢姫は側室候補です。

 形だけでも婚姻関係を結ぶということは、表向き聖鍵王国と矛を交えるつもりがないか。

 ベネディクト枢姫を人質として差し出すことでピースフィアから妥協を引き出すか。

 あるいはベネディクト枢姫をピースフィアに攫われたのだという話を吹聴し、枢姫派を反聖鍵派勢力として台頭させるか。

 この辺りだと思われます。

 その点では、浄火派よりもよほど柔軟な派閥です。

 ご主人様の暗殺の件に関しても、こちらの対応を窺う程度の(おもむき)でしたから、うまくいけばよし、失敗したならどうして失敗したのかを検討し、今後に備えるつもりかと」

「選択肢を広く取っているわけか……」

「枢姫派そのものは、ピースフィアへの不満を利用して王弟が国内での発言力を高めるためにやっているだけとも取れます。本当の意味でピースフィアに仇なすつもりがあるかは、微妙なところですね。マインドリサーチでも、いまいち本音のわかりづらい人物でして」

「泳がせるには、少々危険な気もするけど……」

「そこは、わたくしを信じていただくしかありませんが……もし、早急な対処をお望みでしたら、ご主人様の嫌う強引な手法を取らざるを得ません」

「フェイティスはずるい」


 そんな風に言われれば、彼女の助言に従うしかないじゃないか。


「すべてはご主人様の望む未来のためです」

「…………」

 

 多分計算してやってるんだろうと思うけど、そう言うフェイティスの瞳は揺れていた。


「わかった、やり方は任せる。俺の判断が必要なときだけ、話を回してくれ」

「かしこまりました」


 メイドは優雅に一礼した。


「……それとご主人様。これは別件なのですが、タリウス様に師事されているチグリ様ですが……」

「ん、彼女がどうかした?」

「少々、彼女の論文を拝見する機会がありまして。ひょっとするとですが……彼女は化けるかもしれません」

「化ける?」


 どういう意味で言ってるんだろう。

 変身魔法が得意になるという意味なのか、あるいは人間として一皮むけるということなのか。


「もしよろしければ、しばらくわたくしと公務を共にすることをお許しいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「んー、まあチグリがいいというなら構わないよ、それぐらい」

「ありがとうございます」

「ん、そうだ。その論文って俺も読める?」

「では、コピーを執務室の方へ送っておきますね」


 チグリの書いた論文は魔法に関するものらしかった。目を通す。

 最初の内容自体はごく普通の魔法学に関する文献から集めた情報を彼女なりに噛み砕いたものだ。

 それほど特筆すべき内容はないように思ったが……。


「やけに、この章だけ分厚いな」


 表題は「魔法を用いた戦争について」という、それほど目を引くものではない。

 だが、読み進めていくと……俺は思わず引きこまれそうになった。

 過去の戦争における戦術の分析、使用された魔法の有効性などについて、かなり詳細に書かれている。

 指揮官が用いた戦術については、魔法に関する内容を飛び越えて、判断や指示、兵站についてまで踏み込んでいる。

 たったひとつの戦について、章の約半分が占められていた。


「……おいおい、これはタイトル詐欺だろう」


 これは魔法の論文じゃない。

 戦争に関する論文だ。

 魔法学校に入学するために書かれた論文がこれじゃあ、受かるわけがない。


 だが、この章に対するチグリの入れ込みようは相当なものだ。

 自分でも気づかぬうちに、興味のある分野に関して微細に記述してしまったのだ。

 あるいは、チグリにとって戦争こそが愉悦だったのだろうか。


「化けるかもしれない、ね……」


 あのフェイティスが言っていたのだ。

 あるいは、チグリもまた何かしらのスペシャリストなのかもしれない。

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