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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode03 Sinner Zardas

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Vol.22

 チグリをタリウスのじっちゃんのところに送り出して1週間が経った。

 セクハラにもめげずに頑張っているらしい。


 ザーダスは、まだゴズガルドと交渉中だ。

 経過はフェイティスから聞いているが、まずまずといったところだ。

 ゴズガルド自身はすぐに恭順の意を示したそうだが、他の巨人がそうではないようで……ザーダスが正体を隠して他の巨人にも話をしているのだそうだ。


 俺はしばらく学院に通いながら公務をこなした。

 最近、あんまりにもあんまりなことが続いたので、自重の日々だ。

 その分、夜は一切自重しない。

 毎日さる事情で疲労状態だったが、溜め込んでも何かやらかすぐらいなら、ぶっ倒れたほうがまだいい。


「アキヒコ様……」

「んー?」


 夫婦の営みを終え、のんびりとワインを飲んでいるときのことだった。

 シーリアもフェイティスの教育成果のおかげで、俺を気遣うようになっていたので、宇宙空間を裸で漂うような精神状態に陥ることはない。


「フェイティスには、まだ話すなと言われてたんですが……」

「どうしたの?」

「……できた、みたいです」

「…………」

「…………」


 俺は思わずシーリアと顔を見合わせた。

 彼女もぽかんとした様子で、首をぶんぶんと横に振っていた。

 俺は縦に首肯して、リオミに向き直った。


「その、できたって……やっぱり?」

「……はい」


 少しだけ不安そうに、でも嬉しそうにリオミは頷いた。


「まだ3日ほどだそうですが……」

「そ、そうか……」


 妊娠の発覚が早すぎる。

 地球の妊娠検査薬でも受精から最低でも2週間経過しないと判定は不可能だと聞いたことがある。

 超宇宙文明の検査なら、受精した直後からわかるらしい。さすがだ。


「……そうか!」


 思わずガッツポーズする。

 ついにできたのだ。

 俺とリオミの、愛の結晶が!


「発表は、もう少し先にするとのことですので、皆さんには内密に……」

「わかった。それより……」


 俺はリオミを抱きしめた。

 そうせずにはいられなかったのだ。


「アキヒコ様?」

「やったな。ようやくだな……」

「……喜んでくださっているのですか?」

「当たり前だろ!」


 一体何を言ってるんだ。

 俺が喜ばないはずないじゃないか。


「あ……よかった」


 ふっと、リオミの体から力が抜ける。


「お、おい大丈夫か!?」

「リオミ、横になれ」


 黙って見守ってくれていたシーリアが、リオミをベッドに運んでくれた。

 そこは俺がやりたかったところだけど、シーリアもリオミが心配なんだろう。

 俺はリオミの枕元に座って、彼女の手を握った。

 彼女が握り返す手の感触を伝って、温かい気持ちが流れてくる気がした。


「どうしたんだ?」

「わたし……すごく、不安で。アキヒコ様が喜んでくれないんじゃないか、って……重荷に思われてしまうんじゃないかって、すごく、怖かったんです」

「そんなこと……」

「アキヒコ。最近のお前はちょっとおかしかったからな。私もかなりリオミに相談されていたんだぞ」

「う……」


 チグリにあんなことしちゃったり、ウラフ族のおにゃのこをモフモフしてしまったり、いろいろやらかしてしまっていたからか。

 しかも、俺が今やっていることを考えれば彼女たちが心配するのも理解できる。


「でも、話してよかったです。すごく、楽になりました……」


 笑うリオミの目から一滴の涙が流れた。


「元気な赤ちゃん、産んでみせますから。今のうちに名前、考えてあげてくださいね……」


 リオミはやがて深い眠りについた。

 シーリアに誘われて、俺はバーに繰り出した。


「リオミは身籠る前から、かなりのプレッシャーを受けていたようだ。結婚することになってから、自分が子供を産めなかったらどうしようとか、他の女に先に子供ができてしまったらどうしようとか……」

「…………」


 シーリアから聞かされたリオミの胸中。

 ここ最近、俺を支えてくれたり怒ってくれたり、いつもどおりだと思っていたが、内心は気が気ではなかったらしい。


「やっぱり王族だから?」

「私にはよくわからない感覚だが、姉さんの話によると、生まれた順番というのはかなり重要らしい。

 特に正室に子供ができず、最初に生まれた男子が側室から生まれた場合は第一王位継承者となるが……その後に正室に第二王子が生まれてしまった場合、かなりややこしくなるとか」

「そういうの、俺もなんとなくわかるよ」

「正室が一番最初に生んだ子供なら、たとえ女児であっても王位継承権が高くなる。その後に正室から男子が生まれた場合でも、自分の子供が王位につくことは確実になるから、王妃としては役目を果たしたことになるからな。ひとまずはよかった」

「…………」

「私は一応、姉さんから薬をもらっていたので、リオミよりも先に子供ができる可能性はほぼなかったが……」


 超宇宙文明製の避妊薬は副作用もなく、ほぼ確実な効果が期待できる。

 フェイティスめ、リオミの子供が先にできるよう気を使っていたな。

 ちなみに、彼女は毎回、薬を飲んでいる。

 今のところ、俺との間に子供を作る気はないらしい。


「今後、側室も増えることになる。他国から送り込まれている姫たちだから、正室には敵わないとしても貴方との子供は喉から手が出るほど欲しいはずだ」

「……シーリアがさっきから、政治的なことを話してる……」

「私とて日々学んでいる。何度も言ってるだろうが、学ぶ事自体は結構好きなのだ」


 そう言われてみれば、学院に入学してからというもの、かなりの数の講義を受けていた。

 むしろ、この学習意欲なくして剣聖アラムの称号は獲得できなかったのだろうな……。


「いつまでも、剣でしか役に立てない女と思われたくないからな。私とてもう第二王妃なのだから、学ばねばならないことは多い。まあ、新しいことばかりでなかなか楽しいけどな」

「そ、そうか」


 俺は結構、勉強は片手間になってしまっている。

 この分だと、シーリアにはあっという間に抜かれるな。

 やはり、学ぶ意欲も才能だ。


「で、姉さん曰く、側室との間にもうける子供については、かなり慎重にならねばならないとのことだ」

「まあ、そうだなぁ。俺もできればあんまりリオミやシーリア以外と子供は作りたくないし……」

「気持ちは嬉しいが……そういうわけにはいかないぞ。いわば彼女たちは、お前との間に子供を作ることを仕事としてやってくるわけだから、それを果たせないとなれば国元から圧力がかかってくる。それは、アキヒコとて望む所ではあるまい?」

「うーん……」


 正直、ハーレムでの後宮生活というのに、食指が動かないではない。

 でも、やっぱり俺が本当の意味で愛せるのはリオミだけだと思う。

 シーリアは俺を慕ってくれているから、愛情のようなものは芽生えてはきているが、断じて恋心ではない。

 家族的関係を築けているから、シーリアが納得しているなら問題はないが……。


 他の側室とそういう関係を築けるかと聞かれると、不安がある。

 チグリはおそらく元からそれほど期待されていないようなので、肉体関係を結ぶ必要はないだろうと思っているのだが……あの様子だと、そういうわけにも行かない気がする。

 メリーナ王女はできれば、あのライネル君と頑張って欲しいんだよなぁ。ディオコルトの支配を解いてあげさえすれば……。

 クラリッサの側室は……誰だっけ。とにかく誰かだ。話してみるまではなんとも言えない。


「子作りに関しては、私達にたいする気遣いは無用だ。これはいわば、王族としての役目のようなものだし、私もそれは学んで理解した。むしろ、聖鍵王国を繁栄させるためには、お前がどれだけ子供を作れるかにかかっているとも言える」

「お前……」


 少し前のシーリアがここまでアドバイスしてくれることはなかった。

 この短期間で、相当詰め込んだのだろう。

 自惚れかも知れないが、これも俺のためにやってくれているのだなと思うと、胸が熱くなる。


「それと……これも姉さんが言ってたんだが、この船の施設に、子供を作るための施設があるんだとか」

「え?」

「それさえあれば、無理に貴方が側室と関係を持つ必要はないかもしれない、んだそうだ」


 それはひょっとして……メディカルルームのアレのことだろうか。


「体外受精か……」

「? アキヒコが言うなら、何かあるのだな」


 試験官ベビーは当然のようにマザーシップで作ることができる。

 リオミとの子宝が恵まれない場合は、使用もやむ無しかと思っていたが……。

 そうか、側室と肉体関係をもたずとも、彼女たちは子供さえできればいいのだから……。


「ありがと、シーリア」

「うん? ああ、どういたしまして」


 それでいいなら、俺は気に病まなくて済む。

 いくら彼女たちが許してくれるからと言って、ホイホイとエロいことばかりしてるわけにはいかないし。

 紳士の心はモフモフ事件で失われつつあった。取り戻さねばならない。


 翌日。

 

「アキヒコ様。ザーダス様がお呼びです」

「わかった。回してくれ」


 朝食を終えた後、フェイティスに連絡があったらしい。

 キャッチホンでこちらに回してもらう。


「状況はどうだ?」

「うむ。交渉は概ね済んだ……最初にゴズガルドを味方につけられたのが大きかったな」


 よし。

 これで、巨人族を攻撃対象から外せるな。北に作った要塞は一応残しておく必要があるが、余剰戦力を差し向ける必要はなくなった。


「それで……交渉そのものはうまくいったのだが、ゴズガルドがお前との戦いを所望してな」

「……はぁ?」

「彼奴はそなたとの決着を強く望んでいる。余がそなたと契約したことに納得していないようでな……」


 ゴズガルドと戦えというのか。

 俺には何の益もないように思えるが……。


「もしそなたが勝った場合、そなたにも忠誠を誓うそうだ」


 む。そういうことなら、考えておくか。

 クロコダ○ン枠だしな。おっさんは味方につけるべきだろう。


「わかった。フェイティスに予定の空きを聞いてみる」


 もう前とは違うし、ゴズガルドにも問題なく勝てるはずだ。

 スマホの保留ボタンをタッチして、フェイティスに確認をとる。


「今日はどんな感じだっけ?」

「エーデルベルトと食糧支援についての具体的な交渉、アズーナンでの聖鍵騎士団の活動の拡大についての落とし込みです。いずれも私にお任せ頂ければ」

「わかった。いつもみたいに頼む」


 俺とフェイティスの間だけで通用する符丁。

 俺のコピーボットを随伴して行けという合図だ。

 これによって、余程重要なものでない限り俺は公務を外せる。


 フェイティスのスマートフォンからコピーボットをある程度操作できるので、粗相をする可能性は低い。

 そこで起きたことは後ほど記憶転写で共有できるので、実際俺はその場にいたかのような記憶を持つことができる。

 制御役をつけ、さらに記憶の齟齬を起こさないことでコピーボットを試験運用しているわけだ。

 これが前に話したトリックの全容である。


「ザーダス。今日でいいか、ゴズガルドに聞いてくれ」


 こうして、午前中に懐かしの巨人と相対することとなった。



「……久しいな、勇者よ。いつかはしてやられたわ」

「あのときは逃げて悪かったな」


 決闘場所に選んだのは、ロードニアのクレーター。

 聖鍵の堕ちた地だ。

 もちろん、ここには転移を使って来ている。

 ゴズガルドぐらいのサイズなら、問題なく転移させることができる。


「よもや、再びここでおぬしと相見えることになるとはな」

「…………」


 もうあれから、3ヶ月以上経過しているのか。

 懐かしいと思うのも当然だった。


「ルールは?」

「どちらかが参ったと言うまで……だが、ワシの一撃を受けて、おぬしが生きていられるとは思えんがな」


 やはりか。

 ゴズガルドはハナっから、こちらを殺す気でいる。

 初めて会った時から、ゴズガルドは口より目で語る男だった。

 物静かな態度をとっているが、その目から放たれるのはシーリアから向けられた殺気と同種。


 だが、俺の心は揺らがない。

 別に精神を安定させるドラッグは使っていない。

 自己暗示も使っていない。

 更に言うなら、アラムのチップも使っていない。


「無理をするでないぞ?」


 ゴズガルドに同伴していたザーダスが声をかけてくる。


「ああ、平気だ。悪いけど、俺はもう昔の俺じゃないんだよ」

「聖鍵も抜かずに、何のつもりだ」


 ゴズガルドはブラキニスを構えつつも、無手の俺に訝るような視線を送ってくる。

 そう、俺は聖鍵すら取り出していないのだ。

 別に舐めプレイしてるわけじゃない。


「……双方、始め!」


 戦いはザーダスの掛け声で始まった。


「悪いな、ゴズガルド。お前の望むような戦いはしてやれないかもしれない……」

「……抜かせ! あのときの屈辱、魔王様をお守りすることもできず命令を全うできなかったワシの甘さ……今日こそ!!」


 巨人が俺に駆けて来る。

 さて……見せてもらおうか。

 開発に成功した新兵器の性能とやらを!


「……何ッ!?」


 ゴズガルドが前方に身を投げ出すようにして、派手に倒れこむ。

 轟音とともに大地にめり込んだ。


「くっ、なんだ……!?」


 ゴズガルドは自分の身に何が起きたか、理解できていない。


「…………」


 ザーダスは厳しい表情で戦況を分析している。


「貴様の仕業か! おのれ……!」


 俺がやったのだと看破したゴズガルドが立ち上がる。

 俺は特に動くでもなく、ヤツを観察していた。


「くらえぃっ!!」


 ブラキニスの強烈な突きが繰り出される。

 俺は動かない。


「勇者ッ!?」


 回避動作すらしない俺に、ザーダスが叫ぶ。

 だが、ブラキニスの切っ先が俺に届くことはなかった。

 俺に届く寸前で、ブラキニスの先端部分が”消滅”する。


「……何だ!?」


 ゴズガルドが大きく間合いを取り、仕切り直した。

 ヤツが自分の武器に視線を落とし、驚愕する。

 消滅したはずのブラキニスの先端が元通りになっていたからだ。


「……貴様、何をした!?」

「それをお前に教える必要はない」


 俺が手を掲げると、俺の背後が輝きはじめる。

 本来なら何もない空間から水面のような波紋が次々と生まれる。

 だが水面は地面に平行ではなく、垂直に沸き立っていた。


「……アレは、転移の光? いや……」


 ザーダスはテレポーターの輝きを連想したようだ。

 実に惜しい、いい線行っている。


 波紋の中から、少しずつ何かが顔を出す。

 ザーダスが叫んだ。


「あれは……ソード・オブ・マインドアタックか!」


 そう。

 空間の波紋から出てきたのは、シーリアの愛刀だった。

 だが、一振りだけではない。


 百を超える波紋から、不殺の剣の切っ先が飛び出して、ゴズガルドに向けて突き出されている。

 ヤツは己の予感に従って、すぐにその場を離れようとするが……。


「……なッ!?」


 ヤツは一歩も動けなかった。

 何故なら、ヤツの足が跡形もなく消え去っていたから。

 にもかかわらず、ヤツは痛みを感じることも流血することもなく、足がないというのに宙に浮かんでいた。


「なんだ……この力は!? なんなんだー!?」

「これはな……」


 俺は掲げた手を振り下ろし。

 それと同時に、ソード・オブ・マインドアタックが空間から一斉発射された。

 

「……聖鍵なしでできる、俺の新技。ついでに言うと、元の世界にいた頃に大好きだった技だよ」


 ゴズガルドの”鎧”は魔力を中和する。

 白閃峰剣の防御無効化すら、ヤツはキャンセルしてしまう。

 当然、ソード・オブ・マインドアタックの不殺効果も。


 だから、ヤツが瀕死の重傷一歩手前になるギリギリの本数を射出した。


「う、ぐ……!」


 全身を串刺しにされ、ゴズガルドが膝をつく。

 そう、ヤツの足は既に元通りになっていた。


「本来なら、今のでも意識を刈り取られるだけなんだ。自分の体質を恨むんだな」


 ゴズガルドは悔しげに見上げてくる。

 だが、ヤツの手にはもう、ブラキニスはない。

 先ほどの一斉射撃で、手放してしまっていた。


「……勝負あり!」


 ザーダスが試合を止めた。

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