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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode03 Sinner Zardas

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Vol.17

「……はぁ」


 チグリと別れた後、リオミは怒りを通り越して呆れている様子だった。

 うん、俺も暴走しすぎてしまったようだ。

 でも、モフモフだからしょうがないと思うんだよね。


「ちょっとやりすぎた。ごめん……あんまりにも触り心地がよかったから」

「アキヒコ様は、ウラフ族のことをご存知ないのですか?」

「知ってるさ。チグリの種族だろ」

「そうです」


 ロードニアで見かけたから、リオミと別れたあとにすぐ調べたのさ。

 魅惑のわんにゃん画像一覧があったから、そっちに夢中になって、名前しか知らないけど。

 あのひとときは、大気圏突入シミュレーターとは別の意味で興奮した。

 ちなみに猫耳はカト族、うさ耳はヴェニ族という。


「ユーフラテと名乗ってましたから、出身はグラーデンでしょうね」

「ふーん」

「……はぁ」


 まただ。

 リオミ、そんなにため息をもらすと幸せが逃げるぞ。


「ひょっとして、彼女の家ってそんなに偉いところ?」

「……気にするところは、そこですか」


 もしまずいなら、リオミがもっと早い段階で止めてくれても……。


「ユーフラテ家自体は、小さな家です。グラーデンでもそれほど規模が大きくないですし、政治問題に発展することはまずありません」

「じゃあ、何がまずかったんだ?」

「……チグリさんは女性ですよ」

「うん」

「いや、ですから……」

「それが?」

「……はぁ」


 ???

 リオミが何を言いたいのかわからない。


「大学で噂になっても知りませんからね。女子生徒を連れ込んで、あんなことをして……」

「…………あ」


 俺としては、わんこをモフモフしてるような気分でいたが……。

 そうだ、彼女はわんこではなく獣人であって、メスではなく女性なんだった。


「ひょっとして、俺のしたことってセクハラ?」

「……ご自分で調べてみてはいかがですか?」


 「ウラフ 耳 尻尾」で検索。

 ……尻尾はウラフ族の性感帯……?


「……なんてこったい」

「まさか、アキヒコ様がそっち方面とは……」

「いやいや、俺は別にそういうわけじゃ!」

「ウラフの側室でも娶られたらどうですか? もう知りません!」


 リオミはカンカンに怒って、どこかへ行ってしまった。

 ああいうときのリオミは何を言っても許してくれないので、しばらくクールタイムを置くしか無い。


「チグリに悪いことしちゃったな……」


 性感帯なら、そう言ってくれればいいのに。

 いや、俺がわかった上で要求したと思ってたのか。

 俺の地位を考えたら、嫌だとは言えないよな……交換条件だったし。


 気を取り直して初等部へ向かおう。

 ヤムたんと戯れるのだ。


 教師を捕まえて聞いたところ、ちょうどヤムたんのクラスは体育のようだ。

 教えてもらったグラウンドに向かうと……。


「馬鹿な……絶滅したはずだ……!」


 諸君らは覚えているだろうか。

 今となっては、日本では絶滅してしまったあの紺色の穿き物のことを。

 そう。かつて、ブルマと呼ばれていた麗しの三角形のことだ。


 失われし栄華。

 幾多の紳士たちが涙を飲んだ法改悪。

 二次元の向こう側にしか生き残ることのできなかった伝説の生地。


 そのブルマが。

 今ここに、雌伏の時を超えてアースフィアで蘇っていた。

 ヤムたんを始めとする天使たちが、キャッキャウフフとかけっこしている。

 乙女座の俺もセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられない。

 彼女たちが穿いている体操服、まさしくブルマだ!


 アースフィアよ、ブルマは帰ってきた!

 グッジョブ、聖剣教団!

 ナイスブルマー!

 

 というか、チグリと同じウラフのおにゃのこたちが、ブルマ姿で……!

 いけない! これ以上いけない!

 如何に俺がイエスロリータノータッチの精神を持つ紳士と言えど、これほどの刺激を前にしては……!


「アッキーだ!」 


 しまった、見つかった!

 駄目だ、ヤムたん! そんな笑顔で俺の方へ向かってきては!

 逃げろ逃げるんだぁ……勝てるわけがない!

 今の俺の精神が、伝説のスーパー煩悩に勝てるわけがないんだ!


「アッキー!」


 ああ、フランソワーズ。

 ぼかぁ、もう駄目だ。

 ヤムたんをこうやって抱きしめている今、もはや紳士を名乗れやしない……。

 決して邪な感情を抱かないと誓っていたのに!


 これでは、ディオコルトのことを悪しざまに言えないじゃないか。

 去勢だ。

 俺も去勢しなければならない!


「せいけんへーかだ!」

「せいけんへーかさま!」


 おや、ベイビーたち。

 いいのかい、そんなに無防備に俺にひっついてきて。

 俺は子供だって構わず食っちまう男なんだぜ。


「ひゃぅ……へーかさま……?」


 ははは、ウラフのおにゃのこは最高のモフモフだなぁ。

 ははは、ははは。


「お兄ちゃん……何してるの?」


 はっ。

 ディーラちゃん!

 そういえば、合同授業だって言ってた!

 うーん、ブルマよく似合ってる。

 いいね!


「大丈夫だ……俺は正気に戻った!」

「と、とりあえず。その子解放してあげたら……?」


 言われて気づいたが、俺はウラフのおにゃのこの耳と尻尾をモフモフしていた。

 ヤムたんの俺を見る目が、まんまるになっている。


「アッキー……?」

「い、いや。違うんだ。俺はただ……」

「せいけんへーかさま……」


 ウラフのおにゃのこは切なげに俺を見上げ、言った。


「わたし、へーかのおよめさんになります。……やさしくしてね?」

「違うんだあああああああああっっ!!」


 俺は一目散に逃げ出した。

 すぐにテレポーターからマザーシップへ転移。

 中枢区から、疲労困憊状態で這い出た。


「くそっ、こんなつもりじゃあ……」


 最悪だ。

 ディーラちゃんにもヤムたんにも、完全に誤解されてしまったに違いない。

 くっ、今回ばかりは四の五の言っていられん!


 俺は聖鍵を取り出す。


 ――目標、聖鍵学院大学第4グラウンド。

 ――ヒュプノウェーブブラスター照射開始!

 

 あの場にいた者全員の記憶から、俺がやらかしたことを消去。

 許してくれ、ヤムたん。

 ドローンで様子を窺う。大丈夫そうか?


 いや……ディーラちゃんが正気のままだ。

 催眠状態に陥ったみんなを見て、キョロキョロしたり話しかけたりしている。

 しまった、精神遮蔽オプションがあるから効かないのか!!


 すぐに彼女を緊急転移させる。

 スマホを持たせてるから念じるだけでいい!

 よし、体操着だから持ってないかと思ったけど大丈夫だ!


「え? な、なに? 何が起きたの?」

「ディーラちゃん、聞いてくれ!」


 かくかーくしかじーか。


「お兄ちゃん、それってサイテーだよ」

「ぐはぁっ!?」


 久々のドラゴン・ジト・アイズによって俺は石化した。


「お願いだぁ……このことは、リオミやシーリアには……」

「どーしよっかなぁ~?」


 うぎぎぎ。

 かくなる上は……。


「お代官様、どうかたけのこ10箱で……」

「15」

「ありがとうごぜぇますだ~」


 平伏し、ドラゴン様への捧げ物をお納めする。


「それにしても、お兄ちゃんがああいうのが好きだったなんて」

「いや~……」


 俺は犬猫が大好きだ。

 見かけると、思わずムツゴ○ーさんばりにモフモフしてしまう癖がある。

 よもやアースフィアで、このような形で問題になってしまうとは……。


「いっそのこと、本当にお嫁にしちゃったら?」

「それは……」


 えっちなことなしでも構わない。

 ウラフのおにゃのこを侍らせたい。

 いや、いっそおとこのこでも構わない。

 モフモフハーレムだ。


 いいのではないか?

 聖鍵王に俺はなる。

 いや、なった!

 この世界で俺の思い通りにならないことは、あんまりない。


「……お兄ちゃん、ひょっとしたらビョーキかもしれないよ。顔がキモチワルイ」

「生まれてきて、ごめんなさい」



 夕飯時、俺は事の顛末を正直に白状した。

 もちろん、グラウンドでの一件は伏せる。

 女性陣の目が一様に冷たい中、フェイティスだけはあっけらかんと呟いた。


「まさか、ご主人様がウラフ好きだったとは思いませんでしたが……」

「いや、俺はウラフが好きなんじゃなくて……」

「リオミ、シーリア。これは逆にチャンスです」

「「「???」」」


 俺を含め、3人みんなしてフェイティスの意図が読めなかった。


「もちろん、夫婦仲を深めるチャンスという意味です。後ほど、ふたりには詳しい話をするとして……ご主人様?」

「は、はい」

「ちょうどいいので、側室の話をさせていただきます」

「このタイミングのどこがちょうどいいんだ!?」


 フェイティスもひょっとして怒ってる?

 いや、今の一瞬だけ浮かんだ笑顔……。

 この女……楽しんでやがる!


「ククク……観念せい、せいけんへーかさま?」


 魔王ザーダス……勇者を愚弄するとは。

 貴様、覚えていろよ!


「まず、皆様にも話しておきましたが。ディオコルトの支配下にあるはずのメリーナ=ルド=アズーナンが側室候補に上がりました」

「アズーナン王国側の最有力候補として?」

「はい」


 リオミのつぶやきに、フェイティスが頷く。


「やっぱり反対です。メリーナ王女も早く魅了から解放してあげるべきですよ。ね、アキヒコ様?」

「それは……」


 人道的見地からも、確かにリオミの言うとおりだ。

 彼女は最初から、この件に関しては一貫して反対の立場を通している。


「リオミ、もちろんすべての決着がついた暁には彼女のことを回復させます。ですが、それを今やってはディオコルトの手駒がほとんどなくなり、身動きが取れなくなって潜伏する可能性が高くなります。そうすれば、罠にかけることも難しくなります」

「だけど……!」

「……リオミ。彼女は必ず助ける。信じてくれ」


 リオミが俺のことを睨んでくる。

 彼女はきっと、俺にも反対して欲しいのだ。


「メリーナ王女が自分の立場だったら……わたしは我慢できません。舌を噛み切って死にます」

「リオミ……」

「ディオコルトの気まぐれ次第で、わたしも籠絡されていたかもしれないと思うと……」


 自分の体を抱きしめるように、リオミは身を竦めた。

 そんな彼女の肩を叩く者がいた。


「……シーリア?」

「リオミ……アキヒコもわかっているんだ。ヤツがひょっとしたら、私達のいずれかを狙う可能性があることを」


 ……正確には、シーリアが既に狙われていたんだ。

 メリーナ王女を魅了から解けば、ヤツが何をやらかすか想像もつかなくなる。

 それこそ、俺の視界に入っただけの女性を手当たり次第に手を出しかねない。

 

「私達と天秤にかけ、アキヒコはメリーナ王女を犠牲にすることを選んだ。わかってやれ」


 ……そう言われると辛いが、まったくもってそのとおりだ。

 リオミは納得こそしてくれなかったものの、反対はしなくなった。


「……話の続きをさせて頂きます」


 フェイティスが再び、場を仕切り始めた。

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