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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode03 Sinner Zardas

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Vol.15

 長い長い結婚式と新婚旅行が終わった。

 いや、正式な新婚旅行はしばらく後に、また控えてるんだけど。

 ひええ。


「死ぬほど疲れた……」


 俺は中枢区から出て、食堂に向かう。

 夜食を適当に済ませて、自室に帰った。


「あら、アキヒコ様……?」

「やあ」


 部屋ではリオミが待っていた。


「早かったですね。いつものように、情報収集とおっしゃって出て行ってから……まだそんなに経っていませんよ」

「いや、今日はもう疲れたから寝る」

「えっと、今夜は……」

「ごめん」

「……はい」


 ちょっと寂しげだったが、リオミはすぐにわかってくれた。


「あ、でも膝枕してもらえると嬉しい」

「はーいっ」


 こういうちょっとしたスキンシップをすると、リオミはすごく喜んでくれる。


「気遣わせてしまって、申し訳ありません」

「いやいや、俺も結局、リオミといるときが一番幸せだからさ」

「……はい、わたしもです」


 今日はシーリアがいない。

 彼女はしばらくフェイティスの調教によって、こってりと絞られる。

 かわいそうだが、これも彼女のため。

 そして俺のためだ。


「わたしたち、もう夫婦なんですよね」

「そうだね」

「あの……その」

「ん?」

「アキヒコ様のこと……ちょっとの間だけ、呼び捨てにしてもいいですか?」

「ん」


 俺は前に、様付けがくすぐったいからやめてくれと言ったことがある。

 だが、リオミは頑としてやめなかった。

 そして、別の人が俺のことを「アキヒコ様」と呼ぶと機嫌が悪くなる。


「むしろ、いいの?」

「はい。もう勇者と王女ではなく、王と王妃ですから……」


 そういうものなのか。

 頭上のリオミの表情をちらりと盗み見ると、それはもう幸せそうに、はにかんでらっしゃった。

 

「アキ、ヒコ……」

「……うん、なに?」

「……キャーッ!?」

「え!?」


 リオミが叫んだ。

 な、何事だ。


「む、無理ですぅ……やっぱり駄目です」

「どうしたんだ」


 俺は思わず身を起こす。


「は、恥ずかしいです……。シーリアはどうしてアキヒコ様のことを呼び捨てにできるの……!?」

「ああー……」


 俺の呼び方にこだわる理由には、そういうのもあったのか。


「何も、無理に呼び捨てにしなくてもいいよ?」

「で、でも夫婦なのに……」

「それなら『あなた』とか」

「キャーッ!?」

「あふっ!?」


 枕投げられた。


「そそそそそれこそ無理ですよぉぉぉぉっっ!?」

「リオミって意外と……恥ずかしがり屋さんだったんだ」

「昔から、そうじゃないですかぁ……!」

「言われてみれば確かに……」


 最近はえっちなことにも積極的だからすっかり忘れていた。

 そういえば最初はキスだけでも、かなり奥手なほうだった。

 人魚の涙を渡してから、一気に距離が縮まったんだよな。


「呼び方は今すぐは無理でも、ちょっとずつでいいじゃないか」

「は、はい」


 うーん、新婚ほやほやのお嫁さんってこんな感じなのかな。

 今のうちだけだろうから、たっぷり堪能しておこうっと。

 俺は再び膝枕を所望し、髪を撫でてもらいながら眠りについた。



 そうして朝。

 一見して平穏な、振り返れば激動の1日が始まった……。


「おはよう」

「おはようございます」

「……おは、よう」

「おっはよー!」

「おはよう、皆の衆」


 俺、リオミ、シーリア、ディーラちゃん、ザーダスが順々に食堂へ集まってくる。

 シーリアは死にかけだった。フッ……こってり絞られたようだな。

 その彼女を教育したフェイティスは、朝早くから公務に出ている。

 彼女の手料理、残念ながら今日はなしだ。


「なんかこうやって集まるのも、久しぶりな気がするな」

「そーだねー」


 はぐはぐとご飯を食べながら、ディーラちゃんは生返事する。

 俺達が忙しかったときも、ずっと学校に通い、帰ってくるとザーダスと戯れていたらしい。

 俺達が帰ってきても、あっけらかんとしたものだった。


「シーリアお姉ちゃん、どうした~?」

「ラ、ラディ……」


 ザーダスがロリモードになって、シーリアのことを慰めていた。

 うーん、己の役割というものをよくわかってるな、元魔王。


 こうしていると、みんなと会ったばかりの頃を思い出す。

 みんなで団欒しながら、あーでもないこーでもないと騒いでたよな。

 懐かしい。


 俺が王となっても、その辺はどうやらあんまり変わらないみたいだ。

 何しろ、聖鍵王国の王室って、このマザーシップみたいなもんだしな。

 もともと聖鍵派スタッフとは区画を棲み分けしてるので、ここでのことが外に漏れることはないし。

 

「さて、今日はみんなに今現状について、ちょっと整理してもらおうと思うんだけど」

「アースフィアの情勢……ですか?」

「そそ。別に切羽詰まった話とかはないから、みんな気楽に聞いて」


 そう言いながら、俺はテーブルのイメージディスプレイにアースフィアの地図を表示した。


「えー、まず聖鍵王国ピースフィアは正式に国家として認知され、スタートした。

 っていっても、聖鍵指定都市フォスを中心とした活動はもうとっくの昔から始まってたんで、賑やかになってる以外はそんなに変わらない」

「そういうものなのか」


 政治関係には疎いシーリアが唸る。


「まず、実質的に王国と言っても、フォスを始めとした元カドニア領の中立都市群をテレポーターで繋いだ領域だけだからね。領地が飛び飛びなんだ。

 まだ魔王城跡地や永劫砂漠付近とは繋いでない。あっちはまだ安全が確認しきれてないからね。

 それに全部が全部、俺の管理になってるってわけでもない。それに、大公国になったカドニアはまだ復興途中で……国土はもちろん広いけど、それほどの力はない」

「では、これから盛り立てていく必要があるのだな」

「いや、現状はしばらくこのままのほうがいい」

「は?」


 シーリアが、ぽかんとする。

 俺は指を立てながら、解説を始めた。


「まず……聖鍵王国ピースフィアは生まれたばかりの国。いわば新参者だ。そこがあんまり調子に乗りすぎると、各国からのやっかみを買うことになる」


 実際、クラリッサ王国の一部には、俺を暗殺しようとする動きもあった。

 今のところ各国はピースフィアの動向を見守ってはいるが、彼らの国益を脅かすような動きをしすぎてはいけないのである。

 フォスや中立街に移民できる人にも限りがあるため、今のところは各国からの大規模な民の流出は起きていない。


「何事も、ほどほどにということですね」

「そゆこと」


 リオミは特に不満そうではなかった。

 ピースフィアを建てる前はキルヒア○ス的な発言が目立ったが、いざ建国となると現実的な方向に思考がシフトしたようだ。

 さすが俺の嫁。


「フェイティスのほうで処理できるような案件も多い。俺が思っていたほど、忙しくはならないみたいだ」


 それにはひとつトリックがあるのだが、みんなには話さない。


「そういうわけなんで……今日から俺は、聖鍵学院大学に通う」

「ええっ、今日から!?」


 驚いたのはディーラちゃんだ。

 ちなみに他のみんなは知っている。


「通うといっても、俺は特定の授業を受けたりとかはあんまりしないで、あっちこっち顔を出すだけだけどね」

「お兄ちゃん、うちのクラスも来てね!」


 ディーラちゃんはそのように主張したが、俺の目的の大半は初等部……ヤムたんにある。

 最近、天使分が不足していたので、補給しなければ死んでしまうのだ。


「えへへ~、ヤムタンとね、合同授業があるんだ!」

「詳しい時間を教えなさい」


 念入りに聴き出した。

 よっしゃよっしゃ。


「ちなみに、リオミとシーリアも通うことになるんだけど……」

「……きのこの逆襲を始めます」

「受けて立っちゃうよ?」


 リオミとディーラちゃんの視線が交錯する。

 電撃がバチバチとほどばしってるんだけど、これって魔力の作用……?


「……すまないが、今日は休ませてくれ」

「ああ……そうだな、それがいいよ」


 がっくりきているシーリアを慰める。

 無尽蔵の体力を持っていそうなシーリアをここまで疲労困憊に追い込むとは……フェイティス、恐ろしい子!


「して、余は留守番かの」

「うん、頼んだよ」

「いや、待て、アキヒコ。前から聞こうと思っていたのだが……何故、ラディを外に出そうとしないのだ?」


 シーリアから、つっこみがきた。

 今までは結婚の騒ぎで忙しかったから聞かれなかったけど、そりゃ気になるか。

 俺はあらかじめ用意していた答えを切り返す。


「実はラディちゃんは、アースフィアの魔素がちょっと苦手らしいんだ。だから……」

「そうだったのか……」


 魔素アレルギーというものがある。

 要するに、アースフィアの濃い魔素に当てられて、気分が悪くなるといった病気だ。

 薬である程度抑えることができるが、体質の問題なので完治させるのが難しい。


 口裏をあわせてあるので、ザーダスとディーラちゃんも頷いていた。

 シーリアも納得した様子だ。


「今日はよかったら、私の部屋に来い。色々と話したい」

「う、うむ……」


 ザーダスがこっちに助けを求めるように見てきた。

 俺が首を横に振ると、観念したようにため息を吐いていた。


「久々の学生生活か……またあの安穏とした日常が戻ってきたりしないかなぁ」

「アキヒコ様は平和がお好きですものね」

「うんうん、平和が一番だよ」


 差し当たって俺が当たらなければならない問題はディオコルトぐらいである。

 だが、ヤツを罠にかけるための網は既に用意してある。


 学院への訪問も急遽決まった部分がある。

 学院長への挨拶はフェイティスが済ませておいてくれたので、俺は何も考えず登校すればいい。


「じゃあ、俺は準備してくるから」

「あれっ、一緒に行かないの?」

「うん、ごめん。ふたりは先に行ってて」

「最近、いつもですね……」


 リオミが俺を訝るように見ている。

 マザーシップの外に出るとき、最近はこうして俺がひとりで行動するタイミングがあるので、流石にそろそろおかしいと思い始めているのだろう。


「じゃあ、学院で会おう」


 俺は食堂を出た。



「うーん、やっぱりでかいな」


 学院のキャンパスのひとつを見上げつつ、俺は唸った。

 何しろ敷地内の移動ですらテレポーターを使う規模なのだ。

 下手するとフォスの市街地よりも広いのかもしれない。


「えっ、アキヒコ様?」

「あれ? お兄ちゃん、先に来てたんだ」

「やあ。いい天気だね」


 後ろからリオミとディーラちゃんがやってくる。

 俺は手を上げて挨拶した。


「ねぇ、あれひょっとして……」

「聖鍵陛下? まっさか……」

「でも、リオミ様もいらっしゃるわ」


 いかん、注目を集めてる。

 下手すると取り囲まれるので、さっさと移動することにした。

 ディーラちゃんは中等部に向かうので別れ、俺とリオミは大学棟へ向かった。


「アキヒコ様……」

「んー?」

「アキヒコ様……なんですよね?」

「やだなあ、当たり前だろ」

「…………」


 なんか予想外の方向に怪しまれてる。


「と、とにかく適当に講義でも受けようよ」

「は、はい……」


 微妙に居心地の悪い思いをしつつ、俺のキャンパス生活1日目がスタートした。

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