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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode03 Sinner Zardas

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Vol.14

 夜は長かった。

 リオミは魔力の才が高いおかげで、あっち方面もかなり強い。

 どうやら魔力の多寡は精力にも関係するらしいのだ。


 シーリアはメンタルがやや弱いかわりに、体力で秀でている。

 俺はその日、ふたりの間を行ったり来たりすることになったのだが……。


「あ、あかん。そろそろ幻が見え始めてきた」

「そんな。私はまだまだ足りないぞ」


 そのセリフ、つい先程まで処女だったとは思えない。

 シーリアは、まるで俺を喰らい尽くす肉食獣のようであり。


 一言で言うと、エロかった。


「待って。さすがに死ぬ、これ以上は死ぬ」


 俺とて男だ。

 求められたとあっては、やらずにはおれない。

 超宇宙文明の精力ドーピングの用意もして、今夜は準備万端だったのだ。

 だが、彼女の飽くことなき獣欲は、俺のはるか上を行っていた。


「これを飲めば、また元気になるんだろう? ほら」

「いや、これ以上は流石に俺の体が」

「問答無用!」

「グワーッ!?」


 まだまだイケると言わんばかりのシーリアの部屋を去り、リオミのところへ逃げ帰る。


「リオミ……助けて……」

「アキヒコ様!?」


 リオミもまだまだ元気そうで、眠らず俺のことを待っていた。

 だが、彼女は俺が瀕死の重症であることを診て取ると、求めてきたりはしなかった。

 優しく抱きしめてくれる。

 リオミは、こういうときの癒しだ。


「もう……シーリアったら、もっとアキヒコ様のことをいたわってほしいです」

「うーん……まあ、今までの分とかもあったらしいからね」


 いつかは壁を叩いて破壊していたからな。

 ぶつけどころのない想いを、いろいろ抱えていたはずだ。

 ディオコルトが突こうとしていた心の隙も、リオミへの嫉妬や俺への情愛だろう。


「……ちょっと、私の魔力を譲渡しますね」

「あー、うん。お願い」


 いわゆる床戦闘で消費する精力は、体力と魔力を消耗する。

 リオミとの触れ合いで多く消費するのは魔力だ。彼女との内容はそれほど激しいものではない。

 むしろ、優しく触れ合うほうがメインであって、俺は身も心も癒される。


 だが、シーリアとの床戦闘は体力勝負だ。

 彼女には容赦というものがない。

 俺のすべてがほしい、奪いつくしたいという欲望に忠実で、体を駆使してくる。

 こちらの意志よりも自分の情愛を優先する。

 今後改善させなければ、夫婦生活が危ういレベルだ。


 ともかく、俺はリオミから魔力を分けてもらう。

 どうやってって、そりゃもちろん……。


「……ふぅ」

「そろそろ大丈夫ですか、アキヒコ様。わたしは今晩、もういいですよ」

「ごめんね」


 むしろ俺としてはリオミが恋しくて仕方ないのだが、シーリアと平等に扱うと決めた以上、彼女だけを贔屓するわけにはいかない。


「シーリア、ただいま……なあ、そろそろ」

「アキヒコーッ!」

「ヌワーッ!?」


 いきなり襲われた。

 ひどい。ぐすん。


「お願いだ……もう、許してくれ……」

「む……すまない。どうも自分を見失っていたようだ」

「まさか、こっち方面でもお前のソレが発揮されるとは思わなかったよ」


 彼女の容赦のなさは、まるで剣聖時代のソレだ。

 シーリアはまだ物足りなそうだったが、今晩ばかりは我慢してもらうしかない。


「エロ修羅めぇ……」

「ごめん……じゃあ、アキヒコは寝てもいいよ」

「あ、うん……」


 ようやく休める。

 明日からも忙しいというのに、まさかこれほど疲れるとは……。

 こんなことなら、ちゃんと……ん?


「なあ、シーリア」

「ン?」

「何してんの」

「ンンンン」

「口の中に物を入れながら喋るな!」


 しかも、あろうことに聖剣を!


「ぷっは……だから、寝てていいと」

「こんなことされてて寝られるか!」


 俺は寝てていいって、自分は寝ないって意味かよ……。


「あんまり酷いと、本当に出て行くぞ」

「うっ……それはやだ」

「添い寝までなら許すから……」

「……うん」


 ようやく妥協点が見つかった。

 シーリアの魅惑エロボディが密着してくるが、もはや俺の聖剣には何の力も残っていない。

 疲れたよパトラッシ○。なんだか、とても眠いんだ。


「おやすみシーリア」

「……うん、おやすみアキヒコ。愛してる」


 シーリアは意外とすぐ眠った。

 かわいい寝顔だ。こうしていると歳相応の女の子なんだけど。

 俺はスマホを操作する。


「リオミ。シーリアがようやく寝た」

「はい。じゃあ、わたしもそちらに行きますね」


 これも最初から決まっていたことだ。

 最後はちゃんと3人で一緒のベッドで寝る。

 もちろんプレイはなし。というか無理。


「ご無事でしたか、アキヒコ様」

「いや、どうなんだろう。大事なものをいろいろ奪われた気がする」

「フェイティスのときでも、こんなことなかったのに」

「いや……彼女、あれでもこっちを乗せるのがうまいからね。疲れも不思議と感じない。

 だけど、シーリアのほうは単に底なしで、しかも自分本位だ」

「うーん……これは、フェイティスに教育を頼む必要がありますね」

「今回ばかりは大賛成」


 今後の夫婦生活を円満にするため、必要な処置だろう。

 野生の獣をてなづけるには、調教も必要だ。


 何、うらやましい?

 ほーう。

 言っておくが、本当に死ぬぞ?

 ゲームみたいにはいかないからな。



 さて、結婚式は2日で終わりだが、各国への挨拶及び歓迎式典が待ってる。

 約1週間に渡る新婚旅行のようなものなのだが……。


 事件は2つあった。

 まずは1つ目の話からしよう。


「……それ、本当か?」

「ええ、間違いありません。会場内に紛れ込んでおりました」

「わかった。いつもどおり政治犯として収容。前後関係を洗い出せ」

「かしこまりました」


 未然に防がれたとはいえ、俺を暗殺しようとする者が現れた。

 単独ではなくグループ。

 聖鍵王国を面白く思わない者たちだろうというのが、フォーマンからの報告だった。


 カドニアなら、浄火派残党という可能性もあった。

 だが、俺を狙う暗殺者が現れたのは……。


「まさか、この国でいの一番に狙われるなんてな」


 俺を綺羅びやかな会場で歓迎してくれた、クラリッサ王国。

 聖剣教団本派を信仰する国家。


 一見、そう聞くと俺の味方をしてくれそうな国だが、実情は違う。


 クラリッサ王国は、聖鍵派を自分たちの下に見ている。

 自分たちこそが聖剣教団の元祖であるという考えがあるのだ。


 前にも言ったと思うが、聖剣教団という名称を最初に使い始めたのがクラリッサ王国だ。

 アンダーソン君たちが一番最初に活動を開始し、ゴーディス地下帝国からの侵攻を鬼神の如き活躍でもって撃退、救国した。

 それが、すべての始まりである。

 無論、アンダーソン君にしてみれば浄火プログラムに従っただけの活動だった。

 だが、プログラムには別途、現地アースフィアの支援を利用するための仕組みも用意されていた。


 王宮の洗脳である。


 クラリッサ王国は早い段階から、浄火プログラムに取り入れられていた。

 その結果、王宮は据え置き型のヒュプノウェーブ発生装置によって支配されることとなる。

 彼らは浄火プログラムを支援し、教団としての表向きの顔を用意した。

 最もこの辺は100年前の話であって、今も王宮が洗脳されているなんてことはない。

 クラリッサの最初期の活動が、聖剣教団を今という形にしたのである。


 国のために教団があるのではなく。

 教団のために国がある。

 それがクラリッサ王国だ。


 聖剣教団本派が正式に俺を聖鍵派として認めている以上、クラリッサ王国は表向き、俺に何も意見して来ない。

 しかし、内心では快く思っていない者がいるのも事実なのだ。

 俺がいかに教団の神体であっても、崇める対象が勝手に動きまわってはクラリッサ王国、ひいては聖剣教団の威信に関わる。

 もともとカドニア王国に自称教団の浄火派が放任されていただけあって、聖剣教団にはさまざまな分派が存在するのである。


 本派に認められた聖鍵派への嫉妬。

 それもあるだろう。

 彼らを今後どう扱っていくかは、なかなか難しい問題だ。


 聖鍵王国ピースフィア。

 間違いなく、今後のアースフィア最大の国となっていく。

 農業生産力、工業力、技術レベル、すべてにおいてアースフィアをリードする存在となるだろう。


 俺の構想では、最終的にアースフィアの国のほとんどが俺ひとりの王を崇める大公国、ひいては公国となる。

 彼らの自治権は約束されるが、俺という存在が上に来ることを認めることになるわけだ。


 カドニアの例を見るまでもなく、繁栄は約束されたも同然になる。

 しかも、傘下に加わるのが早ければ早いほど、受ける恩恵も多い。

 王宮の権威と民の繁栄。王国を維持するか、ピースフィアの公国となるか。その天秤だ。


 本派の助言ならば聞き入れるであろうクラリッサ、元々俺に対する支持が高いロードニアは、早い段階でピースフィアの傘下に加わるだろう。

 難しそうなのはグラーデン、アズーナン、エーデルベルトあたりか。

 特にエーデルベルトは自国民の自立心が高い。俺に尻尾を振る事無く、そのまま独立を維持し続ける可能性も高い。

 もちろん、俺の方から軍門に下れなどと言うつもりはないが……彼らは軍事国家だ。

 グランが軍部タカ派の意見を抑えきれなくなれば、カドニアあたりと代理戦争もありえるかもしれない。


 ともかく、どんな小賢しい計略も超宇宙文明の力を使える聖鍵の前には無力だ。

 今回の暗殺者も、計画の実行前に囚われた。

 実質、俺を暗殺するなんてのは無理なのだ。

 イベントが発生するまでもなく、事後報告だけが俺の耳に入る。


 俺はアースフィアの支配者となる道を選んだ。

 だが覇道ではなく、王道でもって統治するつもりだ。

 粘り強く話し合っていくしかあるまい。


 2つ目の事件……というより邂逅は、アズーナン王国で発生した。


「勇者様……いえ、アキヒコ=ミヨシ=ピースフィア聖鍵陛下。お初にお目にかかります」

「キミは……!」


 聖鍵陛下というのは、俺の敬称だ。

 予言の勇者、聖鍵の勇者と呼ばれることは減り、最近はこう呼ばれる事が多い。

 俺が驚いたのは、呼び方ではない。


「第三王女メリーナ=ルド=アズーナンと申します」


 ……知らぬはずがない。

 タリウスのじっちゃんが言っていた、ディオコルトの手駒。

 俺は思わず警戒してしまう。


「……第三王女が、俺に何か用か?」

「あ、その……いえ、申し訳ありません。ご挨拶をしなければと思いまして……差し出がましい真似を致しました」


 メリーナは俺の態度にたじろいた。

 フランの例もある。彼女自身はチャームされている自覚がないのだろう。

 だとすれば、邪険に扱うのは可哀想か。


「すまん、他意はない。あまりにも美しい女性に話しかけられると、妻たちが五月蝿いのでな」

「まあ……お上手ですね。身に余る光栄です」


 今すぐ彼女を救うこともできる。

 なのに、しない。

 ディオコルト討伐のために利用する算段をしている身としては、少なからず負い目があった。


「俺など所詮、成り上がりの王だ。伝統あるアズーナン王国には、むしろこちらが伺いを立てねばならない」

「そのようなことは……」


 王に対しては少なくともそうだが、彼女は第三王女。王位継承権は第八位。

 他国に嫁ぐことが決まっているも同然の立ち位置だ。俺が伺いを立てるような人物ではない。


 それにしても……本当に美しい。

 ドレスは流石にリオミやシーリアのものより控えめなものを仕立てているが、それでも気品の良さは隠せない。


 リオミはどこかしら、かわいらしさを残している。

 だが、メリーナはれっきとした大人の女性の色香を漂わせている。


 ディオコルトが地位など関係なく口説いたのも頷ける。

 女性を見る目だけは認めるしかないな。


「メリーナ王女は本当にお美しい。俺も妻より先に出会っていたら口説いていたかもしれんな」

「そ、そんな……!」


 顔を真っ赤にしている。意外とウブな子だ。

 この子もディオコルトの毒牙にかかっているなんて……くそ、許せん!

 心は処女のまま、中身は……おのれぇ!

 エロゲではよくある催眠系シチュだが、実際に目の当たりにすると……これほど反吐が出るものはない。


「あの、その……実は、縁談の話が持ち上がっておりまして」

「ほう? それはめでたいな……是非、仲人を務めさせてもらいたいものだね」


 あんまり、わざとらしくなってしまっても良くない。

 ほどほどに。


「あの……本当はまだ、言ってはいけないんですけど……聖鍵陛下のお眼鏡に叶うようであれば………」

「ふむ?」

「いえ、なんでもありません……」


 まだアズーナンから正式に話は来ていないが、どうやらフェイティスの予測は今回も当たりらしい。

 もともと彼女ほど美しい王族ともなれば、縁談の話はそれこそ星の数ほどあるだろう。

 性格も男性を立てるタイプのようだし、絵に描いたようなお姫様だ。


「姫、そろそろ……」

「あっ、ライネル……」


 赤茶色の角刈りの髪に褐色の肌。

 俺なんかよりもずっと大柄な男性騎士が、メリーナに耳打ちしてきた。

 先ほどからずっとこちらの様子を近くで窺っていた。メリーナの近衛騎士だろうか。


 こういうときにルナベース検索は便利だ。

 ライネル・バンシア。やはりアズーナン王国騎士団の団員……メリーナの側仕えか。

 ……ほう、これは。なんてこったい。

 メリーナに恋心を抱いている、とな。しかも、どうもメリーナの方を調べてみると両想いっぽいじゃないのよ。

 身分を超えた恋愛かー。こりゃ、俺への側室の話なんて本当は蹴りたいんだろうなぁ。


 というか、ディオコルトが彼女を狙った理由がわかった。

 ライネルからの寝取りシチュか!

 しかもこの分だと、無意識下での調教とかでメリーナを夢中にさせているに違いない。

 下衆め! ヤツは去勢するしかない。


「では、聖鍵陛下……またの機会に」

「うむ……」


 俺はふと思うところがあって、声をかけた。


「そなた、ライネルといったな」

「は? は、ライネル・バンシアと申します」

「……強く生きろよ」

「……は? はっ、お言葉をいただき光栄であります……」


 ライネルは困惑した様子だったが、メリーナとともに辞した。

 おそらくどうして自分に声をかけられたか、わからなかったのだろう。


(……ククク、聖鍵王がキューピッドになるのも、いいかもな)


 どこかでディオコルトが見ている可能性が高い。

 俺は心の中でヤツにさらなる侮辱を与える楽しみを見出し、ほくそ笑んだ。

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