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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode03 Sinner Zardas

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Vol.11

「……勇者か?」

「……ザーダス。どうしてここに」


 かわいらしい寝間着姿の少女が、巨大なミラーボールを見上げていた。


「どうしてと言われても、迷っただけだぞ」

「そんなこと、あるはずないんだよ!」


 俺がザーダスに与えている権限はない。

 彼女には居住区と食堂を行き来することしか、許可していない。

 万が一、ザーダスが《テレポート》を使えたとしても、ディメンジョンセキュリティを突破することは絶対できない。


「どうやって、ここに来た!」

「どうと言われても、あそこからだ……」


 ザーダスが指し示したのはテレポーターだった。

 当然、ザーダスは中枢への出入りを許可されていないので、テレポーターが起動することは有り得ない。


「嘘をつくな!」

「……本当だ。何故、そんなに慌てておる」

「くそッ……!」


 ――マインドリサーチ、起動。

 ――対象、ザーダス!


「本当のことを言え!」

「余は偽りを申しておらぬ」


 どうやら、余がここに入れたことは、勇者にとっては相当なイレギュラーだったようだな。

 前に来たときは、勇者が自らここを選んだから問題はなかったということか?


「本来なら、ここは俺以外侵入することはできないはずなんだよ。リオミたちだって、ここには来られない!」

「ふむ……つまり、行動を制限されている余が入れるような区画ではないというのか」

「そうだ!」


 この慌てよう、相当焦っておるか……。

 平静も失っておる。迂闊なことを言えば、余がここで殺されることも有り得るな……。


「……本来であれば、余はここには来られないのだな?」

「そのとおりだ」

「では、証明しようではないか。余はそこから来た。ひとまず、ここを出るが良いな?」

「できるものならな」


 ふむ、なるほど。

 本来であれば、あの台座からここに跳ぶこともできなかったというわけか。

 だが、余はここに来てしまっていると……。

 有り得んことが起きたわけか。それならば、勇者の態度も腑に落ちる。


「では、行くぞ」


 さて、これで片道切符だと証明できんが……。

 む、台座が輝いている。先ほどと同じ……問題はないようだな。


 ザーダスがテレポーターを踏むと、その姿が消えた。

 マインドリサーチの射程から外れて、彼女の思考が読めなくなる。


「そんな、馬鹿な……」


 中枢区へのテレポーターは本来、俺が聖鍵が手元になくなったとき用の緊急、あるいは理由があって他の人を連れてくる必要があるときに使う程度の保険だ。

 それをザーダスが俺の許可なく利用できている。

 なんで、こんなことが起きるんだ……?


 いや、呆けている場合じゃない。

 俺もテレポーターを踏んで、ザーダスを追いかけた。

 一足先に戻っていたザーダスが俺を待っていた。


「……余は同じようにして、あそこに踏み込んだわけだが」

「有り得ない」


 そうは言われてもな……。


「余には原因が皆目見当がつかん」

「本当なのか?」

「うむ」


 信じてくれ……などと言える立場ではないが、余は偽りは言わぬ……。


「…………本当、なのか」


 俺はマインドリサーチを切った。


「余の言葉を信じるのか?」

「悪いが、心の声を読ませてもらった。お前が嘘をついていないことはわかった」

「余の心を読んだだと……そんな芸当までできるのか」


 俺はザーダスを無視し、可能性を考える。

 

 まずはザーダス自身の特殊能力の可能性。

 どういう能力なら、こんなことができる……?

 魔力によってテレポーターが起動可能になる方法があるのか?

 いや、そもそもあのテレポーターには一切魔力が作用しないようになっている。

 あるとすれば、魔力以外の可能性。


「ザーダス。今のお前は魔法以外に何ができるんだ?」

「特にこれといっては……前も言ったが、せいぜい知恵が回る程度だぞ」

「…………」


 ザーダス自身に自覚がない能力。

 有り得るかもしれない。

 未だにザーダスの情報はブラックボックス化されている。

 次回の情報更新でザーダスについての情報開示がされる予定だ。


 いや、待て。

 そもそも彼女の情報が秘匿されている時点で、ザーダスが超宇宙文明に何らかの形で関わっているのは間違いないんじゃなかったか?


 聖剣教団についての情報はルナベースが調査をしていなかった。

 だが、魔王ザーダスについての情報は検索可能だった。

 つまり、情報の蓄積そのものはあるということ。

 検索できなかったのは、魔王が出現する100年より以前……。


「……ザーダス。お前、魔王になる前は何をしていたんだ?」

「何……と言われてもな。特に、これといって何も」

「そんなわけない。何か特別なことをしてたはずだ」

「いや、余は……魔王となる以前、ダークスの存在を知るまでは、それなりに平穏に暮らしておったよ……」

「ダークスについては、いつ知った」

「そういえば、余はいつから……」

「なんでもいい、思い出してくれないか」

「……と言われてもな。魔王となる以前の記憶は……曖昧なのだ」

「どういうことだ?」

「そのままの意味だ。余は自分の生まれを知らぬし、いつから何をしていたかという記憶がほとんどない。気づけばアースフィアで暮らしていた」


 生まれを知らない……。

 ザーダス自身が、魔王になる以前のことをよく知らないというのか。

 そして、ザーダスの過去は秘匿されている……。

 超宇宙文明に関係していて、マザーシップのテレポーターが起動した……。


 まさか。

 まさか彼女は。

 いや、それならすべてに説明がつく。

 魔王となる以前の情報が存在しないのではなく、存在するが閲覧することができない理由も。

 彼女がダークスについての知識を持っていたことも。


 まだ、確定ではない。

 だが、おそらく。


「……大丈夫か?」

「えっ……」


 俺は考え込んでいたようだ。

 ザーダスが心配そうに俺の顔を見上げている。


「……余の来歴が関わっておるのか?」

「ああ、うん。多分……でも、まだ決まったわけじゃない」

「そう、か……」

「とにかく今回はわざとじゃないみたいだし……悪かったな。お前もよくわかっていなかったのに」

「いや、余も考えなしにあちこち彷徨き回るのではなかった。行けない場所には行けないと聞いていたのでな……」


 本来、テレポーターが誤動作なんて、まず有り得ない。

 今回のことは事故だ。


「まあ、頼むから、あそこは入らないでくれ。こっちで対応できるようなら、なんとかするけど」

「うむ、気をつけよう……」


 ザーダスを部屋まで送り届けてから、俺も自室に戻った。

 まだ疑問が頭の中に渦巻いていたが、思ったより簡単に眠りに堕ちた。



 あれから数日が経過した。

 特にこれといって面白いことがあったわけでもなく、忙しく日々を過ごした。

 挙式の段取りの確認や、フォスでのリハーサル。各国への挨拶などなど。


 忙しすぎる。

 マジ、コピーロボット欲しい。

 だったら造ればいいじゃない。


 そんなわけで休憩時間。


「既に似たようなものは作ってたから、案外簡単だったな」


 影武者用や王様用として、生体アンドロイドをいくつかのパターンで提出していたのだが……かなりの数を量産可能になった。

 これなら俺が別の場所に同時に現れることもできるだろう。

 自律型で、俺がいないところで何をやらかすかわからないから、使い道が難しいが。


「すごーい! これみんな、お兄ちゃんなの?」

「うん。じゃあ、王様の俺と話してみる?」

「やってみたい!」


 たまたま工業区を散歩していたディーラちゃんが興味を示したので、会話させてみることにした。


「お兄ちゃん、こんにちは」

「うむ、ディーラか。近う寄れ」


 なんか話し方が王様っぽくて、威厳があるな。

 俺じゃないみたい。


「えっと……うん」

「お前はいつも美しいな……ディーラよ、我の嫁とならんか?」

「ええーっ!?」

「おい、ちょっとお前!」


 流石に見過ごせない流れになっていたので、間に入る。


「我のオリジナルか。壮健そうで何よりだ」

「ディーラちゃんになんてこと言うんだよ」

「ふむ……冗談のつもりだったのだが。ディーラは満更でもなさそうだぞ?」

「お兄ちゃんの……お嫁さんに…………」

「こらこらこら!」


 王様ボットを停止する。


「ったく、改良が必要だな……大丈夫か、ディーラちゃん?」

「えっ。ああ、うん……へいきだよ」


 いつもよりさらに赤くなったディーラちゃんが、どぎまぎしている。

 あんなことを言われたら、意識するなという方が無理だろう。


「お兄ちゃんはお兄ちゃん……だよね」

「当たり前じゃないか。こんなヤツの言うこと、いちいち真に受けるんじゃないぞ」

「うん……」


 ディーラちゃんは寂しそうに去っていった。

 さすがにシーリアに続いてディーラちゃんにまで手を出したら、いよいよ歯止めが利かなくなる気がする。

 ゆくゆくはヤムたんまで……いかん、いかんぞう。


 コピーボットはしばらく頼れそうもない。自分で頑張るしかないようだ。


 コピーボットは失敗したが、幾分俺の心は晴れていた。

 最近、遊び心を失っていた気がする。

 聖鍵の力は強大で、みだりに使うことはできない。

 だが、力を持っているのに何もしないというのは案外ストレスが溜まるのだ。

 この程度のガス抜きをしたほうが、心身の健康にはいい。


「いっそ、もっといろいろ妄想を実現させてみようかなぁ」

 

 そんなふうに考えると、だいたいエロ妄想ばかりになる。

 けしからん。

 とはいえ、リオミと早々に恋仲になっていなかったら、どこかで道を踏み外していた可能性は高い。

 彼女は俺の欲求に必要以上に応えてくれる。

 リオミ様様だ。


「ご主人様、そろそろお戻りください」


 休憩は終わりのようだ。


「さーて、がんばりますか!」


 気合を入れなおして、俺は所定の位置へと向かった。

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