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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode03 Sinner Zardas

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Vol.09

 無駄に昂ぶった気分をリオミとフェイティスに鎮めてもらった後、俺はディオコルトについての新情報をルナベースの情報という建前で伝えた。


「女性の敵……やはり許せませんね……。アキヒコ様から頂いたお守りがなければ、今頃も戦々恐々としているところでした」

「本当なら、精神遮蔽オプション装備は全人類に配りたいところなんだけどね……」


 流石に生産が追いつかない。

 ディオコルトの魅了を防ぐレベル設定ともなると、マインドリサーチによる情報収集もできなくなってしまうので、女性たちの救援を聞きつけることもできなくなる。

 これのおかげで性犯罪者が事に及ぶ前に、収容所にぶち込み、去勢できている。

 ディオコルト対策のためだけにオプションを配布するのは現実的じゃない。


 ちなみにディーラちゃんにマインドリサーチが通じなかった理由というのが、まさにこれである。

 実を言うと、今シーリアと試合したら心読めないから勝てないんだよね。本人にはバレてないと思うけど。


「アキヒコ様はディオコルトにかなり執心しているようですが……勝ち目はあるのですか?」

「ヤツに対する対策は既にできてる。ヤツの本当の目的も……実はある程度つかめている」


 ザーダスには伝えなかったが、ディオコルトの目的……というより、俺に計画を邪魔されて以降の狙いは既にわかっている。

 これももちろん、聖鍵からインストールされた情報だ。

 これが本当に正しいなら、俺が用意している罠でヤツを嵌めることはできる……はず。


 だが、確証ではない。俺の立てた仮説が間違っていれば、負けるのは俺になるだろう。

 そうすれば、俺はすべてを失うことになる……。


「……アキヒコ様?」

「ご主人様、顔色が優れませんが……」

「いや、大丈夫だ」


 こんなにも愛しいリオミやみんなを、失いたくはない。

 俺は負けるわけにはいかないんだ。


「それにしても、久しぶりですね。こうやってアキヒコ様と過ごすのは」

「最近は、わたくしも寂しく思っておりました。ご主人様が不能になられたのかと」

「……おいおい。疲れてただけだってば」

「聖鍵が使えなかったことと、何か関係があるのですか?」


 む、リオミ鋭いな。


「あー……できれば、その。今は聞かないでもらえると嬉しいな。全部終わったら、ちゃんと話すから」

「絶対、ですよ?」


 上目遣いのリオミは、抜群にかわいい。

 ザーダスなんかに心揺らされた俺を許してくれ。


「ご主人様、明日はいよいよですね」

「ああ……そうだな」


 リオミがきゅーっと俺の手を握ってきた。


「アキヒコ様と……結婚できるん、ですね」

「ああ」


 正確には、結婚することを世に発表するということだが。

 挙式はフォスで挙げることになっている。

 クラリッサはきっと、なんやかんやと言ってくるが、俺は聖鍵派だ。

 最終的には納得させられるだろう。


「そして同時に、建国宣言をする。俺が王に」

「わたしが王妃に」

「そうしたら……なあ、リオミ。許してくれるよな?」

「……はい。覚悟はしております」


 リオミは少し寂しげだったが、その表情は決して暗くなかった。

 俺が建国を決意した理由。見えたビジョン。

 リオミとフェイティスには話してある。


「俺はアレを絶対に止める。そのためなら……俺はアースフィアを支配する王にだってなってやるさ」



 フランの謝罪に使用したマザーシップのイメージホール。

 俺とリオミは、ふたりで中心に立っていた。


「生きとし生けるアースフィアのすべての人々へ。俺は聖鍵の勇者アキヒコ」

「タート=ロードニアの第一王女、リオミ=ルド=ロードニアです」

「今日は皆さんにお知らせしたいことがあります」


 アースフィアのすべての空に、俺とリオミの姿が映し出されている。

 人々は何が始まるのかと、口と手を休めて見上げていた。


「実は、俺と彼女……リオミ=ルド=ロードニアはこのたび、結婚をすることになりました」


 しばらく間をもたせる。

 聖鍵を通して、人々の感情のサンプルのいくつかが俺に送られてくる。

 それなりの驚きを持って迎えられたようだ。


「本来であればそれだけでおめでたい話だし、俺がロードニアの王配になるというお話になるのですが……実は続きがあります。

 俺にとっては、今回の結婚のほうが大事な話だとは思うんだけど、皆さんは多分こっちのほうが驚くと思います」


 さりげなくリオミにフォローを入れつつ、切り出した。


「本日、俺は……聖鍵王国ピースフィアの建国を宣言します」


 どよめきの気配を感じる。

 これ、少人数のはずだよな。それでも、こんなにか……!


「ピースというのは、俺のいた世界で平和のことです。アースフィアが平和になるようにとの願いを込めて、こう名づけました。

 今日をもって俺は聖鍵の勇者ではなく、初代聖鍵王アキヒコとなります。同時に俺は聖鍵派の敬虔な信者でもあり、彼らには一定の尊敬を持って遇します」

「アキヒコ様は、これまでもアースフィアの人々の笑顔のため、尽力して来ました。そのことは多くの人が知っていると思います。

 このたび、アキヒコ様はより多くの人々を救うために大きな力を欲しました。それが、彼自身が治める巨大な国家です」

「もちろん、まだ国民はいません。土地はありますが、まだ皆さんが住める程の環境を整えられてはいません。

 ですが、現在不当に虐げられている人、お金がなくて明日を食うにも困っている人、そして聖鍵を信じる敬虔な使徒、さらなる飛躍を目指す冒険者、新たな市場を見出す商人……さまざまな人をピースフィアの民として迎え入れる用意が、我が国にはあります」

「その始めとして、聖鍵指定都市フォスを正式に、聖鍵王国ピースフィアの王都に定めます」


 とてつもない喝采。

 これはおそらく、フォスの民の声だろうが……。


「もちろん、もともとが中立の都市だったため、カドニア王国のアンガス王も承知の上です。さらに言うなら、カドニア王国は今後国号を改め……カドニア大公国となります。聖鍵王国ピースフィアを宗主国とする、最初の国となります」


 これが今までで最大の驚きを持って迎えられた。

 そう……これがフェイティスの用意した策だった。


 カドニア王国から人民がピースフィアに流れる……これがアンガスを始めとし、カドニアが恐れる事態だった。

 だが、カドニア王国そのものがピースフィアを宗主とする大公国となれば……話はガラリと変わってくる。


 カドニアの民は、カドニアの民でありながら、そのままピースフィアの民となる。

 移住する必要がなくなるのだ。

 さらに、カドニアの復興がそのままピースフィアの発展に繋がる。

 さらに、より大々的な支援をカドニアに対して行なうことができるようになる。


 アンガス王は悩んでいたが、既に王国は死に体。旧貴族のほとんどもいなくなっていたため、王国の存続ではなく民の幸せを選んでくれた。

 以後、アンガスはカドニアの王ではなく、カドニア大公となるのである。

 もちろん王国ではなくなることによるデメリットもあるだろうが……聖鍵国家ピースフィアの庇護の下、一定の独立を保てるというのは、カドニアにとって最高の環境が出来上がることになる。


 おそらく、クラリッサ王国は今回の建国によって一番得をするのは自国であると考えていたはずだ。

 だが、カドニアが大公国となることで聖鍵派の支持はカドニア側へ持っていかれることになる。

 本派の信仰をこそよしとする彼らにしてみれば、今回の発表は寝耳に水だろう。


 もちろん、アフターフォローはする。

 本派を通じて、彼らにも大公国となる道を推奨するのだ。

 おそらく、長期間に渡って聖鍵派の俺の下になることを悩むだろうが、最終的にはカドニアに対抗するために屈する。

 俺とフェイティスは、そのように読んでいた。


 まあ、もしリオミと俺の間に子供が生まれたら、ピースフィアと姻戚関係になるロードニアも、他国に対して相当な影響力を持つようになるだろうけどね。

 それはまた別の話。


「そして……もうひとつ、大事な発表があります。俺の剣として、いつも支えてくれていた元剣聖である……シーリア。俺は彼女に言わなければならないことがあります」


 フェイティスに促され、シーリアがホールの中央へとやってきた。

 まるで借りてきた猫のようだ。

 自分がどうしてここに呼ばれたのか、わからないのだろう。

 当然だ。彼女には何も伝えていない。


「……シーリア。俺はずっと、お前のことを受け入れられなかった」

「アキヒコ……? いったい、何を……」

「聞いてくれ。俺はお前に想いを告げられたとき、リオミがいるから、お前のことを受け入れられないと言ったよな」

「こ、こんなところで……やめてくれないか。みんなが聞いているんだろう」

「みんなに聞かせたいんだ」


 赤面してうつむくシーリアを真剣な眼差しで見つめる。

 リオミは目をきゅっと瞑っている。

 今だけは許してくれ。


「シーリア。今日、俺は聖鍵王国の王になった」

「あ、ああ……おめでとう。私は今後も、貴方に友として……」

「いいや、シーリア。お前には……第二王妃になってもらいたい」

「……え?」


 シーリアの目が点になる。


「な、何を馬鹿なことを言ってるんだ。貴方にはリオミが……」

「リオミもこのことは、承知してくれている」

「……本当か?」

「……シーリア。貴女だからですよ。こんなこと、他の人なら絶対に嫌です」


 俺も「正室の自分と同格に扱っていいのは今回だけなんですからねっ」と、リオミにはきつくきつく言われている。


「俺は……地球っていう世界から来た。俺の住んでいた日本では、いわゆる一夫多妻が認められていなかったんだ。

 そして、アースフィアでもそれが認められるのは王族に限られる……だから俺は、お前と関係をもつことがリオミに対する裏切りになるから、絶対に受け入れるわけには行かなかったんだ」

「…………」


 シーリアは何も言わずに聞いてくれている。

 俺は彼女の沈黙を歓迎しつつ、更に続けた。


「今日こうして俺は王になった。だからシーリア……お前のことを受け入れることができるようになったんだよ。リオミに対しても裏切ることなく……きちんと、世界に認められる形として」

「アキヒコ……まさか、この建国は……」

「ああ。半分はシーリア。お前のためなんだ。

 ……待たせてごめん。こんな俺でよかったら、シーリア……結婚してくれ」

「……あ……」


 シーリアの頬から、一筋の涙が伝い落ちた。


「……うそ、みたい。こんなの……ほんとに? ずっと前に、剣聖になるって誓ったときから、女を捨てた私に、こんな……」

「お前はもう、剣聖アラムじゃない。ただのシーリアだ。そうだろ?」

「……そう、だった。うん、そうだったね……」


 シーリアは手でぐしぐしと涙を拭った。


「……喜んで受け入れるよ、アキヒコ。今日から私は、貴方の妻だ」


 固唾を飲んで見守っていた人々の気配が、一斉に歓声に変わった。

 そして、俺の中でずっと蠢いていた忌まわしいビジョンが綺麗に消えていく。


 ディオコルトに、シーリアを奪われるという未来が。


 ヤツの魅了は精神遮蔽オプションによって通じなくなっている。

 だが、ヤツの手管は何も魅了に頼ったものばかりではない。

 少しずつ少しずつ、女性の心の隙をついて、その中に自分を滑りこませる手法にも長けているのだ。


 心の闇を広げることを得意とするディオコルトは、俺に受け入れてもらえないシーリアを巧みな話術で落とし、自分のモノにしようとしていた。

 ヤツの最終目的というわけではないが、そのためのコマとしてシーリアを利用する腹積もりだったのだろう。

 だが、これでシーリアの心の闇は塞いだ。彼女に漬け込む隙は今のところない。


 この忌まわしいビジョンを払拭することこそが、今回の建国の最大の目的だった。

 このビジョンがなければ、俺も建国には踏み出せなかっただろう。

 フェイティスを味方につけ、リオミを説得することも出来なかったはずだ。


 もちろん、シーリアをずっとマザーシップに留めることで防ぐこともできた。

 リオミに秘密で、シーリアと関係を持つこともできた。

 だが俺は、どちらも選ばなかった。

 シーリアの自由を奪いたくはなかったし、リオミへの裏切りは論外だ。俺の心が潰れる。

 リオミが俺の浮気を知れば今度はヤツに……。


 シーリアの記憶から、俺を消し去ることも考えたが……それは彼女が剣聖アラムの頃に戻るということを意味する。

 それが彼女にとっていいことだとは、どうしても思えなかった。


 最終的に俺が選んだのは、リオミを裏切ることなく、シーリアを受け入れる道。

 すなわち、王になることだった。


 もちろん、複数の女性と関係をもつことに抵抗がないわけじゃない。

 だが、フェイティスとも関係をもつ俺が今更言えることではない。

 結局、それが決め手になった。

 我ながら本当に器量の小さい。


 何はともあれ、ディオコルトの計画をひとつ潰してやったのだ。


「挙式はリオミとシーリア、両方同じ日にフォスで行います。日取りは改めて。来られない人も教団支部で物資の配給と同時に中継を行ないますので、楽しみにしていてください」


 こうして、放送は終わった。

 俺は一段落したと息をついたのだが……。


「アキヒコ!」

「あっ、ずるい! アキヒコ様!」

「うわおっ!?」


 2人同時のチャージハグは、さしものパワードスーツといえど受け止めきれなかった。

 俺はイメージホールの床に押し倒される。


「アキヒコ……愛している。何度でも言うぞ、お前を愛している……!」

「んもー、シーリア! アキヒコ様の第一王妃はわたしなんですから! ね、アキヒコ様?」

「痛い、苦しい! ふたりとも、どいてくれー! フェイティス、ディーラちゃん、ラディちゃーん! おたすけー!」

「ご主人様は爆発すればよろしいかと存じます」

「あははっ、結婚おめでとう! でも、お兄ちゃんは爆発すればいいと思うな」

「ククク……愛人もいるというのに、同時に2人も妻を娶るとは。なかなかやるな……爆発せよ」

「お、お前らー!」


 こうして、俺のハーレム生活はまた第一歩前進してしまったのだった。

 おかしいな、そういう方向を目指していたつもりはまったくなかったのに……。

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