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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode03 Sinner Zardas

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Vol.03

 エーデルベルトで昼を済ませた頃、その連絡があった。


「ご主人様、オペレーターから連絡です。ロードニアに依頼していた指輪の解析が終了したとのことです」

「……そうか」


 『闇の転移術法』。

 ディオコルトがバッカスに大量の魔物を召喚するのに使用し、バルメーを通じて浄火派に流したアーティファクト。

 時間がかかったが、ようやくあの指輪の正体を完全に明らかにできるようだ。


「わかった。グラーデンに行く前に、ロードニアに向かおう。リオミ、悪いけど《マステレポート》を頼んでいいかな?」

「え? あ、はい……」


 リオミの魔法でロードニアへと向かった。

 彼女のテレポート先は、俺が召喚された懐かしの部屋だった。

 フェイティスに支部を通して連絡を頼んでおいたので、すぐに案内の兵士が現れた。

 といっても、フェイティスが半ば先導する形になって彼は仕事を奪われてしまったが。


「久しいな、勇者アキヒコ殿」

「ご無沙汰しております、クライン王」


 通されたのは謁見の間ではなく、応接間。

 ここには思い出が多い。

 リオミやフェイティスも、作法に則った挨拶を行なう。シーリアとディーラちゃんには外で待機してもらった。


「謁見の間では、何がまずいことでも?」

「ああ……その辺はちょっと、腹を割って話そうか」


 クライン王が姿勢を崩した。こちらにも同じようにするように合図してくる。

 側仕えの侍女なども部屋から出てしまった。また人払いか。


「あー……アキヒコ殿。いや、アキヒコ君。キミに実は折り入って相談があってだね」

「……はい、なんでしょう?」


 なんだろう、この緊張感。

 クライン王は王としてではなく、別の顔で俺に接しようとしているようだが……。


「頼む。リオミを、もらってくれないか?」

「お、お父様!?」


 リオミの驚きは、王のセリフはもとより、彼が俺に向かって頭を下げた事実にも向けらている。


「頭を上げてください、王様」

「アキヒコ君、この際だからはっきり言っておこう。私は既にもう、自分がキミよりも上だとは思っていない」


 仮にも王の立場にいる者が、なんてことをおっしゃっているのだろう。

 いくら俺が聖鍵の勇者だからって、王が頭を下げたとあっては国民に示しがつくまいに。

 ああ、だからこその人払いなのか。ここでのことはオフレコと。


「キミは魔王を倒しただけではなく、カドニア王国の救世主にもなり、そして今や聖剣教団の後ろ盾を持つ聖鍵派の最高幹部だ。

 気づいているかどうかは知らないが、キミは既に、この大陸の各国に対して大きな影響力を持つに至っている。

 本来であれば第一王女を外へ嫁がせるなんてのは有り得ないことだが、キミほどの男にならば、目に入れても痛くないほどかわいいリオミを与えるに相応しいと……そう思う」

「…………」

「だから……」

「もう結構です、王様」


 なおも言い募ろうとする王に向かって、俺は手で制した。


「だが……!」

「王様、ですから大丈夫です。リオミとは真剣にお付き合いをしています。もちろん、結婚を前提に」

「アキヒコ様!」


 ぱぁぁっ、と世界が輝いて見えているかのような目のリオミ。


「むしろ、こちらからお願いするつもりでした。リオミのことを、俺にください」

「…………」


 沈黙する王様。

 今日は指輪のことで来たとはいえ、どちらにせよ、この報告は正式にするつもりだった。

 流石に婚前交渉があることまでは言えないが。


「……そうか。どうやら私の一人相撲だったようだな」

「そのようなことは。お気持ちは大変嬉しいです」

「アキヒコ君。少々手こずることもあるかもしれないが、娘を頼む」

「はい」


 こうして、リオミとの婚姻は本決まりとなった。

 だが、今日の用件はそれだけではない。


「その話はまた後ほど……今日伺ったのは、指輪の件もありまして」

「ああ、そうだったね。私が聞いた報告をそのまま書面で渡すが、構わないかね」


 俺は頷いた。

 人が呼ばれて、書類の束をフェイティスに渡した。


「……正直、私としては国の重鎮を2人、キミに取られてしまった気分なんだよ」

「リオミとフェイティスのことですか?」

「キミを囲い込もうと、リオミとの仲を取り持って我が国に引き入れるつもりが、逆に取り込まれてしまいそうだ」

「申し訳ありません」

「構わんよ……例の連絡をもらっていた件、むしろ全力でやってくれ。そうすれば我が国の未来は約束されたも同然になるからね」

「……だからですか、結婚の件は」


 王は不敵に笑んだ。

 転んでも、ただでは起きない人だ。


「聖鍵王国……楽しみにしているよ。キミが王になれば、リオミは正室だ。幸せにしてやってくれよ」

「言われるまでもありません」


 力強く頷くと、クライン王は手を差し出してきた。

 固く握手を交わし、俺達は城を出た。



「アッキヒッコ様~♪」

「おいおい、くっつきすぎだよ」


 リオミには前から結婚の話をしておいたというのに、尋常ではないテンションの上がり方であった。

 シーリアがぐぬぬ顔になってるし、ディーラちゃんも囃し立てるのことを忘れて苦笑している。


「私はアースフィア一幸せなお嫁さんになるんです~♪」


 俺と恋人繋ぎで、ラブオーラ全開のリオミ。

 む、胸あたってるんですけど。

 シーリアが壁叩いてる壁。新しい壁が必要だ。


「さて……今日はどうする。グラーデンに行くのか?」

「いえ。今日会うのは、どうも難しいみたいですね」


 スマホを操作しながら、フェイティスが答えてくれた。


「そうか。じゃあ、今日は久々にハルードあたりに出て、自由時間にしようか」

「ご主人様は最近働き詰めですからね。たまにはお休みになるとよろしいかと」


 ここ最近、俺はずっとカドニアの街を回ったり、クラリッサに挨拶に出かけたり、魔物の討伐を手伝ったりと忙しい。

 体の疲れは感じないが、流石に精神的疲労が溜まっている。


「じゃあ、ハルードについたら別行動にするけど。もしディオコルトにあったときは、スマホに念じるだけで俺を召喚できるから必ず呼ぶように」


 最近はディオコルト対策もしっかりやっているので、俺も無闇矢鱈に全員で行動したりマザーシップに仲間を軟禁するような真似はしない。

 それでもヤツの視線に彼女たちを晒すのは偲びないのだが。


「では、わたくしはロードニアに残って指輪の分析結果に目を通します。教団支部におりますので、後ほどテレポーターでシップに帰りますね」

「ああ、頼んだ」


 Bランク以上のゲスト権限があれば、支部のテレポーターを使ってマザーシップに帰還できる。

 Aランクなら、ゲスト権限のない者を5人ほど連れて行くこともできる。


「リオミ、《マステレポート》頼む」

「は、はい」


 ハルードへ到着。

 別行動にしたのに、結局全員俺についてきた。


「アキヒコ様……?」

「ん?」


 リオミが何やら不安げに俺を見上げる。


「聖鍵での転移はされないのですか……?」

「……ああ」


 今日は移動にリオミの《マステレポート》を使っている。

 いつもは聖鍵を使って移動をしているので、俺の行動が不可解だったのだろう。

 

「実は、今は聖鍵を使えないんだ」

「えっ!?」

「まあ、大丈夫。みんなもいるし……その気になれば一応、転移もできるけどね」


 そう。今の俺は、聖鍵を使えない。

 グラン王へのマインドリサーチも、スマートフォンを使っていた。

 スマートフォンを使えば一応転移をすることはできるが、念じるだけでいい聖鍵と違って一定の操作が必要になる。


「……何か事情があるのだな」

「うん。でも、本当に平気だから」

「お兄ちゃん……聖鍵なしで、ほんとうに大丈夫なの?」


 ……なんかメッチャ心配されてる。

 普段から聖鍵頼みなことをアピールしてるからなぁ。

 

「一応、こうやって出すことはできるよ」


 聖鍵を空間から取り出してみせる。


「でも、ちょっと休ませてるというか……一時的に使えないんだ。みんなには予め言っておくべきだったな」

「……そういうことでしたら、全力でアキヒコ様をお守りします」

「私もだ。お前の剣だからな」

「あ、あたしも頑張る!」


 頼もしい仲間たちだ。

 少し前の俺なら、聖鍵を使えなくなったりしたら慌てふためいていたことだろう。

 俺が冷静なのは、それだけが理由というわけではないが。


「じゃあ、今日は久々にバケシロ食べるか!」


 俺が音頭を取って、前に食べた店に向かった。



 マザーシップ中枢。

 俺はいつものように聖鍵をスリットに差し込んでいた。


「……さて、と。今日はどうかな」


 こうして、スタッフがまとめてくれた情報に目を通すのだ。

 もちろん緊急性が高いものに関しては、フェイティスを通して俺の知るところとなるし、俺への直通連絡が不可能というわけでもない。

 イメージとしては、RSSリーダーに似ている。

 各ホームページの最新記事をわざわざ見に行かなくても、まとめてチェックできるようになるアレだ。

 知らないという人は「フィード」でググってみるといいだろう。

 これの利点はやはり、目を通すべき情報をピックアップできることだ。最近は欠かさず閲覧している。


 各国の動きや動向、魔物の保護や討伐の進捗、浄火派残党の取り締まり状況など、目を通すべきものは多い。

 ディオコルトの情報は最優先でチェックすべく、別途フォルダ分けしてあるが、今回も0件。

 ヤツはルナベースの目をかいくぐって活動することに関して、非常に長けているようだ。

 こちらの手管を知っているというより、ヤツの特性のせいだろう。


 繰り返しになるが、ディオコルトの肉体は瘴気によって構成されている。

 ヤツの不死身の秘密は、ここにある。

 痛みを感じないのは、瘴気で創りだした肉体に痛覚がないからだ。

 ホワイト・レイなら瘴気を削ることができるものの、瘴気を新たに補充してしまえばそれも通じない。


 ホワイト・レイが瘴気に対して有効だという情報は、ダークス係数に関する開示によって確定となっている。

 アンダーソン君しかり、聖剣教団の闇避けの指輪しかり。瘴気とホワイト・レイは対を成すのだ。


 ヤツが出現する場所には、瘴気が漏れ出している場所があることが多い。

 もっとも、それも出現しやすいというだけ。

 いざとなれば、ヤツは自分を構成する瘴気を雲のような状態にして、高速飛行できる。

 要するにディオコルトは自分の精神を瘴気に宿して、操っているわけだ。


 一応、ヤツが出没しそうな瘴気の濃い場所はアンダーソン君を派遣して優先的に潰させている。

 それでも瘴気はどこからともなく漏れ出てくる。人の心の闇のあるところ、必ずだ。

 ヤツが心の隙をついてくるのも、瘴気の性質を引き継いでいるためではなかろうか。


「……今に見てろよ、下衆野郎」


 俺は思わず笑みを浮かべていた。

 ヤツに味わわせる苦痛を想像し、嗜虐の笑みを。

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