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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode02 St. Revolution Key

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Vol.34

「襲撃ですか!?」


 俺の叫びにリオミが声をあげる。


「……何者だ?」


 シーリアの問いに、俺は首肯した。


「……おそらく、浄火派のテロリスト残党と……聖鍵派の暴徒だ」

「ま、まずいよ。あそこにはヤムタンもいるのに!」


 ディーラちゃんの指摘に、はっと目を見開いた。


 あのときのビジョンが、再び俺の脳裏をよぎった。

 血に濡れた人形。

 見覚えのある人形。

 それは、いつも少女の腕の中にあって……。


「…………!!!!!」


 俺の頭が真っ白になる。

 何も考えられなくなりそうになる……!


 天使の笑顔。

 真っ赤な液体で塗りつぶされていくような錯覚を覚える。


「が、ああ……!!」


 胸が痛い!

 まるで、内側から心臓が飛び出して張り裂けそうな激痛に襲われる!

 あの少女がどうなってしまうのかを考えたからではなく。

 あの少女が辿るはずの運命を、俺の体が知っているのだ!


「ぎ、ぎぎ……!」


 唇を強く噛み、血が流れるが知ったことじゃない。

 

 さらにビジョンが流れ込んできた。

 男どもが、ひとりの女性をベッドに縛り付け、下卑た笑みを浮かべながら……。

 女性はもう動かなくなった少女に向かって、泣きながら叫び続けるのだ。

 それを聞いた男どもはさらなる嗜虐心を掻き立てられ、腕にしたナイフを……。


「ぐううううッ!!?」

「アキヒコ様! お気を確かに!!」


 爆ぜ割れそうな頭の痛みに、膝をつきそうになった。

 俺の異変を察したリオミが支えてくれる。

 未だに吐き気も何もかもが俺を苛んでいたが、彼女のぬくもりとにおいに、わずかな安心感を覚えた。


 おかげで、少しだけ正気に戻る。

 今のうちに、必要なことだけ伝えた。


「……みんなは、テレポーターに向かって、フォスの支部から出てくれ。俺は直行する」


 かろうじてみんなが頷いたのを確認すると、俺は聖鍵を取り出した。


 ――聖鍵、起動。

 ――居住ブロック0001、リプラさんとヤムたんの部屋!


 景色が変わる。

 いつもなら一瞬のはずの転移だが、今はやけにスローに思えてイライラする。

 ようやく転移を終えて、あたりを見回した。


 そこで、俺が見た光景は……。





 こつ、こつ。

 営倉区に俺の足音だけが響く。

 

 こつ、こつ。

 誰かのすすり泣く声が聞こえてくる。


 こつ、こつ。

 俺は独房の扉の鍵を開け、中へ入った。


 そこではフランが拘束服に身を包まれ、手足を拘束され、舌をかみ切れないよう猿轡を噛まされていた。


「……なんで、死のうとした」

「…………」


 フランは《ハイレストレーション》の治療を終え、メディカルルームで意識を取り戻した後。

 見舞いのリンゴを向くために用意された果物ナイフで自殺を図った。

 かろうじて、未遂に終わった。


 彼女は猿轡を噛まされているので、当然喋ることができない。


 ――マインドリサーチ、開始。

 ――対象、フライム=リド=カドニア。


 彼女の表層思考を読み取る。

 会話がしやすいよう、聖鍵はちゃんと取り出して、ぐちゃぐちゃな感情を無理に読み取らず会話翻訳モードにする。

 本来は喋ることのできない相手とのための機能だが、今のフランにはいいだろう。


「……あのときのこと、覚えているんだな」

「…………」

「そりゃそうだな。あんなことをしでかしたんじゃ、死にたくもなる」

「…………」

「死なせてくれ? それは駄目だ」

「…………」

「いや、世間でのお前はもう魔女扱いだ。処刑しろって声ばかりあがってる」

「…………」

「だったらじゃねぇよ。ふざけるな。今更ここまで来て、自分だけ楽になることが許されると思っているのか」

「…………」

「その願いだけは、絶対に聞き届けるつもりはない。たとえ、なんと言われても」

「…………」

「お前はもう、血を流しすぎた。あるいはここでお前にすべての罪を背負わせて殺してしまったほうがいいのかもしれないが……」

「…………」

「そんな逃げ方は許さない。お前は生きるんだ」

「…………」

「駄目だ」

「…………」

「駄目だ」

「…………」

「駄目だと言ったら駄目だ! お前は生きるんだ!」

「…………」

「なんとでも言え」

「…………」

「甘えるな」

「…………」

「そうだ」

「…………」

「そうだよ。察しがいいな」

「…………」

「そのとおりだ。お前にはもう一度、同じ事をしてもらう」

「…………」

「違う、そうじゃない。あいつにやらさたことじゃない、本来やる予定だったほうだ」

「…………」

「演目が追加されるだけだ。お前ならできるはずだろう」

「…………」

「やるんだ。言っておくが、これは、お前に残された唯一のチャンスなんだ」

「…………」

「そんなことはどうでもいい。絶対うまくいく保証なんてあるわけない」

「…………」

「いいんだ。それでも絶対、お前の声を聞いてくれる人はいる。そうじゃないような連中には、何を言っても無駄だ」

「…………」


 フランが迷っている。

 彼女は元来、責任感の強い人間だ。

 自分だけが楽になるという道を安易に選ぼうとするタイプではない。

 だが。


「…………」

「もう一度言ってみろ」

「…………」

「できない? できないと言ったのか」

「…………」

「どうしてだ」

「…………」

「怖い……か」

「…………」

「それなら、わかるよ。でも、やってもらいたいんだ」

「…………」

「お前なら、できる。別に特別なことをする必要はない。ただ……みんなに嘘をついたことを、謝ってくれればいい」

「…………」

「許してもらえるもらえないは関係ない。お前が頭を下げることが重要なんだ」

「…………」

「いいんだ。何も、事態の収拾のためだけにやるわけじゃない」

「…………」

「まあ……そうだな。言ってみれば、俺の自己満足なんだ」

「…………」

「俺がそうしたいんだよ。そして、みんなは俺のわがままを聞いてくれた。お前にも、そのわがままに付き合ってもらおうってわけだ」

「…………」

「そう言うなよ。俺だって相当、悩んだんだからさ」

「…………」

「みんなに謝るのが無理なら、この子に謝ってくれ」

「………?」


 俺は空間から、ボロボロの人形を取り出した。


「…………」

「俺が仲良よくしてた子の、友だちなんだ」

「…………」

「フォスが、襲われたんだよ。浄火派の残党と聖鍵派の暴徒に。その子もフォスにいたんだ」

「………!」

「その子は、どうなったかだって? 決まってるだろ……」

「…………」

「こんなことになったのは、もちろん、お前の責任でもある」

「…………」

「フォスが狙われたのは、紛れもなくお前がアレをやってしまったせいだからな」

「…………」

「操られてのこととはいえ、お前がしてしまったことには変わりはない。俺も気づいてやれればよかったんだが……」

「…………」

「なあ、せめてみんなの前で、その子に謝ってくれないか? それなら……できるだろ」

「…………」

「いいんだ。俺のことは気にしないでくれ」

「…………」

「嘘をついていたこと、全部ちゃんと謝るんだ。わかってくれる奴も絶対いる。その子も……わかってくれるよ、きっと」

「…………」

「大丈夫。あの子は天使なんだ。きっと笑顔で……許してくれるよ」

「…………」

「え?」

「…………」

「いや、ううん、泣いてなんかないよ」

「…………」

「大丈夫」

「…………」

「はは……逆に俺が慰められてどうするんだか」

「…………」

「えっ!?」

「…………」

「いやいやいや、冗談よせよ! 俺には恋人もいるし、もっと自分を大事にしろよ!」

「…………」

「構わないって……いい加減にしろよ」

「…………」

「いや、怒っちゃいないけど」

「…………」

「はぁ。その調子なら、もう大丈夫そうか?」

「…………」

「わかった、外すぞ」


 俺はフランの拘束を解いた。

 マインドリサーチは、もういいだろう。


「やってくれる?」

「……うん、やってみるよ。許してもらえなくてもいい。王女でも聖女でも娼婦でもなく、自分が謝ってみる」

「そうそう、気楽に行け。もし駄目だった場合でも、俺がなんとかするからさ」

「……うぅっ……勇者、様」

「お、おいっ……」


 フランが涙を滲ませながら抱きついてきたのだ。

 まだ拘束具だっていうのに、なんだこの弾力は。

 シーリア超え……だと……。


 いかんいかん、こんな不埒なことを考えてはならん。


「あたし、もっと早く、勇者様に会いたかったなァ……☆」


 ……まずい。

 フェイティスも相当だが、彼女はその道のプロだ。

 男の心を殺す手段は、いくらでも持っている。


 例えば、このスマイル。

 例えば、このティアーズ。

 例えば、このオップ=アイ。


 あらゆる人格を使いこなし、あらゆる女の武器を駆使する。

 それが彼女だったのだ。


「ええい、離れろぅ!」

「あァン!☆」

「娼婦モードの解除を要求する!」

「あんまりです、勇者様。人の命を2度も助けておいて、何の恩も返させないおつもりですか?」

「聖女モードは話しづらいから、できれば王女でお願いします」

「女王様とお呼び!」

「お前本当に反省してるんだろうな!?」


 とりあえず、フランの説得は何とかなったようだ。

 あとはまあ……なるようになれ、だな。

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