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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode02 St. Revolution Key

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Vol.32

初見注意。

この先は覚悟してお読みください。

今回登場する敵に対する溜めは、かなり長いです。

できれば信じて読み続けていただけると嬉しいです。

 聖鍵宣言から、2週間が経った。

 2週間というと、俺がアースフィアに来てからカドニアで聖鍵派を立ち上げるまでにかかった時間より長い。

 つまり、そろそろアースフィアに来てから1ヶ月になるのだ。

 あの怒涛の日々が終わると、毎日は忙しいものの、それなりに変わりない日々が過ぎた。


 リオミとの仲も、ちょっぴりときどき喧嘩になることがあっても、深刻な事態にはならなかった。

 シーリアも、あれから吹っ切れてくれたようだ。どうやらフェイティスの説教の後、一時期は本気で俺から離れて旅に出ることも考えていたらしいことを最近聞いた。

 ディーラちゃんも相変わらずだ。ラディちゃんの側を離れない日もあるが、マザーシップ市街区とフォスの行き来ができるようになったので、ヤムたんとたけのこ派閥を作り、子供たちのリーダー格になりつつあった。


 そうそう、マザーシップは本格的に聖鍵派の本部のような扱いになりつつある。

 マインドリサーチのおかげで裏切り者やスパイはここに入り込む前に発見できるので、信用できるスタッフが随時フェイティスの指導の下、育成されている。

 フランは王国の政治を担当した。例のコピー書面を使ってアンガス王の指示ということにして、カドニアを実質的に統括している。

 かつての味方だった浄火派に対しても苛烈で、潜伏先を次々と摘発していた。

 バルメーも、もう泳がせる必要はなくなったので、今では営倉入りだ。指輪も確認できている分は回収している。


 営倉区にはまだ余裕があるのだが、いっそのこと専用の刑務所を作ってもいいのではないかと思う。

 永劫砂漠ならば土地には困らないし、マザーシップの営倉はなんだかんだで、そこそこ快適だ。

 もっと過酷な場所で下衆どもに罰を与えるべきだろう。


 さて、気になる『闇の転移術法』なのだが……指輪を解析したところ、やはり人間によって作られたシロモノではなかった。

 少なくとも魔法のアイテムということなので、リオミづてでタート=ロードニアに持ち込んで、さらなる解析を行なっている。


 バルメーを尋問したところ、これを売り込んできたヤツは金を求めず、バッカスに大量の魔物を集めてみせて、これをカドニアで好きに使えと言ってきたらしい。

 バルメーの記憶からモンタージュを作成したが、これがまたいけ好かない感じのイケメンだった。残念ながら、バルメーは名前を知らなかった。

 写真はどこかでみた覚えがあったのだが、思い出せない。これほどの美形なら、たとえ男でも忘れるはずはないと思うのだが……。

 ドローンに捜索させているものの、今のところ影も形も見当たらない。


「……あまり、フランを信用しないことだ。今度は俺のように、お前が足元を掬われることになる」


 尋問を終えたバルメーの捨て台詞だった。

 このときは、ただの負け惜しみ程度に思っていたのだが……。


 まあ念のためということで、バルメーの記憶から取り出したモンタージュ写真をルナベースの画像検索にかけたところ、ヒットした。


「……コイツかよ」


 思わず殺意を抱く。

 金髪に特徴のないローブを羽織った美形。人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべた男。


・ディオコルト

 ザーダス八鬼侯の八位。魔王軍で最も美しい顔、最も醜い心をもつ男。

 魅了系の能力に秀でており、あらゆる女性にとっての敵。

 『闇の転移術法』によりバッカスへの大規模な攻撃を行なったが、これすらも浄火派に術法を売り込む営業に過ぎなかった。

 浄火派に取り入った目的は不明だが、これまでの行動から考えて愉快犯であった可能性が極めて高い。

 現在位置不明。


 前に見たときより、情報が更新されていた。

 今回の事件で得た情報が書き加えられたようだ。


「間違いない、こいつ……あのときフォスにいた男だ」


 情報を見てはっきり思い出した。

 リプラさんに父親の言葉を聞かせていたとき、こちらを見ていたヤツだ。

 フォスで何かの異変があった兆候はない。すぐに街の人に魅了がかかっていないかをチェックしたが、全員陰性だった。

 となると、ヤツの目的は……。


「俺の顔を見に来たのか?」


 おそらく、そうだろう。

 使者とのやりとりも見ていたに違いない。聖鍵派の立ち上げについても、あの段階で知ったはずだ。

 今のところ、これといった動きがないのが不気味だ。

 なんらかの妨害も予想されるので注意する必要があるだろう。


 ともかく、今回の黒幕はこいつで間違いない。

 八鬼侯であったヴェルガードすら巻き込んでカドニア王都を攻撃させようとしていた事実。

 ヤツらがもう魔王の下で統括されていた時とは違い、自分の目的のためだけに動くことが確実となった。


 ディオコルト。


 何故だかわからないが、名前をわかった上でコイツの顔を見ると……冷静さを失いそうになる。

 初めてコイツを調べたときも、そうだった。

 あの頃は、まだ出会ったこともないのに、この男を打倒することこそが勇者以前に俺、三好明彦にとっての念願となる。

 そう予感したのだ。


 絶対コイツに、リオミはもちろんのこと、シーリアやディーラちゃん、フェイティス、フラン、リプラさん、ヤムたん、ドナさん、ついでにロードニア冒険者ギルドの受付嬢に出会わせることがあってはならないのだと、俺の中で内なる声が叫ぶのだ。

 そんなこと、絶対にあってはならない。

 『闇の転移術法』はもちろんだが、そんなことと一切関係なく、倒すべき敵であると規定した。


 ルナベースに最優先調査対象であることを何度も何度も無意味に登録して、とりあえず俺はディオコルトのことを脳内から排除した。



 カドニア王国は、少しずつだが良くなってきていると思う。

 もちろん、今すぐに解決できない武具職人の問題などはあるが、聖剣教団の支援のおかげで今すぐ食うに困ることはない。

 マザーシップの生産プラントだけでは足りないので、魔王城跡地などに急ピッチで施設を増設している。

 働いたら負けだと人々が思わない程度に、ギリギリの供給を保っている。それで暴動寸前に発展することはあっても、聖鍵派スタッフの素早い対応により大きな事態に発展したことは今のところない。


「……フラン。そろそろ、いいかもしれないな」

「え?」

「もう、王国での仕事は慣れてきただろ? そろそろ王宮を解放してもいいんじゃないかと思ってな」


 いつまでも王宮を超宇宙大銀河帝国の支配下に置いておくわけにはいかない。

 元々、現体制を崩さないまま王国を裏で操るための処置だ。最終的に王宮は聖鍵派を受け入れ、穏便な政権移譲が行われることになっている。


「…………ヴェルガードは逃げて、既に王宮は抑えているという話だったはずだけど」

「表向きはね。外部にも混乱に乗じて国政を放棄し逃げ出したとされてる。でも実を言うと、ヴェルガードは本当は既に捕らえてある」

「何!? 私を騙したのか!」


 フランは激昂した。

 俺は慌てることなく冷静に説明を続ける。


「あいつは、しかるべきタイミングで処断される必要があったからね。なにしろ、ヤツの正体はザーダス八鬼侯の第三位だったんだから」

「あいつが、魔王の……」

「そういうこと。キミを嵌めたアイツは、最初から魔王側の手先だったのさ」

「だとしたら、カドニアは既に魔王によって裏から支配されていたというのか……」


 フランにとっては衝撃の真実だろう。

 結局、彼女もまたリオミやシーリアと同じく、魔王の犠牲者のひとりだったということだ。


「そのことを今から公開する。そして、ヴェルガードを捕らえ打倒した英雄として、聖女フランが名乗りを上げ……そして、自らの正体を明かすんだ」

「…………」

「やっぱり、まだ無理か?」


 実のところ、わざわざブリッジから王国を運営するなんてややこしいことをしているのは、彼女が王宮入りを躊躇ったからだ。

 王宮はフランにとっての忌まわしい記憶、母親が暗殺され、自分が罪に問われた場所だから。

 こうして政治をやってくれているが、王国に対するわだかまりが完全になくなったわけではないのだ。

 だが、彼女は俺の問いに首を横に振った。


「……こうして聖鍵革命は成った。今ならば、私はフライム王女……いや、女王になることには抵抗はない」

「じゃあ、何を迷ってるんだ?」

「……私が女王になったら、王宮に行くことになる」

「そうだね」

「そうしたら……いや、なんでもない」

「?」


 フランはどうにも要領を得ない。


「私が女王になれば、丸く収まる。そうなんだよな」

「アンガス王は退位して、フライム王女が後を継いだ。そういうふうに発表されることになるんじゃないかな」

「わかった、それは構わない。そのかわり……女王になるには、ひとつだけ条件がある」

「何だ?」

「時々、ここに来ても構わないか?」


 ……んん?


「そんなのいいに決まってるじゃないか。なんで、そんなことを聞くんだ」

「い、いや。ここには聖鍵派の者も多くいるし、王宮に行った場合は聖女としての活動もしにくくなるからな」

「ああ、そう言われてみればそうか。でも、聖鍵派スタッフも王宮勤めでいいんじゃないか?」

「そうなんだが……」

「俺がやることがだいぶ減ったから、楽になったけどね」


 ルナベース検索による情報収集班ができたのは大きい。

 無駄な情報をいちいち俺が調べることなく、俺のところには重要な情報がもたらされるようになった。

 もはや聖鍵の力は俺の独占する力ではなく、組織的に運用されるものとなりつつある。

 それでも兵器運用に関しては、俺とフェイティスだけが許可されてる状態だけどな。


 とにかく、カドニアは事実上、俺の手を離れつつあるのだ。

 元からそれほど自分で何かしたという感じはしないのだけど。

 頑張ったのは、みんなだ。俺もその中に含まれているだけだろう。


「キミの正体を明かす。そして悪臣ヴェルガードの処刑と、キミの即位が同時に行われる。

 キミは聖鍵派聖女であると同時に、女王になるんだ」

「はは……まあ、実際の私は聖女などというシロモノには程遠い売女なのだがな」

「……よせ。それは昔の話だろ」

「私は多くの者を騙して、ここにいるのだ。聖女という役どころを演じてな。そんな私が女王になど、果たしてなっていいのか……」


 なるほど。彼女が躊躇う理由の根源は、それか。

 自分などで果たしていいのかと。


「……そういう気持ち、俺も聖鍵の勇者だからよくわかるよ。よく思うんだ。自分なんかが、こんな力を持ってていいのかってな」

「貴方でも、そんな風に考えるのか」

「むしろ、俺だからかな。本当にびっくりするぐらい聖鍵頼りなんだぜ、俺。聖鍵がなくなったら、ちょっと演技とハッタリが得意ってだけだから」

「確かに、それには同意する」

「ひっでぇなあ」

「だが、貴方は生き生きとしてるな。今は勇者であることをそれほど嫌がってはいないように思える」

「まあね。いろいろあったから」


 そう。

 今では大分、劣等感というか聖鍵に対する忌避感のようなものが薄れつつある。

 御しきれる自信もついてきたし、何より俺が全部背負い込まなくて良くなったというのがでかい。

 統括は一部フェイティスにも任せているし、俺が何かひとつ失敗したぐらいじゃ、聖鍵派という大きな組織はビクともしない。

 気楽なのだ。全部自分でやらなくてはと思っていた時期に比べると、格段に。


「そういうわけで、フランも気楽に考えたら? 自分が駄目だとしても、周りに助けを求めれば、結構なんとかなるもんだよ」

「……そう、だな。確かにそれは、そのとおりだ」


 フランには、それで伝わったようだ。

 彼女はむしろ俺よりも、そういう経験が多いんじゃないかな。


「わかった。手筈を整えてくれれば、あとは壇上に立った私が役目を果たすだろう」

「詳細はフェイティスにも相談しよう」


 こうしてついに、カドニア王国の本当の意味での再出発が始まる。


 だが、俺はこのとき考えるべきだった。

 ここまでが順調過ぎだと。

 ディオコルトの本当の目的が何だったのかを、もっと深く分析すべきっだった。


 だが、運命の日はやってきてしまった。

 その日、ふたたびカドニアに新たな火種が生まれるとは、誰ひとり思っていなかった。



「……皆さん、聞いてください。今から私の本当の名を語ります」


 壇上で語るフランは、まるで昨日の不安が嘘のように聖女を演じきっていた。

 プロパガンダにおいて、彼女は最強だった。脚本がフェイティスなので、その点も不安はない。


 現在、彼女の演説は聖剣教団を通じてアースフィア全土に流れている。

 その様子を俺たちはブリッジから眺めていた。


「やっぱり、フランは凄いな……」


 俺は他人事のように呟いていた。


「浄火派の聖女は伊達ではないということだろうな」


 シーリアも同意する。


「でも、よかったんですか? 彼女が王宮に行ってしまったら、聖鍵派の人の大部分も……」

「ああ……」


 リオミの言わんとしていることはシンプルだ。

 聖鍵派に賛同した人のほとんどは、聖鍵派の聖女となったフランについてきた元浄火派がほとんどだった。

 これは仮にも親予言派だった浄火派の体質のためだろう。反予言派だったカドニア王国側は、やはり少数だった。


 もともと、聖鍵派なんてのは俺からすれば実体のない、存在しない分派だ。

 それがこれほどの組織として成立してしまったのは、フランの求心力があってこそである。


「まあ、元からあってないようなモノだったし、フォスを盛り立てて、浄火派の存在意義を奪うために作ったもんだしね」

「そうですか……まあ、アキヒコ様がそうおっしゃるなら、いいんですよね」

「聖女ではなく、ご主人様を支持する方々も多くいらっしゃいますよ。そういう方々は優先的に船のクルーになってもらいました」


 フェイティスの采配のおかげで、俺は大分楽になった。

 俺とフランは人気を二分している。聖女を救った俺、俺が救ってカドニアを救った聖女では、やはり後者に軍配が上がる。

 

「うーん……でも、大丈夫なのかな?」

「ん、何がだ?」


 唯一、この演説を見て不安そうに呟いていたのがディーラちゃんだった。


「要するにさ……今のカドニア王国がまとまっているのって、全部フラン姉のおかげなんだよね」

「そうだな。それにどこか問題が?」

「……黒幕の八鬼侯ってさ、ディオコルトだったんでしょ?」

「ああ……そうか。ディーラちゃんはザーダスの飼い竜だったんだっけ。そりゃ知ってるか」

「少しだけどね。ザーダスはあたしをアイツには近づけないようにしてたから」


 ディオコルト……名前を聞くたび殺したくなるのは、どうしてだ。

 ヤツとは前世で因縁でもあるのだろうか。


「ヤツが黒幕だと、何かまずいのか?」

「うーん……気になるんだよね。アイツの目的って、本当にカドニアの王都を魔物で襲わせることだったのかなって」

「そりゃまあ……そうなんじゃないのか? そのために浄火派を利用してさ」

「それってさ。なんか、聞いてたアイツのやり方と、だいぶ違う気がするんだ」


 ……やり方が違う。

 そうだ。

 ルナベースには、なんてあったのか。


『魅了系の能力に秀でており、あらゆる女性にとっての敵』


 女性の敵!

 女性の敵というのは、要するに女性を自分の欲望の道具として扱い、自分に夢中にした上で使い捨てる下衆のことだ。

 俺が最も忌み嫌う人種。

 俺がヤツに殺意を抱く理由のひとつ。


 だが、それだけか?

 いや、今それはいい。

 問題はディーラちゃんの言っていたとおり、『やり方が違う』ということだ。


 ディオコルトという八鬼侯が得意とするのは、いわゆる姦計だろう。

 誘惑し、堕落させ、背徳の悦楽によって自らの思い通りに動かす。

 背徳。


 まて。

 フランは追放された後、どこにいた……?

 背徳都市……ヴェニッカ。

 あらゆる淫蕩が是とされる、邪悪な欲望の渦巻く裏切りの街。


 ()()()()()()()()()


 否。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


「まずいぞ……今すぐ、この放送を止めろ!」

「え? ご主人様?」

「すぐに止めるんだ!」

「は、はい!!」


 最悪、ヤツの目的が()()だとして、放送さえ防げば、あとはヒュプノウェーブブラスターを使った記憶操作である程度は……。


「……ご主人様、カドニア王都支部と連絡が取れません!」

「なっ!?」

「アキヒコ様、フラン様の様子が……!」

「!?」


 映しだされた映像には、これまで俺達の見たことのないフランがいた。

 肌をはだけ、淫靡に腰をくねらせ、顔は紅潮し、息は荒く、目は霞んでいた。

 聖女には程遠い、ひとりの女が映っていた。


「アタシのォ、もうひとつの名前はァ、サッキュバスちゃんでェーす☆

 背徳都市ヴェニッカでェ、娼婦やってましたァー☆

 毎日毎日ィ、お金のために頑張ってェー☆

 ほんっとにもう大変だったんだからァー☆

 でもォ、とってもいいヒトに身請けしてもらえてェー☆

 今ではその人の、愛の奴隷でェーす☆」


 空気が凍った。

 聖女のカミングアウトに、ブリッジの空気が静止した。

 この放送はアースフィア全土に流れている。

 同じ空気が世界を支配しているはずだ。


「こっちから遠隔操作できないのか!」

「やってはいますが、向こう側から接続を切られています!」 


 なんてこった。

 おそらく、ディオコルトが支部の放送施設に潜入し、放送を止められないようにしているんだ。


「アタシィー、ホントはァー、聖女なんかじゃありませェーん☆

 みんなの期待に応えられなくてェー、ゴメンネ?☆

 もしアタシと一夜を共にしたいってヒトはァー、聖剣教団聖鍵派まで連絡してネ☆

 待ってるからァー☆」


 もう遅い。今止めても、何もかもが遅すぎだ。

 もはや、ヤツを止めることに何の意味もないだろう。

 だが。


 ――聖鍵、起動。

 ――転移先、カドニア王都聖剣教団支部放送室。


 俺はすぐに聖鍵をホワイト・レイ・ソードユニットを起動した。

 ヤツは……まだそこにいた。

 足元には腰砕けになった支部の女性職員が数人。チャームで無力化されている。


 ヤツと目が合う。

 聖鍵が輝く。

 その瞬間、俺はすべてを理解した。

 コイツのすべてを。


「へぇ……キミが、聖鍵の勇者かい?」


 耳障りだ。

 こんな下衆野郎と口をきくつもりはない。

 『俺』は問答無用でヤツに斬りかかった。

 純白の光刃が過たず、ヤツの首を刎ね飛ばす。

 だが、ヤツの顔からニヤけ面が消えることはない。


 ……()()()()()()()()()()()


「こんの、ゴキブリ野郎がァー!!!!!」


 ヤツが細切れになるまで、『俺』は何度も聖鍵を振るった。

 ホワイト・レイの輝きが、ヤツの肉体を少しずつ、確実に削っていく。

 だが、それでもヤツの余裕は崩れない。


「まったく、乱暴だなぁ。キミとは、ゆっくり話したかったのに」

「お前と話すことなんて無い! 消えろ! 消えろ! 跡形もなくなれ!」

「しょうがない、今回は退散するよ。また会おう、勇者クン」


 削りきれなかったヤツの肉体が黒い霧……瘴気となって、排気口へと吸い込まれていった。


「クソが……ッ!」


 俺はヤケクソになって、そのまま放送室の施設を破壊した。

 だがもう……あの放送は流れてしまった。

 何もかも、ご破算だ。


 聖鍵という力や、みんなの協力がありながら、結局ヤツの本当の目的を達成させてしまった。


「やられた……ッ!!」


 床を殴りつけながら、俺は唇を噛んだ。

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