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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode02 St. Revolution Key

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Vol.31

 何はともあれ、カドニア王国は超宇宙大銀河帝国ジャ・アークの軍門に下った。

 王宮に用のある者は常時照射状態のヒュプノウェーブブラスターの餌食となって、外部に異常を知らせることなく、自分の用を済ませて戻っていく。

 もちろん、王宮内を闊歩しているのはドロイドトルーパー帝国仕様だ。おそろしい!


 事実上、カドニア王国の政府機能はマザーシップのブリッジに集約していた。

 聖鍵派に恭順した役人の何人かに、王国の運営をやらせている。

 悪いが、王国が通常の状態に戻り次第、彼らの記憶は一旦消去し、超宇宙大銀河帝国の銀河奴隷として働かされていたという認識を受け付けることになるだろう。

 彼らに指示を出しているのはフランである。フェイティスが、その補佐だ。


「これでとりあえず、王国については大丈夫だな。浄火派はどうなってる?」

「……予想以上にフラン様を慕っていた者が多かったようですね。多少素行に問題のある者もいますが、再教育プログラムを施せば大丈夫でしょう」


 なにそれこわい。

 フェイティスはマザーシップの施設のいくつかを使いこなしている。

 俺の知らないところで、何か恐ろしい計画が走っていないと良いのだが。


「中立地帯は、ほぼ聖鍵派に靡きました。彼らには直接的な支援も行なっていますしね。バルメー以下、異端宣言の後も浄火派に残った者は地下に潜伏しました。もちろん、居場所はマークしています」

「連中の指輪の解析は?」

「まだ少し時間がかかります」

「浄火派残党がすぐにテロを働く可能性は?」

「今はまだ、ほとぼりを冷ますでしょう。ただ、バルメー傘下に残らず、聖鍵派に来なかった者たちが何をするかはわかりません。そちらも一応チェックはしていますが……」


 バルメーは、ああ見えて頭のいい男だ。

 フランの替え玉を用意するにしても、今すぐに何かをすることはないだろう。

 ん、マインドリサーチしたところ、浄火派の名が邪魔になってしまった以上、別の組織名へ生まれ変わることを考えているようだ。

 替え玉の路線は薄いか。


「とにかく、カドニア王国中で起きていた紛争は止まりました」

「王国からの命令の発布が効いてる?」

「それもありますが、浄火派が事実上活動を停止したのも大きいですね」


 カドニアを覆っていた戦乱は、”聖鍵宣言”以後、終息に向かいつつあるようだ。

 まだ半日なので、しばらく様子を見ることにになるだろうが。


「むしろ、ここからが本番です。ご主人様」

「ああ、そうなんだよな……」


 戦いに勝つことは、既に決定していたことだ。

 聖鍵派の立ち上げ、如何に人々の支持を王国側と浄火派から奪うことができるかが、すべてのポイントだった。

 これがうまくいった以上、状況はカドニア王国そのものの建て直しへとシフトすることになる。


「支部経由の支援も、王国全体での規模となれば、何かしらのトラブルが起きる場合があるでしょう。現地スタッフで対応できればいいですが、難しい場合はご主人様にも動いていただくことがあるかもしれません」


 フォスは立ち上げの段階から俺が世話したので、問題が起きることはなかった。

 しかし、他の街ではなかなかそうはいかない。

 何より、街ならともかく村や集落などの共同体には聖剣教団の支部がないところもある。

 こうした人々には、別途支援物資を投下するなどの施策が必要だ。

 売却用に増産したキャンプシップが、こんなところで役に立とうとは。


「とはいえ、今のところは私と聖鍵派のスタッフがいれば問題はありません。ご主人様にはこれから働いてもらう機会はいくらでもありますので、今はお休みくださいね」

「ああ、そうだなぁ……」


 ここ数日は馬車馬のように働いたが、ようやく一段落だ。

 あとはバルメーの手から指輪をすべて奪取することが目標のひとつだが、これも明日以降に行なうことになった。

 カドニア内乱が収まってくれれば、聖鍵指定都市となったフォスの復興、『闇の転移術法』の捜索に従事できる。


 ないとは思うが、コールドスリープ封印したヴェルガードが黒幕なら、後者も終結だ。

 頃合いを見て表舞台に引きずり出し、フランの手で仇を討たせてやろう。

 ちなみにフランには、ヴェルガードには逃げられ捜索中ということにしてある。


 とにかく、今すぐ俺がやらなければならない用件はない。

 王国運営は俺の役目ではないし、必要ならばフェイティスが俺を呼べる。


「よし、久しぶりにみんなとゆっくりするかな」


 全員の現在位置を見てみる。

 リオミは自室。

 シーリアはバー。

 ディーラちゃんはメディカルルーム。まあ、ラディちゃんのところだな。

 そして俺のいるブリッジには、フェイティスとフランがいる。


 リオミの部屋に行けばラブイチャイベントに突入するしかないだろう。俺の聖剣の出番だ。

 シーリアとなら、夕飯前の飲みに付き合うことになるだろう。彼女とはまだ、ちょっと気まずい状態だ。ここらで解消しておくのもありかもしれない。

 ディーラちゃんがラディちゃんと一緒にいるときは、あんまりお話ができない。ふたりっきりにしてやるほうがいいだろう。

 フェイティスとフランは仕事中だが、一応俺が雑務を手伝うこともできるだろう。


 おっとそうだ、フォスでヤムたんと戯れるというのもいい。

 そのまま晩御飯も一緒に食べていけば、殺伐とした俺達の空間を和ませてくれるだろう。悶えるリオミを眺めるのも一興だ。

 いっそリプラさんと話してみようか。バルドさんの遺言を聞かせてあげてから、俺へのわだかまりも大分払拭できたようだ。ちょっとしたイベントが期待できるかもしれない。それは浮気ルートでヤムたんに「お父さんになって」と言われる方向性じゃないか。いかん、いかんぞ。


 結局俺はもっとも妥当なリオミを選ぶのだった。



「アキヒコ様、お疲れ様です」

「うん、ありがと」


 フェイティスの一件でいろいろあったけど、リオミとは昨晩愛情を再確認したおかげで、関係をほぼ元通りに修復できた。

 要するに俺の本気を疑ってたわけなので、とことん安心させてあげたのである。おかげで今日のリオミは大変機嫌が良い。

 ほどほどにラブラブするつもりが、早速1ラウンドほど試合してしまった。


「そういえば、アキヒコ様。その……もしですよ? 赤ちゃんができたら、どうしますか?

「え、できたの!?」

「いえ、まだなんですけど……」

「そ、そうか」


 このまま関係を続けていけば、子供ができるのは時間の問題だろう。

 そうなれば、今度こそ俺は責任をとってリオミと結婚するということになる。

 最近はすっかり忘れかかっていたが、リオミはタート=ロードニア王国の王女だ。

 もう前みたいな抵抗感とかは、まったくない。リオミと一緒になれるなら、それはとても幸せなことだと思う。


「そろそろ、王様と王妃様にも正式に挨拶に行くかな」

「えっ……よろしいのですか?」

「うん。俺はもう、リオミとのことはちゃんと考えて行きたいと思ってるから」

「……アキヒコ様、うれしいです」


 第2ラウンド開始。

 1時間ほど試合して終了。


「実際問題、俺はどういう扱いになるんだろう」

「そうですね……もうアキヒコ様はひとつの国に囚われるような立場ではなくなってしまいましたし……」

「いっそ、俺も国を建てようかな」

「えっ!?」

「実は、もともとちょっと考えてたんだ。俺が国を建てて、リオミがそこに嫁いでくる形を取れば、ロードニア側に世話をかけることもないし、リオミに相応しい男として自立できる気がするんだ」

「え、え、え。アキヒコ様、それって」

「うん。リオミ……俺と、結婚してくれないか?」

「~~~っ!!」


 第3ラウンド目は長期戦となった。

 それはもう、俺はリオミに押されっぱなしの展開になった。


「アキヒコ様、わたし、もう死んでもいいです。このままずっと時間が止まってしまえばいいのに」

「お、大袈裟だなぁ。もう俺達夫婦みたいなもんじゃないか」

「アキヒコ様と! 夫婦! ああ、もう、駄目です。幸せ過ぎて前後不覚に陥りそうです」

「そりゃ張り切り過ぎたせいだよ。ちょっと水でも飲んで落ち着いたら」

「この熱を冷ますなんてとんでもない!」

「あんまり無理するなよ?」

「あ、でもアキヒコ様……建国するといっても、流石にそう簡単ではありませんよ」

「んー、アースフィアでの建国に必要なものって何だろう?」

「まあ、第一に土地ですね。誰のものでもない土地を自分の領地にするのが早いです。

 どこかの国の土地を領有する場合は、どこまで行っても爵位どまりで、王にはなれません」

「まあ、そりゃそうだ」

「あとはもちろん、国に住む人が必要です。人がいない国なんて、ないも同然ですから。

 あとは立法、司法などはもちろん、暮らす人々の雇用を含め衣食住の確保など……カドニアの復興の片手間にできることではありませんね」

「どちらにせよ、先の話だな」

「アキヒコ様、何かアテがあるのですか?」

「うん、ちょっとね」


 実は土地に関してはアテがある。

 まだリオミには秘密にしておこう。


「それより、結婚についてだけど」

「ぅぁぅ~。もう、そのキーワードだけで頭がおかしくなっちゃいそうです」

「リオミって、結婚に理想を見るタイプだったの?」

「いえ、どっちかというと政略結婚など、政治と関連付けて考えることが多かったですね。

 でも、アキヒコ様とは別ですよ~。こんな恋愛結婚ができるなんて、10年の苦労なんて安いものだったなって思いますよ」

「そこまで喜んでもらえるなら、俺も嬉しいな。やっぱり、俺との結婚ってロードニアにとっては大きな国益になるよな?」

「お母様にもそう言われましたけど、もう正直その辺はなるようになれって気分ですね。

 もうお父様もいるわけですし、ロードニアはわたしが頑張らなきゃいけない時期を超えてます。

 本当にアキヒコ様が建国されるのでしたら、そちらへ嫁ぎますよ!

 フェイティスの実力がフルに発揮できるでしょうし、最強の軍事力を持つアキヒコ様なら、アースフィア統一王国だって夢じゃないです」

「こらこら、また悪い病気が出てるぞ」

「えへへ、ごめんなさい」


 ちろりと舌を出すリオミ。

 イタズラっぽい表情が、歳相応の女の子を思わせる。

 たまらん。このまま第4ラウンドで決着をつけようか?


「アキヒコ様、そろそろ夕食の時間ですよ」

「おっと」


 残念。

 続きは深夜のタイトルマッチに持ち越しだ。



「じゃあ、みんな。ひとまずはお疲れ様でした!」

「お疲れ様でした!」「お疲れ様」「おつかれー!」「お疲れ様でした」「お……おつかれ」


 夕食は聖鍵派にきてくれた人々と一緒に、ちょっとした立食パーティになった。

 いろんな人が俺に挨拶に来るが、やはり人気なのはフランだ。何しろ、今や聖鍵派の聖女である。

 今回の俺は聖鍵派のきっかけにはなったものの、演説などで表舞台に立ったのはアンダーソン君とフランだ。俺はこのパーティの主役ではない。

 元剣聖のシーリアは王国騎士に人気が高い。親予言派の零細貴族の人などはリオミのところに。

 ディーラちゃんは子供たちと仲良くなっていた。その輪の中にはヤムたんも来ていて、寂しい思いをせずに済んでいるようだ。


「アキヒコ殿、先日はどうも」

「トランさん!?」


 意外な人がいた。

 今は各支部から人をマザーシップの市街区に流しているのだが、どうやらバッカス支部ルートからトランさんが入ってきていたらしい。

 俺の関係者だったら、食堂には来れるようにしてあったからな。まさか本当に来るとは思わなかったけど。


「お久しぶり……ていうほど、時間は経ってないですね」

「お忙しい日々を過ごしておられるようですね。こちらも、アースフィアを行ったり来たりですよ」

「そういえば、キャンプシップ行商はどうですか?」

「いえいえ、それはもうおかげ様で大変儲けさせて頂いておりますよ。ほら、先日拝借した……スマートフォンと言いましたっけ。

 この端末で各地の市場の値動きがチェックできることがわかってからは、順調そのものです」

「ああ、なるほど!」


 安い場所で仕入れ、高く売れる場所で売る。

 もともと行商はそういうものだが、キャンプシップを使えば月単位の利益を日中に何度もあげることが可能だ。


「フォスで取れる鉱石はアキヒコ殿の聖鍵効果のおかげで、各地での価値が大変跳ね上がると思われますので、今のうちに大量に仕入れさせて頂きますよ」

「そんなところまで聖鍵の力が……」

「聖鍵様様です、ははは」


 この分だと、トランさんからは10白金貨以上の利益を見込めそうだ。


「他の商人にキャンプシップを紹介したりとかは?」

「いえ、こんなおいしい商売をライバルに渡したりはしませんよ。もしやるとしたら、今回の利益で商会を大きくして、私の方で大量に買い付けさせていただきたいと」

「独占はちょっと……」

「適正価格で販売しておりますよ。アキヒコ殿の期待を裏切ったりはしません」

「そうですか? うーん……」

「それでも、これまででは考えられないような儲けが出ますから。それにアキヒコ殿もしばらくは、カドニア王国の復興に携わると聞きました。私もこれからは、カドニアを贔屓にしたいと思います。それに、バッカスでもアキヒコ殿の人気が高まっておりますので、多くの商人が新しい商売をこちらで始めると思いますよ」

「え? なんで……」

「もともと聖剣教団が増援を送ってくれたという話になっていたでしょう。あそこにですね、私がちょっと噂を流しました」

「噂?」

「ええ。聖剣教団に口を利いたのは予言の勇者様であると。最初のうちはただの噂レベルでしたが、今回のことでおそらくはほぼ事実として広まるのではないでしょうかね。今度、バッカスに来てくださればわかりますよ」


 なんか、とんでもないことになっていそうで怖い。

 俺の力が恐れられていたりはしないのだろうか。


「まあ、一応聖剣教団の力ということにはなっていますからね。アキヒコ殿はやはり魔王を倒したという実績がありますし、いつまでも隠して置くのは難しいですよ」


 そんなものだろうか。

 しかし、聖鍵の力を全部教団のものという扱いにすれば、ちょっとずるいとは思うが俺が恐れられずに済むかもしれない。

 勇者イコール聖鍵派の幹部という認識を広げていけばいいのか。


 トランさんと別れ、のんびりと料理を嗜む。

 どうする。聖鍵派カドニア人と仲良くなっておいたほうがいいだろうか。


「勇者様。よければ、ご一緒に飲みませんか」

「お?」


 フランに呼ばれた。

 聖女モードなので、俺に様付けだ。

 どうやら、取り巻きに断って俺のところへ来たらしい。

 俺達が会話をしていると、流石に割ってはいろうとする人はいなかった。


「こういった場はお嫌いですか?」

「いや……そんなことはないけど」

「勇者様は私を救ってくださった英雄なのですから、もっと胸を張っていればよろしいのに」

「嫌いではないけど、慣れてないんだ」

「まあ。私と初めて出会ったときは、もっと堂々としていたではないですか」


 む。

 探るような目つきだな。


「あのときはまあ、貴女に印象付ける目的もありましたので」

「突然現れて、浄火派を抜けろとおっしゃったときは、大変驚きましたよ」

「はあ…………」


 気の利いた返事ができない。

 というか、聖女モードのフランはなんか違和感があるんだよな。

 王女モードがたぶん、本来のフランに近いと思うし。


「なんか、その喋り方、別人みたいだな」

「これも生き残るための知恵ですよ」


 過酷な環境を生き延びた、したたかな女の目を見た。

 アースフィアで出会う女性は、なんというか自己を確立して強いイメージがある。

 中世時代の女性は地位が低かったはずだが、アースフィアの人権意識はどうなっているんだろう。

 教団のおかげで現代に近い価値観があるようだが、それでも女性は苦労しているのかもしれない。


「貴女も強いな、本当に」

「そういう勇者様も相当なものですよ」

「俺なんて別に、聖鍵がなければどこにでもいる人間ですよ」

「ご謙遜を。リオミ様もおっしゃっていましたが、本当に謙虚なのですね」


 ふむ、リオミとも結構話したみたいだ。

 彼女はみんなに俺のことを話してるみたいだしなぁ。


「……まだ、貴方のことを完全に信用したわけではありません。人は裏切る生き物ですから」

「バルメーのことを言っているのか?」

「それだけではありませんけどね。どれほど信用していた相手でも、裏切られるときは裏切られる。

 私は、それを19年の間に嫌というほど学びましたから。バルメーのことも、もう引きずってはいませんよ」


 なんとも実感の篭った含蓄ある響きだった。


「では、他の方への挨拶回りに戻ります」

「ああ、うん。お疲れ様」


 俺も挨拶回りの一貫だったのだろう。

 すぐに別の人に話しかけていた。


 彼女が表舞台に立ってくれていることで、俺の役回りはだいぶ楽になっている。

 どうしても俺だと聖鍵派のリーダー! っていうのは、しっくり来なかったからな。

 彼女を引き入れたのは正解だった。

 なにより、フランがいなければ浄火派の大部分はまだ反政府活動を続けていただろうし。

 こればっかりは、聖鍵の力だけではどうしようもなかった。


「……アキヒコ、今いいか?」

「おおぅ、シーリアか。飲むか?」


 グラスを交わし合う。


「……本当に成し遂げてしまったのだな、貴方は。絶望的と思われたカドニアを変えてしまった」

「いやいや、これからが本番だよ。どん底から、ようやく上を向き始めたってところなんだから。やることは、いっぱいある」

「それでもだ。アキヒコが一念発起しなければ、カドニアは破滅の道を歩むしかなかったはずだ。

 これは、私の剣がどれほどの腕であっても、決して成し遂げることのできなかった偉業だ。またひとつ、強さを見せつけられてしまったな」

「みんな、俺のこと褒めすぎ。今の構図を描いだのはフェイティスだし、人心を掌握したのはフランだ。

 俺がやったことなんてせいぜい、フォスの街にちょっと支援をしたのと、ヴェルガードをちょいと懲らしめただけだろ」

「フランの命を救ったことは含めないのか?」

「あれもたまたまだな。本当なら、彼女はもっと穏便な形でこっちに引き入れるつもりだったし。フランが無茶しなきゃ、あんなことは起こらなかった」

「必然でも偶然でも、彼女の命を救ったことは変わりあるまい。彼女は態度にほとんど出していないが、貴方に命を救われたことを相当感謝しているぞ」

「そうか? さっきはそのことについては、何も言われなかったけど」

「おそらく、彼女のプライドが素直になることを許さないのだろう。私には、なんとなくそれがわかる」


 フランがツンデレだというのか。

 デレたら、どうなるのだろう。


「またしても新しいライバルの登場だ」


 いや、ライバルって。

 それは流石に……いや、フェイティスのこともある。

 油断はできん。


「とはいっても、私は敗残兵だが……」

「シーリア……」

「アキヒコ。まさか、お前を想い続けてもいいという話、帳消しにしないだろうな」

「え、それは……」

「私は、ちゃんと確認しているぞ? お前は確かに、そんなことは当たり前だと言ったはずだ」

「うぐ……いや、てっきりあのときは憎んでいいとか恨んでいいとかの意味で解釈してたんだけど」

「なにぃ……!? どうして、そんな風に捉えられるんだ!」

「自分の胸に聞けよ! この間、俺をマジ斬りしたくせに!」

「…………本当にごめん、アキヒコ……」


 急にしおらしくなってしまった。

 ……あぶねぇ、今ちょっとドキっとしたぞ。

 シーリアは普段男勝りな分、女の弱さみたいなのをときどき見せるとギャップによる破壊力がある。


「ん、そろそろお開きか」


 どうやら、立食パーティは最後にフランが締めて解散となるようだ。

 マザーシップには、既に彼らが居住できるよう市街区を作ってある。

 この船も、いよいよ賑やかになりそうだな。


 とりあえず今日は、リオミとの最終ラウンドが控えている。

 俺も酒はほどほどにして、準備を整えないとな。


 くくく、待ってろよリオミ。足腰立たないようにしてやるぜ。

 俺の新しい寝技、受けてみるがいい。


 勇んで挑んたタイトルマッチは、2対1で俺が1だった。

 2が誰と誰かなどは、言うまでもない。

 足腰立たなくなるのは、俺のようだ……。

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