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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode02 St. Revolution Key

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Vol.18

 炊き出しは好評だ。

 みんなお礼を言いながら、スープとサラダを受け取っていく。


「アッキー!」


 おや、ヤムたんだ。

 リプラさんも一緒。外で噂を聞いたのか、炊き出しをしてることに驚いたりはしていない。


「ようこそ。手伝いは食べてからでいいよ。はいスープ」

「ありがとう!」


 ヤムたんは天使だ。

 リプラさんも一礼してカップを受け取る。


「今の子、知り合い?」

「うん。さっき話したでしょ、たけのこの子」

「あの子が! うん、絶対良い子だね」


 俺の隣でスープを補充していたディーラちゃんが鼻歌を歌い始めた。

 あとでちゃんと紹介してあげよう。


 そういえば、リプラさんに予言の勇者だと知られるとまずいんだよな。

 みんなに口裏を合わせてもらうべきか。

 でも、バレるのは時間の問題な気もする。

 どうしようか。


 食べ終えたヤムたんがお手伝いに参戦した。

 ディーラちゃんがしきりに話しかけ、交流を試みている。

 たけのこ派同士だし、精神年齢も近い。

 きっと仲良くなれるだろう。


「ねえねえ、どうしてヤムはお兄ちゃんのことアッキーって呼んでるの?」

「アッキーはアッキーだから!」

「そっか。そんなことより、たけのこいいよね!」

「たけのこおいしかった!」


 俺はたけのこ以下か。とほほ。


「とてもあたたかくて、おいしかったです。聖剣の加護に感謝いたします」

「どういたしまして」


 こんな感じでお礼を言われる。

 炊き出しは、特に男性に好評だった。

 なにしろスープを出してくれるのは俺を除けば美女ばかりだ。

 年齢も選り取り見取り。

 上はフェイティスの22さい、下はヤムたん7さいまで。


 ちなみに年齢は本人に聞いたんじゃなくて、ググりました。

 そこまで俺も命知らずじゃないよ。


「ふぅ……」


 たぶん、町の人全員に行き渡ったと思う。

 これで少しでも、みんなが喜んでくれるといいのだが。


「ご主人様、もうよろしいかと。後はわたくしがやります」


 今度こそはと、有無を言わせぬ雰囲気だった。

 おとなしくフェイティスに従う。あとは彼女とドナさんに任せ、俺達も席につく。


「じゃあ、とりあえず俺たちも食べるか」


 今日は俺たちもスープとサラダだけだ。

 ディーラちゃんは不満気だったが、みんなが同じ食事なので我慢するようだ。

 あとで食堂で自分だけ食べるのかもしれないが。

 フェイティスのほうをちらりと気にしながら、シーリアが口を開く。


「……おい、アキヒコ。何故姉さんが来ているんだ」

「いや、リオミが無理言って連れてきたんだよ。びっくりしただろ?」

「心臓が止まるかと思った」


 大げさな。


「先ほど話したとおり、今後彼女にはアキヒコ様の専属メイドになってもらいます」


 リオミが少しむすっとした様子で割り込みしてきた。


「そうか。アキヒコ、骨は拾ってやる」

「……おいおい、冗談きついぞ。そんなに酷いのか、お前の姉さんは」

「そんな生やさしい表現で足りるだろうか……」

「脅すなよ……だんだん、不安になってきただろ」

「大丈夫ですよ。昔は確かにちょっとなにであれでしたけど、メイドになってからは嗜みを身につけましたから。きちんと命令してダメだと言ったことはしなくなりますし」


 リオミがニコニコ笑顔でフォローを入れる。


「……そうか。姉さんも大人になったんだな」


 シーリアの目は、どこか遠くを見ていた。

 フェイティスとシーリアの少女時代か……一体何があったんだ。


「と、姉さんのことはいいんだ。それより情報だ」

「ああ、ギルドに情報屋のツテがあるって言ってたっけ」


 フェイティスのインパクトですっかり忘れていたが、シーリアにはそのためにカドニア王都に行ってもらっていたんだから。


「まず王国を実質的に支配しているのは、大臣のヴェルガードという男だな。反予言派の筆頭だ」

「ああ、そいつなら俺も調べたから知っているよ」


 かなり長い間、国王を裏で操り国政をほしいままにした諸悪の根源だ。

 カドニアがこんなふうになってしまった原因の9割は、こいつにある。

 だから最初は大臣をどうにかしてしまえばいいんじゃね? っと思っていた時期が俺にもありました。

 だが、ヴェルガードがいなくなると浄火派があれでなにして、バッドエンドになるから手が出せないのだ。


「浄火派が最終的に打倒すべしとしているのが、この大臣のヴェルガードとカドニア国王のアンガス=リド=カドニアだ」

 

 このアンガスという王に関して話すことは少ない。ヴェルガードの操り人形である、という1点を押さえておけばいいだろう。


「このヴェルガード、基本的に表に出てくることはなかったそうなんだが、魔王が討伐されたぐらいの時期から、様子がおかしくなったそうだ」

「どういうふうに?」

「これまでは黒幕に徹していたのだが、急に表舞台に顔を出すようになった。これまでは仮にも王を通していたことを、自分が直接命令を下すような真似をし始めたということだ」


 魔王が討伐された頃から変化した。

 何か魔物の動きと符号するような気が……。

 いや、でもダークス係数に異常はなかったんだよな。


「さらに、アキヒコ。貴方に名指しで依頼を出したのも、この男で間違いないようだ」

「ほーう……」


 カドニアにも、立場はかなり弱いが親予言派もいる。

 そういう連中が王国づてで依頼を出した可能性も、完全に消えた。

 反予言派の最高指導者の名指しの依頼。

 もはや罠でなければなんだというのだろうか。


「ちなみに、情報屋から依頼の意図も詳しく聞くことができたぞ」

「聞かせてくれ!」

「浄火派の始末のためだ。聖剣教団から見れば、自称に過ぎない浄火派は異端だ。だから聖鍵の勇者であるアキヒコがこれを討つのは当然だろうということらしい」


 ん? なんだそりゃ。

 すごく普通だ。いや、ところどころ勘違いというか突っ込みどころがあるんだが。


「……俺を嵌めようっていう罠じゃ?」

「罠というよりは、利用する気マンマンといったところだな。魔王を倒した手腕を見込み、邪魔な浄火派を始末させようとしているらしい。アキヒコが冒険者になったのを見計らって、無理にでも依頼を受けさせるつもりのようだ」

「はあ」


 なんか拍子抜けだ。

 もっといろいろ企まれているのかと思ったのに。


 まず、浄火派は異端とされているわけではない。

 教団は浄火派なんて相手にしない。

 浄火プログラムの遂行の障害にならないからだ。


 アンダーソンも言っていたとおり、彼らは自分たちを聖剣教団だと名乗っていない。

 あくまで通称であり、アースフィアの人々にそれが通用することがわかっているからこそ、そのまま使っているだけだ。

 ヴェルガードの言い分は、自分に都合のいい「浄火派は異端」という前提に基づいているように思える。


 さらに俺と聖剣教団の結びつきが当たり前のように言っているが、俺が教団と接触したのは最近のことだ。

 教団が浄火派を異端として考えていたとしても、教団が俺に対して誅滅を命じるようなことはありえない。

 実際は俺が聖剣教団の上に来るということを知らないにしても、あまりにもお粗末な考え方だ。


「で、だ。それが依頼を受けた場合。受けなかった場合の意図もあった」


 お、きたきた。そうだよな、裏があるに決まってる。


「アキヒコが依頼を蹴る。その場合は、貴方が浄火派についたとみなして、反予言派を盛り返せる……と、思っているらしい」

「は?」


 なんだ? なんだそりゃ。

 そんなの無理に決まってる。

 どうして俺が浄火派につくなんて思えるんだ。

 いや、そもそもついたとして、どうして反予言派が盛り返せるんだ。


「浄火派は他国から見てもテロリストだからな。正当性はない。聖剣教団だと名乗っているが承認を得ているというよりは、無視されているだけだ。

 そんな連中に聖鍵の勇者が与すれば、各国に勇者が危険なテロリストだと根回しして、自勢力を盛り返せると信じているらしい」


 なんだろう。

 俺が想定していたヴェルガードという大臣は、もっと手回しのいい、頭のいいヤツだというイメージがあったのだが。


 ルナベースに蓄積されたヤツの手腕と比べると、齟齬が半端ない。

 俺から見ても考えが穴だらけだ。

 思い込みと勘違いを前提に動いているとしか思えない。


「……アキヒコ、お前の考えていることはわかるぞ。私もおそらく同じ考えだ」


 シーリアもおかしいと思っているらしい。


「以上だ。情報屋がガセを掴ませてきた可能性もあるが、それならもっとマシなネタに思えるような内容にするはずだ」


 あんまりにあんまり過ぎて、本当っぽいと。

 ルナベース検索にかけても、今の情報屋の話が最新の更新項目に追加されてるだけだった。

 やはり、ある程度蓄積がないと情報の確度は高めようがない。


 幽閉されて入れ替わってるという可能性はあるか?

 だけど、現在位置は王宮だ。入れ替わった場合は死んでいるか、幽閉されている場所なりがわかる。

 本物だということか……。


「ありがとう、シーリア」

「礼には……及ばん……」


 む、ちょっと言い淀んだ。

 本当はなにか欲しいけど、遠慮しているのかもしれない。


「何か欲しいものとかあったら言ってくれていいよ」

「む……いや、今は言えない」


 言い難いことのようだ。あとで電話で聞き出そう。


「……アッキー」


 む、ヤムたんがこっちをジーっと見てる。


「アッキーは、アッキーじゃないの?」


 ああ、シーリアは俺のことをアキヒコと呼んでいたからな。


「アッキーはニックネームなんだよ。親しい人には、その名前で呼んでもらっているんだ」

「そーなんだ!」

「えっ、アキヒコ様……?」

「なん……だと……!?」


 ヤムたんはにこっと笑ってくれたが、リオミとシーリアがガタっと立ち上がる。


「どういうことですか、アキヒコ様! わたしにはそんなこと一言も……!」

「私も……アッキーと呼んで、いいか?」

「それはだめ」


 俺をアッキーと呼んでいいのは、リプラさんとヤムたんだけだ。

 それにしても、俺の周囲がギャルゲ化してきてる気がする。当局の陰謀か?



 炊き出しが終わり、ヤムたんや町の人々は帰っていった。

 少しは喜んでもらえただろうか。

 しばらくは、目立たないレベルでこれを続けて行きたいと思っているんだが……。


 うーん、カドニア入り初日で早速いろいろあったな。

 アースフィアに来てから、毎日が非常に濃い。

 日本では胡座をかいてれば、1日が終わっていたのに。


 というか、俺はここにバッカスを襲った魔物の黒幕を探しに来たというのに、いきなり目的を見失いそうになってないか。

 炊き出しは町長に頼まれて仕方なくやってたはずなのに、いつの間にかこれが俺の主目的みたいになってる。

 リオミと話してたらカドニアをどうにかしないといけないみたいな話になってしまったし。


 カドニアに入る前は見知らぬ人々が苦しんでいるだけの他人事だったことが、ヤムたんやリプラさんと知り合ったことで、カドニアの現状を肌で感じてしまったせいかもしれない。

 ボランティアとかまったく興味なかったし、募金も赤い羽根にすら1円も払ったことのない俺が、なんでこんなに頑張ってるんだろう。

 NGO活動に参加する人っていうのは、こういうところからどっぷりと入っていくものなのかもな。


 さて、夜はいつもリオミと過ごすのだが、その前にシーリアに話を聞かねば。

 電話で済ませようと思ったが、マザーシップのバーで酒を酌み交わしながら話すことにした。

 ちなみに、リオミにはきちんと許可を取ったので、抜かりはない。

 むすっとしていたが、怒ってはいない。

 いないはずだ。


「すまんな……」

「何、いいさ」


 いつになく殊勝なシーリアに、グラスを傾けてみせる。


「で、どうしたんだ? カドニア王都で何かあったのか」

「いや、そうではなく。ひょっとして、私はアキヒコに誤解されているのではないかと思ったのでな」

「誤解?」

「アキヒコは私のことを、どう思っている?」


 こりゃまた直球な。


「どうって……そりゃまあ、頼もしい仲間かな」

「……それだけか?」

「ええと、あとはまあ……生きろと言ってしまった手前、シーリアに対して責任があると思ってる」

「……責任か。それはどう取る?」

「そんなこと言われても……まあ、シーリアが俺に勝てると思えるまでは、一緒にいる。かな?」


 シーリアが俺についてくる理由っていうのが、それだったはずだ。

 俺に勝つことを生きる目的にする、と。


「……そうだな」


 シーリアはそのまま黙ってしまった。

 えーっと……?


「この話が、俺がシーリアを誤解してるって話にどう繋がるんだ?」

「……先ほどとは逆の問いになるが、私がアキヒコのことをどう思っていると思う?」

「それはもちろん……」


 彼女は俺を憎んでいるはずだ。

 自分を殺さず、屈辱の生を与えた俺を。

 だが、彼女は馬車の中で俺に感謝しているとも言った。

 自分の知らなかった新たな強さの概念を教えてくれた俺を活かしたいと。


「……なんなんだろうな」

「そうだ。一言ではとても言い表せない」


 シーリアは何を言いたいのだろう。

 俺に何を言わせたいのだろうか。


「私も自分の考えていることを、はっきりと言うことができればいいのだがな……正直、自分の心がこれほど弱いとは知らなかった」

「シーリアがそんなことを言うなんてな……」


 一緒に行動するようになってわかったのは、シーリアは別にシリアルキラーでも戦闘マシーンでもない、少し男勝りな女性だということだ。

 ここ最近のシーリアは、リオミと俺を仲裁するなど、予想だにしなかった気遣いを見せている。

 フェイティスの前では子供時代を思い出すし、ディーラちゃんとも少しずつだが歩み寄れている。

 剣聖アラムという称号の重さから解放されたおかげで、シーリアというひとりの女性が自分を取り戻していっているのではないだろうか。


「でも、俺はそれでもいいと思うよ。人間なんだから、弱いところもあって当たり前だよ」

「……!?」

「どうした?」

「あ、いや……なるほど、そうか。弱くてもいい……」


 光明を見出したらしい。

 シーリアの表情がみるみる良くなっていく。


「ありがとう、アキヒコ。心のつかえがとれた」

「そう? そりゃなにより」


 俺は一般論を言っただけで、別に特別なことは何もしてないのだけど。

 人は相談をもちかけるとき、既にその人の中では答えは決まっているというしな。

 シーリアの中でもなにがしかの答えは出ていたのだろう。

 

 そんなこんなで飲みはお開きとなり、俺は艦長室へ向かった。

 扉の前には何故か、フェイティスが控えていた。


「おかえりなさいませ」

「どうしてここに」

「ご主人様の帰りをお待ちしていました」

「あー……うん、もう今日は大丈夫だ。あてがった部屋に戻ってくれ」

「かしこまりました」


 リオミの助言どおり、命令という形でお願いすると、いともあっさりフェイティスは自分の部屋へと戻っていった。

 まあ、隣なんだけど。

 部屋の中ではいつもどおり、リオミが待っていた。

 最近は、こちらで会うようになっている。


「アキヒコ様、シーリアとは何のお話を?」

「ただの悩み相談だったよ」

「そうですか……」


 リオミが目を伏せる。

 彼女も相談を受けたのかもしれない。


 そのあとは特にとりとめのないやりとりのあと、リオミが満足するまで相手をしてあげた。

 相当ストレスが溜まっていたらしく、なかなか寝かせてもらえなかった。

 まあ、おかげで俺も一切遠慮しないでよかったけど。


「おはようございます、ご主人様、リオミ王女。朝です」


 目覚めはメイドさんのモーニングコール。

 彼女は許可なしに部屋に入っては来れないので、とりあえず服を着た後に招き入れる。


「朝食の用意ができておりますので、食堂へお越しください。その間にわたくしが部屋を掃除しておきます」

「ん?」


 食堂に行けば、いつでも飯は食べられる。

 まさか、厨房に立ったのだろうか。

 

「掃除は大丈夫だよ。クリーニングボットがやってくれるから」

「いえ、これも御役目ですので。どうか、わたくしの仕事を奪わないでください」


 うわっ、先手を取られた。

 命令される前にこうやって揺さぶりをかけてくるわけか。


「その……シーツの汚れとかあるし」

「気にされずとも結構です。慣れておりますので」


 うーん、さすがの貫禄だ。

 気恥ずかしいけど……これから、いろんなプライベートを見られることになるだろうしな。

 いちいち俺がつっかかってたら、フェイティスと険悪になってしまう。


「じゃあ、わかった。よろしく頼むよ」


 着替えまで手伝うとか言われる前に、さっさと退散。

 リオミとともに食堂へ向かう。


「あれ、本当になんか用意されてる」


 いつもの自動で作られる料理とは違う。

 確かに奥には人が料理を作れる厨房があるけど、本当にわざわざ作ってくれたのか。


「ああ、またフェイティスの料理が食べられるのですね」

「ん、ロードニアだと料理担当だったの?」

「いえ、専属のコックがおりましたが……時々作ってくれる手料理がとてもおいしいのです」


 マザーシップで出される料理は味にもパターンがあって、飽きない工夫は一応されているが……やっぱり量産品っぽいんだよな。

 手料理は、いいかもしれない。


「こ、これは」


 確かにウマイ!

 水を飲むと涙が出て寝不足が、モッツァレラチーズとトマトのサラダを食べたら肩こりが治るかと思った。肉料理は腸が飛び出すんじゃないかとハラハラした。

 シーリアとディーラちゃんも、メチャメチャ美味しそうに食べていた。


 幸せな朝食を終え、情報収集の再開だ。

 今日はできれば、魔物関連に集中したい。

 フォスでは昼と晩に炊き出しをする予定なので、それまではカドニアに出現する魔物を俺が検索で見つけ出し、捕獲しようということになった。


 リオミに《ライト》を使ってもらってから、フォス近くの廃鉱山に転移。

 そこでダークス係数高めのロックワームを捕獲した。もちろん、シーリアの剣が役に立った。

 ディーラちゃんは出番はほぼないため、ラディちゃんのところでお留守番である。


 捕獲作業は各所にメタルノイドを派遣して、俺達と同時展開した。かなり効率的に進められたはずだ。

 昼までこういった作業を繰り返し、ひととおりのサンプルをマザーシップに転送した。

 分析で何かしらの成果があるといいのだが。


 炊き出しは、今日も教団支部。

 ヤムたんは開始の前から来てくれた。

 フェイティスが、ここは自分の領分だと言わんばかりに八面六臂の活躍を見せてくれたおかげで、俺たちはほとんどやることもなく、結局つつましやかなお昼をみんなでいただくことになった。


「ヤムたん、悪いな。せっかく手伝いに来てもらったのに」

「あのひと、すごいね」


 フェイティスは今日に備えて、あらかじめ整理券を作り、整列用のロープまでしっかりと張っていた。

 朝の段階で彼女はフォスに向かうと言ってたので転移させたのだが、まさかこのための布石だったとは。おそらく、支部の人には既に指導してあったんだろうな。

 ドナさんや嘱託の人にてきぱきと指示して、作業を滞り無く進めさせている。


「ヤムタンちゃんは、どういう経緯でアキヒコ様とお知り合いになったのですか?」


 リオミ。たんは名前じゃないんだけど。

 まあいいか。


「お金をたくさん恵んでくれたのです」


 そこで、昨日ヤムたんと出会った経緯の話になった。

 リプラさんの件のとき、リオミとシーリアがなんとも言えない顔をしていたが、責めている風ではなかった。


「アキヒコ様らしいですね」

「まったくだな。いい意味でも悪い意味でも」

「それでね、そのあとお風呂に入れてもらったの」


 ……あ。


「……ほう。少女よ、詳しく聞かせてくれ」

「そうですね。その話はできるだけ細部に至るまで、じっくりと」


 ど、どうしよう。

 口止めしようと思ってて、そのまま忘れてた!


 ヤムたんの話が進むに連れ、ふたりから表情が消えていく。

 ちなみにディーラちゃんはニヤニヤしていた。

 こ、こいつ……この間のことを根に持ってやがったな。


 話が終わると、リオミ&シーリアが同時にこちらを振り向き、憐れむような目を向けてきた。

 ひぃ、そんな目で俺を見るな!


「アキヒコ様……申し開きは?」


 申し開きだと?

 それは罪を犯した者の言い訳のことだ。

 俺は何も悪いことはしていない。

 ヤムたんを隅々まで洗い、天使ヤムエルを生誕させたのだ。

 そうだ、俺はいいことをしたんだよ!

 ならば俺の言うべきことは、ただひとつ。


「…………ロリコンで何が悪い!」

「「「開き直るな!」」」


 女性陣の総ツッコミであった。

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[気になる点] 『水を飲むと涙が出て寝不足が、モッツァレラチーズとトマトのサラダを食べたら肩こりが治るかと思った。肉料理は腸が飛び出すんじゃないかとハラハラした』……スタンド使い?
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