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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode02 St. Revolution Key

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Vol.16

 リオミの話は鵜呑みにすると危険だ。

 彼女はどれだけ俺のことを神格化してるか知らないが、聖鍵の力は冗談抜きでやばいのだ。

 一歩間違えば、俺は魔王どころか大魔王になってしまう。


 だけど、アースフィア全体からカドニアに働きかけていくというのは、いい案な気がする。

 俺は確かにカドニアだけをひたすらどうにかしようと、ない知恵を絞ってはルナベースのシミュレーションにかけていた。

 戦略シミュレーションで外交などのコマンドを使わず、ひたすら内政コマンドをしていたわけだ。そりゃ無理だわな。


 きっとリオミに聖鍵を使う能力があったら、俺など考えもつかないような方法でアースフィアをより良き方向に導いてしまうんじゃなかろうか。

 やはり、仲間は大事だ。自分に足りない部分を補って貰える。


 リオミは魔法と政治力。

 シーリアは剣の腕と冒険者としてのツテと経験。

 ディーラちゃんはドラゴンの膂力とかわいらしさ。

 俺は?

 わかってます。いいんです。あなたがたとは違うんです。


 ともかく、心は決まった。

 やれるところから、やっていこう。

 リスクはあるが、まずはフォスの街をなんとかする。

 一度に全部やろうとすれば、俺の把握能力を超える。

 まずは目の届く範囲を助けてしまおう。


「リオミ……流石にいきなり今日から職業訓練とかは、まあ難しいよな」

「そのあたりは年単位での改革が必要になりますから、無理ですね」

「となると、今現状、どうしようもなく追い詰められていて、這い上がる機会さえない人に、最低限の生活を保障するところからか」


 もとから町長とは、炊き出しや医療面での手助けをすると約束した。

 その辺から手を付けるか。


「ところで、アキヒコ様。ひとつ提案があるのですが」

「提案?」

「先ほど、相談役を用意するというお話をしたときに、うってつけの人材がいることを思い出したのです」


 リオミが笑っている。

 あのスマイルは……! 悪いことを考えているときの、笑みだぜ……。

 父親にそっくりだ。


「いやな予感がするんだが……」

「あら、どうしてです?」

「…………」


 どうと言われましても。


「答えられないのに、そんなこと言わないでください。失礼ですよ」


 怒られてしまった。

 余計なことは言うもんじゃない。


「前にフェイティスがロードニアの摂政をしていたことは言いましたよね?」

「フェイティス……ああ。あのメイドさんのことね」


 俺も結構世話になった人だ。

 元とはいえ、摂政を務めていたとは夢にも思わなかったが。


「彼女を、アキヒコ様付きのメイド兼相談役にしましょう。私がいないときでも、彼女であれば適切な助言ができるはずですから」

「ちょっと待った」


 思わずリオミに向かって手をパーにして付き出してしまった。


「何か問題でも?」

「おおありだ。その言い方だとつまり、リオミがいないとき、俺にずっとメイドさんがついて回るということになるよな?」

「ええ、まあ。そうなりますね」

「俺のプライベートは?」

「四六時中ついてくるというわけではないですよ。必要なときに側につけておくのです」

「いやいや、それでもだよ? 俺だってかわいいメイドさんと一緒にいたら、心穏やかではいられなくなるんだが」

「…………アキヒコ様も男性ですものね」

「というか、リオミ的にそれはいいわけ?」

「そうですね。英雄色を好むと言いますし……」


 リオミが考え込んだ。

 俺が英雄かどうかはともかく、専属メイドさんがついているとなれば、そりゃ間違いのひとつやふたつ起こしてしまうだろう。

 自制心にだって限界がある。

 あのメイドさん、結構美人なんだよなぁ……。


「俺はリオミを裏切りたくない。でも、俺だって我慢してればストレスが溜まるわけで……」


 まあ、メイドさんは惜しいが、ここはリオミには引いてもらおう。

 こう言えば、嫉妬深いリオミのこと、提案を取り下げるに違いない。


「……わかりました、仕方ありません」


 リオミはひとつ頷き。


「合意の上ならば、過ちがあっても許しましょう」

「ぐほあっ!?」

「ですが、できるだけ予防できるよう、わたしが日に何度かお相手します」

「げべらっ!?」

「もしフェイティスが涙ながらに助けを求めてきたら、そのときはアキヒコ様を軽蔑します」

「いぶほっ!?」


 俺の脳内で「K.O.! You Lose!」という外人の声が聞こえた。


「ど、どうしてそんな悪魔のような提案を平然とできるっ!? アメとムチにも程があるだろう!」

「悪魔とは失礼ですね……まあいいです。

 もともと王族の男性ならば、側室を迎えたりメイドに手をつけるくらいはあります。わたしとて、そのことは理解していますよ」

「いや俺、王族じゃないんですけど」

「それに、最近ちょっと一晩だけだと寂しいのです」

「何気に自分の要求を織り交ぜたんかい!」

「それにまあ……アキヒコ様が無理矢理迫ったりすることはないと思いますし、もしフェイティスとなら……わたしは許せますよ」


 リオミはどんだけ、あのメイドさんに気を許してるんだ。

 流石に一般的な日本人の俺にはついていけない。

 というか、リオミ。最初に会った頃と性格変わってないか?

 猫かぶってたの?


「彼女は今後、アキヒコ様が大きなことを成し遂げるために、必要となる人物です。そのためなら、わたしも多少の妥協はします」


 うーん、それほどの覚悟があるということなのか。

 メイドでありながらロードニアの摂政をつとめ、リオミが修行で不在の間にロードニアを導いた傑物……。

 おそらく、石になる前の王からの信頼も篤かったのだろうな。

 惜しむらくは、あのギルド長の娘ということ……鳶が鷹を生むんだな。あるいは母親似なのかも。


「……でも、フェイティスのことを本気で一番好きになったりは、しないでほしいです……」

「あ、うん。それは絶対大丈夫」

「ぁぅ……」


 あ、いつものリオミだ。

 多分、素はこっちだ。俺は信じるぜ。リオミかわいいよリオミ。

 公的な顔をするときの彼女も、なんかかっこよくて好きだけど。


「でも、政治面のアドバイスに関しては、リオミも相当凄いと思うけどなぁ、俺からすると」

「いえ、わたしなんて全然ですよ。フェイティスにはやり方が素直すぎるってよく言われるんです」


 そんなことないと思うんですが、とか言ってる。

 いや、確かにリオミは極端から極端に走って、投球もストライク真ん中ド直球だと思うんだよな。

 世界を手にお入れくださいって、キルヒア○スかと思ったよ。


「じゃあ、メイドさん……フェイティスは、結構からめ手系なの?」

「多分、何をしているのかわからないうちに状況が好転することが多くなりますよ」


 どういう意味だろう。

 リオミがメイドさんを超プッシュするので、興味が湧いてきた。

 リオミがキルヒア○スなら、オーベル○ュタインかもしれない。

 だ、大丈夫かな。

 

「じゃあ、呼んできてもいいですよね? ひとっ飛び行ってきます」

「《ハイフライト》でも、流石に遠くない?」

「いえ、わたしも魔法使いの端くれ。《テレポート》ぐらい使えますよ」


 なるほど、転移は俺の専売特許ではないと。


「まあ、アキヒコ様の家はどういうことか飛べないのですが」

「そうなんだ」


 侵入避けの対策がびっしりだしな。聖鍵のマニュアルにもあったし。


「では。我が身、在りし日の地へ還らん。《テレポート》」


 リオミの姿が一瞬で消える。

 確か《テレポート》の詠唱ってもっと長ったらしくなかったっけ……。

 短縮してるのだろうか。


 さて、リオミがメイドさんを連れて来るまでしばらくかかるだろう。

 今のうちに、ヤムたんを送り届けて……それから、炊き出し開始かな。


 どこでやるのがいいだろう。教団支部がいいかな?

 そうだな、そうしよう。

 ついでに、そこでみんなで晩飯だ。

 シーリアには、合流の連絡を送り次第、こちらに転移させる手筈になっている。

 そこで情報を聞くとしよう。


 とりあえず、ヤムたんを迎えに行った。


「あれ」


 ベッドにいない。

 ひょっとして、起きてどこかに行っちゃったかな?

 セキュリティに呼びかけ、有機生命体の気配を捜す。


 営倉区。

 いや、そいつらはどうでもいいんだよ。


 ん、いた。

 近い。というか、テレポーターが起動しないから、当然この居住区にいるはずだ。

 といっても広いしな。すぐにヤムたんのところへ跳ぶ。


「ほーら、ヤムたん。迷子かい」

「アッキー!」


 ヤムたんは壁際に座り込んで泣いていた。

 起きたらひとり見知らぬ場所に残されて、心細かったのだろう。 

 飛びついてくる。


「どこに行ってたの! もうお母さんにもアッキーにも会えないかとおもった~!」

「ごめんよごめん。あんまりにも気持ちよさそうに寝てたから」

「えぐっ……もうおうちかえる」


 しばらく謝りながら宥めていると、落ち着いてきた。

 うーん、寝かせたまま置いていったのは失敗だった。

 書き置きでも残しておけば、彼女はうきうきしながら待っていてくれただろうに。

 気遣いのできない男、三好明彦。


 その後、ヤムたんを空き地まで送り届けた。

 ん? なんだ、皆さんがざわめいている。

 あっ、そういえばヤムたんはドロ娘から天使にジョブチェンジしていたんだった。


「アッキーさん……まさかその子、ヤムなんですか……?」


 実の母親ですら、娘だと認識できていない模様。


「ええ、まあ。見違えましたよ」

「お母さん、ただいま」

「おかえりヤム……綺麗にしてもらったのね」

「うん! まほうだよ」

「よかったわね、ヤム。でも、アッキーさん……ありがとうございますと言いたいところですが、流石にこれでは……」

「ああ、うん。私もやってしまってから気づきました……」


 ヤムたん、物乞いなんだよねぇ。

 いずれ彼女には、もっといい仕事を見つけてあげたいけど。

 ん、ていうか、俺でも斡旋できそうな仕事がひとつあるじゃないか。

 もう自分をロリコンだと認めたのだ。俺は全力で彼女を贔屓するぞ!


「ええと、その。もしよかったら、今のヤムた……ヤムにできそうなお仕事を紹介できるんですが」

「え? ひょっとして、冒険者でしょうか。そんな危ない仕事をこの子には……」

「いえいえ、冒険者じゃないし、危険はないです。実は今晩、聖剣教団支部で炊き出しがあるんですよ。しばらく毎日やるんで、そのお手伝いを頼めないかなと」

「……炊き出し……それは、本当ですか?」

「ええ、間違いありません。皆さんも来てくださいね」


 えーと……なんだ。絶句されてしまった。


「今まで教団は何もしてくれなかったのに……信じられません」

「本当です。騙されたと思って来てみてください。ヤムもそのときに連れてきてくださいね。スープを配るだけの簡単なお仕事です」

「お母さん、やってみたい」

「……わかりました、あとで顔を出します。ヤム、まだ本当にあるかわからないのよ」


 うーん……他の人たちもリプラさんと同じで、信じたいけど、信じられないみたいだ。

 だが真実なのだ。むしろ、この人たちが笑顔になってくれるんじゃないかと思うと、途端にやる気が出てきた。


 こうしてはいられない。

 俺は炊き出しの準備をすべく、ヤムたんたちに別れを告げ、聖剣教団支部に向かうのだった。


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