表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode02 St. Revolution Key

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/184

Vol.09

 バッカスから火の手が上がっている。キャンプシップからも、はっきりと煙が見えるのだ。


「なんだ……一体、何が起きてる!?」

「アキヒコ様、あれを!」


 バッカスの上空付近を、いくつもの影が旋回している。検索結果を俺は叫ぶ。


「ワイバーンか!」


 ワイバーンは飛竜種と呼ばれる、ドラゴンの亜種とされる魔物だ。正確にはドラゴンではないのだが、その見た目から関係を指摘する声は多い。


「他にも飛行系の魔物が、いくつかいるな」

「そんな、どうしてバッカスにあんなにたくさんの……」


 冷静に分析するシーリアに対し、リオミは異常事態に動揺を隠せない。おそらくバッカスで戦っている人々も同じ思いのはずだ。

 急いで助けなければならないが……。


「見ろ、地上でも何か起きている」


 シーリアの示す方向では、魔物の群れと思しきものと、武装した人間たちがぶつかりあっていた。人間はバッカスを背にして戦っており、なんとか魔物を侵入させまいと食い止めているようだ。

 魔物の数は2000は下らないように見える。対するバッカス側は3000人程度を投入できているようだ。今すぐ、どうこうということもないだろう。

 だが、魔物の群れはそれだけではない。別の魔物の群れがバッカスへ向かっているようだ。空にも魔物がいる。あれを何とかしないと、いずれ地上からも魔物が街に雪崩れ込んでしまうだろう。


「みんな、一度キャンプシップをマザーシップに転移させる」

「悠長な……直接救援に向かうべきではないか?」

「状況を把握しないうちに行くと、動きづらくなるかもしれない。トランさんもどのみち、安全な場所に運ぶ必要がある。今は従ってくれ」

「わかりました。アキヒコ様が、そうおっしゃるのであれば」


 シーリアもリオミも、決して俺に賛成というわけではなさそうだったが、従ってくれた。トランさんはひとまずキャンプシップに留まってもらい、俺達はブリッジに上がった。ディーラちゃんも連れてきている。

 ブリーフィングの要領で、イメージディスプレイ上にバッカスの俯瞰図を表示させる。


「この魔物の群れがどこから来たかは、とりあえず後回しだ。先にこいつらを何とかしよう」


 大きく分けて、魔物の群れは3つ。

 ひとつは、バッカスを空から急襲しているワイバーンを始めとした飛行系の群れ。次に、バッカス守備隊が食い止めている都市国家群によく出没する魔物の群れ。そして最後に、北西のカドニア方面からやってくる岩石系の群れ。これが最も大規模で、10000程度の数だ。

 マザーシップの戦力をフルに使えれば、そこまでではないと言えなくもないのだが……。


「今のところ出ている被害は飛行系の魔物による散発的な攻撃だけだ。守備隊もよくやってる。人的被害は今のところは多くない。だけど、もし3つ目の群れが合流し……守備隊を突破してしまったら」

「……バッカス成立以来の最悪の事態になるな」

「何としても食い止めましょう!」

「あたしも、何かするよ!」

「俺達は、飛行系の魔物を駆逐する」


 おそらく大丈夫だとは思うが、一応リオミに確認する。


「《ハイフライト》の魔法は使えるよな?」

「はい、問題ありません」


 よし。

 《ハイフライト》は浮遊するにすぎない《レビテイト》や、《フライト》よりも高速での飛行が可能だ。


「なら、シーリアと自分にかけて、上空の魔物の攻撃から街を守ってくれ。ディーラちゃんは……今ドラゴンの姿で行くと、バッカスの守備隊に攻撃されてしまいかねない。その状態でも戦える?」

「う、うん……だいぶ力は弱くなるけど」

「じゃあ、無理をしない程度でいい。お守りだから、これを持ってくれ」


 そう言って、ディーラちゃんにもスマートフォンを渡す。これで彼女が危なくなったらすぐに転移で避難させられる。


「アキヒコ様には《ハイフライト》をかけないでいいのですか?」

「ああ、俺はいらない」

「守備隊への援護はどーするの?」

「バトルオートマトンを魔物の群れの背後に大量に出して、挟撃する。あとから増援も送る」

「それで、3つ目の群れ……主力にはどう対処する?」

「それなんだよな……」


 実を言うと、それが問題だ。

 残念ながら、バッカス付近の秘匿拠点にはプラズマグレネイダーが配備されていないので、一掃するのが難しい。ホワイト・レイは都市国家群という土地の関係上、論外だ。あれほど大規模な相手となると、一度に強制転移させるのも困難。

 そうなると、マスドライバー・カタパルト砲で攻撃を加えつつ、ヒュプノウェーブブラスターを照射するのがベターだろう。なんだかんだ、マザーシップの副砲の中でこれが一番便利な気がする。

 打撃を与えつつ、魔物同士を争わせよう。まだ、バッカスに到着していないのが幸いだ。全滅させるには足りないかもしれないが、他の群れへの対処が終わるまでにバッカスに近づけなければ、()()が間に合う可能性がある。


「ひとまず、対処できる範囲でなんとかする。時間ぐらいは稼げるはずだ」


 今回のような大規模な魔物の群れが発生する事態を、直前までルナベースが掴めなかった事実は気になるが、そんなのは後回しだ。

 原因究明は後からできる。


「じゃあ、みんなのことはバッカスに送る。俺もあとから行くよ」

「アキヒコ様、ご武運を」

「死ぬなよ」

「それじゃ、行ってくるね!」

 

 俺は3人をバッカスへ転移させた。


「さて、と……」


 俺は格納庫区画へと跳ぶ。ここにはマザーシップの艦載機が格納されている。正直、魔王がいなくなった後でこれらの兵器の出番はないだろうと思って、拡張しなかった。だが、維持しておいたのは正解だった。

 バッカスの戦いに投入するのは万能攻撃機【フリーバード】32機と多脚バトルポッド【ギズモッド】16機。戦略爆撃機【フライブル】8機はマスドライバー攻撃が一段落し、バッカス上空の制空権を握ったあと、3つ目の群れにぶつける。

 宇宙戦闘機【スペースマンタ】160機は宙間戦闘用なので、大気圏内では使えない。地上をメインで活動する俺には、今のところ利用のアテもない。こいつが大気圏内で使えれば、だいぶ楽になっただろうが……。

 俺は万能攻撃機【フリーバード】のうち1機に乗り込んだ。

 スリットに聖鍵を差し込むと、握り手がそのまま操縦桿になる。機体の状況をチェックしつつ、聖鍵からダイレクトに流れこんでくる操縦方法を体に覚えこませる。パワードスーツの動体視力強化もアラムのチップも反応速度の向上に役立つはずだ。


「聖鍵の勇者、アキヒコ・ミヨシ。出撃する!」


 そう叫ぶのに意味はないが、気分が高揚した。

 マザーシップのデッキからガイドビーコンの光が伸びる。目標をバッカスにセットして、あとは到着までは聖鍵任せだ。一瞬、宇宙空間に飛び出るときは緊張したが、不思議と先ほどから冷静なのだ。バッカスを包む炎を見てから、俺は自分自身がやらなくてはいけないと思うことを直ぐに判断できた。大気圏に突入すると、俺に続いて出撃した無人機隊が追随してくる。


「まさか、アースフィアに来てドッグファイトをやることになるなんてな……!」


 そうか、俺が冷静な理由……これからの戦場が楽しみなんだ。

 俺はこの手の戦闘機系のゲームは何度もやりこんだ。もちろん、ゲームに過ぎないのだから実戦でどの程度役に立つのだという話だが、切った張ったの戦闘よりは俺に向いていると断言できる。

 大気圏突入のシミュレーションは何度かやった。リオミと別れたあと、これが一番楽しかったのだ。外がどんどん赤く燃えていく。今回、初めて本物の大気圏突入をすることになるのだが、思ったほどきつくはない。このあたりは超宇宙文明のテクノロジーが、なんらかの方法で衝撃や慣性を軽減してくれているらしいのだが、どういう原理なのかは理解できなかった。

 フリーバードは大気圏内での戦闘では、地上拠点に配備されている圏内戦闘機【クラッシュイーグル】には劣るが、対地対空両用であるため今回の場合は都合がいい。いざとなれば、地上の援護にも回れる。

 だんだん、バッカスがおぼろげに見えてきた。頭の中に戦況がどんどん入ってくる。

 大丈夫だ、間に合った!


 ――敵主力に向けて、ヒュプノウェーブブラスター照射! 連中の足がとまったところに、マスドライバーによるピンポイント爆撃開始!

 ――【フリーバード】隊は散開し、上空の敵を優先しつつ各個に撃破! 近くの2機は俺の直属になれ。

 ――【ギズモッド】は守備隊を上空から援護! バトルオートマトンと共同で、敵の殲滅に当たれ!


 指示を念じると、無人機が一斉にバッカスの空へと広がっていく。ブラスター照射で主力の動きが鈍くなったことを確認すると、俺は近くを飛んでいたワイバーンをロックする。


「落ちろ!」


 フリーバードから発射されたミサイルが尾を引いて、ワイバーンに直撃する。羽根をまるごと失ったワイバーンは、バッカスの街へ落ちていく。二次被害が出るかもとヒヤっとしたが、ルナベースを通して伝えられる避難状況から問題ないと知り、ほっとする。

 俺が旋回し別の獲物を探していると、光が空を切り裂いて行くのが見えた。それは魔物の群れのあたりに落下。甚大な被害を与えたことを報告で確認すると、近場のバルーンバットをバルカンで蜂の巣にする。

 幸いにしてワイバーンはお世辞にも旋回能力が高いとは言いがたく、【フリーバード】による駆逐は順調に進んでいった。


「ん、あれはリオミか」


 彼女の周囲に千を超える氷の矢が展開したかと思うと、周囲にいた魔物どもを串刺しにしていく。あまり大規模な魔法を使うと街に被害が出てしまうことをわかっているのだろう。中級の魔法を高速かつ複数展開することで対処していた。


「まあ、あっちはもう空でも陸でも関係ないのな」


 俺の軽口を受けたからというわけではないだろうが、不慣れなはずの高速飛行のコツを既に体得したと思しきシーリアは、鬼神の如き活躍で次々に魔物を切り伏せていた。ソード・オブ・メンタルアタックの特性で気絶させているだけのようだが、落下すれば魔物は地面に激突して死ぬだろう。


「人型なら弱いって、嘘だろ……」


 一方でディーラちゃんも、リオミの《ハイフライト》でジェット機と見まごう速度で飛び回りながら、ワイバーンの腹に体当たりをぶちかましていく。子供とはいえ、彼女もドラゴンの娘だ。偽竜ごときに引けを取るはずがなかった。

 バッカスの空を回遊していた魔物は、ほとんどが撃ち落とされたようだ。ほぼ制空権を確保したと判断した俺は、他の群れに対処すべくその場を離れようとしたのだが……。

 ブゥン、っと凄まじいスピードで何かが過ぎ去っていったかと思うと、俺の右を飛んでいた僚機が爆散した。


「なッ!?」


 さらに、高速移動を続けるソイツは、次々とフリーバードを落としていく。左の僚機がやられる。

 咄嗟にググって、その飛行物体の正体を調べあげた。


「……ソニックドラゴン!」


 ソニックドラゴンはその名のとおり、音速と同じ、あるいはそれを突破する速度で飛行するドラゴンだ。分類的には宝石種に数えられ、コーラルドラゴンと呼ばれることもある。


「なるほど、こいつが群れのボスってわけか!」


 ヤツの武器は高速飛行によって発生するソニックブームだ。もちろん、その飛行能力はドラゴンの超常的・魔法的補正によるものであるため、物理法則は通用しない。不規則な軌道でジグザグにバッカスの空を席巻する。

 確かにこのままでは厄介だ。ダークス係数は100を超えていて、既に瘴気に完全に侵されている。他のワイバーンなどもそうで、ここまで汚染された魔物を救う方法はない。倒すしかないのだ。

 だが、連中は統制されているように見えて、実際は好き勝手に暴れまわっているだけだ。魔王によって操られているわけではない。

 なら、ヤツの本能を利用する……!


「さあ、ついてこい!」


 俺はソニックドラゴンの横で挑発的なアクロバット飛行を繰り返し、バッカスから離れる方向へとかじを切った。


「よし、かかった!」


 ソニックドラゴンは、俺の不敵な挑戦を不愉快だとばかりに追いかけてきた。

 ソニックドラゴンは自分より速い存在を決して許さない。彼らは空の王者を自認しており、自分以外の存在が飛行していると、まず攻撃する前に競争を試みる。自身が相手にするまでもないと考えれば、無慈悲な牙で喰らうか、光のブレスの餌食にする。もし、競争に負けた場合は腹を見せて旋回し、縄張りを譲り渡すのだ。もっともこれらの競争がまともに成立するのは、ソニックドラゴン同士ではあるが。

 リオミは、こんなのと本当に生身でおいかけっこしたのかよ……。

 とにかく、バッカス上空を旋回しているだけのフリーバードでは、ソニックドラゴンのいい的だ。最高速度の勝負で、まっすぐ飛べば負けはしない!


「くッ……!」


 流石に慣性制御が優れているからといって、最高速度を出せば俺の体にも負担が来る。パワードスーツで軽減されて、これなのだ。生身なら今頃は潰れたトマトになっていただろう。

 ソニックドラゴンの追随は流石だった。ヤツはその形状を完全に飛行に適した鋭角なフォルムへと変え、さらに翼から光の帯を無数に飛ばしてきた。まるでホーミングレーザーだ。

 俺はアンチレーザーチャフを射出し、光のシャワーを凌ぐ。翼を少々かすったが、この程度ならどうということはない。だが、速度で勝てているとはいえ、瘴気に支配されたソニックドラゴンが獲物を諦めることはないだろう。

 後ろにつかれている間、有効な攻撃手段がない。俺はここで、勝負に打って出た。


(そーれ、鬼さんこちら!)


 さすがに今の速度では喋れない。俺は機首を上へと向け、上昇に転じた。ソニックドラゴンも執拗に追跡してくる。残念ながら、フリーバードでは単独で大気圏を脱出できない。速度が足りないためだ。だが、それはソニックドラゴンも同じである。相対速度は変わらないが、俺達の競争は徐々に重力でスピードを減じていった。

 俺にインメルマンターンでも出来る技術があれば、ここで180度反転し、ソニックドラゴンに反撃をすることも可能であろう。だけど、操縦技術を会得した程度の俺では不可能なマニューバだ。

 なので、ここは遠慮なく自分の力を使わせてもらう。

 ソニックドラゴンは速度の減じた俺を見てとったのか、大きく口を開き、光のブレスを発射しようとする。

 よし、今だ!


 ――聖鍵、起動!

 ――機体前方に転移ゲート展開!

 ――ゲート利用回数は一度に限定!

 ――ゲート出口をソニックドラゴン現座標!


 俺の目の前に光が溢れたかと思うと、目の前にソニックドラゴンが現れた。もちろん、実際は違う。移動したのは俺だ。転移ゲートで相対位置を入れ替えたのだ。直接転移では機体が爆散する可能性があったため、今回は敢えてゲートを利用した。ドラゴンがゲートをくぐって俺の背後に来ることがないよう、使用回数は1度に限定。ヤツの速度では後方に出たところですぐに追いつけなくなってしまうので、ヤツの座標を指定したというわけだ。

 さて。

 今、俺の目の前には得意げに飛んでいたヤツのケツが丸見えになっている。上昇のギリギリのところまで来て、その速度は見る影もない。俺を見失ったソニックドラゴンが目を見開いて、驚愕する。そう見えた。

 ロック、完了。


(あばよ!)


 発射したミサイルが、ソニックドラゴンの腹に食い込んだ。本来この程度ではソニックドラゴンに大したダメージを与えられないが、高速飛行中のヤツとてアレを食らえば失速する。

 怒りの咆哮は、やがて断末魔へと変わった。

 ソニックドラゴンは錐揉みしながら、あっという間に俺の視界から消えた。あの速度で落ちては、助かるまい。

 さて、少々手こずってしまったが、戦況はどうなっているだろうか。俺はルナベースからの報告を頭に叩き込みながら、機先をバッカスへと戻した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ