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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode02 St. Revolution Key

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Vol.08

 そういうわけで明朝、俺達は空の人となっていた。

 

「このような鉄の箱が空を飛ぶなんて、信じられません!」


 結構クールなイメージだったトランさんが、大絶賛してくれた。

 キャンプシップは人員、物資輸送に利用できる他、最低限の生活施設が揃っているため、長時間の移動手段として最適だ。俺の場合はマザーシップを生活拠点にしてしまっているため、ほぼ使うことはないのだが。分類としては中型輸送機で、VTOL方式であるため離陸と着地の場所を選ばない。

 基本的には賊のアジトを制圧したときのように、ドロイドトルーパーを輸送するのに使用する。トルーパーは関節を折りたたんで収納できるため、50機近い数を戦場に投入できる。マザーシップには4機のキャンプシップがあるので、200機の降下部隊が運用できる計算だ。賊のアジトには同様の戦力を送り込んだわけで、どう考えてもオーバーキルだった。

 ちなみに、賊のアジトはドロイドトルーパーを運用可能な基地に改造し、街道付近の賊を取り締まらせることにした。あとでアズーナン王国には、正式に申し出を行う予定だ。ロードニアとは仲がいい国なので、リオミが口をきけば大丈夫とのこと。

 あくまで俺が冒険者ギルドから街道付近の賊退治の依頼を受け、それに対してアズーナン王国が報酬を出すという取り決めとなる。だから、アズーナン王国がロードニアに対して借りができてしまうということはない。ここでロードニアが治安維持を手伝ったということになると、アズーナンのメンツを潰してしまうからな。


「よろしかったのですか? リオルからの船旅を楽しみにしていらっしゃったのに」

「うーん、あの街道、正直あんまり楽しくなかったんだよね。景色も殺風景だったし」


 あと2日我慢すれば、リオルの海が拝めたと思うと、ちょっともったいないかもしれないが。


「馬車があんなことになっちゃったしね……」


 馬を捜すのは別段難しいことはなかった。俺がドローンを捜索に回すまでもなく、あっという間にシーリアが見つけてきた。ただ、馬が爆走したときに馬車の車輪が岩に衝突、ぶっこわれ。馬もお年を召していたので、一日は休ませないとまずい状態になってしまった。

 馬車の車輪は、超合金ルナ・オリハルコンで切り出した代用品を工業プラントで作れば何とかなる。馬も畜産プラントから引っ張ってくればいい。だけど、そこまでして馬車の旅にこだわる必要があるのか……と思ってしまった。景色が楽しいわけでもなく、賊に襲われるたびに気が滅入る。

 要するに面倒くさくなったのだ。

 キャンプシップでリオルまでショートカットして、そこから船で行くというのも考えたが、なんか本末転倒だ。目的は自由都市バッカスに向かうことであって、船旅ではない。バッカスにだって大きな港があるのだし、他国に渡る際に船を利用すればいいし、機会は何も今回だけというわけでもない。

 一番の決め手になったのは、トランさんがキャンプシップに乗れると聞いて大喜びしたことだ。船代だって馬鹿にならないし、時は金なり。早く戻れるというのなら、それに越したことはないのだと。むしろ、こんな移動手段があるのにどうして自分の馬車に相乗りしたのかを不思議に思っていたほどだ。

 ちなみに馬と馬車はマザーシップに送り、世話はディーラちゃんにお任せした。


「まあ、アキヒコ様がそうおっしゃるならいいですけど」

「船旅もいいけど、空の旅もそう悪いもんじゃないだろ?」

「ええ、まあ……」


 ん、リオミが浮かない顔をしている。昨晩はベッドの上で上機嫌だったのに。ひょっとして、高いところが苦手だったりしたのだろうか。


「空は、さんざん修行時代に飛び回りましたからね。ソニックドラゴンとおいかけっこをしたり、ロック鳥と一対一で戦ったり、あんまり楽しい思い出がないんです」


 経験済みだったか。マザーシップでは驚きの連続だったリオミも、どこか冷めた感じで窓から流れる雲を眺めている。


「そっか、ごめんな。知らなくて……」

「いえ。アキヒコ様がよかれと思ってしてくださったのに、申し訳ありません」


 リオミの微笑は、どこかぎこちなかった。うーん、こんなことなら転移でバッカスに跳んだほうがマシだったかなぁ。


「……なあ、アキヒコ。この箱の中にいては、襲撃を受けたときに剣で戦えん。外に出て戦うにはどうすればいい」


 もうひとりの女性もこんな感じで、空に上がった感動は皆無であった。いや、こっちはある程度、予想してたんだけど。

 ホントにブレないよな、シーリアは。


「やめとけよ。ハッチを開けたらあっという間に全員、外に吸い出されるぞ」

「そんなやわな鍛え方はしていない」

「お前がよくても、俺がダメなんだよ!」


 あとトランさんがね。


「アキヒコ殿! 一体どのように、この箱は空を移動しているのですか!」


 そのトランさんが、少年のように目をキラキラさせている。一番興奮してるのが、おっさんの商人ってどういうことなんだ。やっぱり、こういうのって男の子じゃないとわからない世界なんだろうか。


「えーと、まず揚力というものがありまして……」

「ふむふむ」

「それで、あとはジェット気流ですね。これに乗って……」

「なるほど!」


 と言った感じで説明していく。

 俺も専門家ではないので、ところどころルナベース検索を頼ることになった。キャンプシップは地球の飛行機とは燃料も飛行の原理も差異があるので、俺の知識だけでは元からどうしようもない。


「……素晴らしい知識をお持ちなのですな、アキヒコ殿は」


 トランさんの俺を見る目が明らかに変わっている。ある程度、打算も含めた営業スマイルだったものが、本物の賛辞と尊敬を含むようになってきていた。


「少々、この船を見回ってもよろしいですか?」

「ええ、どうぞ」


 そのあとは、これまでの興奮はなりを潜め、冷静に船の構造などを分析したり、材質を確かめているのか、こつこつと壁を叩いたりしていた。

 

「この箱……いえ、船でしたか。積載量はどの程度で?」

「まあ、馬車よりは多いですね。軽く50tはいけるかと。もっといけるでしょうが、速度は落ちますね」


 単位はtでいいのかと不安に感じたが、通じたようだ。100tトラックとかに比べると、1機では頼りないかもしれない。でも、輸送ヘリとかが確か12tぐらいだったから、相当なものかもしれない。

 その後のトランさんの質問は、より実践的かつ具体的なものになってきた。移動速度、離着陸についてや、操縦方法。エトセトラエトセトラ。

 そして、トランさんは最後に思案しつつ、こう切り出した。


「この船、いくらなら譲って頂けますか?」

「……はい?」


 一瞬、何を言ってるのかと思った。

 キャンプシップを買いたい。そう言ったのか。


「白金貨で10枚……いや、20枚までなら出しましょう! それ以上という場合なら、なんとか借金してでも」

「いやいやいや、ちょっと待ってください! なんでいきなり……」

「アキヒコ殿、この船はアースフィアの商業を大きく変える可能性を持っています!」


 トランさんが、どんどんヒートアップしていく。賊に囲まれても眉ひとつ動かさなかった胆力を持つ行商人が、これほどまでに熱弁を振るうとは。


「いいですか、現在アースフィアにおける商売は決して楽とは言えません。旅は危険ですし、国境を超えるときは関税や通行料もあります。魔物はもちろん、盗賊の襲撃を避けるためには冒険者を雇わねばならないし、そして! 何より時間がかかりすぎるのです」


 確かに、ロードニア王都と自由都市バッカスまで往復するとなれば、それだけで1ヶ月程度はかかる。それがもしキャンプシップを使えば、1日、あるいは気流をうまく使えば半日で往復することも不可能ではない。

 言われてみれば確かにそれは、ものすごいアドバンテージになるのではなかろうか。

 実際、ルナベースの金儲けプランにも運送に関わるものがあった。キャンプシップではなく、テレポーターによって各所を繋ぎ、その利用料でもって稼ぐというものだ。

 この世界、魔法による瞬間移動はあるものの、魔法のアイテム等によってそれが実現しているわけではない。選ばれた者だけが使える移動方法であって、一般にはまったく普及していない。仮に呪言魔法の使い手に依頼してテレポートでアイテムを届けてもらうにしても、一回頼むだけで金貨100枚は払わねばならない。持っていける量も人ひとり分だし、現実的ではないのだ。

 尚、関税と通行料はあくまで国境を超える際に必要なお金なので、キャンプシップやテレポーターで移動した場合、この金を払う義務はない。もちろん、こういった方法が一般的になれば、国は別の方法で金を取るだろうけども。

 しかしそうか、キャンプシップを商人に売る。その発想はなかった。

 キャンプシップはマザーシップで量産することはできないが、ルナベースのドックなら1日で数ダースは軽い。マザーシップとは別の輸送船を用意して、アースフィアに運搬。直接商人にキャンプシップを卸せば……かなり凄いことになるんじゃないか?

 キャンプシップの操縦自体は、スマートフォンとゲスト権限さえ与えれば、特に難しいものではない。簡単な講習を挟むだけで使えるだろう。悪用した者からはゲスト権限を奪ってしまえばいいし、その辺のルールは予め販売するときに契約書を書かせればいい。万が一問題を起こしても責任は商人にある、という内容にしてしまえば、俺に痛手はない。 メンテナンスもすべてこちらで握ることができるので、商人に対して大きな影響力を持つこともできるだろう。トランのように利に敏い商人はリスクとメリットを天秤にかけ、最終的にはキャンプシップを購入する可能性が高い。

 これによって、アースフィアの物流の事情は大きく変わってしまうかもしれない。

 だが、これは……面白いかもしれない。

 うん、面白いと思う。

 面白いは正義だ。

 面白いは大事だ。

 商売は楽しくやるに限る。


「では、最初のうちは無料レンタルの期間を設けましょう。実際に運用してみたら何か問題が起きるかもしれないですし」

「ほ、本当にそれでよろしいのですか? こちらに有利過ぎる気がします」

「万が一、何かまずかった場合、お金を払ってしまったらトラブルになりますよね? だから、実際に使ってみて、その利益の中からそうですね……2割程度をいただけますか。もしそれほど儲けにならなかった場合は、白金貨10枚で結構です。

 もちろん期待に添えなかった場合は、キャンプシップを返却してくだされば、お金はいりません。全損しない限りは、多少の傷も気にしないでいいですよ。あと、トランさんならそんなことしないとは思いますが、利益を誤魔化せるとは思わないでください」

「もちろんです! この船を譲って頂けるというのに、恩を仇で返したりはしません。それになにより、適正な価格を詐称するようでは商人としては二流です。お金は回してこそ、自分の利益も上がるというものです」


 やはり、このトランという商人、只者ではないように思う。俺が気づかなかったキャンプシップの有用性をひと目で見抜き、この短時間でキャンプシップの購入についての交渉を俺に仕掛けてくる決断力。

 これは、逆に俺のほうが彼に投資することになりそうだな。


「では、トランさん。このキャンプシップは今から、貴方のものです。試用期間はひとまず2週間。最大で1ヶ月まで延長しましょう。この端末で、すべての操作が行えます。なくさないように気をつけてくださいね。具体的な契約内容については後日、その端末に文面を送ります」

「ありがとうございます。この船は本当に、アースフィアの未来を大きく変えるかもしれない……」


 トランさんは静かに興奮を噛み締めている。社会に対して大きな貢献ができる、その一翼を自分が担うことができる喜びは俺も経験しているので、よくわかる。

 彼は、その第一歩を踏み出したのだ。


「トランさん、貴方とは長い付き合いになりそうです。これからもよろしくお願いします」

「光栄です、アキヒコ殿。この出会いは、私にとってターニングポイントになるでしょう」


 互いに両手で握手を交わした。




 キャンプシップは、ベーベル山脈を越え、都市国家群の上空へと差し掛かった。俺がアースフィアを空からじっくりと眺めると、都市国家群と呼ばれる理由がよくわかる。全く不規則な配置で町が散らばっており、パッチワークのような勢力関係となっていることがルナベースの地図とグラフからも見て取れる。地球では、昔のイタリアが一番近いのではないだろうか。

 都市国家群は、その名のとおり都市単位で1国家を形成している。人間同士の小競り合いが絶えない地域だ。本格的な全面戦争はないものの、睨み合いがなくなることはない。

 カドニアの傭兵も魔王討伐遠征がなくなってから、多くはここで雇われる。だが、三国連合に比べれば報酬は雀の涙であり、彼らの素行不良に拍車をかけているようだ。


「うん……?」


 ふと、聖鍵を通して俺の脳に情報が入ってくる。それは、俺の視界に図面をポップアップするという方式で現れた。


「なんだ、これ? 魔物の凶暴化情報の最新……?」


 どうやら近くで、魔物が凶暴化しているようだ。

 確かに、この手の情報は分かり次第報告するようにしているが、それでもこんな唐突に俺に知らせて来るの初めてだ。

 緊急性が高いものなのか?

 そんなことを考えていると、一際異彩を放つ都市が見えてきた。


「あれが、自由都市バッカス……」


 まだ、だいぶ距離があるのに。雲間から覗くその威容は、他の都市国家が狼だとすると、まるでマンモスのようだった。

 南に巨大な港湾施設を備え、外側に向かって今も拡張を続けている。このアースフィアにおいて最大の人口を誇る巨大都市。

 その都市が、今。


「……おい、何の冗談だ!」

「どうした、アキヒコ。む……!」


 シーリアもまた、俺と同じ光景を見て表情に緊張を走らせる。リオミもまた、信じられないといった様子で口元を押さえている。


「い、一体何が……」


 トランさんに至っては、事態を全く把握できていない様子だった。


「自由都市バッカスから煙が……バッカスが燃えている……!」

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