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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode02 St. Revolution Key

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Vol.07

 港町リオルまでは、あと2日かかる。ハルードからは普通、東の街道を通ってアズーナン王都に向かい、そこから南下するのが正道らしい。敢えて南に向けてリオルに向かうルートは距離が短縮できる代わりに、王国の整備が行き届いていない。


「冒険者や傭兵を雇えば、このルートもそこまで危険というわけでもありません。私は何度も通っていますからね」


 実際、賊に襲われたときもトランさんは眉一つ動かさず冷静だった。いつもは護衛を馬車に乗せたりはせず、外に出てもらって、ああいった追い剥ぎを予防するのだそうだ。その分、馬車にはハルードで買い付けた商品を載せるのだという。俺達は護衛というよりVIP客みたいな扱いらしい。

 本当に投資だな。


「それでも今回はかなり人数が多うございました。皆様がいなかったら、危なかったかもしれません」


 それでもニコニコしてるトランさんは、実は大物なんじゃなかろうか。


「確かに、少々気になるな。ひとりひとりは追い剥ぎというより訓練を積んだ者の動きだったし、数も多かった」


 シーリアたちが相手にすると、どれも十把一絡じっぱひとからげに見えたのだが。どうやら、それなりにやる連中だったらしい。


「あれが普通ってわけじゃないのか」

「そうですね。あれだけの人数を維持するには、それなりの実入りと拠点がないと難しいでしょう」

「傭兵崩れの可能性はあるな。三国連合で解雇された連中が、アズーナンに来ているのかもしれん」


 傭兵か。

 魔王軍の組織だった侵攻がなくなれば、傭兵の仕事も減るだろう。あいつらは素行が悪そうだったから、一番最初に切られたのかもしれない。


「なら、ちょっと調べてみるか」


 俺は聖鍵に念じて、捕虜にした推定傭兵どもの様子を確認する。マザーシップ倉庫区画のカメラから、連中の様子が見て取れる。何人かは気絶していたが、残りの連中は円を作って座り込んでいる。

 どれどれ、音も拾って会話も聞いてみよう。


「い、一体ここはどこなんだ? 扉もないし、変な台がいくつかあるだけだ」


 それはテレポーターだ。今は全部切ってあるので、倉庫区画は完全な密室になっている。ていよく牢屋代わりに使えているというわけだ。


「なあ隊長、俺ら相当やばいんじゃねぇか?」

「ああ、とんでもないヤツらに仕掛けちまった……」

「分隊の助けもアテにできそうにないしよぉ」

「じゃあ、このまま餓死するしかねぇのか!」

「ふざけんな! 俺はこっちの国に来れば食い物もあるし、いいオンナにもありつけるって聞いたから乗ったんだぞ!」


 ふーむ、やはりこいつら傭兵か。食いっぱぐれてアズーナンにやってきたらしい。ロードニアに来なかったのは、アズーナンのほうがやりやすいと思ったのだろうな。


「くそっ、こんなハズじゃあ……!」

「こんなことなら、素直にカドニアに帰ればよかったんだよ!」

「馬鹿野郎、今更あんなトコに行けるかよ! 国に雇われても浄火派についても、お先真っ暗だ!」


 カドニアだと? こいつら、カドニアから来た傭兵か! それならいろいろ納得だよ、こいつらのことも……。

 ちなみに連中のやりとりは、ディスプレイシート端末でリオミとシーリアにも一部始終を見てもらっている。ふたりはカドニアの名前を聞いて、顔を曇らせた。


「カドニアの傭兵……ですか」

「道理で下品なわけだ」

「やっぱり、そういうもんなのか?」

「カドニア傭兵の素行の悪さは有名ですからね」

「何度か轡を並べて戦ったこともあったが、何度斬り捨ててやろうと思ったことか」


 カドニア王国の主要産業のひとつが、人的資源。傭兵だ。

 カドニアは三国連合と違って、魔王軍の攻撃にさらされない地理関係にある。その代わりに訓練した傭兵を三国連合に売り込み、戦力として提供していた。特に、魔王討伐遠征があった頃は、もうひとつの主要産業とともに随分と国を潤わせたらしい。

 ロードニアの王と王妃が、魔王の呪いによって石化した1年後。つまり9年前、リオミは自身が予言に登場する『魔を極めし王女』になる宣言を行なった。この大宣言以後、聖剣教団の指導により、魔王討伐遠征は禁止されることになる。

 三国連合も長年の戦いで疲弊しており、むしろこの方針転換には喜んで相乗りした。カドニアは猛反発したが、瘴気対策を打ち切られてしまえば、否が応にも従うしかない。

 ちなみに、そのときに武力で教団に技術提供を強要しようとしたのが、カドニアである。もちろん白光騎士にはまったく歯が立たず、最後は王が土下座したという屈辱的なエピソードが吟遊詩人の詩にのぼっている。公式に否定されているが。その後は傭兵も安く買い叩かれた。それがカドニアの窮乏にも関係はしてくるが……まあ、今はいいだろう。

 奴らは気になることを言っていた。


「なあ、あいつら、仲間がいるっぽいことを言ってたよな?」

「そうだな。おそらく、この近くに連中のねぐらがあるのだろう。何人か残っているだろうな」

「制圧しよう」


 即断する。

 俺は倉庫区画で喧嘩を始めた傭兵どもにスピーカーで呼びかけた。


『おい、お前たち。水と食料が欲しければ、アジトの場所を吐け』


 最初は罵詈雑言を俺にぶつけてきた。


『今度は死ぬまで殴り合いをしたいのか?』


 と脅したら、すぐに屈した。根性のない連中だ。約束どおり、水と食料は送ってやった。そういえば、倉庫区画にはお手洗いないんだよな……俺たちも道中で使っている仮設トイレを送りつけておいてやろう。今度、ちゃんと捕虜を収容するための営倉を増設しよう。むしろ、なんでないんだ。


「連中のアジトの場所がわかった」

「今から行くのですか?」

「いや……その必要はないよ」


 俺が言うやいなや、馬車の上空に4機のキャンプシップが転移してきた。


「何だ!?」

「大丈夫、味方だ」

「あ、あれも聖鍵で召喚したのですか?」

「そういえば、二人に見せるのは初めてだったな」


 キャンプシップはまっすぐ、傭兵のアジトへと超高速で飛んでいった。あと5分もすれば、現地に転移済みのバトルオートマトンが地上から攻撃している最中に、ドロイドトルーパー降下部隊がアジトに突入するだろう。仮にも相手が傭兵だから、バトルオートマトンのみだと意外とてこずるかもしれない。一応情けとして、両機とも非殺傷武装で投入する。


「これで時間の問題だ」

「はぁ……アキヒコ様のほうが、やりすぎです」

「うさぎを狩るにも獅子は全力を尽くすというが……」


 ふたりには呆れられてしまった。さすがに今回はトランさんも驚いていた。興奮した馬を必死に御している。


「まだ宿場町にはつかないかな?」

「今日はたぶん、宿場町には間に合いませんね。馬を少し無理させれば到着できますが、明日に支障が出るかと」


 ということは、野宿か。そういえば、アースフィアで野営はまだ経験していなかったな。夜はいつもマザーシップに帰っていたし。

 キャンプか。キャンプファイヤーとバーベキュー、いいかもしれない。


「じゃあ、今夜も食堂じゃなくてこっちで食事をしようか。ディーラちゃんもそのほうが喜ぶと思うし」

「はい、いいと思います」

「それで構わない」


 野営の準備を手伝おうと思ったのだが、ほとんどシーリアとトランさんがやってくれることになった。むしろ、準備のやり方がわからない俺やリオミは足手まといになってしまうか。しょうがないので、俺達は端っこの岩に座って待機である。


「旅に初めて出た時も、護衛の兵がほとんどやってくれていたんですよね。わたしも自分でやりたかったんですが」

「リオミ王女にそのような雑用をさせるわけには参りません……って?」

「はい、言われちゃいました」


 肩を落としている。撫でたくなったので、よしよししてあげた。


「ぃゃぁ……子供扱いしないでください」


 不服そうだけど、本気で嫌がってるわけじゃないのは顔を見れば明らかだ。

 ちょうど向こうでは、ディーラちゃんがブレスで薪に火をつけている。トランさんが拍手すると、ドラゴン娘は自慢げに胸を張っていた。トランさんもドラゴンだと紹介したら最初はビビっていたけど、事情を説明したら「さすがは予言の勇者様です。ドラゴンさえも使役するとは」と大変驚いてらっしゃった。

 ちなみに、薪はシーリアが超人的な剣技であっという間に用意した。こう、放り投げた木がバラバラになって並んでいく様子は圧巻だった。アニメとかラノベではよくある演出だけど、生で拝める日が来ようとは。

 夜になると、さすがに外だけあって冷え込んでくる。今までは屋内で暖房が効いていたので、特に気にしたことはなかったのだが……。

 これも醍醐味か。

 テントは二張だ。俺とトランさん、そして女性陣用で。


「今夜はその……ダメ、ですか?」

「う、うーん」


 リオミからそういうことを言ってくるとは思わなかった。人魚の涙をプレゼントしてから、随分と積極的になってきている気がする。

 ちなみに俺は、特別がっついているほうではないし、枯れてもいない。彼女イナイ歴も年齢とイコールじゃないし。どの関係も一年もたなかったが。

 彼女がいるのがリア充というわけではないという持論は、ここから来ている。いろいろ面倒くさいのよ、本当に。最優先に考えてあげないと、すぐ怒る子ばっかりだった。

 リオミは若いし年頃だし、やはりそういった方面に興味があるのだろう。関係が長引けばこなれてきて、こちらから頼み込むような状況になるかもしれない。

 なら、今が花かな。


「じゃあ、みんなが寝静まったら、ここで落ち合おうか」

「……はい」


 今まではどんな関係も、ヲタ趣味との両立を図り、すべて失敗してきた。積み木は変な組み立て方になったせいで、あっという間に崩れた。

 今度こそ、積み重ねよう。土台から、しっかりと組み上げよう。


 空を見上げた。

 アースフィアから見える星々は美しかった。


 あれは確か、茨城だったか。部活のオービーとして参加した集まりで、夜にたまたま草野球場に出た。あのときみんなで見上げた満天の星々は、俺の心に焼き付いている。

 空気の澄んだアースフィアでは、いつでもあの星空に匹敵する景色が観られるのか。

 あのときは確か、流れ星が見えたんだっけ。

 ふといつかの感動を思い出したくなった俺は、マザーシップのマスドライバーカタパルト砲を起動し、この周辺から見えるように発射軸を設定、射出した。


 空が震える。

 一条の輝きが炎を伴って、星空を切り裂いていく。

 流れ星っていうより、隕石落下のスペクタクル映像になってしまった。


「はぁ……アキヒコ様……」


 俺の仕業だと看破したリオミが頭を抱えていた。

 やあ、別に馬車の馬が逃げ出すことまで予想してたわけじゃないんだよ?


 トランさん、この度はご迷惑をお掛けしまして誠に申し訳ありませんでした。馬代も弁償します。逃げた馬を捜索し、こちらも無事が確認できたら送還します。

 傭兵のアジトを制圧したキャンプシップを今こちらに1機呼び戻しております。自由都市バッカスまで責任を持って無事に送り届けますので、ご安心ください。

 それでは明日、よいフライトを。

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