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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode02 St. Revolution Key

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Vol.04

 思わぬ共通点の発見により、リオミとシーリアは随分と仲良くなった。トランさんの馬車の中でも、ほとんどがその話題だった気がする。

 おかげで俺は随分と暇してしまった。なので、トランさんとの雑談に興じる。

 

「皆様はどちらまで行かれるご予定なのですか?」

「特に決めてないんですよ。アースフィアをいろいろ巡ってみようと思いまして」

「左様でございますか。アースフィアと一概に言いましても、広いですからね。私もいろいろな国に商売で行くのですが、本当にいろいろな場所がありますよ」

「そうなんですか」

「もしよければ、バッカスにいらっしゃいませんか? アースフィア随一の巨大都市ですし、多くの冒険者が本拠地にしています」


 自由都市バッカスか。目的地があったわけでもなし、それでもいいかもな。


「ふたりとも、バッカスに寄ってみるのはどうだろう?」

「行くのは構いませんけど、馬車だと結構かかりますよ」

「国境を越えたら、リオルで船に乗る予定なのです」

「ああ、それなら一週間ぐらいの船旅になりますね」

 

 ルナベースの経路検索でも、ハルードからさらに東ヘ向かい、国境を越えてアズーナン王国に入国、南下して港町のリオルからバッカスへ船で行くのが一番近いと出る。ハルードからリオルまでがだいたい三日だから、合計で十日かかる計算だ。

 もちろん、順調に行けばの話ではある。

 ちなみに馬車だけだとアズーナン王国と都市国家群の間に走るベーベル山脈越えがあるので、一ヶ月以上かかってしまう。


「アキヒコもバッカスには一度ぐらい行っておいたほうがいい。悪くない経験が積める」


 冒険者先輩のシーリアのお墨付きが出た。


「じゃあ、決まりかな」

「では、その間のお金はすべてこちらでもちましょう」


 トランさんは気前がいいな。これで護衛の報酬までくれるというのだから切符がいい。

 まあ、投資先としちゃかなり大口だろうしなぁ。


 それから何事もなく、ハルードに到着した。

 ここは東の国境の玄関口とも言える場所で、アズーナン王国から流れてくる物資はハミラ河を通じて王都へ運ばれる。ロードニアの王都に比べると、多種多様な人種や種族が見られるのが特徴だ。冒険者の数も、バッカスほどではないにせよ多いだろう。

 ハルードには大きな特徴がある。街の半分がハミラ河に繋がる湖の上に建っているのだ。イタリアのヴェネチアほど極端ではないにせよ、水上都市と呼んでも差し支えない。

 何よりやはり、湖と一体化した町という景観が実に美しい。ハルード湖は淡水で、内陸部での貴重な水源でもある。バケシロという魚の料理が有名らしく、ここに来たら是非食べてみたいと思っていたのだ。


「では、明日の朝に宿で合流ということに致しましょう」


 出発までは、トランさんには別行動ということでお願いした。皆とも一度分かれて、俺は自分の用件を済ませることにする。

 目的の建物はすぐに見つかった。何しろ悪目立ちしているからな。


 受付で素直にこちらの身分を明かすと、奥へ通された。ほとんど待たされることなく、ひとりの男が姿を現す。


「お初にお目にかかります、マスター。私の名前はアンダーソンです」


 そう、俺がやってきたのは聖剣教団ハルード支部だ。

 それにしても、マスターときたか。実に非人間的な棒読みで自己紹介してくる。

 アンダーソン。こいつが噂の白光騎士。


「アンダーソン君。いくつか質問に答えて貰いたい」

「なんなりとお申し付けください」

「キミたち聖剣教団の目的は?」

「我々は、聖剣教団と名乗ったことは一度もありません。惑星エグザイルに住む人々が、我々をそのように呼称するようになったのです。現在の目的はダークスを滅すること、規定のペースに従い文明レベルを向上させることです。予言詩の伝播については魔王の消滅を確認したため、終了しました」


 ……まあ、確定だな。

 

「キミの任務はなんだ?」

「浄火プログラムに従い、ダークスに支配された魔物を滅することです」

「浄火プログラム? なんだそれは」

「プログラムの内容を私の口からお話することはできません。奥へどうぞ」


 通された先には、マザーシップにあるのと同じ台座だ。聖鍵をセット可能なスリットもある。罠……ということもあるまい。思い切って差し込んでみた。


「ぬおおっ!」


 初めて聖鍵を握ったときと似たような感覚。自分の中に情報が書き加えられていく、あの感じだ。

 概ね俺の予想は当たっていた。浄火プログラムについてもわかったが、たいして面白くもない話だった。


「……なるほど、そういうことだったのか。ご苦労だったアンダーソン君」

「では、私は任務に戻ります」


 アンダーソン君は挨拶もそこそこに転移してしまった。聖剣教団についての情報を把握したので、ここにはもう用はない。

 一度、マザーシップに帰ってディーラちゃんを迎えに行く。


「そういうわけで、晩御飯は有名な魚料理を食べようと思うんだけど、こっちに来る?」


 と誘ったら、一発で飛びついてきた。やっぱり食い気のドラゴンたんである。


「ラディちゃんは、やっぱりまだ起きない?」

「うん……でも、寂しくないよ」


 やべ、話題の振り方を失敗した。


「今は、みんな一緒だから」


 そうでもなかったか。もうちょっと今度から聞き方を工夫しよう。

 お金はあるので、上から二番目のお店を選ぶ。なんと、屋形船よろしく湖の上の船でお食事と相成った。日中ならボートでリオミとデートなんてのも、ありだったかもしれない。今度くればいいか。

 メインディッシュのバケシロは見た目の良さもさることながら、舌が踊り出す絶品だった。

 ほどよい塩辛さと白身の柔らかさが、咀嚼を娯楽に変える。まさに、至高と究極の対決に相応しい食材だった。質より量のディーラちゃんでさえ、ゆっくり味わって食べていた。


「美味すぎだろ常考。俺の国でも、ここまでうまい魚はそうそう食べられなかったぞ」

「このあとに刺身も来ますよ」

「生きててよかった! アースフィア万歳!」


 料理を食べ終え、ご満悦な一同。夜も更けたので、マザーシップに帰還する。

 もはや定例となったブリッジで、リオミとの密会だ。


「……アキヒコ様はひょっとして、上げて落とすのが趣味なのですか?」

「え?」


 もじもじしながら、不満を訴えるリオミ。


「そ、そんなつもりはなかったんだけど……」

「アキヒコ様はいつもそう。わたしがすごく喜んだ後で、いつも地獄に突き落とします」


 ひぃ、身に覚えがありすぎるぅ!


「人魚の涙をくれたから、てっきりいいのかと思って……そしたら、アキヒコ様逃げちゃうし」

「い、一応恋人にあげるといいよってバザーで言われて買ったんだけど……なんかまずかった?」

「……ひょっとして、これを渡すことの意味はご存じないのですか?」


 リオミは首から下げた人魚の涙のペンダントを、俺に見せるように持ち上げる。

 え、ええと。


「う、うん。逸話があるってところまでしか調べてない」

「じ、じゃあ……」


 リオミはかーっと赤くなって、蹲ってしまった。


「ぁぅぅぅ……っ。ばかばかばかっ、わたしったら先走って……!」


 なんかリオミが壊れてしまったので、自力で調べることにした。


 ――ルナベース検索、開始。

 ――「人魚の涙 渡す意味」


 うーん、要するに、アースフィア版人魚姫だな。ちょっとアレンジされてるしハッピーエンドになってる。王子様のキスで瀕死になっていた人魚が人間になって助かり結ばれるっていう、ちょっと白雪姫も混じってる物語。

 人魚の涙は、そのときに人魚が流した嬉し涙で……これを男性側からプレゼントするっていうのは、要するにその、「キミが! 人間になるまで! キスするのをやめない!」みたいな意味があるらしい。

 道理でリオミらしくない行動だなぁとは思ったけど、あれは彼女なりの精一杯だったのかもしれないな。

 ……よし、そういうことであれば!


「リオミ!」

「は、はい」


 へたりこんだ彼女が振り向いたところで、こちらから口吻を。この間のお返しとばかりに、舌を絡めたディープキスだ。しばらくテンパっていたリオミだが、すぐに俺の背中に手を回してきた。

 あとはもう、互いを求め合うのみ。

 俺はリオミの背中を支えながら、少しずつ彼女をリードして立たせる。もちろん、その間も唇を解放することはない。

 やがて何度目かのキスを終え、俺たちは見つめ合った。


「……」

「……」


 もはや言葉はない。

 多分、遠慮もいらない。

 俺が勇者とか聖鍵を使うことしか能のないパンピーだとか。

 リオミが王女だとか国がどうとか。

 関係ないんだ。


 俺は男で。

 彼女は女で。


 愛し合っているのなら、もう別にいいんじゃないか。


 早いか遅いかなんて、セオリーがどうとかなんてことも。


 単に、心の声に従えばいいだけのことじゃないか。


 邪魔する者はなく。


 邪魔をさせないだけの力もある。


 俺は聖鍵を取り出した。

 リオミは、ただ頷いた。

 俺の心も決まった。


 ――聖鍵、起動。

 ――範囲転送。

 ――行き先は、ふたりだけの秘密だ。

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