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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode02 St. Revolution Key

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Vol.03

 旅は極めて順調だった。

 スマホの設定を変更して、彼女たちのプライベートをオートリサーチしないようにした後、俺が罪悪感に駆られていることを除けばだが。

 しかも、そんな俺の様子を見かねて、リオミが心配してくれるのだ。これが、俺のガラスハートをさらに砕きにかかる。


 唯一、俺の荒んだ心を癒してくれるのが、アースフィアの景色だ。広い青空には一片の淀みもなく、空気は澄み渡り、草花の匂いを運ぶ風が頬に優しい。街道は一応整備されており、人里付近だと丘陵地帯に農園が広がっている。平地の葡萄畑にさしかかると、収穫をしている農夫が挨拶してくれる。生まれも育ちも東京だったから、こういったやりとりは地球にいた頃にもなかった。

 実に新鮮である。


 景色が変わるたびに検索をかけ、その地名の特徴や由来を学ぶ。王都に近い場所は騎士団が魔物を定期的に討伐しているとのことで、安全な旅路が約束されているようだ。今のところ危険には遭遇していない。パワードスーツのおかげで長時間の徒歩移動にも疲れは感じないし、実に快適だ。


「前から思ってたけど、ロードニアって結構平和だったのかな?」

「そうですね。アキヒコ様、先ほどの地図を見せて頂けますか?」


 リオミは渡されたディスプレイシートを、ピンチイン・ピンチアウトで縮小拡大している。日本人も操作に手こずるのに、もうマルチタッチを使いこなすとは……やはり天才か。ガラケー貴族にも見習っていただきたい。


「この範囲がロードニアの領土です。ごらんの通り、東側の国境を除いては、すべて海に面しています。

 王都は北から南に半島を分断するルミン河が流れ、この流域は物流の要です。ルミン河の北では、東から流れるハミラ河が合流しています」


 合流地点のやや南に、ロードニア王都が位置する。

 確かにバザーなどを巡った限りでも、商業はかなり活発な印象を受けた。


「魔王軍の活動していた地域からも遠く、魔物による直接的被害は他国に比べると、それほどでもありませんでした。ただ、お父様たちへの呪いを始め、魔術的な攻撃を加えられることが多かったのです。その分、対魔法の対策はかなり発展したのですが……」

「ふむふむ」

「兵の練度は高くない」

「……はい」


 シーリアの率直な意見を、リオミは受け入れる。

 

「アキヒコ様、八鬼侯のゴズガルドのことは覚えていますか?」

「ああ、あの巨人のね」


 クロコダイ○枠だ。何もかもが懐かしい。


「ヤツとは引き分けたままだな。いずれ決着をつけたいところだが」


 剣聖ともライバル関係だったようだ。

 ひょっとして、ヒュン○ル枠ぐらいだったのか?


「おそらくロードニアの騎士団では、ゴズガルドの武力に太刀打ちできません。魔法による援護を前提として運用される騎士団では、ゴズガルドのブラキニスと鎧の前に完封されることでしょう」

「それはどういうこと?」

「まず、ゴズガルドの専用武器であるブラキニス。これは、あらゆる魔力防御を無視、あるいは解除するのです」


 つまり、どんな魔法のシールドを張った所で、すべて破られると。それでは、せっかくの魔法の援護も無意味だ。


「白閃峰剣が物理防御を貫通するのとは、ある意味で逆ですね」

「でもあいつ、鎧なんて着てたっけ……」

「ゴズガルドの鎧は、彼の肉体そのものです。彼は生来の体質によって、あらゆる魔力の加護を受けられないことを代償に、魔法に対して高い耐性を持っています。魔王がわざわざ三国連合攻略の司令官であるゴズガルドを派遣してきたのは、私に対する対策だったのでしょう」


 よりにもよってゴズガルド。確かリオミは、そう言った。

 なるほど、ただの脳筋じゃなかったんだな。


「白閃峰剣の物理貫通の特性も無効化されたからな。正直、相性はよくなかった」


 俺の中でゴズガルドさんがどんどん出世しています。

 今、フレイザ○ドぐらい。


「最初からゴズガルドがこの国の攻略に回っていなかったのは、どうしてなんだ?」

「間に三国連合が入って、防波堤となっていたおかげです。ゴズガルドの巨人やオーガの軍団は船に乗るには重すぎて、海戦に向きませんから」


 三国連合。

 ルナベースによると、魔王の支配地域と接していた国々のようだ。各国の名前もわかったが、今は別に気にしなくていいだろう。


「最初の話に戻りますが、兵の練度がさほど高くないのも、この地に狂暴な魔物が少なかったことが要因でもありますね。だから、ドラゴンがロードニアに現れたという話は、かなりびっくりしました。

 幸い我が国は農業、畜産、海産に適した土地柄のおかげで、飢える民も少ないです。食うに困って山賊まがいのことをする者も、さほど多くはありません。

 だから、平和だったのかと言われれば、そうだったと思います」


 聞けば聞くほど恵まれた国だ。魔王の支配地域から離れていたおかげで発展していたんだな。

 さくっと調べてみたが、ロードニアは前線の三国連合に対しても積極的な援助を行なっていたらしい。その分、魔術による攻撃を受けていたと。

 ん?


「ひょっとして、タート=ロードニア攻略担当って、オーカードって名前だったりしなかった?」

「ああ、お調べになれるのでしたね。そのとおりです。魔王に匹敵する魔力を持っていたとされています。実際にロードニアの地にやってくることはありませんでしたが」


 ああ、やっぱり。ザ○エラ枠だった。


「そいつの消滅は確認されたから、もうここが脅かされることはないよ」

「魔王がいなくなった後にぴたりと攻撃が止んでいたのは、やはりそういうことだったのですね。重ね重ね、ありがとうございます」

「む。もうじき宿場町だが、どうする?」


 のんびり話しながら歩いていたら、もう昼時だ。ここらで休んでいってもいいだろう。路銀にも余裕がある。


 宿場町と言っても、旅の商人や冒険者が休憩するような小さなものだ。ちょうどいいからお手洗いも借りる。そして、ここにも水洗トイレと水道はばっちり完備されていた。辺鄙な場所と言っては失礼だが、王都以外にもあるとなると……。


「なあ、この国の水道事情ってどうなってるんだ?」

「水道か? ごく普通のものだと思うが」


 テーブルに戻って開口一番ぶつけた質問に、シーリアが怪訝な表情で答える。このパターン、前にも覚えがあるな。


「アキヒコ様。おそらく予想されているとおりですよ」

「聖剣教団、か」


 前は主題ではなかったのでさっくり流したが、聖剣教団がアースフィアにもたらしているのは、近代技術に連なるものだ。洗練された水道の技術もそのひとつである。

 通信技術こそ伝達されていないが、暮らしには便利なものがほとんど導入されている気がする。王都の街灯も、ひょっとしたらガスか電気だったのかもしれない。


「聖剣教団がどうかしたのか?」

「うーん……シーリアは教団について、何か知ってる?」

「そうだな。私が教団と言われて思い出すのは、白光騎士(びゃっこうきし)アンダーソンだな。無口で不気味な男だった」


 白光騎士……たしか、教団の正式メンバーだよな。

 アンダーソン君、ね。人類の救世主のような名前だ。検索してみると、各地で魔物を討伐したという記録が残っている。生まれや年齢は不明で、なんと全く別の場所、同じ時間に出没している形跡が見られた。

 検索に引っかかったのは、人の噂自体は教団とか関係なくドローンが拾ってしまうせいか。


「一度だけ出会ったことがあるが、ヤツはとてつもなく強かったぞ。

 素手でサンドワームを引き裂き、両の手の平から放った白光魔法でオークの軍勢を薙ぎ払ったりしていた」


 ……おいおい。

 それはもう、人間じゃない。

 いや、多分本当に人間ではないのだろう。

 これまで聞いてきた話や、ルナベースが調査不要と判断していることから、こう結論する。


 聖剣教団は、超宇宙文明と関連している可能性が極めて高い。

 

 アースフィアを超えたオーバーテクノロジー、由来が一切不明である点や、人間離れした白光騎士。そして何より、聖鍵だ。使い手である俺の出現を予言していた組織が超宇宙文明に関係しているのは、むしろ合点が行く。関連はかなり前から疑っていたが、こうもぽろぽろ情況証拠が出てくるとな。


 ルナベースの調査対象にされていなかった理由は、予言の成就に教団が無関心であったことがヒントになる。

 おそらく、管轄が違うのだ。

 敵ではないことはわかりきっているので調査する理由はなく、教団側もあくまで予言の流布までが任務であったため、俺とは直接関係がない。聖鍵を持つ俺は上位の命令権限を持っているから、教団側に指示を出せば協力してもらえる。だが、俺に対する積極的な介入はしてこない。彼らには別の役割がすでに割り当てられているのだろう。


 ルナベースではなく、どこか別の命令系統でもあるのではなかろうか。

 聖鍵でそこに割り込めるということは、ルナベースや教団の命令系統でさえ、聖鍵よりは下位に分類されるというわけだ。聖鍵で調べられないのは、超宇宙文明に関連する最重要機密のみ。

 どれだけ聖鍵はすごいのだろう。


 教団については、敵でないことがわかれば充分だ。今度支部に寄ったとき、聖鍵でアクセス可能な端末がないか調べてみるとしよう。調査不要と判断されているだけで、調べる事が禁じられているわけではない。ドローンでも派遣しておくかな。いざとなれば連携が可能かもしれない。


「……教団と事を構えるつもりか?」


 シーリアが物騒なことを言い出した。珍しく緊張した声で聞いてくる。


「いやいや、まさか」

「ならいい。連中と関わるのはやめておけ」


 苦虫を噛み潰したような表情だ。シーリアは教団があまり好きではないらしい。


「すいません。ひょっとして聖鍵の勇者様と、王女様でしょうか?」

「違います」


 しまった。話しかけられたら、つい何の意味もなく否定しまった。別に今はお忍びではない。


「あ、いえ、そうです。アキヒコと申します」

「おお、やはり! 私はトランと申します。お会いできて光栄です」


 声をかけてきたのは旅の商人さんだった。

 リオミはともかく、俺のことがわかるのは……やっぱり、アースフィア人にはない特徴でもあるのかな?


「よしなに。今からロードニアに行くのですか?」

「いえ、バザーで品を捌いた帰りです。バッカスまで戻るところです」

「バッカスということは……自由都市商業ギルドの方ですね」

「はい。卑しい商人風情が拝謁を賜り、お恥ずかしい限りです」


 む、新しい名前が出てきた。早速ググってみよう。

 ふむ、ふむ。なるほど。バッカスというのが自治権を持つ自由都市で、そこの商業ギルドの人ということか。このアースフィアで5万人を超える人口をもつバッカスは、かなり大きい。ロードニア王都でさえ、2万人くらいだ。


「どうでしょう。もし東の国境を抜けるのであれば、私の馬車を利用されては。ちょうど荷物も捌けましたし。

 王女をお運びするものとしては狭く恐縮ではありますが、もちろん護衛の代金としてお礼はお支払いしますし、宿場町のお金ももちましょう」

「アキヒコ様、どうされますか?」

「うーん」


 聖鍵はオンラインにしてあるから、空間収納中でもいけるな。よし。


 ――マインドリサーチ、開始。

 ――対象、商人トラン。


 ふむ、特に裏があるというわけではないようだ。嘘を言っているわけでもなく、本当に好意で言ってくれているらしい。もちろん、コネを作れるのではないかという打算はあるようだが、それは商人として当然の思考だろう。


「わかりました。途中まで一緒に行きましょう」

「かしこまりました。すぐに、ご出発されますか?」

「そうですね、そちらに合わせますよ」

「ありがとうございます。こちらは夕方までにハルードに到着できれば大丈夫です」


 ハルードは王都から東にちょうど徒歩で8時間離れた場所にある。俺達が向かっていた町だ。夕方までであれば、ここで昼を済ませてからでも余裕で到着する。


「では、食事が終わりましたらお声かけさせていただきます」


 トランさんは慇懃に礼をすると、自分の席に戻っていった。


「……アキヒコ、どうだった?」

「うん。特にこっちを嵌めようとかは、考えていなかったよ」

「え? ああ、そういうことですか」


 シーリアは流石に察していたらしい。無言でトランの挙動を見張っていた。リオミは案の定、マインドリサーチには気づいていなかったようだ。


「せっかくだから、馬車に乗せてもらおう。お金ももらえるみたいだし、悪い話じゃないんじゃないかな」

「そうですね。馬車旅もいいかもしれません」


 そういえば、リオミは旅慣れしてる気がする。王都の外に出ても、平然としてるし。


「リオミは前にも旅をしたことがあるの?」

「ええ、声紋魔法の修行に赴く際に、少々ですが」


 そういえば、彼女は『魔を極めし王女』になるために魔法の修行をしていたのだった。

 あれ? でもそうなると……。


「ちょっと待って! じゃあ、魔法の修行って王都でやったんじゃなかったの? 王族がいなくなるんじゃ、その間の公務はどうしてたんだ?」

「あのときは、私の代わりに公務を代行する者を摂政に任命したのですよ」


 なるほど、摂政か。

 でも、それらしき人には会わなかったってことは、もう王国にはいないのかもしれない。そんな風に考えていたのを見て取ったのか、リオミがいたずらっぽく笑う。


「アキヒコ様もお会いしているはずですよ」


 え、誰のことだろう?


「フェイティスという者です。彼女は今……」

「フェイティスだと!?」


 がたっと立ち上がったのはシーリアさん。

 え、何? 何が起きてるの?


「彼女をご存知なのですか?」

「ご存知も何も……私にとっては姉のような存在だ。父の死後、オーキンスさんの元で育ったからな」

「ああ、そういえばそうでしたね! それなら納得です」

「私の9歳の誕生日まで、4年ほど一緒に暮らしていた。そうか、王宮への奉公に出てからは会うことはなかったが、まさかそのような要職に就いていたとは……」

「いえいえ、もともと苦し紛れの大抜擢だったんですけどね。でも、フェイティスはよくやってくれました」


 ……話についていけない。

 どうやら、フェイティスという人物がシーリアとリオミの共通の知り合いらしい。


「えーっと、ごめん。結局そのフェイティスって誰?」

「ほら、侍女ですよ。アキヒコ様のお世話係の」

「あのメイドさんが、摂政……?」

「元ですけどね」

「更に言うと、オーキンスさんのご息女だ」

「ええええええええええええ」


 うわー、マジで? 娘にサインをねだってたけど、あのメイドさんがそうだったのか。全然似てねえ!

 それにしてもメイドが摂政やるとか、どんだけ人材いなかったんだロードニアよ……。


「オーカードの攻撃で、主だった者は赤子にされていましたからね。彼の呪力に抵抗できるのが私と、彼女ぐらいしかいませんでした」


 ○ボエラ枠ェ……。

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