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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode02 St. Revolution Key

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Vol.01

「そういうわけで、よろしく頼む」

「ひぃ!」

「ちゃんと言い含めておいたから、大丈夫だよ」

「……ホント?」

「うむ。今の剣では竜の鱗を貫くのは骨だ。何もしない」

「ひぃっ!?」

「おいシーリア、お前わざとやってるだろう」

「いや、場を和ませようと……」


 シーリア。

 結局、俺についてくることになった元剣聖。彼女が改めてディーラちゃんに挨拶をしてたのだが……。

 それがこのざまである。


「シーリアって、実はアホの子なのか?」

「む。それは聞き捨てならないぞアキヒコ。これでもきちんと勉学には打ち込んでいた方だ」

「……いや、俺が悪かったよ。人って向き不向きがあるよな」

「むぅ……」

「ふふ……あはははっ」


 マザーシップの食堂で夕ごはんを頂いているわけなのだが、記念すべきシーリアの食卓デビューが、ずっとこんな調子なのだ。

 

「お願い、ひどいことしないでー」

「ほら、ディーラちゃんが泣いてるじゃないか」

「いや、あれは嘘泣きだ」

「シーリアすごい! どうしてわかるの!?」

「って嘘泣きだったんかい!」

「くく、あはははははっ!」


 シーリアも、なんだかんだ仲良くやれそうで安心する。

 食事が始まるまで昨日のテンションを引きずっていたディーラちゃんも、今はすっかり元気だ。

 リオミさんは、さっきから笑い過ぎです。


「そういえば、シーリアにはまだ艦内を案内してなかったよな」

「言われてみれば、ここは一体どこなのだ? 随分と広いようだが」

「ふふ、シーリアさんもきっと驚きますよ」


 ……いや、今行くとリオミも驚くことになるよ。たぶん。


「アースフィアが見えるの! まんまるだよ」

「むぅ?」

「じゃあ、食べ終わったら観に行こうか」


 夕飯を食べ終わったあと、俺たちはブリッジに上がった。

 俺が予想したとおりの光景に、全員が息を呑む。


「これが、アースフィア……だというのか」


 初めて目撃したシーリアはもちろん、一度観たことのあるリオミとディーラも口々に叫ぶ。


「なんで〜!? なんでこの間と形が違うの? あ、でも、よく見るとなくなってるわけじゃない!」

「アースフィアが、闇に包まれて……アキヒコ様、一体何が起きているのですか? まさか魔王が復活して!?」

「いやいやいや」


 世界の終わりを嘆くかのようなリオミをなだめる。

 そう。この時間だと、マザーシップの軌道から見た場合、アースフィアの大半が真っ暗なのである。


「あの部分は、太陽の光が当たってない。つまり夜なんだよ。アースフィアは自転しているんだ。そして太陽の光を半分ずつ自分に当ててるんだよ」


 アースフィアが生き物であるかのような説明になってしまったが、頭のいい彼女たちはそれである程度、理解してしまったようだ。


「まさか、このような形をしていたとは。道理で目を凝らしても地平の果てが見えぬわけだ」


 地平線のあたりまでは見えるらしい。シーリアらしい感想だ。

 

「アキヒコ様と出逢った日から、世界の見え方がどんどん変わっていくのを感じます。どうすればいいのか、わからないくらい」


 奇遇だねリオミ、俺もだよ。

 この感覚に慣れきってしまったとき、果たしてどうなってしまうやら。


「あたしがいたところ、どのへんかな?」


 ディーラちゃん、キミが窓にのしかかるとドラゴンパゥワーで壊れかねないから、今すぐやめて!


 三人は思い思いに、アースフィアの姿を楽しんでいる。そんなみんなの姿を眺めながら、俺は不思議な安心感を味わっていた。俺がアースフィアに召喚されてから、明日で一週間。いや、一週間すら経っていないという事実は驚嘆に値する。

 最初の1日はこれまで生きてきた人生の中で最も長く、濃い1日だった。リオミと過ごした時間はまだ短いのに、もはや恋仲。シーリアとは昨日知り合い、殺し合った関係である。ディーラちゃんに至っては、出会ってちょうど24時間ぐらい。

 だというのに……なんか全員、ずっと長い時間を共に過ごしてきたような錯覚を覚えている。多分、みんな同じように感じているんじゃなかろうか。過ごした時間の長さではなく、密度が大切。俺がアースフィアに来てから学んだことのひとつである。


「お兄ちゃん、こっちをじーっと見て、どうしたの?」

「また私が何かしてしまったか?」

「アキヒコ様?」

「ああ、うん。平気だよ」

 

 ……もう知っているとは思うけど、一応、自己紹介しておこう。

 俺は三好明彦。大学三年生。21歳。

 日本からファンタジー世界に召喚されて魔王を倒した勇者であり、聖剣ではなく聖鍵の担い手であり……この宇宙戦艦を始めとした、超宇宙文明テクノロジーの使い手であり。


「あ、お兄ちゃん。あたしたちのこと見て、えっちなこと考えてるんだ!」

「ふむ、視姦か? そんなに見たければ、遠慮せず言えばいいものを」

「……ア・キ・ヒ・コ様〜!」


 ……最近、胃が痛いのが目下の悩みである。



 シーリアのマザーシップツアーが始まった。

 彼女は施設内のセキュリティを細かくチェックし、満足していた。


「堅牢な作りだ。これならば手練が数百人攻めて来ても、分断した上で各個撃破できる。いい要塞を持っているのだな、アキヒコ」


 女性らしからぬご意見は、実にシーリアらしい。

 唯一、トラブルというか軽く喧嘩になったのは、お菓子生産プラントに差し掛かったときのこと。


「シーリアさん、このきのこ、すごく美味しいんですよ」

「え〜、たけのこの方が美味しいよ!」

「むむっ、ではいただこう」


 お菓子を食すシーリアを固唾を呑んで見守る二人。

 やがてシーリアの軍配が上がる。


「……きのこだな」

「ええ〜っ、なんで!?」

「シーリアさんとは仲良くなれそうですね」


 ぐっと握手を交わし合う王女と元剣聖。ディーラちゃんはぎゃあぎゃあ喚いていたが、様子を見ていた俺と目が合うと、ピタリと騒ぐのをやめて、俺ににじり寄ってきた。


「お兄ちゃんはたけのこだよね? ね!?」

「えっ」


 涙目のディーラちゃんはかわいいなぁとか考えてただけなのに。

 はっ、殺気。きのこ派閥の燃えるような視線が俺を焼く。まさか、この状況で選べと。

 現状、たけのこ派であるディーラちゃんは、きのこ派の二人に対して不利だ。ここで味方をしてあげれば、お兄ちゃんの好感度は鰻登りになるだろう。

 だが、そうすると俺はリオミを裏切り、シーリアすらも敵に回すことになる。それはヤバいしコワイ。

 だからといって、きのこ派につけばディーラちゃんはひとりっきりの孤独、少数派のレッテルを貼られる。それはあんまりにもかわいそうだ。

 かくして、俺の選択は。


「ち、中立でお願いします」


 せっかくだから、俺は日本人らしく玉虫色を選ぶぜ!

 あ、女性陣の視線が氷点下に冷え込んだ。


「アキヒコ様……信じていたのに」

「見損なったぞ」

「お兄ちゃん、ひどいよ……」


 う、うん。女の子達の心がひとつになった!

 計画通り! 

 しかし、アースフィアにおいても戦争とは。人は、こうも分かり合えないのか。


 胃の痛いツアーになることを覚悟したけど、ディーラちゃんがおねむになってきたので解散になった。そのあとは邪魔の入らないブリッジで、リオミと二人の時間を作る。

 と言っても、ラブイチャするだけではない。ラブイチャもするけど。


「そういえばアキヒコ様、例のダークス係数と魔物の関係については、お父様に報告しておきましたよ」

「ん、ありがとう。悪かったね」

「いえ、私も今伝えてないことを思い出しまして。すいません」

「シーリアが合流したあとのゴタゴタで、俺もすっかり忘れてたから、おあいこってことで。それで王様は、どうだって?」

「ロードニアとしては全く問題ないそうです。他国には外交を通して伝えてくれるそうですが、対応は各国次第ですね」


 それは仕方ない。

 必要ならば、俺が行くまでのことだ。


「聖剣教団はああ言った手前、ダメ元で連絡したのですが。アキヒコ様の指示だと伝えたら、最優先でやってくれるとのことです。アキヒコ様の威光はさすがですね」


 聖剣教団。そうだ、リオミに訊いてみようと思ってたんだった。というか、そうするしかない事情があるんだが。


「リオミ。実は今日、聖剣教団の支部に行ったんだけど、あれは一体何なんだ?」

「と、言いますと?」

「だって、あきらかに支部の建物だけ浮いてただろ?」

「そうですか? 昔からああいう建物が教団の様式だったので、気にしたこともありませんでしたが……」


 なんてこった、教団はあれがデフォルトなのか。


「わかった、聞き方を変えるよ。聖剣教団って、どんな組織なんだ?」

「アキヒコ様の問いの答えとして適切かどうかわかりませんが、一言で表すならば……謎ですね」

「謎?」

「はい。いつの時代から存在しているか、正確に知っている者は長寿種であるエルフ族にもいません。ただ、活躍が表に出るようになったのは、魔王ザーダスが現れてからですね」


 また魔王か。どこにでも顔を出しやがる。


「それでも表立った活動が確認できるのは、白光騎士と鋼の従者だけですね。主に彼らは凶暴な魔物の討伐を行います。予言をもたらしたのも彼らです。さまざまな技術を持ち込んで、あらゆる発展に貢献しました。でも、一番の功績は瘴気への対抗策をアースフィアに広めたことでしょうね」


 魔王が放つ闇の瘴気。それは魔物を操り、人を死に至らしめるという。ルナベースにおいては、汚染度合いをダークス係数という項目であらわしている。

 その瘴気への、対抗策。


「それって凄いことじゃないのか?」

「もちろんですよ。彼らの使う白光魔法と闇除けのリングは、教団以外が再現しようとしたことは数あれど、成功例がひとつもありませんから。だからこそ彼らは一切国の権力に介入しない代わりに、アースフィア全土での活動自由が保証されているんです。といっても、彼らの活動が目撃されることは、滅多にないですが」


 俗世に一切関わらない宗教組織なのか。


「俺、会ってないよな」

「まあ、教団の正式メンバーには、会いたくても会えませんから」

「教団が俺の召喚や聖鍵を抜くときに立ち会わなかったのは、必要がないからか?」

「一応支部に知らせましたが、予言の成就そのものには無関係だという返事でしたね」


 なんだそりゃ。予言は広めたのに、それが当たるかどうかはどうでもいいと? まるでお役所だな。この分じゃ、聖鍵が落ちた地が特別視されていないのも、同じような理由になりそうだ。

 後、気になるのは……。


「聖剣教団での俺の扱いって、どうなるんだ?」

「教団から積極的に干渉してくることはないと思います。ですが、話を通しに行った者の感触だと、請えば協力してくれそうだったとのことです。アキヒコ様はやっぱりすごいんですよ」

「ちょっと大袈裟じゃないかな?」

「いえいえ、前代未聞だと思います。ある国が武力による白光魔法の体系公開を迫ったとき、すべて力づくで跳ね除けたなんて逸話まであるくらいですから」


『教団のすることに関わるな』

 これが常識なのだと、リオミは言った。祈りを捧げるのも民間で始まったことであり、支部の職員も嘱託なのだという。

 怪しい。怪し過ぎる。

 実を言うと、ルナベースで調べても、そういう宗教があるという概要ぐらいしかないのだ。ブラックボックスでもないのに調査不要とされている唯一の組織。

 それが、聖剣教団だった。


 さて、かたい話はこれぐらいにして。

 本命の話を始めよう。


「実はリオミに渡したいものがあるんだ」


 俺は、空間に収納しておいたペンダントを取り出した。


「えっ。人魚の涙じゃないですか……これをわたしに?」

「まあ、安物なんだけど。ちょっとじっとしてて」


 リオミの首からペンダントを下げた。


「うん、よく似合ってる」

「アキヒコ様……」


 リオミは真っ赤になっていた。宝石商の話だと、恋人に贈る物だという話だし。あ、今更さりげに恥ずかしくなってきた。

 しばらくは何か葛藤している様子だったが、やがてリオミは抱きついてきた。いつもの強烈なハグ。


 だが、リオミの攻勢はそれで終わりではなかった。


「〜〜っ!?」


 普段はどちらかというと、おしとやかな彼女からの熱烈なキス。

 ファーストキスの時のような、躊躇いも遠慮もない。

 貪欲で、俺を食い尽くさんばかりの略奪キスだった。

 かくいう俺は訳も分からず、されるがままで。


「ぷはっ!」


 ようやく解放されて酸素を求めたとき、目の前には熱っぽい表情のリオミ。


「……アキヒコ様は、わたしを喜ばせる天才です!」


 そう叫んだ彼女は物凄くはしゃいでいて、歳相応の女の子に見えた。

 ああ、今夜は俺、自制できないかも……。

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