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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode05 Clone Rebellion

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Vol.36

 俺は頑張ると決めた。

 もう精神的に後がないから、頑張るのは死ぬほど辛い。


 スマホの精神メンテアプリにも限界はある。

 遅かれ早かれMPポーションに頼らないといけなくなるだろう。

 でなきゃ、またすぐ鬱ってしまう。


 もちろん、そうならないように旨い飯を食ったり、酒を飲んだり、気分転換に出かけたり、各国をぶらり旅したり。

 そういうことをしたほうがいいと、リオミは言ってくれている。

 フェイティスにも俺は無理に仕事をするより、自由な時間の使い方を覚えたほうがいいと言われた。


 ところで。

 ライアーはひとつ、いいことを言った。

 力の行使を我慢すると、体に良くないと。

 弱者を相手に無双することこそが、俺ツエーなのだと。


 聖鍵を全開にしないことによるストレスは、俺達にとって間違いなく負担となっている。

 力があれば何でも思い通りになる気がするのに、実際はそうではないことに否応なく苛立ちを感じてしまう。

 だからといって苛立ちを解放すれば、宇宙をみだりに壊したり、命を弄んだりしてしまう。

 それは三好明彦の中のマナーに反するので、己に制動をかける。

 でも、やっぱり我慢するからストレスが溜まって、ますます暴れたくなる。


 悪循環だ。

 これを、偉い人は二律背反にりつはいはんと呼ぶらしい。

 ストレスを溜め込めば、俺は衝動的に同じことをやらかすだろう。


 だから、誰にも迷惑もかからない方法で解消を試みることにした。


「すぅー……」


 央虚界。

 俺達がいた避難所から数百光年ほど離れた地。

 それでもやはり青の大地と赤い空、非活性ダークスの黒だけが揺蕩たゆたう、不変の世界。

 俺は不毛の地面にただひとり立ち、深呼吸を繰り返している。


 央虚界は、どえりゃー広い。

 まだきちんと観測したわけではないが、理論予測値は銀河数千万個分だとされている。

 要するに俺達が利用している領域なんて、点にも満たないのだ。


 逆に言うと、ここなら何をしても大抵の無茶は問題ない。

 グラナド無限増殖コンボのようなことをしなければ、ではあるが。


「じゃあ、まずは準備運動からいくか!」


 わざと声を張ってみる。

 それだけでも、若干胸のモヤモヤが取れる気がするから人間の体は不思議だ。

 今は魔人だけども。


 まずは、空間から魔鍵を取り出して、数回素振り。

 特に問題がないことを確認した後。


――魔鍵、起動。

――バトルオートマトン召喚、100機、不殺装備。


 いつも以上に適当な念じ方で、円筒形の機動兵器を呼び出す。

 特に位置を指定しなかったので、俺を守るような円陣形を組んでいた。

 100機は少ないかなと思ったけど、なかなかどうして壮観である。


 で、次に。


――オートマトン全機、自動戦闘モード。

――ターゲット:アキヒコ。


 周囲を警戒するように外側を向いていたドラム缶どもが、グルリと俺の方を向く。

 9mmマシンピストルをむき出しにしながら、一糸乱れぬ動きで包囲陣形を整えた。


「さあ、来い!」


 俺の叫びに合わせたわけでもなかろうに、バトルオートマトンの銃口が一斉に火を吹いた。

 魔鍵を中枢とした時空オンラインネットワークによる完璧な連携。

 反対側に味方機がいないタイミングでの銃撃は機能美に溢れている。


 そんなふうにじっくり観察できるぐらい、オートマトンの動きが急にノロマになった。

 銃弾の軌跡もゆっくりと、止まっているとしか思えない速度で見える。


 ああ、やっぱり……。

 オクヒュカートのパンチがスローに見えたのは、偶然ではなかったのだ。


 そんなことを考えつつ、銃撃の隙間を歩いて避けながら。


「うりゃ!」


 両手に魔鍵をしっかり握り、おおきく振りかぶって、オートマトンを殴る。

 何の技巧もない、素人丸出しの一撃。


 案の定、あっさり弾き返された。


「ありゃりゃ。やっぱりダメか」


 仮にもチタン装甲素材。パワードスーツもなしに力任せに殴ったところで、ヘコみぐらいしかつけられなかった。

 一応は魔鍵もルナ・オリハルコニウム製だからダメージ自体は与えられるようだが、俺の力が弱すぎるのだ。


 そういえば、グラーデンの貴族たちもメチャクチャ頑張って破壊してたもんなぁ……。

 オートマトンって、結構強いんだな。

 今更ながらに感心する。


 それにしても時間がゆっくりになってるせいか、殴ったときの音が聞こえてこない。

 なのに、声はちゃんと出る不思議。

 俺自身が加速しているせいだろうか。


 思考を中断し、止まった空間の中でオートマトンの間を縫うように適当に走りながら、魔鍵をぶち当てていく。

 振るったりせず、魔鍵を横にして、文字通り当ててるだけだ。傘で電信柱を次々に叩いてる感じに近い。

 もちろん、攻撃でさえないお遊びで破壊されるオートマトンはいなかった。


「でも、これはこれで面白いなー」


 しばらく子供のように夢中になっていたが、いつの間にか包囲を抜けてしまった。

 すると、時間は元通りに進み始めたらしい。

 オートマトンたちがカンカンカンカンッ! と小気味良い音をたてた。

 魔鍵を当てた音が今になって響いたのだろう。

 

 オートマトンが俺を見失っていたのは一瞬で、数機がこちらを向くと情報同期したのか、全機がこちらを認識した。


「げげっ……」


 うち何機かがすぐさま40mmグレネードランチャーを発射した。

 弾頭は不殺装備なのでスタン・グレネードだろうけど、空間遮蔽を切っている今は当たると酷いことになりそうだ。

 とはいえ、再びスローモーションになったので走って避ける。


「ぜえ、ぜえ……」


 ちょっと必死に走ったので、すぐに疲れた。

 多分グレネードの爆発範囲からは逃れられたと思うけど……。


「やばい。パワードスーツがないと、スタミナも全然なくなるわ……」


 魔人化したからといって、体力や運動神経が劇的に向上するなんてことはない。

 心臓が4つあるから肺活量や血液の流れなんかは効率的になっているだろうけど、それでもこのザマだ。

 オクヒュカートだってエンチャント魔法や装備を駆使して、自分なりの強さを確保しているのである。


 だけど、今の俺はバトルアライメントチップすら使っていない。

 丸腰というより裸同然だ。

 これは伊達や酔狂ではなく、純粋に自分の中で目覚めた加速能力だけでどこまでできるか、テストしてみたかったというのもある。


 俺が安全を確保すると、背後で凄まじい爆発音が轟いた。


「けほ、けほっ……」


 煙がこっちまで届いたせいで、ちょっとだけ咳き込んでしまった。


 オートマトンがすぐさま追撃を仕掛けてくるが、俺は全く慌てない。

 攻撃が来た瞬間、再び時間が緩慢化するのは目に見えていたからだ。


 俺が動かないでいるとスローモーションどころか、時間は完全に停止してしまった。

 三度目の正直。これで確定である。


「やっぱりこれ、自分が危機を認識した瞬間に発動するのか……これも俺の能力ゲイズなのかな?」


 一応造物主を取り込んだときに取得した能力ゲイズは別にあるはずなのだが、何も能力は1人につき1つと決まっているわけではない。

 ブラッドフラットや殺戮王は一芸特化だが、フラビリスのように俺はオールマイティーのようだ。

 これまで送ってきた人生によって、同一人物であってもまるで違う能力が発現するなんて、中二病みたいでドキドキする。


 まだ俺の中にもこんな童心が残っているのか。

 ノブリスハイネスが全部持っていったと思っていた。


 しっかし……なんでこんな力に覚醒してしまったんだろう?

 やっぱり星の位置まで使ったオールエンチャントや魔鍵の力を引き出したせいで、超加速を体感してしまったからか。

 あるいは量子体になったからなのか、あるいはノブリスハイネスのコピーボットと戦った経験で手に入れたのか。

 考えてみると心当たりがありすぎて、どれが原因なのかわからない。


 間違いないのは、これが俺の固有の能力であって、他の三好明彦クローンにはないということ。

 自分だけの力なのだ。

 今回はオートマトンが硬いから何とも情けないが。

 相手が生身の人間なら魔鍵で思いっきり殴るだけで打撲、骨折させることぐらいならできるだろう。

 

 とはいえ、ブラッドフラットやエミリアのように能力そのものを抑制、封印する能力もあるから、絶対無敵には程遠い力でもある。


「うーん。やっぱり今のところ、自分だけじゃあ……これが精一杯か」


 造物主を取り込んで得た能力は、今のところあんまり使い道がない。

 一応、既にいくつかの効果を使うことができるのだが。


「よし、実験その2だ!」


 無意味に大声をあげるたびに、気分が高揚してくる。

 もちろん、ストレス解消の一環として意識的にやっているのである。

 ここには誰もいないし、ベニーが見られないよう周囲には非活性ダークスを張ってあるから気兼ねする必要はない。

 まあ、これもルナベース演算がなくても力を使えるようにした魔鍵だからこそできる裏ワザである。


――魔鍵、起動。

――コード:モルフェウス。

――白閃峰剣に擬態。


 魔鍵が一瞬黒く染まったかと思うと、次の瞬間には真っ白な刀身が顕になった。

 コード:ドミネイターと同様、コード:モルフェウスも魔鍵特有のコマンドである。

 これは俺が知っている武器に魔鍵を擬態させるコマンドだ。


「そらよっ……と!」


 陣形の端にいるオートマトン駆け寄って、白閃峰剣になった魔鍵を振るう。

 へっぴり腰の、まるでなっちゃいない斬撃だった。


 だが、先ほどのように弾き返される感触は返ってこない。

 ぬぷりと水の中をかき分けるような独特の手応えとともに、刀身が反対側へすり抜ける。

 これは白閃峰剣の装甲無視の特性も擬態しているせいだ。


「うわっちち」


 勢い余って一回転、尻餅をついてしまった。

 剣の重心に引っ張られてしまったようだ。


「バトルアライメントチップを使ってるときは無意識にできてたんだな、こういうのも……」


 チップはどうにも他人の強さに()()()()()()感じがしてしまって、強さに酔えない。ライアーのように自分を騙せる感覚が鍛えられれば、あるいは俺ツエーな気分になれるのかもしれないが。


「とはいえ、このままのらりくらりやっても、しょうがないかな」


 空間から取り出したパワードスーツを直接体に装着し、魔鍵にシーリアのチップをインストールした。

 念のため、いつもどおりに動体視力強化のオプション装備もつける。


 再び静止した時の中を駆け抜ける。

 それまでの無様が嘘のような剣捌きで、バトルオートマトンを寸刻みにしていく。

 包囲を突破し、時間が元通りに進み始めると同時。

 100機のオートマトンが真ん中あたりから、斜めにスライドするように真っ二つになった。


「……やばい。無双って、こんなに気持ちよかったのか……」


 いつも最適な方法で敵を無力化することばっかり考えていたから、こういう意味のない白兵戦ってほとんどやったことがなかった。

 一度だけクラリッサ王宮で暴走したドロイド相手にやりあったが、あれは自分のミスの後始末だったから、娯楽からは程遠い。

 そうか、ライアーみたいに強さに酔えないなぁと思っていたけど、シチュエーションが重要なのか。


 そんなことを考えながらスクラップになった機体を眺めていると。


「あちゃー……」


 唯一、真っ二つにならなかったドラム缶を発見した。

 もちろん、俺が最初に斬ったオートマトンである。

 一応機能は停止していたが、切れ込みが浅すぎたらしく、胴体泣き別れにならなかったようだ。


「シーリアって、マジで凄いんだな……」


 他の機体の切り口や断面を比べてみると、その技量の違いが如実に現われている。

 最近チップを使うのが当たり前過ぎて、ついつい彼女の実力を自分の力だと錯覚してしまいがちだったが……。

 同じ剣を使っているのに、俺の切り口の粗さはなんなのか。


 だけど、不思議と悪い気がしない。

 それどころか、自分に何が足りないのか。

 どうすればシーリアのようにうまく斬れるのか。

 これを考えるのは、素直に楽しい。

 考えるのは元から好きなのだ。


「というか、殺戮王とブラッドフラットの言ってたチップの真似って、こういうことか」


 殺戮王のスマートフォンに記録されていた会話ログと、彼が死ぬ前の電脳記憶野から、バトルアライメントチップを自分の体に覚えこませることができることを知った。

 ベニーに聞いてみたところ意外にも、この方法はよく知らないらしい。

 通常、三好明彦がそのような無駄なことをすることはなく、ロストアフターだからこそ見られる特徴ではないかとコメントしていた。


 俺はどちらかというと運動嫌いで運動不足な現代人なので、体を動かしてストレス解消という発想があんまりなかった。

 酒とかやけ食いとか、不摂生な方向性に特化している。


「今まで考えもしなかったけど、本当に自分の力にできるなら……やってみようかな」


 今後は意識的にこれを日課にするとしよう。

 いつか、本当にシーリアと肩を並べられるといいな。

 まあ、そんな日は来るわけないのだけど、だからこそ終わりなき娯楽として愉しめそうである。


 準備運動は終わった。

 他にもいろいろ試した後、俺はアースフィアへと帰還した。

 どんなことをしたのか、もっとうまくできるようになったら話したいと思う。




 リオミの声とチグリの装置。

 ふたりのおかげでクローンの叛乱は終わった。


 投降したクローンたちは、更生プログラムを受けることとなった。

 オリジンのように奴隷として扱わないことを約束した上で、可能な範囲で便宜を計ることにする。その初期段階として、《マインドベンダー》からも順次解放していく予定だ。

 とにかく人数が多すぎるため、いずれ彼らにはアースフィア以外の居場所を用意しなくてはならないだろう。


 叛乱の首謀者であるブラッドフラットは、永劫収容所に幽閉された。

 呪術師カーラスと同じく、最深部での禁錮刑である。

 彼にはある役目を負わせることで恩赦を与える予定ではあるが、造物主の使徒に協力したことを看過するわけにもいかない。


 そして俺は、もうひとりの首謀者の前に立っている。


「フラン……」

「……アッキー?」


 扉のない部屋の中、フランは空間拘束ロックで両手両足を一時的に消失している。

 つまり、胴体と頭だけが宙に浮いている状態である。


「ごめん、アッキー。自分の心が弱いばっかりに、世話をかけちゃって」

「……自分の中のフラビリスに気づいたのは、いつ?」


 俺はフランの謝罪を敢えて無視して、すぐ本題に入る。

 自分では努めて事務的に喋ったつもりが、微妙に憐れむようなニュアンスが入ってしまった。

 オリジンのようにはいかないみたいだ。


 フランはそんな俺の気持ちをどう取ったのか、しばらく考え込んでから答えてくれた。


「……一番最初に胸がチクっとしたのは……アッキーが都市国家群に向けて演説したとき……かな」


 演説ってことは、俺達の分裂以前か。

 該当する記憶をルナベースで検索し、再生する。


―「いやー、都市国家群に関する発表って聞いてたから、てっきり武力統一でもするのかと思ってたよ」

―「ははは……」

―「もしそうだったら……あの街を跡形もなく消すこともできたのに」

―「……フラン?」

―「うぅん、なんでもなーい」


 ……あのときか。


「でも、本格的に意識するようになったのは、アルテアでゲームを始めてからだよ……」


 フランはしゃがれた涙声で語り続けた。


「信じてもらえないと思うけど、自分も最初はフラビリスって役を演じてたんだ。でも、そのうちフラビリスという人格が表に出てくるようになって……気がついたら、ああなってた」

「…………」


 やっぱり、か。

 十中八九、フラビリスの《マインドクラッキング》だ。

 俺がダークライネルにされたのと同じである。

 ベニーも予測していたのだ。フランが消えずに残ることができたのは、複数の人格を操る彼女の精神特性のおかげだろうと。


「確かにヴェニッカなんてなくなってしまえばいいって思ってたけどさ、あんな風に全部消したいなんて考えたことなかったのに……」

「大丈夫。少なくとも、フランは悪くない。ダークスにつけ込まれただけだ」

「でも……」


 これ以上フランと話すと、俺も余計なことを言いそうだ。

 早いところ要件を済ませたほうが、彼女のためにもいいだろう。


「今もフラビリスとは話せるのか?」


 俺は()に入るため、フランに問う。


「……いいよ。今なら多分、自分の方が強いと思うから……」


 フランは時間にして44秒ほど、目を瞑っていた。

 開眼したときには、表情も雰囲気もまるで違っている。


「……何の用よ」

「フラビリスだな?」


 気だるげに口を開いたフランに確認する。

 自分でも驚くぐらいの冷たい声だった。


「時間の無駄は嫌いよ。わたしは何も話すことなんてない」

「俺もだ。悪いけど、お前にはフランの中から出て行ってもらう」

「好きにしなさい。介入に失敗した以上、わたしはもう何もできない」


 オクヒュカートと同じか。

 一度、介入する並行世界が確定してしまうと変更はできないとかいう。


「お前にはフランの予備の肉体を与えて、アルテアに追放する」

「またわたしがヴェニッカを消そうとしたら、どうするつもり?」

「無理だろうな」


 空間から魔鍵を取り出し、フラビリスの首筋につきつけた。


――魔鍵、起動。

――コード:デミウルゴス。

――能力没収、対象:フラビリス。


 がくりとフラビリスの首が垂れる。

 彼女が気を失ったのは一瞬で、フラビリスはすぐさま顔をあげた。

 はっとした表情で俺を睨みつける。


「……何……今、何をしたの!?」

「お前から、造物主の権能を使って能力ゲイズを奪った」


 これが、造物主を取り込んだことによって得た俺の能力ゲイズのひとつ。

 俺が得たいくつもの能力の中でも、まともに運用ができそうな部類である。


「もうお前は無力な人と変わらない……ヴェニッカへの憎悪もヒュプノウェーブで消させてもらうから、そのつもりでいてくれ」

「……そうやって、奪うのね。わたしから何もかも。貴方もあの豚どもと同じよ……」

「なんとでも言え。俺ももう、退くわけにはいかないんだ」


 不思議なほど、胸は傷まなかった。

 仮にも別の世界のフランだった使徒に対して、まったくと言っていいほど同情心が湧いてこなかった。


 この薄情さこそ、俺が救世主オリジンを捨てて手に入れたもの。


 地球で誰かが死んだニュースを見るたび苦しんでいた俺。

 今はもう見知らぬ他人を救えないことに悩まずに済む。


 つまり、人間としての当たり前の精神構造だった。


 宣言どおりにさっくりと、フランのクローンにフラビリスの精神だけを切り離して入れた後、コールドスリープにかけた。

 フラビリスは使徒としてこちらの世界にやってくる際に、自分の魂を持ってきている。

 聖鍵でガフの部屋から無色の魂を調達する必要がないのは助かる。

 今は聖鍵がないしな。


 ……聖鍵、か。

 オリジンは今も聖鍵を携え、どこかの世界を救っているのだろうか。


「いや、それはいいか……」


 遅かれ早かれ、彼は俺の前に現れる。

 そんな気がしている。


 今はフランが先決だ。

 空間拘束から解放し、落ちてきた体をお姫様だっこで受け止める。

 もちろんパワードスーツのおかげで、ぎっくり腰にならずに済んだ。

 

「アッキー……」

「ごめんな。俺のせいなんだ」


 耳元の囁きに、目を伏せて懺悔する。

 彼女は俺の体に腕を回して、力を込めてきた。


「いっぱい甘えて、いいかな。反省もあとでいっぱいちゃんとするからさ……」


 弱々しいけど、本当に嬉しそうだった。

 聞いていると、ついついお願いを聞いてしまいたくなる、ちょっとずるい女の子の声だ。


「わかった。そうしたら、本体に戻って……アキオミの乳母、してくれるよな」

「えへへ。自分も……元気な赤ちゃん、生むんだからね。リオミ様には負けないモン……」


 俺達はピースフィア王宮の部屋に転移。

 このあと、滅茶苦茶セック○した。

Vol.32で魔人の反応速度と膂力が高い描写をしましたが、こちらは訂正しました。

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