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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode05 Clone Rebellion

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Vol.33

 マザーシップ、イメージホール。

 その中央で、リオミは祈るように両手を組みながら、必死に新・聖剣教団へ訴えかけている。

 今は背徳都市ヴェニッカだけが範囲だけど、これがうまくいくようなら、アースフィアに潜んでいるクローン全員に向けてリオミの声を届けることになるだろう。


 俺が"その感覚"を受け取ったのはリオミの説得が始まってから、すぐのことだった。


 最初は、ビジョンが見えたのかと思った。

 だが、通常のビジョンは俺が何かの選択を迫られたときしか見えないはずだ。

 現在の俺はイメージホールのコントロールルームで、闇の帳から解放されつつあるヴェニッカの遠景をモニターしているだけだ。

 何かしら選択肢を検討しているわけではない。


 ならば……。


「今……」

「どうかされましたか、ご主人様」


 隣に控えていたフェイティスが、俺のぼやきに反応する。


「殺戮王が……死んだ」


 俺が見た光景は、殺戮王の最期だ。

 アイツは、()()()()向けて何事か呟いたかと思うと、手を伸ばしたまま機能を停止した。

 クローンは死に瀕したとき、自分の死をルナベース経由で他クローンへ共有することができる。ノブリスハイネスは毒を飲むとき切っていたが、殺戮王は共有システムを有効にしていたようだ。

 ビジョンでないなら、これぐらいしか心当りがない。


「……はい。こちらでも今、確認しました」


 フェイティスは俺の言葉にも眉一つ動かさず、スマートフォンを操作する。

 ドローンを探索に回したのか、あるいはルナベース経由で殺戮王の魂魄消失を確認したのか。


 それを聞いても、俺の中に悲しみは湧いてこない。 

 殺戮王も、言うなれば自分の一部のようなものだ。

 奇妙な友情こそあったが、消してしまいたい自分の一面であることに変わりはない。


 だが、怒りはあった。


 ひとつは、殺戮王への怒り。どうして未来ヤムではなく、過去フランを選んだのか。

 もうひとつは、自分への怒り。どこかで選択を間違えていなければ、彼は死なずに済んだのではないかと。

 我ながら、手前勝手な話だ。


――クローンナンバー064,135,385,784の最終記憶を保存しました。

――同期した場合、末期まつごの想いに引きずられ、タナトス係数(*)が大幅に上昇する場合があります。

――記憶を同期しますか? y/n


 映像だけではなく、記憶も同期するか否かの選択肢が頭の中に浮かんできた。

 タナトス係数の(*)から項目を確認する。上昇すると死に憧れ、切望するようになってしまうらしい。死者の最終記憶に触れるのは、慎重にやらなくてはならないということか。

 俺はひとまずノーを選択し、殺戮王の人生の記録をルナベースの底に保存することにした。


「……ヤムになんて言えばいい」


 先送りにするような嘘をつく。

 コピーボットを用立てる。

 以前の俺なら彼女たちが傷つくことを恐れて、いずれかを選択しただろう。

 だけど、今の俺ならば……。


「すべてを正直にお伝えするのが、よろしいかと存じます」

「当然だな」


 言葉にした瞬間、胸の奥から強烈な痛みが襲ってくる。

 苦痛を和らげようと、俺はMPポーションを手の中に出現させる。

 飲もうとしてから……手を止めて。

 少しだけ逡巡してから、MPポーションを消し去っ(カットし)た。


 もう逃げない。

 いや、逃げられない。

 俺は一度逃げておきながら、のうのうと戻ってきたのだ。

 この痛みは、あんな薬1本で解決していいもんじゃない。

 例えヤムたちを傷つける結果になろうとも、俺が責任を負わねばならない。


「ご主人様。騎士団から連絡です。殺戮王様のご遺体を収容しました。ご覧になりますか」

「ああ……」


 目を背ける誘惑を懸命に押し殺し、フェイティスが開いたディスプレイシートを覗き込む。


 見せられた映像は、俺が見たビジョンを裏付けるものだった。

 殺戮王の義体が空に向かって手を伸ばしている。


「こいつ……」


 俺がさっきの映像で見たのは殺戮王視点だった。

 客観的に見ることで、俺はようやく理解できた……彼がどんな気持ちで逝ったかを。


「……わかった……ちゃんと、伝えるよ」


 俺がヴェニッカに向かっていれば、何か変わっていただろうか。

 多分、殺戮王を助けることはできただろう。

 あるいは代わりに死ぬのが、自分になったかもしれない。

 今となっては、わからない。


 ただひとつ、確かなことがある。

 人の魂はガフの部屋で綺麗に浄化され、新たな生命へと転生する。

 あとは彼に悔いがないことを祈るばかりだが、無用の心配だろう。


 彼の死に顔は、すべての憑き物が落ちたかのようにやすらかだった。

 義体のは、殺戮王の心情を正確に寸分の狂いもなくトレースする。

 彼は一切の無念もなく、逝ったのだ。




 叛乱は終わった。

 背徳都市ヴェニッカにはマザーシップからヒュプノウェーブブラスターを照射、記憶処理を行なった。同レベルの事件が発生しない限り、記憶復帰の心配はないだろう。


 事前に聖鍵騎士団の手によって、新・聖剣教団のメンバーは捕縛。

 永劫収容所にて、ひとまずコールドスリープ。処分は追って考えねばならない。


 特にフランついては、慎重に決める必要がある。

 フランは使徒フラビリスがどの程度、彼女の中に根付いているかが問題だ。

 彼女のことは非常に気がかりだが、今は想いを押し殺す。


「アキヒコ様……」


 マザーシップのミーティングルームに集めたリオミたちにも、殺戮王が死亡したことは伝えた。

 責められるかと思ったが、彼らは無言のまま静かに立っていた。

 リオミだけは、悲そうな顔で俺に寄り添ってくれた。

 だが、その気持ちに甘えるのは少し早い。


「……大丈夫だ。まだ、やらなきゃいけないことがある。一緒に来てくれるか」

「どちらへ?」


 リオミの問いは、非難にも似た響きを持っていた。

 この期に及んで、何があるのかと。

 俺はゆっくりと頷いてから、魔鍵を空間から引き抜く。


「央虚界に、ラディたちを迎えに行く」


 それが、最後。

 オリジンがラディを狙わない以上、これ以上彼女を央虚界に留めておく必要はない。


 封鎖していたゲートも開かねばならない。

 脱出しなかったクローンが向こうで待ち伏せしているかもしれないが、今の俺なら大した脅威にはならないはずだ。

 リオミを連れて行くのは、彼女の『声』が保険になると考えてのことである。できれば安全面から連れて行きたくないが、来るなと言っても彼女はついてくる気がした。


「はい。わたしはいつでもお側に」


 リオミは、もう一児の母である。

 息子の側にいてあげたいという気持ちもあるだろう。

 だが、同時にタート=ロードニアの王族でもあり、ピースフィアの第一王妃でもあった。

 常に息子の側にいられるとは考えていないし、愛する子供を任せられる者もいる。

 あるいは、自分だけは連れて行ってくれることに、素直に歓喜したのだろうか。


 涙混じりの微笑みは、とても美しかった。


「央虚界の状況はわかるか」

「はい、いいえ。ゲートを時空封鎖しているため、中との連絡も一切とれません」

「それはそうか」


 ゲートを時空封鎖したので、央虚界内にルナベースの演算処理が通らない。つまり、中に残っているクローンたちは量産鍵を使うことはできないし、転移などをすることもできない。

 ジュエルソードシステムと魔法修得オプションを使えば住まいや食料で困ることはないから、クローンたちが野垂れ死ぬ心配はない。ラディのいる避難所にも十分な食料と水が備蓄されている。問題はないはずだ。

 まあ逆に言えば、こちらからも状況は把握できないということでもある。フェイティスに聞く前に気づくべきだった。


「……アキオミを頼む」

「おまかせを。無事に王宮までお連れします」


 フェイティスに頼んでおけば、確実だ。

 リオミも不安なくついて来られる。


「ヒルデは何かあったときのために、このままマザーシップの指揮を」

「任せてくださいまし」


 ヒルデは臣下の礼を取る。 

 誰一人、俺の言葉に異を差し挟む者はいなかった。


 だが、リオミとともに央虚界ゲート前まで転移した直後。


「アキヒコ様……また、辛くなったら……今度こそ、わたしに話してください」


 2人きりになった途端、彼女は涙まじりにすがりつき、懇願してきた。


「リオミ……」

「貴方は勇者でもなければ、王の器でもない。ただの弱い人間だということは、もうわかっています。それでもわたしは、貴方についていきますから」

「……ありがとう、リオミ」


 今はそれしか言葉が見つからない。

 以前のアキヒコは溜め込み方と発散の仕方を間違えた。

 同じ過ちを繰り返さぬよう、ひとつひとつ進んでいこう。


「ゲートの封鎖を解除する。《フォースフィールド》を展開して、身を守っていてくれ」


 俺がみなまで言う前に、彼女は対物理障壁の展開を終えていた。

 ゲートの封鎖を解いた瞬間、自我を持ったクローンが襲い掛かってくる可能性だってあるのだ。


「開くよ」

「はい!」


――魔鍵、起動。

――央虚界ゲート、解放。


 アーチ状のゲートが、央虚界との繋がりを取り戻す。

 しばらくの間は様子を見たが、クローンが現れる様子はない。


「来ない……ですね?」

「先に行く。大丈夫そうなら戻って呼ぶから」


 リオミの返事を聞く前に、俺はゲートの中へと歩を進めた。

 既に何度も行き来している央虚界ではあるが、クローン叛乱後、出口がどうなっているか不明だ。

 つい先日、造物主を量産鍵に取り込んだばかりとはいえ、あれから状況は大きく変わっているのだから、一切油断できない。


 だが、俺の心配は杞憂だった。

 ゲート付近に陣取っているクローンは、ひとりもいなかった。

 それどころか、見慣れた青の大地と赤い空すらなかった。


「……ここは、オクヒュカートの隠しラボ……?」


 間違いない。

 俺が魔人化処理を受けた施設と、よく似ている。

 部屋そのものは半径20mほどのドーム状で、扉がゲートから正面に見て1つ。


『ようやく来たか。待ってたぜ』


 どうやら俺がゲートをくぐったのを、センサーか何かが感知したらしい。

 目の前に、俺とそっくりの男の立体映像が浮かび上がった。


「オクヒュカートか?」

『みんな待ってるから、こっちに来い。というか、オレはお前に言いたいことが山ほどあるから本当に早く来い』

「なんでゲートを抜けた先がお前のラボになってるんだ……?」

『早く来いと言ってるんだ』


 明らかにオクヒュカートはイラついていて、腕組みをしたまま神経質そうに人差し指で二の腕を叩いていた。

 何か怒らせるようなことをしただろうか。


 俺はリオミを呼んでから、再びゲートをくぐる。


「聞いていた場所とずいぶん違う気が……」

「実際違うから安心してくれ」


 我ながら全然安心できなさそうなセリフを吐いてしまった。

 もうオクヒュカートの映像は消えていたので、リオミとともに唯一の自動扉をくぐる。

 その先は長い通路が続いており、左右には均等に扉がいくつも並んでいた。


『そのまま、まっすぐだ』


 オクヒュカートのアナウンスに従い、まっすぐ行った先の大きな扉の前に立つ。

 すると、扉は真ん中から左右に開いた。


「これは……」


 目に飛び込んできた空間は途方もなく広大だった。

 部屋……といっていいのだろうか。ここには無数のベッド型カプセルが均等に並べられており、地平の彼方にまで続いていた。

 広さに比べて天井はせいぜい3mほどと低く、央虚界の赤い空は未だに見えていない。

 本当にここは央虚界なのか、確信が持てなくなってくる。


「アキヒコ様が、いっぱい……」

「え? うわっ……」


 リオミはベッド型カプセルの中身を覗きこんでいた。

 彼女の言うとおり、カプセル内では俺と同じ姿をした人間が眠っていた。

 おそらくは央虚界で活動していたクローンたちが、ここでコールドスリープにかけられているのだろう。

 だけど、どうして……。


『そいつらは無視して、今出た扉の近くにあるテレポーターを踏んでくれ』


 この状況に何故と問いたいところだが、ひとまずはオクヒュカートのいるところまで行ったほうが良さそうだ。

 テレポーターの先は、ラボとはまったく違う雰囲気の場所だった。

 先ほどとは打って変わって、ごく普通の広さの1LDK。

 というか、ここは……。


「あっ、お兄ちゃん!」

「む? 来たか」


 少し驚いた様子で俺たちを出迎えたのは、ディーラちゃんと幼女型義体のラディ。

 ディーラちゃんは料理中だったらしく、フライパンを持ちながらエプロン姿。俺の姿を認めた彼女は晴れやかな笑みを浮かべていた。

 ラディはゆったりとした服に身を包み、椅子に腰掛けたままワインを嗜んでいた。少し酔っているのか、気だるげに流し目を送ってくる。


 そう。

 ここはふたりを保護するために作った避難所の中だった。


「ふたりとも、よかった。無事だったか?」

「うむ、何とかな……正直、もうダメかと思ったが」

「え、それはどういう……?」


 リオミがラディに事情を聞こうと彼女に歩み寄った、そのとき。


「おい!」


 声に振り返ると、拳が見えた。

 空間遮蔽を当たり前のように突き抜けて。

 目前に迫る拳は何故かゆっくりと、俺の顔面を狙って伸びてくる。


 俺はとりあえず首を逸らして拳を避け、伸びてきた腕を両手で掴み、そのまま勢いを利用して投げ飛ば……そうとして。

 やめた。

 俺はパンチを外してバランスを崩した襲撃者……オクヒュカートの体を支える。


「な、何しやがる!」

「それは俺のセリフだよ。いきなり殴りかかってくるな」


 オクヒュカートが暴れようとしたので、俺は掴んでいた腕の関節を極める。


「ぎゃああああっ! くそっ、お前は殴られるだけのことをしただろうが~!」

「……はあ?」


 俺、こいつに何かしたっけか?


 ふとオクヒュカートが現れた方を見る。そこには壁と設置されたテレポーター以外何もない。

 おそらく、オクヒュカートも別の場所からテレポーターを使って来たのだろう。


 さっきの様子から怒ってそうだとは思ったが、そこまでしてこちらの背後をとってくるとは……何が理由だ?


 油断なく周囲を見渡す。

 別の刺客が潜んでいる気配はない。

 ディーラちゃんもリオミも驚いた様子で、こちらの様子を伺っている。

 ラディだけは相変わらず斜に構えながら、ワインを愉しんでいたが。


「気配消去スキルもちゃんとインストールしてたのに。声かけるんじゃなかった」


 オクヒュカートがぼやく。

 あんなノロいパンチじゃ見てからでも対応できるだろうに。

 ひょっとして、オクヒュカートは敵か? 敵に回るのか?

 それなら、どうする……。


「その辺にしておけ、アキヒコ」

「む……」


 ラディは酔っているわけではないらしく、その声は聞く者を無条件で従わせるカリスマ性に満ちていた。

 もっとも、精神遮蔽している俺に通じるわけじゃないけど。


「彼奴の言い分も聞いてやれ。そうすれば、1発ぐらい殴られてやろうという気分になれるやもしれん」

「なんだそりゃ……?」


 どういう意味かはわからないが、どうやら俺はオクヒュカートを怒らせるようなことをしたのはラディも承知のことらしい。

 契約までかわした彼女が俺を裏切るとは考えにくい。そんな彼女がオクヒュカートをフォローするということは、彼もまた裏切ったわけではないということだろうか。

 ひとまず、ここはラディの要求を受け入れることにしよう。


「いいか、今から解放するけど……また襲ってきたら今度は容赦しない」

「いつつつ! 力を強めるな! わかった、わかった!」


 たっぷりと言い含めた上で、俺はオクヒュカートから手を離した。

 オクヒュカートは涙目で俺を恨みがましく睨みつけながら、極められていた右手を擦る。


「ったく、なんのチップ使ってやがる」

「バトルアライメントチップのことか? いや特に……」

「嘘つけ! でなきゃ、あんな身のこなしで動けるかよ」


 ……ひょっとして、さっきのスローモーションは普通のスピードだったのだろうか。

 魔鍵を使った超加速はオールエンチャントしたグラディアだからこそできた芸当だし、俺は何もしていないはずだが。

 単純に魔人としてのスペックなのだろうか。だが、オクヒュカートだって魔人のはずだ……どういうことか、さっぱりわからない。


 あとで自分の性能をテストすることを検討しつつ、リオミとディーラちゃんに目配せする。


「と、とりあえず3人とも座って! 何か用意するから」

「は、はい! ささ、アキヒコ様もオクヒュカート様もこちらへ」


 ちゃんと汲み取ってくれたらしい。

 ふたりはせかせかと動き出す。ディーラちゃんはキッチンに引っ込み、リオミは俺とオクヒュカートに椅子を薦めた。


「チッ」


 オクヒュカートは不愉快そうに舌打ちしながらも、しぶしぶ席についた。

 俺もそれにならう。

 リオミは俺とオクヒュカートの間の席に座った。

 俺と彼を引き離し、何かが起きた時にはすぐに止めるつもりか。


「そういえば、シーリアは?」


 なんとも言えぬ気まずい雰囲気を払拭すべく、俺は今ここにいない人物を話題に取り上げる。


「うむ、姉者は少々取り込み中だ」

「姉者って……お前の方が長く生きてるだろうに」

「それを言ったらディーラとてお前より長生きしておるわ、痴れ者」


 ラディの言うことはもっともだが、なんか納得いかない。

 自分の名前が出たからか、キッチンの方からディーラちゃんが手を振っている。超感覚の射程内だから聞こえるんだろう。

 かわいらしいが……あの動作だけで、どれほどの宇宙怪獣が藻屑と消えたか。

 苦笑いしか出てこないな。


「さて、余は両者の事情を飲み込んでおる。故にこの場を仕切らせてもらうが、よいな?」

「ああ、わかったよ」

「しょうがねぇ……」


 休戦を承諾したところで、早速ラディが目を細めながら呆れと懐疑の視線を送ってきた。


「そなた、オクヒュカートには真相を伝えなかったな?」

「えっと……まあ、伝えなかったかな」

「何故だ?」

「何故って言われても……敢えて言うなら俺のことをオリジンだと思い込んでるみたいだったし、無理に訂正するのもアレかなーと……」


 もうオリジンのフリをする必要もないと思い、正直に話す。

 てっきり俺がオリジンじゃないことにオクヒュカートが驚く場面なのかと思ったが。


「……だそうだ。やはりお前と同一起源だな」

「なるほど。うん、オレだな……言われてみれば同じことするわ」


 などと、ラディとオクヒュカートは互いに申し合わせたように頷き合っていた。


「では、続きだ」


 ラディがテーブルの上で両肘を立て、口元で手を組む。

 そのポーズ、碇○令を思い出すなぁ……ノブリスハイネスがいなくなっても、ヲタク知識が消えるわけじゃないのか。


「つまり、その時点でオクヒュカートの奴に状況を伝えないリスクについて、そなたは微塵も考えなかったのだな?」

「……リスク?」

「うむ」


 ……何か、あるだろうか。

 しばらく考えてみるが、思い浮かばない。


「特に問題があるようには思えない、けど……」

「よくわかった」


 ラディは目を伏せ、はっきりと宣言した。

 

「そなた、かなり迂闊なミスを犯したぞ。しかも普通なら簡単に思いつくであろう、当たり前のことを見落としておる」


 当たり前のことを見落としている?

 俺の怪訝そうな表情を見たラディはため息をひとつつき、リオミに視線だけを向けた。


「リオミよ、アキヒコの犯したミスがわかるか」

「は、はい。多分ですけど……」


 リオミにはわかる何か。

 俺にはわからない何か。


「あー……いいさもう、いい、いい。コイツがオレをハメたわけじゃないってわかれば充分だ」


 オクヒュカートまでお手上げとばかりに大きく伸びをしていた。

 先ほどまでの敵意も波が引くようになくなっていた。


「よいか。そなたは……」

「まてまてまてまて。今考えるから、言うな」


 俺のミスの正体を指摘しようとしたラディを慌てて止める。


 ここまで言われるからには、みんなの気のせいということもない。

 俺はオクヒュカートを怒らせるような何かをしでかしたのだ。


 オクヒュカートが怒るようなこと。

 俺がオリジンのフリをして、彼に状況の説明をしなかったこと。

 それによって発生するリスクとは……一体。

皆さんはアキヒコの犯したミス……わかりますか?

いつもどおり、彼の秘匿癖が原因です。

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