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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode01 Sword Saint Aram

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Vol.09

「誰だぁ、あんたら」


 第一村人発見。


「冒険者ギルドの方から来ました。村長さんはいますか?」

「ほんとかい。もう来ただか、早ぃねぇ。今呼んでくっから待っててな」


 第一村人は仲間を呼びに行った。


「空間移動……こんな高度な魔法を無詠唱で使えるのか?」


 素直に感心した様子のアラムは、もう俺の背後にきていた。置いていくぐらいのつもりで早歩きしてたのに。流石に速い。

 隣に来るほど気を許してはいないからなのだろうが、俺の後ろに立つな。


「まあ、そんなところだよ」


 全然、魔法ではないのだが。本人がそれで納得するなら、そういうことにしておく。


「羨ましいです。わたしの魔法は詠唱を短縮できても、省略できませんから」


 リオミの声紋魔法は発声必須だしな。

 テレポート自体は、そこら辺の魔術師風情ならともかく、リオミなら簡単に使えるはずだ。

 それはともかく、リオミの美声を省略するなんてとんでもない。

 人類の損失だよ、チミぃ。


 ちなみに俺の転移は、マザーシップを一度経由している。ただ単に、マザーシップでいちいちテレポートアウトしていないだけだ。

 最大の弱点は、やっぱり聖鍵を起動するのに接触が必須である点か。ルナベース検索はオンラインにさえなっていれば空間収納中でも使えるが、収納している間はネットワークのオンオフの切り替えがができない。今ちょうどその問題点をルナベースに報告して、空間収納した聖鍵を一部分だけ露出する機能を開発させ始めたところだ。

 これが成功すれば、聖鍵のちょっと面白い使い方ができるようになる。


「私が村長です」


 村長が来た。

 あ、まずい。

 そのセリフを聞くと、無意味に殺意が湧いてくる。


「まさかこんなに早く来て頂けるとは思わなかったので、歓待の用意ができておりません」


 俺の理不尽な怒りを感じ取ったのか、怯えの混じった声で謝罪する村長。

 すまんね、あんたは別に悪くないんだ。

 悪いのは俺のゲーム脳。


 とりあえず、村長は本当に悪くない。

 アラムの言っていたとおり、王都からメイラ村は馬を使ったなら3日かかる距離だ。依頼を出した時間を逆算すれば、早すぎる事は間違いない。


「構いません。すぐにドラゴンを倒しに行きますので、目撃された場所やドラゴンの姿について、改めて詳しく教えて欲しいのですが」


 どうやら、ドラゴンを目撃したのは第一村人だったらしい。

 訛りが強くて会話に難儀したが、要約するとこうだ。

 森で狩りをしている最中に、突然周囲が暗くなったことを怪訝に思って空を見上げると、そこに巨大な翼を広げた真っ赤なトカゲが飛行していた。伝承に聞いていたドラゴンだと気づいたのは後の事だったが、そのときは恐怖で声すら上げられなかったのだという。太陽の日差しで美しくキラキラ輝いていたのが印象的だったそうだ。


 俺は即座に聖鍵にアクセスし、「ドラゴン メイラ村 目撃 場所」と検索した。1件ヒット。場所はあってる。村人が嘘をついてない裏付けがとれた。衛星監視映像で俺が見た赤い影とも一致する。同一の個体で確定。

 衛星がドラゴンを見失った地点と、今回の目撃された場所、飛んでいった方向などから行動範囲を絞って、居所を特定する。指定された範囲内に調査ドローンを派遣、痕跡を探させる。数は、とりあえず100機でいいか。ローラーさせよう。

 アラムが村人に聞き込みをしている間にいけるか?

 ……よし、それらしき洞窟を見つけた! 1機を監視として残し、他は帰還させる。

 念のため、この付近で使えそうな施設を確認……ミサイルサイロか。対空ミサイルを発射用意。ドラゴンが逃げ出したときには撃ち落とすように命令を出しておく。


「ふむ、意外と近いな……」

「どうした?」


 俺のつぶやきに、アラムが眉根を寄せる。

 だが、俺はアラムを無視して村人に話を振った。


「まだ人的被害は出ていないんですよね?」

「ああ、まーだ誰も襲われたりしてねぇよ」

「わかりました。そろそろ行きます」


 席を立つ。

 リオミも慌てて俺の後に続くが……。


「もっと情報を聞いたほうがいいんじゃないか?」


 アラムは後ろから何か言ってくる。

 いちいち説明しないといけないのか? 面倒な……。


「必要ない。俺はもう行くぞ」


 アラムは不承不承といった様子でついてくる。

 悪いなアラム。アンタと必要以上に馴れ合うつもりはないんだ。リオミがいるんでな。

 とりあえず、移動する理由だけを簡潔に告げる。


「ドラゴンの巣を見つけた」

「何だと!?」


 転移のとき以上に驚きを隠せないアラムに、今度はどう言い訳しようかと悩む。

 聖鍵は俺にしかアクセスできない。この感覚は他人に説明しようがないのだ。便宜上、検索という表現を使っているが、実際頭の中でやってるイメージに過ぎないからな。

 一応アラムには魔法だと答えておいたが、流石に今度は納得してくれなかった。


「ほんとうに、何をどうやったんですか……?

 探索の魔法は触媒が必要だし、あんな曖昧な目撃情報だけで使えるようなものじゃないですし。

 しかも、ドラゴンほど魔法的に強大な生物ともなれば、王国の宮廷魔術師たちが複数人で儀式を行なう必要があるのに……」


 信じられないのはリオミも同じのようだ。

 探索の魔法についてググってみると、概ねリオミの言うとおりで、さらに失敗率も高くなるという検索結果。

 魔法で片付けたのは失言だったか。


 アラムの視線は、もはや敵視と呼んでもいいレベルになりつつある。

 俺もアラムと仲良くしようという気は失せている。彼女の恨みを買うようなことをした覚えがない上、出会ったときから第一印象はよろしくない。

 せめて何か言ってくれればまだ言い返せるのに、アラムはただ俺の背に殺気をぶつけてくるのみ。俺の態度がつっけんどんになることを、誰が責められよう。


 剣聖と恐れられる存在から睨まれても平気でいられるのは、やはり聖鍵や装備によるところが大きい。何をされてもどうにでもできるという確信が、俺に余裕を与えていた。それをアラムは気に入らない……完全にデフレスパイラルである。

 冒険者ギルドでは聖鍵に触れられず、アラムには気圧されるばかりだった。俺の態度の変貌に、彼女も驚いているはずだ。

 ちなみに、思考及び感情の調査はオフにしてある。直接聖鍵に流れこんでくるのは何かと不都合だ。リオミを外し、アラムのほうだけをルナベースに報告してある。この女に遠慮する必要を感じないのだ。


 俺は今、敢えて徒歩でドラゴンの巣に向かっている。時間が欲しかったからだ。

 リオミは転移を使わないことを訝しんでいるようだが、俺に考えがあることを汲み取ってくれたようで何も言わない。良妻の鑑だ。


 さて、そろそろアラムについて調べてみたほうがいいかもしれない。

 アラムと険悪な関係のままだと、俺の目的達成を邪魔される可能性が極めて高い。目的と言っても、失敗したら次ぐらいのつもりのものなので、構わないといえば構わないのだが。

 そこで思考停止してしまうわけにもいかない。


 今までは無関心を徹してきたが、彼女がこれほど俺に敵愾心を燃やすのは、何か理由があると考えるしか無い。

 だが、聖鍵で調べる……それでいいのだろうか。また俺は安易に聖鍵に頼ろうとしている。前にもリオミのことで失敗した。あの経験が、人間相手に聖鍵を使うことを躊躇わせる。

 リオミのときは、どうしたか。


「なあ、アラム。ちょっといいか?」

「……何だ」


 あのときは、お互いにちゃんと話した。それで解決したんだ。聖鍵がなくとも、人間同士なら話し合いで解決するほうがいい。

 もっとも、アラムにまともな回答を期待してのことではないが。


「ずっと疑問に思ってたんだが、俺はアンタに恨まれるような真似をしたのか?」

「……いいや」


 意外にも、否定か。


「正直、会ったときから気になってしょうがなかった。アンタからあからさま過ぎる敵意を感じる。心穏やかではいられない」

「……すまん」


 謝罪だと? 予想外だ。


「これは自分の問題だと、本当はわかっているんだ。不快な想いをさせたのなら、謝まらせてくれ」


 ふと振り返ると、そこには頭を深く下げて礼の姿勢を取る剣聖がいた。

 思わず息を呑む。


「未熟が故の我が身の不徳、どうか許してくれ」


 これまでの敵対が嘘のような誠実さに、たたらを踏んだ。

 顔を上げたアラムの表情を見て、俺は居た堪れなくなって顔を逸らした。

 そこから読み取れたのは、


 喪失の悲しみ。

 届かぬ嘆き。

 目的を失った無軌道さ。

 

 思ってしまった。

 ()()()()()()()()

 

 剣聖アラムと呼ばれる女性が、何を思い、何を考え、どうしてこのような行動に走ったのか。

 彼女に、ひとりの人間として興味を持ってしまった瞬間だった。

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