Vol.20 Noblesse Highness & ... side
超宇宙大銀河帝国ジャ・アーク。
それは、銀河のすべてを支配せんとする皇帝アルティメット・ゴクアックにより率いられる絶対無敵の帝国である。
超銀河大邪神ク・ト・スターを崇める黒闇騎士たちによって征服された星々の者達は銀河奴隷として召し上げられる。絶対服従を強いられ、逆らえば死あるのみ。
そのテクノロジーは他の銀河の追随を許さず、死と恐怖によって遍く宇宙を支配する。
という設定の、余が中学生のときに考えた妄想だ。
それが今や、余自身が皇帝アルティメット・ゴクアックとなりジャ・アークを率いている。
もはやジャ・アークは、余の妄想などではない。
この銀河に確固として存在する暗黒の帝国そのものなのである。
『カイザー・ゴクアック』
『ダーク・チューニ。どうした』
余の前に参じた黒闇騎士のひとり、"黒翼の"ダーク・チューニ。
その名のとおり、黒い羽毛の翼を生やした女黒闇騎士だ。
だが、その美しい黒い翼の片方は第四次銀河戦争のときに失われ、今は空を知らぬ片翼の天使。
ゴシックなメイド服にその身を包み、左手は痛々しい包帯が巻かれ、右目には眼帯をしている。これらの傷はすべて皇帝ゴクアック、つまり余を守るために受けた傷を治療せず、名誉のためにそのままにしている。
という設定の、フェイティスである。
『ご主人……じゃなかった、聖鍵王国の戦艦がダリア星系に向かってきております』
『ついに奴が重い腰をあげたか。15年も待たせおって……』
惑星ジュゴバを改造して宇宙要塞と化してから、随分と時間が経った。
ペズンの力を使わぬと誓ってから、ひたすら他惑星の生命体を労働用銀河奴隷として徴集し、銀河のどこそこで強い戦士がいると聞けば洗脳して黒闇騎士として侍らせ戦力としてきた。
今やジャ・アークにアンロドイドを利用した戦力は存在しない。すべてが命ひとつで立つ強靭な兵士たちである。
『まだ、外では2ヶ月程度のはずです』
『ふん、そうであったな』
あくまで15年が経過したのはダリア星系の時間だけだ。
時間が経ったとはいえ、クローニング技術のおかげでダーク・チューニはいつまでも美しい姿のままであるし、余自身も肉体の大半を機械に置き換えている。
『オリジンとの決着をつける。そのために、多くの時間を費やしたものだ』
奴と戦うための舞台を整えるのにかかった時間が15年なのだ。その間、奴は一切手出しをしてこなかった。いや、出せなかった。余が先手を打ってダリア星系に手が出せぬよう布陣を整えたのである。
ジャ・アークを育ててきたのも、宇宙における勢力を広めてきたのも、すべてはオリジンという絶対上位者を屈服させるため。
そのためには、聖鍵に依存しない戦力が必要だったのである。
『ダーク・チューニよ、余は勝てると思うか?』
『はい。私の右目も疼いております故』
意味不明のセリフを発しながら、臣下の礼を取るダーク・チューニ。
『ダーク・ミヨシン!』
『は、ここに』
どこからともなく現れた黒衣の男が頭を垂れる。
『ダーク・チグリス!』
「は、はいぃぃ~!」
ずっとその場にいた白衣の犬耳娘が、おっかなびっくり反応する。
『征け! 奴らを蹴散らせ!』
「『『ヤー・カイザー・ゴクアック!』』ですぅ~!」
『ジャ・アークの真の意味での始まりは、オリジンを倒す今日となる!』
『……哀れなものですね』
玉座の間を辞した後、ダーク・チューニ……フェイティスが呟いた。
私……ダーク・ミヨシンも応える。
『アルティメット・ゴクアック。自分が何者かを思考することなく、プログラムに則って宇宙の皇帝を演じ続けている』
『まさか、ノブリスハイネスのコピーボットだけが稼働し続けるとは……』
『皇帝にはノブリスハイネスの記憶が移植されている。そういう意味では、確かにゴクアックはノブリスハイネス自身だと言えるな……』
『本物の彼は死にました。もう、いないはずです』
フェイティスは僅かに哀れみの念を込めて、そう言った。
『ノブリスハイネスは、こうなることを予めわかっていたのかもしれん』
『どういうことですか?』
『お前に殺される未来を、ずっと前から知っていた上で……自分が死んだ後も夢を引き継ぐ存在を宇宙に残したのかもしれんということだ』
『ご主人様、私は……』
『わかっているさ。無理を言ってすまなかったな』
彼女には酷なことを頼んでしまったかもしれない。
ノブリスハイネスに近づき、ロストアフターが発生すると同時に暗殺する。
それが、私……いや、俺から課せられたフェイティスの任務。
だが、ノブリスハイネスが消えても……ジャ・アークは止まらなかった。
それどころか、ゴクアック自身は既にいなくなったオリジンの影を追い続ける結果となってしまった。
『とにかく計画は変更だ。ここの中枢はゴクアックと一体化している。アレを量産鍵で乗っ取るのは無理だし、破壊するしかない』
『しかし、どうやって。惑星ジュゴバ……いえ、ダリア星系自体がゴクアック自身のようなもの。ペズンが使えない以上、通常の武装で立ち向かうしか……』
『……フェイティス。君はチグリを連れて、ジュゴバを脱出しろ』
『ご主人様はどうされるのです?』
彼方に、マザーシップの姿を幻視する。
否。これは、ダーク・ミヨシン・セットのマスクに表示された遠景。
『俺は俺で、黒闇騎士としての務めを果たすさ……』




