Vol.18
「……初めまして、というべきかな」
『…………』
「俺はアキヒコ。一応、アースフィア担当のクローンだ」
『……よく知っている。オリジンから聞いていたからな』
「そうなのか……」
時空オンライン通話の向こう側から、俺と同じ声。
それでありながら、まるで別人のような響き。
殺戮王、通称ロリコン。
『こうして話すのは、確かに初めてだったな』
「ああ……接点があんまりなかったし、オリジンの指示で同期もほとんどなかったから」
リプラさんとヤム担当だったクローンが自我を持った三好明彦。最も危険なクローンのひとりであり、オリジンに『死にたくなければ決して顔を合わせるな』とまで言わせた男。
その言葉の意味はわからないが、今もこうしてスマートフォンの通話で会話を済ませている。
『それで……どうして今更?』
「一時AAランクを付与しておいた聖鍵騎士団が、キミを助け出したって聞いたんで」
『……なるほど。どうしてゴズガルドがクローンを倒せたのか……妙な話だと思ったが、ランク付与か』
これがもうひとつ、オフラインクローンがそれほど恐ろしくない理由その2。
聖鍵騎士団も一時AAランクが付与されれば、同ランク扱いなので空間防御を抜くことができる。
一時期、クローンを操作するのに中枢区への接続が必要だった時代にも、一時的にAAランクを付与したことがあった。
量産鍵を使えないクローンは、彼らのランクを剥奪することができない。
それをしようと量産鍵をオンラインしてくれれば、俺が支配権を奪うことも可能になる。
実は既にこの方法で何人かのクローンを捕縛し、コールドスリープにかけてある。
殺戮王を襲った生き残りも現在、思考尋問をかけられているところだ。
「まず、立場をはっきりさせておきたい。俺はキミの敵に回るつもりはない。リプラさんとヤムについても任せるつもりだ」
『…………』
「キミが彼女たちに拘っている事は聞いてる。邪魔するつもりはない」
『貴様、ヤムの気も知らずに……』
「……まずいのか?」
かなり譲歩したつもりだったんだけど、これだと不服なのか。
それなら、何か別の条件を提示する必要があるのだけど。
『……いや。コレに関しては、俺が越えなければならない問題だったな。気にするな』
「そうか」
と、思ったが。
意外なほどあっさり引き下がってくれた。
自己完結するあたり、俺とよく似ている。
「とにかく、彼女たちについては聖鍵騎士団が護衛についてる。早々人質に取られたりすることはない筈だ。とにかく敵に回るつもりはない。信じて欲しい」
『……いいだろう。今は信用しておいてやる』
「問題は、その先」
いよいよ本題に入る。
信じて欲しいと言いながら、今度は俺が彼を疑ってかかる番だ。
「キミを狙ったクローンがブラッドフラットというのは、本当なのか?」
『ああ。奴らは新・聖剣教団を名乗り、お前を含む三好明彦後継者に対する敵対意志を明確にした』
「信じられないな……」
彼はフランと行動を共にし、ピース・スティンガーについてもオリジンを恨んでいる素振りはなかった。
何回か問題無い範囲で同期させてもらったことがあるが、俺が唯一嫌悪感を抱かなかったクローン。
良くも悪くも、三好明彦らしくない男。それがブラッドフラットに対する評価だった。
『俺の電脳に記録されている筈だ。あとで提出しろというならするが』
「ああ、わかった。そうしよう……」
叛乱に与するどころか、主導する立場となったブラッドフラット。
いったい、彼の意図はどこにあるのだろうか。
『他に話せることといえば、あとは……』
そこで、殺戮王が言葉を詰まらせた。
「……どうしたんだ?」
『いや……』
「話しにくいことがあるなら、無理に言わなくてもいいぞ」
『そうだな……』
お互い、言いたくないことのひとつやふたつ、いや百や千あるだろう。
三好明彦同士であろうと、プライベートは大切にする。それが俺たちのポリシーだ。
……だったのだが。
「何を甘いことをおっしゃってるんですか、アキヒコ様!」
「リ、リオミ!?」
「ちょっと代わってください!」
リオミは俺のスマートフォンをひったくると、スピーカーモードをオンにした。
これで、この場にいる俺、リオミ、そして先ほどから黙っているシーリアの声が殺戮王に聞こえるようになる。
完璧に使いこなしてんなぁ……うちのカーちゃんガラケーも駄目なのに。
「もしもし、リオミです。ロリコンのアキヒコ様ですね?」
『あ、ああ。そうだが』
「アキヒコ様にも言ったのですが、いい加減、隠し事はやめてください。本当に!」
『だ、だが……』
「わたくしにとっては、貴方もアキヒコ様。つまり夫です! いいですか、夫婦で隠し事をするなとまでは言いませんが……アキヒコ様の場合はあんまりにも酷すぎます!」
『それはオリジンが……』
「貴方もですか! 貴方もこっちのアキヒコ様と、まったくおんなじことをおっしゃるんですね? なーにが『顔は同じだけど実質的には別人なんだ』ですか! やってること同じじゃないですか!」
『む、むぅ……』
「この際ですから、はっきり言わせて頂きます。わたくしはアキヒコ様は全員、夫だと思っています。どんなアキヒコ様であろうと、わたくしは愛してみせます。これは絶対です。ですから、貴方もわたくしを信じて話してほしいのです!」
『…………』
……うわー。
どうしよう、すごく恥ずかしい。
でも嬉しい。なにこれ、こんなの知らない。
『……そうか。キミはどんな世界でも、変わらないんだな』
「……はい?」
『あのときは、俺はキミを信じることができなかったが……』
「は、はあ。あのとき……?」
『わかった。俺の知っていることは、すべて話す』
「そうです、か……?」
えっと。
リオミ……そこで助けを求めるような顔で俺を見ないでくれないかな。
シーリアも、なんでそんなニヤついてんの。
「じゃ、じゃあ。さっき話さなかった事を教えて下さい」
『ああ。とはいえ、俺にもどういうことかよくわからんのだが……』
殺戮王の話は、そう難しいことでもなかった。
いなくなった筈のオリジンからのホットラインがあったという。
その内容が、俺の抹殺だったと。
殺戮王が話すかどうかを逡巡し、リオミの説得で引き出した告白に対する俺の感想は、
「なんだ、そんなことか」
だった。
『そんなことって……俺は、この謎を解明するために心を新たにしてだな!』
「ああ、すまんすまん。でも謎って言うほどでもないだろ」
『くっ……なら、お前にはわかるのか?』
「考えても見ろよ。ブラッドフラットと戦ってたとき、アイツの言ってたことを嘘だと思ってたわけだろ?」
『当たり前だ』
「でも、今は俺と話して……ブラッドフラットの方が真実だとわかっている。その上で、ちょっと考えればすぐわかる筈だ」
しばしの沈黙。
「アキヒコ。話を聞いていて思ったんだが……」
「ん?」
殺戮王が答えを出す前に、シーリアが割って入ってきた。
「普通に考えれば、アキヒコを亡き者にしようとする者が彼を騙そうとしたという話なんだと思うが……」
「シーリアは、どうしてそう思うんだ?」
「いや、そうとしか考えられんだろう。アキヒコを殺すことで得する人物といえば、やはり別のアキヒコであろうし……現に、貴方は狙われたではないか」
シーリアの言うとおりだ。
普通に考えれば。
『ライアーか?』
シーリアの話を聞いてか聞かずか、殺戮王が最初の答えを提示する。
『ヤツならオリジンのフリをして俺を騙す演技をすることは容易い筈』
「うんにゃ。アイツは確かに嘘つきだけど、オリジンに成りすましてホットラインを使えないよ」
『なら、ノブリスハイネスということになるな。ヤツの側にはチグリがいる。彼女なら俺の電脳通信のコードを調べるぐらい朝飯前の筈だ』
「まあ、そうだな。そのあたりが仮説としては妥当なところだ」
『オリジンを騙った人物が誰か、アキヒコを殺害して利益のある人物だと考えたなら、もうその2人のどちらかしかいない』
「そうだろうね」
俺は肩を竦め。
「目的が、本当に俺の殺害だったなら……だけど」
『……なんだと?』
「ごめん、殺戮王。俺は今、わざとみんなの思考方向を誘導したんだ」
「今度は何をしたのですか、アキヒコ様」
ううっ……リオミの目が冷たい。
しょうがないじゃないか、こういうやり方が好きなんだ……。
「殺戮王には今、ブラッドフラットの言ったことが真実だと仮定した上で考え直せって言っただろ。そのあと、シーリアはなんて言った?」
「む? 私は単にロリコンの彼を騙して、アキヒコにぶつけようという魂胆があったのではないかと指摘しただけだが……」
「そうなんだ。オリジンがいなくなったという情報が加わると、普通はそういう考えに行き着くんだ。絶対に」
『…………』
殺戮王が再び考え始めた。
彼は俺と同じ三好明彦のクローンだから、このロジックがすんなりと入り込んでいる筈だ。
だが、シーリアは腑に落ちないとばかりに反論してくる。
「だが、ブラッドフラットの言った言葉は本当なのだろう?」
「ああ、本当だ。だけど、真実に基づいて考えれば正しい結論が導き出せるなんてのは、まったくのデタラメだよ。ライアーも多分、同じ事を言うね」
『……そういうことか。ようやく合点が行ったぞ、アキヒコ』
どうやら、殺戮王も気づいたようだ。
どんなに違うルートを辿っても、起点が同じ三好明彦である以上、本質は同じだ。
「ええと……ひょっとしてと思うのですが、アキヒコ様」
「うん、多分……リオミが考えてるので正解」
「…………」
リオミは、すっごく嫌そうな顔をしている。
「待て! このパターン……許さんぞ!」
すると騒ぎ始めたのはシーリアだ。
「おいおい、どうしたんだ……?」
「私をただの脳筋剣士だと思ってもらっては困る。昔とは違うんだ!」
『シーリア……わからないんだな』
「そうやって馬鹿にするのはやめてもらおう!」
やめろ殺戮王……余計な事を言って刺激するなよ。
こっちの嫁さんも怒らせると怖いんだから。
「シーリア……無理をしなくても、大丈夫ですよ」
「うわー! やめてくれリオミ! そういうのが一番傷つくんだ!」
リオミもほら。頭を抱えて蹲っちゃったじゃないか。
「おい、その姿勢だと赤ちゃんが……」
「おっと、そうだな……」
すぐにお腹を庇うように体制を立て直すシーリア。
心配に思ったのだろう、赤ちゃんのステータスを確認すべくシーリアが自分のスマートフォンの表示を見ると。
『まま、がんばって!』
と、赤ちゃんの感情が言語化されていた。
「うわぁー!」
シーリア……かわいそうに。
まあ、なんやかんやあってシーリアへの種明かしが終わった後。
「悪辣だな」
「悪辣ですね」
『悪辣だ』
「悪辣だよなー」
コレが一同の感想であった。
「貴方たちのことです!」「貴方達のことだ!」
『「えー」』
「……でも、これって仮説なんですよね? 証拠は何一つないですし」
「うん。でも、多分そうだと思うんだよな。今現状、こうして俺と殺戮王が和解してる時点で」
「にわかには信じられんが、アキヒコ両名が同じ考えに行き着いたということは、そういうことなんだろうな……」
『まあ、本当かどうかはいずれわかる。この戦争が進んでいけばな……』
ひとまず、保留ということになった。
正解はCMのあとで。
「で、次の話なんだけど。ブラッドフラットの言ってた新・聖剣教団についてだけど……」
『何かわかったのか?』
「いや、サーチかけても大したことは。せいぜい、ブラッドフラットが同期遮断後のドサクサに紛れて惑星アルテアからアースフィアに転移してきてたってことぐらいかな……」
俺がオフラインで活動してた期間は、そう長いものではない。
ブラッドフラットは、そのごく少ない時間で計画的に一部のクローンたちを取りまとめ、能力を与え、殺戮王に対する襲撃のために必要な物資……リフレクタードローンなどを用意した。
「事前に準備していたとしか思えんな……」
殺戮王からの話を聞いた限りでは、シーリアの言葉に同意せざるを得ない。
秘密活動前にできるだけ量産鍵でしかできないことを終え、活動を開始してからはオフライン化。完全な秘密活動に徹している。
武装もディスインテグレイターと能力など、ルナベースの支援を受けずに使用可能な装備を整え、その運用方法に至るまでをマニュアル化し、クローンにやらせているのだ。
『ヤツは俺以上にオリジンに接近していた。俺は自分の能力については隠していたが、それも筒抜けになっていたようだ……』
「そういえば、お前の能力って……」
『この通話、盗聴は?』
「大丈夫。非整数次元暗号だから、俺達以外には意味不明になる」
『……そうか』
殺戮王の能力は、彼にとっての切り札なのだろう。
それを俺達に伝えてしまっていいのか、悩んでいるのか。
「無理に言わなくても……」
『……リオミ』
「はい?」
『キミにだけ伝えよう。その上で、2人に話すか判断してくれ』
「わかりました」
リオミはスマートフォンのスピーカーモードをオフにして、受話機に耳をあてる。
そのまましばらく能力のあらましを聞いていたが、
「……それは、すごいですね」
と、呟いた。
しばらくまた黙ったまま聞いていたが、
「でも、隠すほどじゃない気がします。2人には伝えますね。じゃあ、一度」
そう言って、通話を切った。
「で、なんだって?」
「はい。ロリコン様の能力は《オーソーン・キルダイヤル》といって、視界内にいる命を奪う事ができるそうです」
「ほうほう。では、対峙した相手は問答無用で殺されてしまうわけか……」
シーリアが腕組みしつつ、ひとつ頷いた。
「無理だな。私では勝てない」
「まあ、シーリアは正面から戦うタイプだしなぁ」
「でも、わたしも似たようなことできますよ」
「え、マジで?」
リオミがそんなことできるなんて、初めて知った。
おかしいな、リオミの魔法は習得オプションを装備すれば俺も使えるはずなんだけど。
「視界内とまでは行きませんが……声を聞かせた相手なら、大抵のことはさせられます」
「ああ、示唆か……」
過去の同期記憶……というより、もう完全に俺の記憶といった感覚が近いが、かつてカドニア傭兵どもを互いに殴り合わせたときに使った言霊だ。そういえば、体系化された魔法じゃないから装備オプションでは使えない。《チャーム》とかを使えば、似たようなことはできるだろうけど。
「ただ、魔法ではないので、対アキヒコ様用として結構重宝しています」
「へ? あ、そうか……魔法じゃないなら、絶対魔法防御オプションのチェックに引っかからないのか……って、まさか」
「うふふ、気づきました? ちょっとさっき、ロリコン様に使わせていただきました」
そして、このニッコリ笑顔である。
「あのー、俺にも……?」
「うふふふ」
……こえー。
やっぱ、リオミこえーよ。
ひょっとして、この子が最強なんじゃないですかね。
「でも、できればあんまり使いたくないんです。アキヒコ様には、ちゃんとわかってもらいたいですから……」
あー、うん、まあ別にいいや。
尻に敷かれても。
「……待て。ならば、リオミのソレを使って他のクローンを説得することは可能なのではないか?」
シーリアが、とんでもないことを言い出した。
そんな簡単に解決できるなら、こんなふうに対策会議してないって。
「それは、どうなんでしょう。ね、アキヒコ様?」
「え、それを俺に聞くの?」
「だって……ほら。聖鍵の御力なら、何かしら対策されそうな気がしますし……」
「ああ、そりゃもう……」
……ん?
あれ、ひょっとして。
「リオミの言霊って、魔法じゃないんだっけ」
「そ、そうですね。私の声に宿った特別な力とでもいいましょうか……」
困ったように首を傾げるリオミ。
「待った待った待った! じゃあ、いったいどういう系統の能力なんだ?」
「それが、わからないんですよ。生まれつきといいますか……何となく魔法と同じような感じで言霊を当ててるだけですから、それほど凄い力というわけでも……」
「えー……と?」
そういやリオミの言霊による示唆について、そんな情報あったっけ。
……いや、ルナベースにはなかった。
解析済みなら情報に載ってるだろうし、そもそも……。
「……さっき、殺戮王とした話は覚えてる?」
「えっと、どの話でしょうか?」
「前の世界で信じなかった云々のところ」
「ああ、それですか。どういう意味だったんですかね」
「多分、殺戮王が聖鍵の勇者として活動してた世界の話だ。アイツもいろいろあるいみたいだから……多分同じようなシチュエーションでリオミから似たような事を言われたんだろう」
「ああ、そういうことだったんですね。すいません、まだ並行世界の話がピンと来なくて」
「それはいいんだけど。ほら、殺戮王は『あのときは信じなかった』って言ってただろ」
「ええ、言ってましたね。それが何か?」
「殺戮王の世界のリオミが同じ力を使っていたら、殺戮王は信じた……というより、さっきみたいに従ってくれたんじゃないかって思うんだけど」
「……うーん。そのときは、わたしも力を使わなかったんじゃないですか?」
リオミはそう言ったが。
殺戮王の口ぶりから考えて、アイツの世界のリオミも必死に殺戮王を止めようとしたんじゃなかろうか。
そのとき力を使わなかったなんて、有り得るんだろうか?
俺の考え過ぎか。
「……リオミは、まさか……」
「???」
殺戮王を止めようとしたリオミは、力を使わなかったんじゃなく。
使えなかったんだとしたら。
他の並行世界のリオミには使えなくて、この世界のリオミにだけ使えるんだとしたら。
「アキヒコ様!」
「あっ……ゴメン。つい……」
「それはいいんですけど。わたしの力について、何か?」
「いや、多分俺の思い過ごしだ」
そうだ、あるわけない。
何かの間違いだろう。
「ちょっと、アキヒコ様! そういうのはナシだって――」
リオミが抗議の声を挙げたとき、スマートフォンが着信を告げるメロディを流し始めた。
「ほら。殺戮王の折り返しだ。出なきゃな」
「は、はい……」
渋々と言った様子だったがリオミはちゃんと電話に出て、スピーカーをオンにする。
『……随分待たせてくれるじゃないか』
「ああ、すまん……ちょっと脱線したもんでな」
『能力の話をしていたのか?』
「いや……」
違う。
能力の話なんかじゃない。
断じて違う。
「わたしにも似たような事ができるという話をしていたんです」
『……なんだって? 本当か!? 声紋魔法じゃなくてか?』
「は、はい」
やめろ。
その話を殺戮王に話すんじゃない。
『どんな力だ』
「それは――」
話すなと言っているのに。
いや、俺は言ってない。
言葉に出せない。
その可能性を口に出してしまったら、それが真実になってしまいそうで……。
『……すまん、リオミ。アキヒコと折り入って話がある』
「また秘密ですか……?」
「デリケートな話題だ。必要なら後で話す」
「……わかりました。代わります」
スピーカーオフ。
念のため、リオミとシーリアには部屋から出てもらう。
『アキヒコ……気づいたか?』
「……何のことだ」
『とぼけるな。さっき、同じ条件で思考誘導されたら必ずひとつの答えに行き着くと言ったのは貴様だぞ』
「……」
『リオミの言霊……そんな力、俺は初めて聞く』
「やめろ。何かの間違いなんだ」
『そこまで気にすることか? まあいい、それなら俺が代わりに言ってやる』
頼む、やめてくれ。
『言葉を聞かせた相手を示唆した通りに行動させる……それは彼女の能力だ』
能力。
ダークウィルスに感染することで夕闇の獣となった人間が扱うことのできる力。
『アースフィアにダークウィルスはない。そもそも、アレはアルテアで発生したダークスの亜種だ。既にパトリアーチが対策済みだし、すべてのアースフィアの人間には、予めワクチンが投与されている。だから、彼女は当然……夕闇の獣ではない』
ならば、リオミは能力者だ。
夕闇の獣となった者が『パトリアーチの遺産』によって理性ある人間の状態のまま、能力を使いこなせる様になった存在。
『そして、もちろん能力者でもない。ワクチンを投与された人間はダークウィルスには感染しない』
……。
『そうなると残る可能性は、ひとつだけ』
そう、もうひとつだけ。
もうひとつだけ、理性を保ったまま能力を使える特例が存在する。
それが……。
『造物主の使徒』




