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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode05 Clone Rebellion

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Vol.07

「なんだ……、これは。どうなっているんだ!?」


 自分の状況を必死で分析しようとするライネル。

 そこへ。

 

「よくよく考えれば、おまえが魔人世界のライネルのはずがないんだよな」


 俺が転移してくるものだから、ライネルの表情……まあ、ディオコルトのだが……は憎悪に狂った。


「き、貴様はぁぁ……!!」

「あの世界は元からパトリアーチには観測されていなかった世界……」

「よくもぬけぬけとボクの目の前に姿を現したな、僭王アキヒコ!」


 ライネルは、俺のセリフをまったく聞かずに殴りかかってきた。

 だが弱体化した俺のクローンを依り代にしているせいか、まるでスピードが乗っていない。


「パトリアーチが介入していない並行世界にベネディクトが接触していたとは考えにくい。何かルールがあったようだからな」


 俺は敢えて空間操作もチップ起動もせず、右手で受け止めた。


「アハハハハ!! ボクに触れたなッ! これでもう、お前は終わりだ!」


 おそらく触れることによって何がしかの攻撃を行なうことができるのだろうが、俺のヘルスゲージやメンタルゲージは一切変動していない。既に力の源となる瘴気をすべて奪っているためだ。


「アズーナンの事件についても、ベネディクトは最初から犯人ライネルを知っていたわけで……」

「くそッ、どうして死なないんだァーッ!」


 《死神の手(デスズ・ハンド)》か?

 それならシンプルだが、凶悪な呪術だ。能力を奪っておいて正解だった。

 他の方法で対峙していれば、少なくともこの肉体は殺されていただろう。


 完全に前後の見境を失ったライネルは、まるで駄々っ子のように両腕を振り回す。

 攻撃とも言えぬ攻撃を躱しながら、観察、分析を続ける。


「なんで! なんで風が出ないんだよォーッ!?」


 その性質は短慮、短気。俺の知っているライネル・バンシアからは想像もつかない。

 魔人転生しているとはいえ、彼をここまで狂わせた要因とは何なのか。


「よほど辛いことがあったんだろうが」

「よりによって貴様なんぞに! ボクの苦しみを理解されてたまるかぁぁぁ!!」

「メリーナのことだろう?」


 ピクリ、と。

 ライネルの動きが止まる。


「その筈だ。囮の俺にはメリーナの記憶を敢えて残してあった。何度かお前からのクラッキングをかけられる前の時点で、共通点はそれぐらいしかなかったからな。おかげで『アキヒコ』はメリーナにベタ惚れだよ」

「なんだ、何を言ってる……囮だと?」

「本当にまだ気づいていないのか? お前は撒き餌に釣られた魚だ。その体も、お前の目当てだった人物じゃない」

「はっ、騙されないぞ! ここの情報はボクの完璧な調査によって丸裸になっているんだ」

「それも俺が掴ませた偽情報だ」

「嘘をつくな! ボクは必ずやり遂げる。その力も持っている! 選ばれた人間なんだ!」


 ……コイツ。

 酷い。これほどとは……。

 会話ができん。


「やれやれ。せっかくディオコルトに復讐する機会ぐらいは与えてやろうと思ったのにな……」

「ディオコルト……?」


 俺の嘆息に怪訝そうに眉を顰めるライネル。

 おいおい。


「そうだ。メリーナを散々玩具にした張本人の体に、お前は今いるんだよ」

「ふざけるな! メリーナのことを弄んだのは貴様だ! ボクらから記憶を奪うどころか居場所まで丸ごと盗んだ貴様が!!」


 ………。

 まさかとは思うけど、コイツ……ディオコルトのことを知らないのか?

 並行世界を渡っていれば、わかりそうなものだが……。

 いや、メリーナの件については情報深度が高いから、コイツがベネディクトから聞いていないなら、知る機会はないに等しい。

 ライネル単独ではルナベースにアクセスできないのは実証されている。


「……つまり、お前は俺にされたことだけを知らされて闇に堕ちたのか」

「メリーナはすべての世界でボクと結ばれなきゃダメなんだよォォォ!!」


 知らせた者がベネディクトということで理解すればいいのだろうか。

 だが、何か奇妙だ。少なくとも情報電子生命体ではあった彼女がダークスに関わる力を授けられるとは思えない。

 だからこそ、俺もあくまでベネディクトは情報提供者に過ぎないとタカをくくっていたのだが……。

 となるとやはり……黒幕がいるか。


「ハハハハッ、ボクはすべての並行世界でメリーナとひとつになるんだ。そういう力をもらったんだよォーッ! ボク以外と! メリーナが一緒になるなんて可能性は一切あってはならないんだッ!!」

「……そうか。ルートを閉ざしていたのは、お前の呪いか!」


 ダークスが呪いを司るのは知識でわかっていたが、よもやそのような形で顕現しているとは。

 こういった悪意が、世界を少しずつ侵蝕し、時には大いなる破滅をもたらすらしい。

 造物主から力を授かった使徒アルコンともなれば、世界の可能性すら越えて発動するというわけか……。


 ベネディクトは記憶消去によるルートを推奨していた。ライネルの能力を知っていたからだろう。

 少年ライネルがクラッキングを受けていなかったように、それによって呪いの影響を免れている。

 心ある人間では、闇に抗えない。逃れ、避けなくてはならない。


 とはいえ今回の手管を見る限り、このライネルはマインドクラッキングによる並行世界攻撃は得意ではないらしい。

 ベネディクトが止めていたのか……だとすると、彼女を消去したのは早計だったか?


 いや、大丈夫か。

 曖昧な精神に関する部分や、生と死に関わる分野なら……瘴気を用いて行使される呪いは凶悪ではあるが。こと物理次元において、精神を持たない機械はダークスに対して圧倒的なアドバンテージを持つ。

 ダークスとの戦いにおいて、心を持たぬ機械が量産されたのはそういった理由がある。俺が人としての心を少しずつ捨てているのも、そういうことである。


 今のような物理的な戦いに持ち込まれた段階で、ライネルの敗北は確定している。

 ダークス側は常にこちら側の目を逃れ、間接的に攻撃しなくてはならない。


 それにしても……ディオコルトのことすら知らないとは。

 ベネディクトはライネルに与える情報を随分と調整していたようだ。

 彼女からメリーナに俺がしたことを聞いて復讐心を喚起されたとばかり思っていたが、ベネディクトからこの情報を聞いていないとすると……少々事情が違うのかもしれない。


 どこまでも情報弱者。

 誰かに利用され続ける駒。

 それが、制御を失って暴走している……?


 ならばこれ以上、この男の相手をしても仕方がない。

 ライネルが狙っていたという、あの男に直接問い質すとしよう。

 なにか知っているとも思えんが……。


「……仕方ない。どっちみち今のままじゃ話をまともに聞けそうもないしな。俺はもう行くよ」

「バカめ。ボクの目の前にノコノコと現れて、生きて帰れると思うなよ!」

「ディーラちゃん。彼を適当に黙らせてやれ。一応は殺すなよ」

「う〜、なんかこの人、ヤダ……」


 などと言いつつ、俺からライネルを力まかせに引き剥がすディーラちゃん。

 嫌々ながらもドンと来い宣言をした手前退けないようだ。


「ぬぉぉ~! なんだッ!?」


 ライネルは相当狼狽えている。

 まあ……この程度の相手であれば、シェイプチェンジを解く必要すらあるまい。


「ナメやがってナメやがってナメやがって〜ッ!! 後悔させてやる! ボクの力を見せて吠えヅラかかせてやる!」

「あーんもう、おとなしくしててよね!」


 始まった戦い……というよりママゴトを背に、俺は牢獄を去った。

 えっ、お兄ちゃんホントに行っちゃうの!? とかいう叫びが聞こえたが気にしない。



「本当に大丈夫なのか、勇者よ。2人を置いてきてしまって」

「万が一があるとでも?」

「いや……あの分ではディーラの敵ではない。力に飲まれて正気を失っているのに、力だけを失っているようではな」

「なら問題ないだろう。もともと彼女がやりたがっていた役割だしな」

「そうではなく、ディーラはお前に見て……いや、まあいい。それより、どこへ向かっているのだ?」


 俺とラディは永劫砂漠収容所の最奥へと移動している。

 このエリアへも転移を使って移動することができないようになっている為、エレベーターでひたすら地下へと潜っていく。


「本来、ライネルが乗っ取ろうとした人物だよ。今からそいつに会いに行く」

「呪術師カーラス……だったか。会ってどうするのだ? そこからライネルの目的がわかるとでも?」


 呪術師カーラス。

 それが、ライネルがマインドクラッキングで接触を図ろうとしていた相手。

 彼がルナベースへのハッキングをかけた際、その名を入力している。


「わかるかもしれないし、わからないかもしれない。少なくとも、ライネルが何をしようとしていたかは見えるかもしれないよ」


 とは言うものの、俺は奇妙な既視感を抱いていた。

 そうだ、これはベネディクトと初めて出会う前の雰囲気に似ている。

 あのときもこうして、地下へと降りていったのではなかったか。


 カーラスについては少佐の口から一度聞いただけの名前で、俺も詳細を調べたことはなかった。

 だが、調査済みの情報はいつでも同期できるわけで、既に必要な情報は入手してある。


 最奥階層に到達した。

 ここにはたった一人の囚人しか繋がれていない。

 この階層は影が一切できないような設計になっており、照明によってすべての闇が祓われている。

 無論、カーラスの能力を封じるためである。

 俺達もフロアに到達した時点で《シャドウバニッシュ》の魔法で影を消去している。


 カーラスは拘束服によって完全に動きが封じられた状態で、闇を纏うこともできず壁に埋め込まれていた。

 男は怯えた視線をこちらに送っている。


「さて、ルナベースの情報によると……カーラスの口の拘束を解くだけでも何かしてくるかもしれなくて。とはいえ、マインドリサーチでの会話も精神汚染を仕掛けられる可能性があるのか」

「……相当の使い手というわけか。わかった、余がやろう」

「頼む」


 おそらく今の俺なら問題ないのだが、ここは譲っておこう。

 呪術師に接続して動じない俺を見られたら、不審に思われるかもしれない。


「それと……カーラスは二重人格だ。今はおそらく、善良な聖鍵派スタッフのジョンが表に出ている。この状態だと、マインドリサーチもカーラスを捕捉できない。なんとか表にカーラスを引きずり出さないと」

「なるほど。それが、この男の隠れ方というわけか」


 オクヒュカートが央虚界に隠れたり、ライネルが別の並行世界の住人だったりするのはダークスとしても極端な例だ。

 カーラスはまだ典型的な方ではあるが、データを見る限り単純な使い手としてはライネルを上回るかもしれない。


 ラディは俺以上に手慣れた様子でスマートフォンを操作し、ジョンのマインドリサーチを開始する。


「ふむ……必死に無実を訴えているぞ。例のピース・スティンガーとやらで、手っ取り早くはいかんのか?」

「確かにスティンガーなら魂にまで針が届くからいけるかもしれないが……」


 二重人格者に対して有効なのかどうか、試したことがない。

 オクヒュカートとチグリがいれば、正確な解答が得られるかもしれない。

 俺にわかる範囲だと‥…。


「精神が分裂しているなら魂は同一。この場合はスティンガーが脳に刺さっている時点で人格が変わったとしても忠実化できる。もし魂が別々で、カーラスの方がジョンの肉体に同居しているだけならスティンガーは効かない。思考を司る脳を外部に保管している場合もダメだな」

「試すだけ試してみるのがよさそうではあるな」


 針を刺すだけなら、俺が聖鍵に念じるだけの手間だ。

 ならば問題ないかと、俺は聖鍵を取り出し……。


「いや、待て!」

「……!」


 ラディが叫んだ瞬間、俺はカーラスの後頭部に針を生成してしまっていた。

 その瞬間、針の細長い影の中から、黒い何かが凄まじいスピードでこちらに伸びてくる!


「此奴、針の影を……!」

「大丈夫だ!」


 その黒い……触手は空間に遮られて俺達に届くことはない。


 だが、ヤツの本当の目的は。


「拘束を……!」


 壁に埋め込まれていた筈のカーラスが手足の拘束を影の触手で破壊され、カーラスの手足は自由になっていた。

 それによって永劫収容所全体にけたたましい警報が響き渡る。

 だが、今はそんなことより……。


「立つ位置が変わったせいで照明が仇に……」


 そう、ヤツの武器となる影がいくつも現れてしまった。

 これまでは影を消すように照明が働いていたのだが。

 最初からコレを狙っていたわけか。


「こんなことなら、完全な闇にでもするか《シャドウバニッシュ》をエンチャントするんだった」

「そんなことを言っている場合か! 気をつけろ! 《影跳躍ダーム》を狙っているぞ!」


 影から影へと移動する呪術版の《テレポート》か。

 ディメンジョンセキュリティを超えて外に出ることはできないことをカーラスは知らない。

 放置してもいいが、それに気づけばこちらを攻撃してくるのは間違いない。


 俺はすぐに《シャドウバニッシュ》で彼の周囲にできた影を消す。

 魔法習得オプションが無詠唱でなければ、ヤツの方が早かっただろうが……。


「……!?」


 カーラスが影が消えたことに気づいたが、その瞬間に『俺』はヤツの背後へと転移し……空間から取り出した剣で背中を斬りつけた。


「……ッ!?」


 カーラスが息を呑むような悲鳴をあげる。

 ソード・オブ・メンタルアタックの切っ先は過たずカーラスの意識を刈り取った。


「……油断ならないヤツだな……人格の切り替えも一瞬か。でも、これでヤツが”表”になった」


 倒れ伏したカーラスを見下ろしながら、俺はスマートフォンを操作して収容所の警報を解除した。

 呆れた様子でラディが近づいてくる。


「タネを知っているから関心するだけで済むが……やはりお前はアースフィアの常識に照らし合わせたら、出鱈目この上ないな」

「披露する機会もほどんどないけどな」


 ラディがスマートフォンを操作して、今度こそマインドリサーチを試みるが……。


「これでは駄目だな。意識を失っておるせいで、表層意識が何も読めん」

「……ああ、そりゃそうか。やっぱり俺はどこか抜けてるな」

「そなたの……そういうところを見ると、少しだが安心する」


 そう言うラディは少し寂しそうな顔をしていた。


「そうなのか?」

「そなたは……ここ3ヶ月ほど、かなり様子がおかしいからな。ベネディクトについてもあっさり始末した……などと言ったり、他にもいろいろあるが」


 ……やっぱり怪しまれてたか。

 今のところ、俺の自我が分裂したことを知っているのはシーリア、リプラ、フラン。

 3人には言う必要があったら、他の子には自分から話すと言ってあるので漏れることはないだろう。

 フェイティスには言っていないが、薄々気づいているかもしれない。


「……カーラスはオクヒュカートに任せよう。彼の方が適任だ」

「そなたが、そう言うのであれば構わんよ……勇者」


 ラディはシーリアと付き合いがあるから、そのうち気づかれるのではないかとは思っていたが……それ以前の問題だったか。

 ……近いか、”卒業”の時が。

 できれば、彼女の寿命が尽きる直前まで心臓を奪うのを先送りにしたいが……。


 あるいは、ラディのクローンでは駄目なのだろうか。

 そのあたりも、一度試してみる必要があるな……。


 念のためカーラスにスティンガーを打ち込みつつ、俺はそんなことを考えていた。

ダークライネルの本来の能力の紹介


1.死神の手(デスズ・ハンド)

触れた相手を殺害する。この能力で殺害された死体に触れた者を感知し、殺すことができる。間接的に殺した者の死体は媒介として使えない。


2.闇より来る混沌の風

両手を振り回すことにより、瘴気の嵐を発生させる。

コレに巻き込まれたものは物理的に嵐によって破壊されるだけではなく、傷口から侵入した瘴気に侵される。これにより意思の弱いものは掠っただけで死亡、精神の強い者であってもライネルに洗脳される。


3.恨魂衝撃(ブレイク)

ライネル自身の憎悪に満ちた魂を空気を介して相手に侵入させ、直接相手の魂を傷つける。

これによって殺された者は魂そのものをダークスに侵蝕されてしまい、死よりも恐ろしい苦痛を味わった後、魂が破壊される。ガフの部屋に送られることもないので、転生できない。

魂のコピーができない聖鍵にとっては天敵となりうる技だが、現在のアキヒコは魂のストックと記憶のバックアップが無数にあるため、苦痛を与える以上の効果を持たない。


本編ではすべて封印されたため、結局意味がなかった。

封印されてなくても、収容所の被害さえ考えなければディーラに負ける要素はない。合掌。

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