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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode05 Clone Rebellion

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Vol.00 -Di Zulva side-

第五部プロローグ。

再開ですけど、不定期になります。のんびりと書きたいので。

 エネルゲイア。

 我らがいつ、どのような理由で彼らが現れたのかを知る者はいない。


 我らは広義におけるダークス。狭義においてはダークスに汚染された種族である。

 ダークスという存在と、我らの駆る兵器が如何なるテクノロジーによってもたらされたのか。

 それを知ろうとする者は、我らの中には皆無である。


 いや、皆無であったというべきか。


 例えば、この私……ディ・ズルヴァは違う。

 戦いのことしか考えられない同胞とは違い、我らのルーツが気になり始めている。


 きっかけは我らの王であるン・ドルジ・ザバが、デュナミスを名乗る難敵と戦ってはならぬとお命じになったことである。


 本星からの撤退命令などは今までにも何度かあった。

 だが、その真意は常に我らが真の戦士であるかどうかを試すことにあり、本当の意味での撤退を示すことはなかった。我らはそのことを知っていたし、例え不利であっても退くことなく最後の一人まで戦い続けることこそ、我らの誉れともなるのである。


 だが、今回の撤退は明確に「戦ってはならない」という意図が多分に含まれ、しかも数百度に渡って繰り返されていた。命令を重複させた回数は我らにとって重要であることを示すことにあり、逆らえば強制老衰という不名誉な死が待っている。


 何故戦ってはならぬのか、それを口にする者はいなかった。

 命令の最初の一文で、あのデュナミスが何者であるかが明確にされたためである。


 灰神グラナド。


 我らが唯一崇める、神。

 その名を聞いて身を震わせぬ戦士は我らの中には存在しない。

 理由はわからぬ。我らは歴史を知らぬゆえ。

 この身に流れる血だけが教えてくれるのだ。

 

 だが、その名を聞いただけで我らの中に尚戦おうという者は皆無であった。


 我らの神と聞いて、闘神を想像する文明もあった。

 答えは否。断じて否。

 アレは、戦いなどというモノをしない。


 灰神と戦って死ぬことは、名誉ではない。無為である。

 灰神に挑み滅びることは、勇気ではない。無謀である。

 灰神に立ち塞がることは、価値ではない。無駄である。


 かの神に対して、勝負だの誉れだのといった言葉は何の意味も持たぬ。

 かの神は、すべてを奪い去る。命だけではなく、我らが戦う意味や価値観さえも根こそぎ光の中へと消し去ってしまう。

 かの神の白き光に飲まれた者は闇の頂きの栄誉に届くことなく、ガフの部屋へと還元されてしまう。


 ああ、コワイ!

 敗北して死ぬことは恐ろしくないが、我らの意義を根こそぎ無価値化して収奪する灰神だけはオットロシイ!

 恐怖が我らが魂に刻み込まれている!


 かの神に挑んだ者たちは、己の死が戦乙女の祝福を得られると信じて疑わなかったであろうに……イト哀れ。


 ともあれ、我らは本星へとスペースジャンプすべく、艦隊を集結させていた。

 かの神が相手とあっては、我らも逃げ出すしかない。

 仮にも我らの神、敗残の兵の背を狙うような真似はすまい。


 今回の体験により、このディ・ズルヴァの中にも一抹の興味が湧き始めている。

 かの神は、何を目的として我らを叩いたのだろう。

 また、我らを害するのはなにゆえか。かつて、我らの祖先を調伏したとされる神が、なにゆえ。


 そもそも、我らは一体何なのか。


「ディ・ズルヴァ。隙だらけだ」

「ガ・ドゥルモか」


 我が僚友、ガ・ドゥルモに背を取られていた!

 なんたる不覚か!


「考え事か」

「うむ」

「我らは考えるべきではない」

「うむ」

「忘れよう。そして戦おう」

「応」


 ガ・ドゥルモの言うとおり。

 ディ・ズルヴァは考え過ぎだった。

 考えるべきは新たな戦場、そして名誉ある死。

 我らが何者かなど些末事であった!


 僚友と絆を確かめ合った……そのとき!


「ああ、窓に! 窓に!」

「コワイ! オットロシイ!」


 戦士たちが口々に騒ぎ始める。

 何事だ!


「灰神だ!」

「灰神!? ドウシテ!? 灰神ドウシテ!?」

「なんたることだ! 我らは無為なる死を与えられるのか!」


 歴戦の戦士であるガ・ドゥルモでさえ、己の運命を呪いながら天を仰ぐ。

 酷い者などは失禁していたが、誰が責められよう!


「オシマイダー!」

「ノゾミガタタレター!」


 艦内は混乱の坩堝となった。

 

「落ち着け! エネルゲイアの戦士は狼狽えない!」


 我が叫びも同胞たちには届かない。

 世を儚み自害する者までいた。


「なんたる無様……」


 己の信じてきたエネルゲイアという価値が、根底から崩れていく。

 これが、これが灰神グラナドの威光だとでもいうのか。


 灰神が艦隊の中心で悠然と佇み、ふわりと両手を広げていく。

 あの姿勢! あの次の瞬間、白い光が戦士を飲み込むのだ!


「慈悲を……! グラナドよ、どうか我らに慈悲を……!」


 相手は神。

 逆らうことなど無意味である。

 ならば、縋る他ない。


『我は灰神グラナド。望みどおり慈悲をくれてやろう』


 声が届いたのか。我らに慈悲を下さる!


『名誉ある死を遂げたくば……わーれーにーしーたーがーえー』


 なんと気の抜けるような間延びした声!

 オットロシイ!


 次の瞬間、エネルゲイアの戦士たちは五体を投地した。


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