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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode04 Dark Menace

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Vol.27

 アルテア星系。

 エグザイルことアースフィアから200光年ほど離れた辺境の星系。

 惑星アルテアは地球型惑星であり、文明レベルは地球の現代レベル。

 というより、非常によく似た世界だ。


「すごいすごい! ねーねー、アッキー!」

「いたたた、引っ張るなよ」


 俺とフランは現在、侵略活動なんてうっちゃってクローンデートを楽しんでいる。

 元からフランは地位的にも勝ちを狙いに行くのではなく、とにかく異世界を満喫するために参加したのだ。

 無論、それは俺も了承している。 


「フラン、はしゃぎ過ぎじゃないか?」

「えへへ、だってだってー。この世界なら、何のしがらみもないわけだし……アッキーを独り占めできるしね!」


 王妃組や側室に遠慮をしないで済む分、フランは思う存分、羽を伸ばせるというわけだ。

 ちょっと浮気とか不倫とかいうキーワードが頭に浮かぶものの、別に秘密の関係というわけでもないのだし。

 フランとは気軽に付き合えるから、俺も楽だ。


「でも、フォスよりは数段下がるじゃないか。テレポーターもないわけだし……」

「あーもー、そういうことじゃないんだよー。わかってないねー、アッキーは」


 ぶーたれるフランを宥めつつ、俺は林立するビルを見上げた。


「本当によく似てる。東京に」


 とはいえ、似ているのは当然だ。

 この惑星は、そうなるように調整されているからである。


 この銀河に地球型惑星が多いのは、パトリアーチによってテラフォーミングされた結果である。

 各文明に対して俺が介入するための舞台を整えてあるわけだ。

 遊びのためだと豪語する俺は仮面を被ってロボットに乗っているわけだが、俺は少々違う意見を持っている。


 パトリアーチにデータを与え、関係を改善する。

 これが第一目標なのだ。


 今回の俺は複数の自分を操作して、各惑星系の文明に入り込める。

 言ってみれば、今まで取得してきたパトリアーチのデータに相当する介入パターンを提示できるのだ。

 これは、俺がループを終わらせる云々は関係なく、パトリアーチにとって有意義なはずである。

 今のところ、ループを終わらせるはっきりした方法が不明のため、オクヒュカートのようにダークスに魂を売ったりしなければ大丈夫のはずだ。


「……なんか、また自分の中だけで抱え込んでない?」

「ん、わかる?」

「そりゃね。複数の自分なんて感覚は、他の子にはピンと来ないだろうけどさ。自分にはわかるから」

「ああー……」


 フランも自分を各モードで使い分けることができる。

 その場面場面に適切な自分を用意できるのが、彼女の能力と言えないこともない。


「自分の中で議論するのもいいけどさ。やっぱ、自分は自分であって他人じゃないんだから、新しい水を入れたほうがいいんじゃなーい?」

「でも、みんなには話したくないこともあるんだよ」


 ベニーが離脱した理由を、みんなにははっきりと伝えていない。

 みんなは話して欲しいと言ってきたが、俺はただ頭を下げた。


「その……情報レベルとかだっけ? そこまで知らせたくないものなの?」

「知らないほうが幸せなこともあるからね」

「知らせてもらえないことが不幸なこともあるんだよ」

「む……」

「自分らって、そこまで信用ない? 別にさ、アキヒコが聖人君子だなんて誰ひとり思っちゃいないよ。みんな助けられたり、思うところがあってついてきてるんだからさ……」


 フランは言いかけて、ピタリと言葉を止める。


「……どうした?」

「いや、やめとく。アッキーの方から言ってくれるまで、待ってるよ」


 むぅ……うまいな。

 自分の意見はサラリと言っておいて、最後は引きか。

 俺の方から話を振るためのハードルを下がる上、そんな風に言われたら言いたくなってしまうじゃないか。


 言わないけどね。


「ところで、この世界ってアッキーのいた世界そっくりなんでしょ?」

「うん。街の作りから何やら何まで、日本そっくりだよ」

「でも、フェイティスが戦いはあるって言ってたよね? なんか、全然そんなことなさそうなんだけど」


 彼女の言うとおり、惑星アルテアの世界は比較的平和だった。

 確かに地球と同じような内乱や戦争がある国はあるものの、俺達が歩いている首都の住人たちは日常を謳歌しているように見える。


「まあ、いずれわかるよ。この星の闇の部分がね」

「はは、なにそれ。ちょっと怖い感じがするね」


 フランには具体的なことはまだ知らせていないが、この星に来るに当たって必要な処置は済ませてある。

 しばらくは、彼女と過ごす時間を優先するとしよう。



 一方で、のっけから全力全開で攻略に乗り出しているのはアスタロト星系担当になったザーダス姉妹であった。


「《フューネラル・インスパイアー》!」


 ラディは極大魔法を惜しげもなく使い、宇宙怪獣を屠っていく。

 俺はその援護をしつつ、《ハイフライト》で飛び回っていた。


「がおー!」


 一方で、改良された成長段階上昇オプションによってエインシェントドラゴンになってしまったディーラちゃんが、怪獣と取っ組み合っていた。

 まさに怪獣大決戦。


 彼女たちの戦闘力は極めて高く、攻略は順調に思われたが……。


「ええい、いったい何匹湧いてくるのだ!」

「きりがないよー!」


 アスタロト星系の惑星ネビュラ。

 現在、この星系で唯一人間が暮らす星だ。

 星系全部の宇宙怪獣を掃討せずとも、ここさえ解放してしまえば彼女たちの目的は達成できる。

 だが、如何せん魔物と怪獣の数が多かった。


「ムダなアガキはヤメロ」


 怪獣軍団の後方に、U型宇宙船が飛んでいる。

 そこから巨大な映像が浮かび上がって、俺達を威嚇したのだ。

 

「お兄ちゃん、何アイツ!?」

「凶悪な侵略宇宙人、アスタロト星人だ。ネビュラの人類を怪獣を使って支配しているヤツらさ」

「ふむ、ヤツが親玉なら……」

「あいつはせいぜい、現場の指揮官クラスだ。倒した所で、制御下の怪獣がおとなしくなるわけじゃないぞ」

「……ええい、忌々しい!」


 結局、俺達は戦況芳しくなく撤退した。


「余はこの遊興を少々、甘く見ていたようだ」

「うう。本気出したのに……」


 がっくりを肩を落とすザーダス姉妹に、俺は肩をすくめた。


「いくら魔王時代と同等の力を発揮できるようになったからって、ちょっとハンデがきつすぎたかな?」

「余が言い出したことだ。仕方あるまい」


 十全な魔力を回復したラディは、大人形態の生体義体を使えば魔王ザーダスと同等の力を使うことができる。

 ダークスを用いた支配力は行使できないものの、絶大な力を振るうことができる彼女には、自身の提案で他の10分の1以下の戦力上限が設けられた。

 先ほどの戦いで手駒の第一陣は全滅したものの、すぐに補充される。だが、魔王ザーダスとエインシェントドラゴン形態のディーラちゃんの戦闘力では、物量差を覆す決定打にはならないことは今の戦闘結果から明らかである。


「ともあれ、先ほどの戦いで敵の底が見えぬことはわかった。で、あればここからは……いつもどおり、余のやり方でやらせてもらう」

「なんだ、さっきのがただの偵察だったとでも?」

「そうではない。あわよくば一気に決めようと思ったのだが、流石に虫が良すぎたな」


 ラディは考え込むように腕を組んだ。

 ディーラちゃんは既にたけのこを食べて、ご機嫌を直してしまっている。


「んー、どうでもいいけど。やっぱり俺の掴んでる情報はいらんの?」

「うむ、いや、そうだな……」


 各人には、俺が事前に調べあげた情報を聞く権利がある。

 ラディはそんなことをしなくてもルナベースにアクセス出来る権限があるのだが、戦う前は不要と断っていた。

 魔王らしい驕りがあったと言える。

 だが、反省が早いのもラディだった。


「力を借りても良いか、勇者よ」

「オッケー。何から知りたい?」

「では、まずは勢力図から」


 アスタロト星系の宇宙人たちに、魔王の名が知れ渡るのもそう遠くないかもしれない。



 王妃組はノイマン星系を担当している。

 この星系には、複数の惑星に別々の文明が存在している。

 人間が居住可能な惑星が集まっているのだ。


「この星は、アースフィアにかなり似ているのですね」

「細かい違いを上げればキリがないけどね。近いと言えば近いかな」


 俺達は、そのうちのひとつ、惑星ベイダに降り立っていた。

 アースフィアに比べると、ややハードなファンタジー世界。

 おそらくパトリアーチが洋モノのファンタジー世界をコピーして用意した惑星だ。


 気候も温暖で、魔素も濃い。そのため、リオミはジュエルソードを使わなくても、問題なく魔法を使える。

 だが、魔素が高いのでダークスの勢力も強く、人間の軍とひとつの山脈を挟んで睨み合っている。


 俺達はそこからはるかに離れ、人がほとんどいない森の奥に山荘を構え、そこで歓談を楽しんでいる。

 ゆえに、彼女たちはクローンではなく、身重な本人が直接やってきている。


「姉さんによると、個人の武勇が試されるとのことだったが……」

「ああ、それはちょっと俺の事情でね。シーリアにはそっちを手伝ってもらったほうがいいかもな」


 俺は少し考えこんで、そのほうがいいだろうと結論した。


「今回のことは遊びだって他の俺から聞いているだろうけど、あれは俺の一部の意見なんだ。今回はそれぞれ、別々の思惑で動いている部分がある」

「そ、そうなのですか?」


 少し驚くリオミに、俺は笑顔を向けた。


「まあ、根っこは同じにしてもね。やり方が違うのは、なんとなくわかるだろ?

 ちなみに、この話はリオミとシーリアだけにしかしてない」

「そうなのか……」


 シーリアは神妙な顔をして頷いた。

 リオミも自分たちにだけ、という部分に少なからず反応を示していた。


「実は、今回みんなに攻略を手伝ってもらってる星系は全部、パトリアーチっていう別の俺が用意した舞台なんだ。

 そいつのご機嫌を伺わないと、聖鍵を取り上げられてしまうかもしれないっていうのがひとつ。

 各惑星のデータを収集して、ダリア星系のチグリに送って新しいモノを作ってもらおうっていうのもひとつ。

 あ、ちなみに聖鍵で遊ぶぐらいのことをしないと、人間としての自分を保てなくなりそうだったってのもあるな」

「そんなことになっていたのですか……」

「ゴメンね。今までなかなか言えなくて」


 いずれ、この話はフランにもする予定だ。

 惑星アルテアで言わなかったのは、日常ムードを崩したくなかったというだけの理由で、彼女を信用していないというわけじゃない。


「アースフィアの方も俺が残ってるし、フェイティスも政務中心でやってるから、あっちのことは心配しなくていい。

 できれば2人とは、ここでしばらく静かに……地位とか何も関係なく過ごしたかったんだ」

「……ピースフィアを建国した以上、自由に歩き回るのは難しいからな」

「確かに別の惑星に来れば、わたしたちもただの人間ですものね」

「そういうこと」


 アースフィアは、如何せんしがらみが増えすぎた。

 もちろん、自分でやったことだから後悔はしていないし、なかったことにしようとも思わない。


「つまり、銀河統一云々というのは表向きの口実、あるいは側室たちへの餌で、本音は違うということか?」

「いいや、それも本音。ただ、勝敗そのものには拘る必要はないんじゃないかっていう話」

「そうか……真剣に勝ちを取りに行くつもりだったのだが」


 残念そうに呟くシーリアに、俺は慌てて弁解を始める。


「いや、シーリアがやりたいならいいんだよ。さっきも言ったけど、こことは別の惑星にちょうどいい腕試しの舞台があるんだ」

「腕試し?」

「銀河の強者が集まる、銀河最強を決める武道会……」


 俺は空間からパンフレットを取り出し、広げてみせる。


「ギャラクシー・ノイマンファイト。優勝賞品は、ノイマン星系の支配権だ」

「なんだそれは……」

「文字通りの意味だよ。この大会に優勝した者は、この星系に対する支配権を得る。まあ、任期ありだけどね」

「その割に、このベイダにはほとんど高度文明が介入した形跡がありませんが……」


 リオミがすかさず突っ込んでくる。

 彼女の口から高度文明なんて名前が出るのかと驚いたが、よく考えたら学院での授業内容には加えてあるんだった。


「一応、不干渉地域ということにされてるからね。ただ、これもパトリアーチが決めたことなんで、俺が介入する分には問題ないみたいだけどな」

「随分と都合のいい話ですね……」

「元から、俺の周辺はそうやって舞台が整えられてるんだよ」


 突っ込みどころ満載の大会ではあるが、そのあたりも調整された結果なのだろう。


「シーリアがこれに出場して勝てば、イコール今回の目的は達成できるというわけ」

「随分と私に有利な気がするが……」

「そんなことないよ。俺も出るしね」

「ほう……」


 シーリアの目が細められた。


「久しぶりに、アキヒコと戦えるのか……」

「俺は優勝が目的じゃないから、ぶつかることになったら負けてもいいんだけど」

「そのような気遣いは不要だ。本気で来て貰いたい」

「オーケー。空間拘束なし、剣での勝負をしようか」


 その条件だと精神遮蔽オプションつきの彼女の方が有利だが、もう昔とは違う。

 俺も負けるつもりはない。


「アキヒコ様。わたしはせっかくですから、ここで普通に暮らしてみたいのですが」

「うん、じゃあそういうことで」

「ええと、その……アキヒコ様も一緒ですよね?」

「もちろん」


 元から、そのつもりだったからな。

 リオミまで大会に出たいと言い出したら、どうしようかと思った。


「じゃあ、大会が開催されるのは惑星ノイマンのほうだから、そっちの方には2人のクローンを用意しておくよ。リオミも観戦したいときとかあるだろうし。平時はここで、気楽に暮らすということで」

「この惑星にも必死に戦っている人がいるかと思うと、少し胸が苦しいですが……」

「俺かシーリアが優勝したときには、ダークスは残らず消滅させるよ。約束する」

「よかったです。あ、この子も喜んでるみたい」


 リオミがお腹をさすりながら破顔した。

 今更ながら、俺が守ることができた笑顔なんだと思うと、胸がいっぱいになる。



 ダリア星系では、惑星ジュゴバに巨大な研究施設を建造し、チグリに与えていた。

 彼女は元から勝負のために呼んだのではなく、新装備や新兵器、そして全星系で収集したデータをまとめてもらうために来てもらった。


「わたし、こういうことでしか陛下のお役に立てませんから」


 彼女は笑顔だったが、目にはハイライトがなかった。

 チグリをここまで追い詰めてしまったのは自分だ。

 記憶を消してなかったことにしてしまうのも、自分の罪をなかったことにするように思えて憚られる。


 ビジョンを無視するという行為を、俺は甘く見ていた。


 ピース・スティンガーを開発し、グラーデン王国の問題は一応の決着を見た。

 それだけなら、まだ良かった。


 貴族を洗脳するやり方に、ユーフラテ家の者たちは流石に難色を示した。

 あるいは、チグリがきちんと家族たちと打ち解けるよう、俺が取り計らっていたなら……話し合いでなんとかできたかもしれない。


 だが、そうはならなかった。

 チグリは迷うことなく、実家のみんなにもピース・スティンガーを打ち込んだ。

 今では、俺や彼女の方針に逆らうなんて考えもせず、貴族の地位を捨てて、ピースフィアの支配を受け入れている。


 俺の決断が、俺の優柔不断さが。

 チグリという少女の人生を狂わせてしまった。

 そこに聖鍵の有無は無関係。

 原因はあくまで俺だ。


 今更イフを考えても仕方がない。

 生まれてくる子供のためにも、チグリを支えなくてはならない。


「チグリ。俺の理想を叶えるには、お前の力が必要だ。これからも頼む」

「はいぃ! 誰も死ななくて済む世界を作るためのお手伝いをさせていただきますぅ!」


 耳をピコピコと動かし、尻尾を振るチグリ。

 どこまでも俺に依存していく彼女を自立させるのは、もう諦めた。

 俺なしではやっていけないのなら、ずっと俺がついていてあげればいい。

 幸い、俺にはそれができるのだ。


「俺にそんな世界を作ることなんて、できるかな」


 できないだろうな、という確信を抱きつつ呟く。


「陛下ならできますぅ!」


 飼い主を盲信する忠犬に、俺は何も言えなかった。

 ただ、笑顔を返して頭を撫でるのみ。

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