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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode04 Dark Menace

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Vol.25

 俺は聖鍵をフル活用し、ディルスキン共和国のある実験部隊の所属となった。

 いやー、うん、ロボットもののシチュエーションって一度やってみたかったんだ。


 ちなみに怪しい仮面をつけている。

 仮面のパイロットは基本だろう、やはり。

 うーん、オクヒュカートのこと、全然笑えない。別人と言っても所詮は同一起源か。


「僕の名前はエイジ。エイジ・アサカです」

「地球は狙われている……」

「はい?」

「すまん、何でもない。

 シャゼ・アクス特務少佐だ。よろしくな、エイジ君」


 声だけでヒルデに惚れちゃったエイジ君とは同じ部隊になった。

 もちろん、偶然ではなく意図的に彼の部隊に参戦したのだが。


 とはいえ、最初に話したのがエイジ君だったのはたまたまだ。乙女座の俺もセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられない。

 ちなみに、彼の階級は少尉らしい。


 わかるとは思うが、シャゼ・アクスと名乗った仮面の男が俺だ。

 偽造データは特務少佐となっており、ディルスキン共和国では実質大佐と同じ権限がある。

 まあ、環境はいくらでもデバックできてしまうので、あってなきが如しだが。


「エイジ少尉、キミはここ『スターホルス』の襲撃を生き残ったんだってな。聞いたよ」

「は、はい! エネルゲイアは……絶対に許せません。あいつらは1機残らず殲滅しないといけないんです!」

「お、おう……」


 あ、あれー?

 この子、殲滅厨だったの?

 ちょっとイメージ違ったけど、きっといろいろな運命を強いられているんだろうな。


「でも、僕はほとんど何もできなくて……」

「……『デュナミス』が出たんだってな」

「はい」


 もちろん、本体オリジンが操っていたグラナドのことである。

 約2ヶ月間、はエネルゲイアを相手に俺TUEEして、ストレスを解消していた。


 そんなフェーダ星系では、エネルゲイアを圧倒するグラナドのことを組織名と知らずに機体名と認識している。

 まあ、別に構わないのだが。


「俺は、デュナミスの調査のために自由権限を与えられている。もし知ってることがあれば、なんでも教えて欲しい」

「そ、そうなんですか。わかりました!」


 元気の良い返事。

 うん、殲滅厨である事以外は素直でいい子だな。

 しかもかわいい。


 いや、俺にそっちの趣味はないけどさ。

 彼はこう、こんなにかわいい子が女の子のわけがない系の男子なのだ。


 黒髪黒瞳の日本人っぽい人種なのだが、目がくりっとしていて、ハムスターみたい。

 いいねぇ、そそる。

 いや、そうではなく。


「エイジ! ねえ、整備手伝ってくれってダイアーさんが呼んでるよ」

「あ、わかった。今行くよ! すいません、アクス特務少佐」

「シャゼ少佐でいい。みんな、そう呼ぶんだ。さあ、行っておいで」


 エイジ君と入れ替わりに、彼を呼びに来た女の子と目があった。


「あ、その……特務少佐であらせられましたか。失礼しました!」

「いや、構わんよ。ところで……キミはエイジ君と仲がいいのかい?」

「え、いや、そんな。ただの幼馴染ですよ。

 あ、自己紹介が遅れました。ミーヤ・オーリア、階級は准尉です」


 ミーヤは、かしこまって敬礼してきた。

 いかにも脇役然とした幼馴染の雰囲気を醸し出している。


 ……なるほど。やるな、エイジ。

 俺なんかよりも、よっぽど主人公枠を獲得できているじゃないか。

 この分だと、連邦の非人道的改造を受けたヒロインと運命の出会いとかがあっちゃうかも?

 あ、それがヒルデ枠なのか。めっちゃおいしいけど、あいつ守銭奴やで……。


「その……アクス特務少佐は、どうしてこの部隊に?」

「どうしてって、それが任務だからだけど? あと、俺のことはシャゼ少佐と呼んでくれ」

「でも、今この部隊って……軍に拘束されてるも同然ですよ」

「ああー……」


 実はデュナミスことグラナドはディルスキン共和国では機密扱いになっているため、一般人は知らない。

 現在、アレを目撃した部隊は事実上拘束されている。


「それなんだけどね、今日から俺が特務権限でもって、部隊を買い上げた。デュナミスの調査のために手が必要だったもんでね」

「えっ……聞いてないですよ!?」


 そりゃ、さっきハッキングでそういうことにしたからね。

 とはいえ、お偉いさんにはヒュプノウェーブとかピーススティンガーを使って認可書類を作ってもらう予定だから、いずれ正式なものになるんだけど。


「そういうわけで、着任の挨拶に来たんだ。艦長はどこかな?」



 そんなこんなで。

 俺は実験部隊のディル=フェーダ級宇宙母艦『モルモッティア』(実験部隊とはいえ、ひどい名前だ)の艦橋で艦長と面会していた。

 如何にもというような感じの中年男性が髭をさすりながら、俺がコピペした偽書類に目を通している。


「……確かに、本物ですが。急ですな」

「それはまあ、俺にとってもそうですから。こちとら、少し前までは非番だったんで」

「ははは、それは災難でしたな」


 艦長の名前はまだ聞いてないが、さくっと検索して調べておいた。

 モルハン・スティックス。階級は中佐。俺よりも一応階級は下ということになるので、丁寧語で翻訳されているのだろう。


 ちなみにフェーダ星系に設置したルナベースⅢは、他のルナベースと同期しているので、他の星系のことも調べられる。

 今はクローンを調査用に割いてないんで、1回1回調べる必要があるけど。


 というのも、事前知識を仕入れすぎるとやっぱり面白くないんだよな。

 仕事ならやらなきゃと思うけど、今回は遊びだし。

 その結果として、フェーダ星系の戦争がなくなれば万事OKなんじゃないか。

 まあ、そんなことにはならないだろうけど。


「わざわざ紙の書面まで用意したということは、今後の任務も機密扱いということですかな」

「現状のお立場はお察ししますよ、艦長。デュナミスを巡っての話で、モルモッティアが不遇を囲っているというのは」

「遠回しな言い方は、よしていただきたい。要するに貴方が来たのはそういうことでしょう」

「ま、そうですな」


 艦長はトミ○的に曖昧な言い方をしてるが、要するにこの艦の管轄は特務機関の俺が預かるよという話だ。

 俺は事前に用意しておいた台本通りにセリフを喋る。


「新型モナドギアは対エネルゲイア用だったわけでしょう。連中と戦うんだから、実験もついでにできると思いますがね」

「なっ……まだ『アーレス』は、まだ実戦に出せるような状態では……!」

「現にもう戦って見せているではないですか。それに、デュナミスはエネルゲイアと戦うためにしか現れない。アレを調査するために、この艦はエネルゲイアと戦ってもらわねば」


 我ながら酷い詭弁、しかもマッチポンプだ。

 グラナドを操縦してるのは本体の俺(オリジン)だ。理不尽極まりない。

 ましてや、この艦だけでエネルゲイアと戦えなど……グラナドが出なかったら、死んだも同然の任務だ。


 同じ事を考えていたらしい。スティックス艦長も、苦渋の想いで命令書を見ていた。


「まあ、できるだけ生き残れるように俺が配属されたと思ってほしい」

「命令である以上、従いますよ」


 軍人である以上、命令されたことには従わねばならない。

 その上で、部下を殺す決断もしなければならない。

 俺も、実際に彼の立場だったら気が気じゃないだろう。


「艦長、ワインがお嫌いでなければ、年代物を用意しておきました。後ほど届けさせますよ」

「……嫌に気が利くな、アクス特務少佐」

「シャゼ少佐と呼んで下さい。みんなそう呼びます」


 艦長の好みは既に把握してある。

 なので、ロードニア産の名酒を用意した。

 俺の我侭に付き合わせるのだから、せめてこの程度の手土産は用意しなければな。


 更に着任の挨拶回りをしていると、艦の格納庫に行き着いた。


「確か、エイジ君が整備の手伝いをしているんだったな……」


 試験機を扱うからか、格納庫は思った以上に良い設備を使っているようだ。

 というのも、マザーシップの格納庫の設備に見劣りしないものが揃っているのだ。

 ここなら、その気になればグラナドの整備も可能だろう。


「これが、量産機か……」


 格納庫に搭載されていたモナドギアを見上げる。

 これを開発したヤツは、よくわかっている。

 モノアイだ。モノアイがついている。

 ジ○ンの名機というわけにはいかないが、お約束通りのやられ役っぽいデザインは、見事という他ない。

 確か名前は……。


「特務隊には、ゼダが配備されていないのですか?」

「ああ、いや……あちらでは、改修型のリゼダが配備されてるのでな」


 あぶねえあぶねえ、さも量産機が珍しそうな言い方をしてしまった。

 整備員に聞かれていた。


「そういえば、特務少佐殿の機体もリゼダ・カスタムでしたね」

「ああ! いい機体だろう?」


 ちなみに、リゼダ・カスタムは実際の特務隊でも使われている機体だ。

 もちろん、こちらもモノアイなのだが……ゼダなんかよりエネルギー出力が段違いの高性能機だ。


「いやあ、カスタム機にしては中身がまるで違いますね」


 実を言うと、外側は完全にリゼダだが、中身はほぼグラディアというイカサマ機体である。

 それにしても、見せていい部分は全部モナドギアと同じ構造にしてあるのに、いい目をしているな……この整備士。

 俺の視線に気づいたのか、整備士は慌てて敬礼した。


「申し遅れました。自分はマンソン・ダイアー曹長です。ここでは、整備班長をやっております」

「叩き上げか。それにしては、大人しいな」

「はは、恐縮であります」


 見た目は線の細い、特徴のない男性だ。

 整備班長なら、もっと灰汁の強い人物を想像してしまうが、そこまでお約束を求めるのも変な話だしな。


「そういえば、アーレスがないようだが?」

「ああ、あれは先程最終調整のために、研究所の方へ一度戻りました」

「研究所へ? ここの設備では足りないのか?」

「ええ、あれには少々特殊なシステムが搭載されておりましてね」


 そうなのか。

 ググってみても、そのあたりはまだ未調査だった。

 ただの新型機ではないということか……それなら、ちょっと興味がある。


「一応ダメ元で聞くが、どういうシステムなんだ?」

「申し訳ありませんが、我がドリク・エレクトロニクスの機密事項が多く含まれておりますので、申し訳ありませんが……」

「ああ、なるほど。ダイアー曹長は、出向組か」

「はい、そのとおりです。まあ技術屋なんですが……」


 この辺は集めた情報で知ってる。

 ドリク・エレクトロニクスは乾電池からモナドギアまで、あらゆる商品を扱う大会社である。

 ディルスキン共和国では、もう一社モナドギアを扱う会社があって、そことコンペで競合したりしているようだ。

 ちなみに、エイジ君はここの会社の協力員という扱いになっている。

 ダイアー曹長もエイジ君も軍属だ。


「エネルゲイアに対抗するという話は眉唾だと思っていたが、俺が考えていた以上に本格的みたいだな」

「これ以上はご勘弁を」


 頭を下げられてしまったので、ここまでにしておこう。

 エイジ君もいないから、アーレスと一緒に研究所のほうか。

 早速ドローンを送り込んで、情報を骨抜きにさせてもらうとしよう。

 いやー、笑いが止まらん。



 調べてみて、面白いことがわかった。

 どうやら、ドリク・エレクトリニクスは真剣にエネルゲイアに対抗するための兵器を開発していたようだ。

 ダークス係数のような、エネルゲイアだけが発する活性化したダークスのデータを数値化し、理論的な方法で彼らを倒そうとしている。


 要するに、対ダークス兵器を開発中だったのだ。

 開発中のシステム……その名も機体のまんま《アーレスシステム》は、活性化したダークスに反応して機体の性能を上げるというアプローチだった。

 正直メシアスの技術と比べれば数段劣るが、方法論としては面白い。


 何が面白いかというと、この世界にはないはずの魔法に近いモノが組み込まれているのだ。

 具体的に言うと、魔素を取り扱うのである。

 もちろん、魔素という名前ではなくでクロン粒子とかいう別の名前がつけられてはいるが……。


 早速この技術をいただいてチグリに渡して解析し、グラディアに搭載させるとしよう。

 代わりに、彼らにも何らかの形でメシアスの一部の技術を渡してみるか……。

 面白い機体を作ってくれるかもしれない。


「しかし、このシステムの発案もエイジ君か……」


 まだ若干15歳だというのに、大したものだ。

 アニメなら同じような天才キャラなんて溢れるほどいるが、実際に会えるとは。

 きっと現実にも、同じような天才少年、天才少女というのはいるのだろう。出会わないだけで。


 今まで出会った女の子たちも、大概おかしいレベルだったが。

 特異点効果は、お遊びのときにも有効らしい。

 遊んでも都合のいい方向へ運ぶなら、いっそ今後ずっと遊んで暮らそうか。


 実際まだちょっと、遊びでこういうことするのはどうなんだという意見も俺の中にあるのだが、この分なら何も問題ないかもしれない。


 というか、アースフィアですらメシアスが及びもつかない様な方法で魔法の技術を伸ばしていたわけで、文明レベルが劣るからと言って舐めちゃいけないよな。

 他の星系の独自技術も全部盗んで解析させてみよう。

 いろいろ、できることが広がるかもしれないしな。


「さて、と。裏工作はこんなもんでいいかな」


 量産鍵キーキャリバーを使って、フェーダ星系の政治中枢と軍事中枢のコンピューターにハッキングをかけた。

 さらに上層部や特務機関の人間にも記憶操作をかけて、あたかもシャゼ・アクス特務少佐が実在していたかのように見せかける。

 今回の任務がきちんと上から降りた公式のものという体が整ったので、俺は大手を振って歩けるというわけだ。

 もともとこの星系には、何人かクローンを送り込んで文化などについてもあらかじめ触れて予習しているので、正真正銘フェーダの人間を演じることができる。


 ただ、今回の任務に関してはもともとあったものではないため、ディルスキン共和国上層部には何のプランもない。

 誰かの発案ということにして、決定事項を落とすのも俺の役割ということになる。


「いっそ、この特務機関を俺の色に染め上げるか?」


 もともとこの特務機関とやら……一応『ネクサス』という正式名称もあるのだが、正直ロクな組織ではない。

 ディルスキン共和国の特権意識の高いエリート層が集まった組織なのだが、特務とは名ばかり。きちんと機能しているとは言い難い。

 創設者はいわゆるタカ派の政治家で、半ば私兵のような扱いだ。


 ティター○ズが連邦ではなくジ○ンの方にできているというのは、不思議な話ではあるが。

 いや、独裁体制ではないから不思議ってわけじゃないか。


 いっそ、こいつらに軍事クーデターでも起こさせるのもいいかもしれない。

 フェイティスやラディなら、おそらくそうするだろう。

 そして、それを裏から操るのだ。


 クーデター云々はともかく、足がかりの組織の屋台骨が揺らぐのはよくない。

 メンバー全員に、緩めの規制かけたピース・スティンガーを打ち込んでおくとしよう。

 いやあ、チグリは本当にいいものを作ってくれた。これはの為にあるようなアイテムだな。


 さりげなく特務機関の乗っ取りを決めた後、俺は艦内をうろついた。

 モルモッティアの構造は頭に入れてあるが、実際に歩いたという土地勘まではない。

 咄嗟のときに役に立つのは、ルナベースの検索能力ではなく、実際の経験だ。


「あっ、シャゼ少佐殿ですか?」

「ん?」


 振り向くと、パイロットスーツの男女が立っていた。

 綺麗どころの女性と、モブ顔の男だ。


「キミたちは……この艦の乗員のデータにはなかったが」

「は、私たちはスターホルス守備隊の生き残りです。この度、転属することになりまして」

「なんだと? 聞いていないぞ」

「は、スティックス艦長が守備隊に掛け合ったと聞いております」


 守備隊からモナドギアのパイロットを引きぬくなんて話、俺は持って行っていない。

 つまり、これは今回の任務を受けて実戦経験のあるパイロットを乗艦させる必要があると判断した艦長の手配によるものだろう。

 案外政治力あるじゃないか、艦長。


「自分はティナ・ナイン少尉です。こちらはスミス・ジョントム少尉」


 敬礼するナイン少尉とジョントム少尉。

 ジョントム少尉は無口なようで、何も喋らなかった。

 こちらも敬礼を返す。


「よろしく。シャゼ・アクス特務少佐だ。シャゼ少佐でいい」


 うん、いいなぁ。

 こんな何気ないシチュだけで、かなり酔える。


「ところで、シャゼ少佐! どうして仮面を被ってらっしゃるのですか?」

「物怖じしないのだな。ナイン少尉は……」


 ずけずけと入り込んでくるナイン少尉は、嬉々としている。

 悪気はなさそうで、単に興味津々と言った様子だ。なかなかかわいらしい。

 一方、ジョントム少尉は苦笑していた。


「人に見せたくない傷があってな。それを隠すためだ」


 このあたりもお約束なので、聞かれたらこう答えると決めておいた。


「そうなんですか! 見せてもらってもいいですか?」


 ところが、なかなか予想外の返しにちょっと鼻白む。


「見せたくないんだっての」

「えー、いいじゃないですか。減るものじゃないですし! む、むぐっ……」


 さすがにマズイと思ったのか、ジョントム少尉がナイン少尉の口を抑えた。

 頭を下げ、そのまま彼女を引っ張って退散した。


「えーと……あのふたりが僚機ってことになるんだよな」


 ……大丈夫だろうか。

 無茶振りする以上、聖鍵で死なないようフォローするつもりではあるが。

 さすがに遊びで味方に戦死者を出したら、俺も立ち直れないからなぁ。


「ともあれ、実は生きていました……をやるには、データとっとかないとな」


 俺はディルスキンで使われている携帯端末を開いて、操作し始めた。

 外装を偽装しただけの、いつものメシアス製スマホである。


 そこには、クルー全員のリストアップがされていた。


――記憶データ、遺伝子データ、コンプリート。

――リアルタイム同期、継続中。


「とりあえず、全員分のクローンをつくっておけば、最悪死んでも大丈夫だよな」


 そう、彼らは死んでも大丈夫なのだ。

 死ぬことは死ぬが、記憶とクローンさえあれば同じ人間を作ることができる。

 もちろん、それだけではよく似た別人なのだが、ガフの部屋を開いた俺なら魂が洗濯される前に聖鍵に回収し、クローンに入れられる。


 つまり、俺はもう条件付きとはいえ人間の蘇生ができる。

 この辺はオクヒュカートのアナザーリオミを生き返らせるとき、可能であることが立証されている。

 あのときは、既にアナザーリオミの魂はガフの部屋で洗浄されてしまっていたため、完全に元通りとはいかなかったが。

 無論、王妃組や側室はもちろん、ピースフィア関係者のほとんどが死んでしまったとしても生き返ることができるようになっている。

 彼女たちのクローンを用意しておいたのは、そのためだ。


 シーリア風に言わせれば、引き算しかできなかったものに、足し算をできるようにしたといった感じだ。


 人間の死すらも克服させてしまった聖鍵だが、楽観するつもりはない。

 何しろ、一度死ぬという事実は変わりないのだ。


 死んでも勝利する覚悟は、聖鍵でも量産不可能。

 死んでも成し遂げるという決意は、コピー&ペーストできない。

 死んでも大丈夫という安心感は、緊張感を欠き、別の危機を招くかもしれない。


 そして、この行為は何より彼らの人生を冒涜している。

 だから、この情報は誰にも伝えていない。俺だけが知っていればいいのだ。

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