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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode04 Dark Menace

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Vol.24

注意:この回のアキヒコは別に錯乱したり、洗脳されたわけではありません。

 さて。

 本来、俺は善人でもなんでもない。

 どっちかというと、ちゃらんぽらんでテキトーな人間である。


 そんな俺が、ひょんなことから聖鍵を持つ羽目になり。

 自業自得とはいえ国王になり、責任を背負い込み、力は持ってはいるものの濫用を戒め、どんどん自分が人間からかけ離れた存在であることが明らかになっていって。


 あははは。

 うん、ダメ。

 もう限界です。

 三好明彦は壊れます。


 なんつってな。


「そういうわけで、戯れにアースフィア星系を含む銀河を支配することにしたんだ」

「えー」


 明らかに不本意そうなヒルデを放置して、俺は妄想に耽り始める。


 ただ単に征服するなら、聖鍵で兵器を量産して数で圧倒し、併呑するだけでいい。

 だが、それではただの作業だ。

 全然、面白くない。やる意味すらない。

 やっぱり、ある程度の縛りがないとつまらないよな。


 聖鍵は強すぎる。

 目的を達成するための最短手段としてはいいが、はっきりいって娯楽性に欠ける。

 まあ、神造アーティファクトが遊び心に富んでいても嫌だが。


 そういえば、アースフィアを普通に旅してるときも、いろいろ聖鍵を縛って使っていた。

 思えばあのときは、非効率的だったけど楽しかった。

 風呂で凍土を冒険し、ドラゴンを窒息死させたときなど、胸がすくような気持ちだった。

 国家の運営やらリオミの問題やらで心労が重なり、そういう遊び心がすっかりなくなっていたようだ。


「さて、どこから手をつけたもんかな……」

「ほ、本当にやりますの!? 遊び半分で介入するのは良くないって、ご自分でおっしゃっていましたのに」


 艦長席で足を組み頬杖を突くと、ヒルデが慌てた様子で叫び始めた。

 俺のセリフのニュアンスから、冗談ではなく本気だということに気づいたようだ。


「あれー、そんなこと言ったっけなぁ?」

「……っ。ここの人たちだって、独立自治に誇りを持つ方々ですわよ? まあ、誇りなんて糞食らえと言ったわたくしが提言するのもなんですけど」

「でも、そうすることによって少なくとも……同じフェーダの人間同士で争うことはなくなるよなぁ?」

「それはそうですけども……反乱を企てたりはしてくると思いますわよ?」

「おー、それだ!」

「え?」


 俺の叫びに、ヒルデがきょとんとしている。


「俺だって、フェーダ星系をずっと支配しようとは思ってない。ただちょっと、ゲームに付き合ってもらいたいだけだからなぁ。その過程で、俺たちという敵に対して一致団結していければ、いいんじゃないかなぁ?」

「……要するに、ジャ・アーク戦略と同じですのね」

「んー、まあ、今回はマジで割と遊びだ。支配が目的ってわけじゃない……」

「はぁ……陛下、わたくし不敬で処断されるかもしれませんが、敢えて申し上げますわ」

「うん、なぁに?」

「……貴方、最低です」

「ククク、ありがとう。最高の褒め言葉だよ」


 我々の業界では、ご褒美ですとも。


「でも、実際問題……このまま俺のストレスが溜まり続けると……うっかりエーデルベルト滅ぼしたりしちゃうかもしれないから、ご機嫌はとっといたほうがいいと思うよ?」

「言うにことかいて、それですの!? とてもじゃないけど付き合いきれません……わたくしは一切お手伝いしませんからね」

「へー、そうですか。ところで銀河統一できたら、5兆円あげる」

「聖鍵陛下。まずは、身の程知らずのエネルゲイアとフェーダ人どもに、立場を思い知らせるべきですわ」


 あっさり買収完了。

 ヒルデは、これができるから大好きだ。

 カネで解決できるオンナは手軽でいい。


「さて、そうなるとフェイティスも仲間に入れてあげないとなぁ。あいつ、こういうの好きそうだし」

「チグリもリハビリがてら、参加させてあげませんこと?」

「でも、遊びで人が死んだりするのを目の当たりにするのは嫌がるんじゃないかなぁ」

「今までどおり、死なないよう最善を尽くせばいいだけではありませんこと?」

「そっか。じゃあ、声ぐらいはかけてみよう」


 そんな感じで。

 あれよあれよという間に話が決まっていく。

 一応事情がわからないメリーナ以外には声かけして、参戦したメンツは。


「アキヒコ様、銀河を手にお入れください」

「我が剣の武勇、久方ぶりに見せるとしよう」


 王妃組はすぐに了承した。

 何気にこういうことについてのノリは、一番かもしれん。


「妊婦なんだから無茶するなよ。それに、国の運営は……」

「それは、わたくしのほうが引き継ぎをしておきました。ご主人様のクローンも、王妃のコピーボットもおりますし、何も問題はありません」


 フェイティスは、やっぱり食いついてきた。

 まあ公務と掛け持ちだから、いつもいるというわけにはいかないだろうけど。


「ねえねえ、自分でも何か役に立てるかな?」

「いやまあ、来てくれるのは嬉しいけどさ……」


 フランもやってきた。

 ちなみに、さすがにリプラは来なかった。

 まあ、ヤムエルいるしなぁ。


「だって、楽しそうだったし。それにほら、子供もできちゃったからバイトも休みで暇だし」

「妊婦のみんなに無茶させる気はまったくないから、その辺は安心して」


 いざとなれば、彼女たちもクローンの制御は行える。

 女性たちもいざ肉体が破損したときに備えて、予備のボディを用意してあるのだ。

 母体の管理をマザーシップの施設に任せ、その間は妊娠してない体を使えばいい。

 ただ、その間はお腹の子供に話しかけたりできないということで、女性陣にはあまり好評ではない。


「あの、そのぅ……」

「チグリ……無理はしなくていいんだぞ? 今回は自由参加なんだからな」

「いいえぇ! 人を殺さない武力統一、目指してみますぅ!」


 チグリは本当、変な方向に歪んでしまったなぁ。

 このコを目覚めさせたのはってわけじゃないが、一応責任をちょっぴり感じないわけでもない。


「で、お前らもいると」

「だって最近、出番が少ないんだもん!」

「メタなこと言うなや」


 騒いでいるのはディーラちゃんだ。


「それに、力で支配するっていうのは、いいよね!」


 もともとドラゴンなので、征服欲も強いらしい。

 結構常識ある方だと思ってたけどなぁ。


「さて、余も幕僚に加えられてしかるべきであろう」

「どうでもいいけど、そっちのボディなんだな」


 ラディはザーダスになっていた。

 幼女から、むっちむちの美女に。

 貴重なロリババアなのに、自分から武器を捨てるのかよ。

 まあいいけどな。に幼女趣味はない。


「学院に通わぬなら、むしろこっちの格好のほうがしっくり来るのだ」

「まあ、その格好のほうが年数が長いわけだしなぁ?」

「む、歳の話はよせ」


 結構気にしてたんだな。

 ちなみに、ディーラちゃんは「お姉ちゃんって呼んでも、これなら変な顔されない」って喜んでいる。

 シーリアは、ロリ姿でなくなった彼女に歯噛みしていた。


「オクヒュカートは……まあ、来るわけないか」


 あいつは、央虚界から出てこない。

 よほどパトリアーチが怖いんだろう。




『陛下~! こんな面白そうなことに私を誘わないなんて、あんまりじゃないですか~!』




 はっとして、振り返る。


 彼女の声が聞こえた気がしたのだ。

 

 だが、そこには誰もいない。


 彼女が、来るわけがない。


「……自分では気づいてないだけで、すげー未練あるじゃん……」

「どうかしたのですか、アキヒコ様?」


 リオミが心配そうに俺の顔を覗きこむ。


「ん、なんでもない」


 今のは、ひょっとしたら有り得たかもしれないビジョンに過ぎない。

 悪いこと以外にもビジョンが見えることがあるのだと、初めて知った。


「さて、とりあえず何から始めようか」


 俺は気を取り直して、全員に声をかけた。



 基本ベースの”設定”はこうだ。

 俺達はデュナミス。

 エネルゲイアと銀河を二分する存在。


 俺がググってつけた名前ではあるが、ジャ・アークよりは全然いい。

 ちなみにフェイティスはジャ・アークで行きましょうと主張していたが、賛成案はなかった。


「わたしたちは、どうしてデュナミスとして戦うのですか? ピースフィアでもいいのでは……」


 リオミの言うこと最もだが、既に名乗ってしまったしな。


「この際だから、ピースフィア宇宙軍組織の正式名称をデュナミスにするよ」

「では、公式文書にもそのように記載致します」

「国家の重大事項をこんなふうに決めてよろしいんですの!?」


 俺の決定にフェイティスが頷くと、ヒルデが驚いて声をあげた。

 ヒルデ以外の全員が顔を見合わせ苦笑する。


「ヒルデ様も慣れたと思ったけど、まだまだだねー」

「いつもこんな具合だぞ?」

「ぐぬぬ……宇宙軍総司令はわたくしですのに」


 フランとシーリアに言われて、守銭奴側室は悔しげだ。

 いくら肩書きがあったって、結局は王宮にいないことの多い側室なんてそんなもんだろうに。

 自分の権力を増したかったら学院なんぞでパワーゲームなんぞしてないで、俺を全力で落としにかかるべきだったのにそれをしなかった時点でなぁ……。

 っと、この辺の思考は他の俺には同期しないでおくか。


「でも、聖鍵陛下のおっしゃることは絶対ですからぁ」


 チグリはこの言い回しを相当お気に召したらしく、機会があると使おうとする。

 随分きっちり調教されちゃったなぁ。


「名称はデュナミスで良いとしても、戦うのに建前の目的は必要であろう。まさか、遊びでやってると宣言するわけにはいかんしな」

「遊びでやってるんじゃないんだよー! って、キレる17歳に修正されるしな」


 ラディのセリフにネタを振った俺の発言に、全員が「?」となる。

 残念ながら、このセリフに唯一ツッコミを入れられる彼女はいない。


「ま、まあそこは素直に銀河統一でいいんじゃないかな。俺ももともと、アースフィアを統一するって方向で国を建てたわけじゃあないけど……」

「そうだったっけ?」


 ディーラちゃんが馬鹿っぽく首を傾げる。

 なんかこういうやりとり久しぶりで、なんか癒される。

 ああ、そういえば最初はこうやって雑談してるだけでもよかったんだよなぁ。

 何もかもがみな懐かしい。


 本当のところ、別にこんな大掛かりなゲームなんてしなくても、王国の政治から離れてハーレム女子勢と一緒に気楽に暮らせれば解決する気もするんだが。

 まあ本体オリジンがすっかり救世主脳だから、無理だろうな。

 なぁに、俺がすぐにこの閉塞した状況を変えてやる。


「アースフィアを統一する国家になることは、初期から予測できておりましたが……」

「それでも、うちの国は独立したままですわね」


 フェイティスが微妙に顔をしかめ、続くヒルデのセリフに頷いた。

 中二病メイドさんは最初から、ジャ・アークを使った統一戦略を掲げていたからなぁ。

 今でもジャ・アークを諦めきれてないところが、完璧で瀟洒なメイドの汚点になってて、実に俺好みだ。

 そそる。


 そんな風に俺が他のクローンに思考を同期しないように考えていると……おずおずとリオミが手を挙げる。


「一応遊びとのことですけど、アキヒコ様は、何のために銀河統一を目指されるのですか? 気晴らしなら他にもっと別のやり方がありそうですし」

「敢えて言えば、ロマンかな」

「ロマンですか」

「俺も男だからな。男に生まれた以上は、なんかそういうことしたいと思わないでもなかった」


 実際にすることになるとは思わなかったけど。

 なんだかんだ、結構戦記モノは好きなジャンルだった。

 たったそれだけの理由で銀河にお住まいの皆様に多大なるご迷惑をお掛けすることについて誰に頭を下げればいいのやら。


「とにかく、遊びなんだけど……でもやるからには、ゲームだからこそ真剣にやるよ」

「うむ、そうでなくてはな。やれやれ、久しぶりに退屈を紛らわせそうだ」


 俺の宣言に、ラディが愉快そうに笑った。


 ぱんぱん、と俺は手を叩き。


「えー、そんなわけなんで、デュナミスにおける人事を刷新したいと思いますー」

「えっ、じゃあわたくしの地位は……」

「幹部のひとりに格下げ」

「いやああああッ!?」


 髪のドリルロールがギュインギュイン回転しつつ、不満を訴えるヒルデ。

 あのドリル、一体どうなってんだ……。


「ヒルデには言ったけど、銀河統一の暁には、一番頑張った人には5兆円をプレゼントします」

「負けませんわよぉぉぉッ!!」


 まあ、金でモチベ上がるのはヒルデだけなんだけどね。

 王妃組はその辺どうでもよさそう。俺と一緒にやれれば、それでいいって感じ。さすがは正妻だ。

 チグリは新兵器のお披露目に燃えているみたいだけど、フランは何する気だろう?

 ザーダス姉妹は……うん、既にお互い作戦会議モードに入ってる。ガチで遊ぶ気だ。



 あの後、フェイティスが早急にゲームルールを作成してくれた。

 それぞれの担当する星系をおのおのの方法で攻略する。

 戦力配分は初期は平等だが、現地に用意するルナベースの戦力で増産可。

 もちろん早く攻略すれば高得点だが、一番のポイントはどれだけ俺が楽しめたかという、銀河迷惑賞があったらノミネート間違いなしの評価基準だ。


「それでは、チーム分けを発表いたします。

 まず、フェーダ星系担当は引き続きヒルデガルド様。ここは今までとほとんど変わりません。ご主人様のグラナドのテストも、ここで引き続き行います。

 ダリア星系担当はチグリ様となります。ただし、あそこには高度文明が存在しないので……チグリ様は特別に新兵器を他の星系の担当者に供与して、その評価と戦績においてもポイントを稼げるものとします。

 フラン様はアルテア星系です。フェーダ星系とは少々毛色が違いますが、ここも人間同士による戦いがありますので、この平定を。

 ラディ様とディーラ様はアスタロト星系です。凶暴な怪物や宇宙怪獣が多く、人間はそれらから隠れるように暮らしています。彼らを助けてください。

 リオミとシーリアは、ノイマン星系をお願いします。ここは魔素の高い惑星が多いので、ダークスも活発です。個人戦闘力が重要なので、おふたりにはぴったりと言えるでしょう。

 尚、いずれの星系にもご主人様のクローンが同伴します。他の星系の情報が知りたい場合は、ご主人様を通して下さい」


 配分を適当に聞き流す。俺はいずれの担当でもないので、正直どうでもいい。

 だが、フェイティスの言葉が続かないのが気になった……あれ?


「フェイティスは?」

「わたくしはデュナミスとしては参加しません。審判役として、皆さんの補佐に回ります」

「……なら、ジャ・アーク使ってもいいよ」

「マジですか!? あ、いえ、なんでもありません」


 今ちょっとキャラ崩れたねぇ、フェイティスかわいいよフェイティス。


「よし、じゃあ各人それぞれのルナベースへ転移! 解散!」


 こんな具合に、銀河統一に乗り出した俺たち。

 いずれこの銀河の名前をピースフィア銀河と呼ばせてやるのだ、ウェッヘッヘ。

 まあ、反乱起こされて撤退するところまで視野に入れてるんだけどねぇ。


 解散した後、他のクローン達がおのおのの子たちと会話している。


「……陛下、余程溜まってらしたんですのね……。別人かと思ってしまいますわ」

「いや。むしろ、これが俺の素に近いんだよ」

「そうなのですね。さて、でしたらさっさとエネルゲイアを倒してフェーダ星系を統一致しましょう!」

「は? 何言ってるんだよ、ヒルデ。早く終わらせたら、全然楽しめないじゃないか。せっかくだから、じっくり楽しまなきゃ損だろ」


 アースフィアに召喚されてからこっち、どうにも聖鍵を手に入れてしまった関係で自制気味だった。

 もう誰も俺を止めることはできない。

 俺は自由なのだ。


「で、でもさすがにエネルゲイア相手に遊んでばかりというのも、まずいのではありませんこと……?」

「そう、それはそのとおり。だから、ヒルデが頑張って戦ってくれ」

「グラナドなしで、ですの? それはさすがに、今回与えてもらった戦力では苦労しそうですけど……」

「だからゲームになるんだろ。グラナドのテストはテストで、本体オリジンが勝手にやる」

「でも、それなら陛下はどうしますの?」

「俺? うん、俺はね……ちょっと、モナドギアのパイロットになってみようかと思うんだ」

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