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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode04 Dark Menace

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Vol.18

 あれから、ベニーは俺に接触してこなくなった。パトリアーチと俺への対策でも練っているのだろうか。

 さすがに、すぐ俺から聖鍵を取り上げることはしないらしい。

 今回のルートがレアケースによってもたらされているのだとしても、彼にとっては貴重なデータ。

 今すぐに因果律統合を行なうわけでも、インフィニティ・グラナドを解放するわけでもないなら、様子見というわけだ。


 だが、俺はいつかヤツと決定的にぶつかる時が来ることを予見している。


 現状、彼我戦力比は……まったくお話にならない。

 俺の所有する宇宙戦力は現在、ヒルデ艦隊と宇宙怪獣、グラディア隊、ルナベース、そしてマザーシップのみだ。


 対するパトリアーチは、ルナベースと同規模のルナ級超巨大戦艦ペネトレイター……4隻からなる1個艦隊を、12個所有する宇宙要塞パズスを所持。

 さらに、その気になればメシアス多次元連合からバートンシリーズの艦隊を呼び出したり、対旧神用銀河型兵器アルティメット・スペーサーを召喚することもできるだろう。


 しかもヤツは、俺の聖鍵をいつでも次ループへと送ることができる。

 ウィルスを介して聖鍵を操作、それでグラナドの因果律逆転を行なうことで、いつでも俺から聖鍵を奪える。

 ベニーにはルナベースへのアクセス権限まで委譲してしまっているため、パトリアーチはいつでもハイパー・ホワイト・レイでアースフィアをスペースデブリに変えられる。

 おそらくルナベースの武装がアースフィアに向けられているのは、各ループの俺に対して優位に立つためなのだろう。


 ディメンションセキュリティも鉄壁のため、転移で不意を突くことも不可能である以上、パトリアーチに正面から対抗する手段はない。

 現状は、ループ維持の方向で交渉しつつ、聖鍵を確保しておくしかあるまい。

 既にいくつか手は打ったので、ただでやられる気もないのだが。


 現状の危機を整理したところで、もうひとつの危機の説明をしよう。


 俺は今、風呂に入っている。

 いきなり話がスケールダウンしてしまってすまないが、風呂に入っているのだ。


 そして残念ながらと言うべきか、大変長らくお待たせしましたと言うべきか、俺ひとりで入っているのではない。


「せいけんへーかさま、おっきーい」

「こらこら、子供が触っちゃいけないぞ」

「ひゃぅッ!? へへへ陛下、尻尾! そこ尻尾ですからぁー!」


 ユーフラテ領で滞在して、まる3日。

 俺は屋敷の風呂で、チグリ&マグナと思う存分戯れていた。


 うん。

 また、ダメだったんだ。

 俺はまたしても、誘惑に勝てなかったんだ。


 でも、大丈夫。

 マグナの尻尾には、手を出していない。

 セーフだ。


 俺の聖剣が勝利すべき黄金の輝きを放っているのも、主にチグリのせいだ。

 マグナのせいではない。

 決して、決して、俺がロリコンでケモニストだからではない。


 とにかく俺がここで宝具を暴発させるようなことがあったら、魔力切れどころの騒ぎではない。

 ループを終わらせるまでもなく、王以前に人として終焉を迎えることになるだろう。

 これもパトリアーチによる介入のせいだとしたら、ヤツは恐るべき策士と言える。


 ちなみにマグナの年齢は5歳である。

 彼女に興奮したらロリでは済まされない。ペ○だ。

 それだけは、絶対にあってはならない。

 ヤムのときに大丈夫だったと油断はできん……なにせ、マグナにはヤムにはない……麗しの耳と尻尾があるのだ。


 だからこそ、チグリも一緒に風呂に入れたのだ。

 万が一、マグナと2人きりで聖剣が解放されてしまったら……俺は俺を許せなくなってしまう。

 他の俺から切り離され、リストラされるだろう。


 今のところはチグリの尻尾を弄ることによって精神の安定を保っているが、現状は何一つ改善されていない。

 レッドアラート、エマージェンシーだ。


「せいけんへーかさま、マグナもお嫁にもらってくれる?」

「……!」

「陛下ぁ!? そこ尻尾じゃないですから、胸ですから!!」


 そもそもマグナと一緒にお風呂に入る経緯からして、どうかしている。

 彼女は自分で泥遊びをして、自分でお風呂に入れてと俺に言って来て、兄姉たちが妹の無礼を平身低頭謝り倒した結果、どうにも流れ的に俺が笑って許してあげないといけないような雰囲気になったのだ。

 だからといって、マグナと実際一緒に風呂に入る必要までは、なかったような気がしないでもないのだが。

 やっぱり、人間はそうそう誘惑には勝てないものなのだ。うむ。

 俺はまだ、人間なんだ。


 ちなみに、マグナはあと10年もすると大変美しい少女となる。

 今のうちにフラグを立てておくと、良い感じにお嫁に来てくれるいい子なのだ。

 まあ、ちょっと利に聡くて、王国を裏から操ろうとするタイプの側室になってしまうのだが。

 獣耳幼女傾国系である。


 フラグ? もちろん、今回も立てるとも。


「えへへ、へーかさまー」

「おー、よしよし」

「陛下……っ……そこ、ダメですぅ…………」


 なんとか暴発せずに済んで、俺は人としての尊厳を守り通した。

 いや、守り通せてない気がするが。

 チグリは犠牲になったのだ……。

 


「……あいつ、マジで殺そうかな……」

「アキヒコ様、どうかされました?」

「ん、あなたって呼んでくれないの?」

「だってまた、いきなり恥ずかしくなっちゃって……」


 無事に元通りになったリオミが、照れくさそうに赤くなっている。

 急に歳相応の可愛らしさが戻ってきたので、思わず抱きついてしまった。


「やん。アキヒコ様ったら……あ」

「……今、蹴ったね」

「はい! 元気な子です……♪」


 最近、めっきりおとなしかったリオミだが、今までの分を取り戻すぐらいのつもりでラブラブしている。

 

「ああーっ、急にこんなに幸せ気分になるなんて。魂吸われてたことが、今更ながらに恐ろしく思えて来ました」

「まあ、オクヒュカートもいろいろ苦労したみたいだしな……あいつはあいつで、幸せになれるといいけど」


 オクヒュカートは既にザーダスの手によって魔性転生しているため、浄火すれば解決というわけにもいかない。

 ガフの部屋を改造すればなんとかできる気もするが、さすがにあそこに手をつけるのは倫理的に憚られる。


 もし再びリオミやみんなに何かあれば、俺は迷わずに実行するだろうが。


「アキヒコ、オクヒュカートのことなのだが……」

「ん、どうしたシーリア」


 彼女のお腹もそこそこ出てきているので、もうしばらく戦闘の類は任せられないだろう。

 シーリアは最近は学院を控えて、リオミと一緒にいることが多い。


「ラディには話したのか?」

「まだ話してない。急ぎじゃないし、タイミングは計るさ」

「私の両親については何か言っていたか?」

「いや、特に何も」

「……そうか」


 シーリアは、あからさまに肩を落とした。

 彼女の両親は、オクヒュカート追跡の任務に就いていた。ザーダスは別次元と言っていたが、おそらくそこが央虚界だったのだろう。

 残念ながらと言うべきなのか、オクヒュカートはディアスとエミリアには出会っていないらしい。


「俺も捜索は続ける。きっと見つかるさ」

「ああ……すまない、アキヒコ。恩に着る」

「アキヒコ様……わたしの恋心が、本当は別の世界のわたしから受け継いだものかもしれないというお話……」

「そんなものがなくても……俺はリオミに惚れてたよ」

「……はい! きっと、わたしもです」


 実際はどうだろう。

 遡れば、オクヒュカートとリオミのロマンスが最初だったとは限らないのだし、言い出したらキリがないのではないだろうか。


「それにしても、ループという話は本当なのか? 勉強していたおかげで、かろうじてついていけるのだが」

「本当だ。クローン同時操作とかができるのも、そのおかげ」


 今回、オクヒュカートについて話す上で必要だったため、シーリアにはループの情報を開示した。

 隠していたというより、並行世界の概念を伝えるのが難しかったので、今まではリオミとベニーだけの知る情報だった。


「他の世界だとディオコルトに手篭めにされたり、アキヒコに殺されたり、散々だな私は……」

「そのおかげで今の俺とシーリアがあるとも言えるんだけどな。

 なにしろ、お前の両親を助けたのは、オクヒュカートだったんだから」

「なんだって!?」


 そう、実はそうだったのである。


 今回、俺がシーリアとザーダスを和解させられたのは、実は両親は殺されてませんでしたってのが大きい。

 そして、ディアスとエミリアを極大魔法から救ったのがオクヒュカートだったのである。


「どうして、オクヒュカートが私の両親を助けるんだ……?」

「あいつ、お前とは仲が良かったんだよ。恋人ではなかったけど、お前の背景を知った上で魔王ザーダスを討伐しに行った貴重なルートホルダーなんだ。当然、お前の両親がどういう運命を辿るのかも知っていた」


 シーリアは複雑な表情をした。

 自分とは無関係に思える別の俺が、両親を助けてくれたというのだから無理もない。


 オクヒュカートはこの世界の俺を乗っ取り聖鍵を手に入れるため、かなり前から暗躍していた。

 慎重に自分が介入する世界を見極め、俺を標的に定めたところで100年前のアースフィアに降り立った。

 理由は3つ。魔王となるザーダスに取り入り、ダークスの力の研究をさらに進めるため。

 2つ目は俺が召喚される以前から、パトリアーチに隠れてアースフィアのいくつかの施設を押さえ、自分が利用する下地を整えるため。


 そして、3つ目は……シーリアの両親を救うため。

 極大魔法からディアスたちを守り、ダークスについての真実を打ち明けたらしい。

 ザーダスとディアスたちをどんな風に組ませたかはわからないが、オクヒュカートはマインドクラッキングなどの技術も持っていた。

 強引な手を使ったのかもしれない。


「アイツもわかってるみたいだけどな。こっちのシーリアは、オクヒュカートの世界のシーリアとは別人だ。こんなことをしても、意味なんてほとんどない。それでも、あいつに介入されていなければザーダスとお前の真の和解は無理だった」


 俺が特別だったからではなく。

 オクヒュカートに介入され、ディアスとエミリアが生き残っていた今回の並行世界が特殊だったのだ。

 そもそもマインドリサーチでなんとかなるなら、これまでだって辿りつけたはずだ。


 基本的にシーリアとラディの和解は、両親殺害がある限りトゥルーエンド不可。

 以降の世界があるとしたら、カラクリを看破したパトリアーチがオクヒュカートの代わりを務めるかもしれない。


「ラディはオクヒュカートを裏切り者だと言っていたらしいが……」

「俺が召喚される前に、魔王軍の侵攻作戦をフイにして姿をくらませたからな。実際は、パトリアーチに捕捉されかけて、央虚界へ篭ったんだと」


 あの遺跡は、いわばオクヒュカートにとっての秘密基地だった。

 だが、魔力を抑えていた装置がホワイトドラゴン……そう俺が風呂に入りながら討伐したアイツに破壊され、非活性ダークスが活性化。浄火プログラムの対象となった。

 高高度からの砲撃により、基地は遺跡に成り果ててしまったというわけだ。


 ゲートは無事だったが、異常を感知したパトリアーチの調査を受ければ、自分の正体が明るみに出るかもしれない。

 オクヒュカートは速攻で央虚界へと逃げ帰った。

 引き継ぎすらしなかったおかげで、彼の担当していた作戦が失敗、人間とダークスのバランスが崩れてしまった。

 ザーダスが怒るのも無理はない。


 そんなオクヒュカートをこちら側に引き入れたのは、何も同情したからというだけではない。

 来るパトリアーチとの対立に備えるなら、ダークスを利用する算段をつけておくべきだと判断したのだ。

 特に非活性ダークスは、利用さえできればパトリアーチに対する大きな切り札となるだろう。


 清濁併せ呑まねば、掴むべき未来は掴めない。

 それはビジョンでも、並列思考による分析結果でも、ルナベース検索を参考にしたのでもない。

 俺の勘だった。


 誰だ、今外れそうとか思ったのは……。


「ふたりとも。もし、俺が突然動かなくなったときは……伝えた指示通りに動いてくれ」

「……はい」

「わかった」


 他の側室や側近たちにも俺を通して、伝える。

 パトリアーチも聞いているだろうが、聞かせる意図もある。

 俺とて、彼を完全に敵に回すのは避けたいところだからな……。


 現在稼働しているクローンは王宮の俺を含め、グラーデンの1人とヒルデ宇宙艦隊に本体。残りは央虚界の5兆。

 リスク分散のために、アースフィアに大量のクローンを投入するのは避けるべきだ。

 いつでも聖鍵がなくなってもいいように、準備をしておかなくてはならない。


 おそらく、終着点はそう遠くない。

 如何なる結末を迎えるにせよ、この世界を終わらせるとしたら……それはきっと、俺だろう。


 だが……これから生まれてくる俺の子どもたちは、どうなるのだろう。

 可能性の統合、ダークスのいない世界が本当の意味で正しいのか。

 そもそも、ループを始めたおれは……パトリアーチの言うように、ダークスの消滅を志向していたのだろうか。


 ループを始めた理由は、今の俺にはわからない。



「あるいは、それが……」

「へ、陛下ぁ……どうされたんですか? 独り言」

「ごめん、何でもない」


 視点はユーフラテの屋敷に逗留する俺に戻る。

 風呂からあがってさっぱりした俺達は、ポタミアと共に農作業を手伝いに行こうと思ったのだが。


「陛下にこのようなことでお手を煩わせるわけには!」


 と大反対されたので、屋敷に篭ることにした。

 土仕事、そんなに嫌いじゃなかったのだけど……。

 しょうがないのでチグリとショウギで戯れている。

 負けそうなので、ちょっと揺さぶりをかけよう。


「ところでチグリ」

「はい」

「お前の家族の中に1人、偽物がいる」

「はいぃぃ!?」


 予想どおり、素っ頓狂な声をあげるチグリ。耳がピーンとしてる、ピーンって。

 お、一手ミスったな。


「えっと、冗談……ですよね?」

「冗談ではなく、本当だ。今でもそいつは本物のフリをして、俺達を監視してるんだ……」

「そ、そんなぁ……陛下はそこまで気づいてるのに、何もなさらないんですかぁ!?」


 この駒を、こっちへっと。


「本物はもう助けて、コピーボットとすり替えてある」

「そ、そうでしたかぁ」


 ほっとするチグリ。尻尾ふりふりカワユス。

 お、甘い手キタコレ。


「偽物は泳がせてある。王手!」

「あ、それ取って王手飛車取りです……」

「ノオオオオ!!」


 すべてが罠だった!

 結局10連敗を喫した俺は、今回の作戦について説明を始めた。


「今回もいつもと同じだ。敵の頭を取って、総取りを狙う」

「で、でも保守派の頭って……ドルガール候じゃなくて、本当はクラップ王じゃないですか」

「そうなんだよな」


 王はのらりくらりと追求をかわし、中立として振舞って両勢力のバランスを取っているが……本音を言えば保守派である。

 ピースフィアの傘下に加わった場合、大公の地位を維持できるか怪しいからな、彼のコネクションだと。

 そこを裏取引で保証しようとしても、用心深いクラップ王はなかなか乗ってこない。

 カドニアの肩を持ったこととか、三国連合を実質的に破綻させたことを根に持ってるのかもしれない。


「今回、俺がここにいる最大の理由も……カドニアのフォスでやったことと同じ。ユーフラテ領の聖地化だ。俺の滞在が長くなれば長くなるほど……クラップ王にとっては面白くなくなる」

「じゃあ、いるだけでいいってそういうことだったんですねぇ」

「もちろん、実際は連中がいろいろちょっかいをかけて来ることは間違いない。ただ、トカゲの尻尾が多いんだよ。なかなか馬脚を表さない」


 あるいは、エーデルベルトを大公国にしてしまっていれば……グラーデンに大きな圧力をかけることができただろう。

 だが、俺はエーデルベルトの独立を維持させる方策で舵を切ってしまった。

 そして、エーデルベルトに直接的な経済支援を行なった。それが、グラーデン王国を大いに焦らせた。

 グラーデンの場合は王族の血をわずかにしか引いていない……氏族に至ってはまるで違うユーフラテ家のチグリを側室として送り込んでしまっていた。しかも、よりによって一号側室にである。

 ユーフラテ家の権勢をコントロールする自信のあったクラップ王は、ふたつ返事でOKしたわけだが……彼の目論見は破綻した。


 チグリが有能過ぎたのだ。


 彼女自身、まったく意識してのことではないが、側室で最も戦果を上げているのは……繰り返しになるが、間違いなくチグリである。

 ユーフラテ家がピースフィアとの縁故が強い以上、エーデルベルトと同じような支援をグラーデン王国へ望むことはできない。

 このまま、ピースフィアにユーフラテへの直接支援などを行われてはまずい……クラップ王はそう考えた。


 実際のところ、ユーフラテ家への直接支援など何もしてはいないのだが、チグリの功績を考えれば将来的に大きな介入は確かに有り得る。


「人だけが神を持つ……だったかな。本来の意味とは全然違うけど、クラップ王には俺が恐ろしい存在に思えるんだろうよ」

「神……ですか?」

「もちろん、俺は神を気取れるような全知全能は持っちゃいない。

 確かに、もう人間と呼べるような存在ではないかもしれないけど、俺は人間であることに拘りたい。

 誰かの役に立てる人間でありたい。でも、他人はそう思っちゃくれない」


 あるいは、俺の善意が誰かにとっての悪意にしか思えないなら、それはやはり悪意だろう。

 正義も悪も、いつだって相対的なものであって絶対的なものではない……誰しもが満足する世界なんて、造れやしない。


 造物主デミウルゴスもあるいは、そうやって……完全な世界を作りたかったのかもしれない。

 だが周りには、世界を戯れに破壊する邪神としか見えなかったのだろう。


「俺もいつか打倒される日が来るんだろうな……」

「へ、陛下! 滅多なことを言わないでくださいよぅ!」

「すまない。ちょっとセンチになっていただけだ」


 結局、どうなったところでグジグジと考える悪癖はなんら変わりはないな。

 これすらなくなったら、それこそ本当に人間ではなくなるときだろう。

 最近はこの辺も、各個体によって差異が出てきているようだが……。


「脱線しちゃったけど、今回は最終目標はクラップ王の失脚ってことになる。やっこさんには気の毒な話だけど」


 グラーデン内の腐敗を一掃するには、国ごと変えるしかない。

 そのため、現政権には丁重にご退場頂かねばならない。

 

「チグリ。どうして俺がここまでグラーデン内部の掃除に拘るかわかるか?」

「えっと……それは、お父様の陳情を聞いて……」

「そうじゃない」


 俺はピシャリと言った。


「身分制度に手を入れる時が来たんだ。グラーデンを公国化した暁には、貴族制度を全面廃止する」

「えええええええッ!!」

「いや……より正確に言うと、平民を貴族と同じ領域にまで引き上げる」

「どういうことなんですか!?」

「チグリ、コレを見てくれ」


 俺は、グラスを2つ用意して、それぞれに少量ずつワインを注いだ。

 片方を多め、片方を少なめに。


「こっちの多いほうが貴族、少ない方が平民。これが今のグラーデン王国だと思ってくれ」

「は、はいぃ」

「例えば、ここに俺の聖鍵を使って大量の食料やら物資やらを提供する」


 どん、と封を切ってないワイン瓶をテーブルに置いた。


「どうなると思う?」

「えーっと……こうでしょうか?」


 チグリはワインの封を切って、貴族に多め、平民に少なめに注いだ。


「違うな。正解は、こうなる」


 俺はもう一本のワインの瓶を取り出して、封を切らずに貴族側のワイングラスの方へそのまま置いた。


「富める者が富み、貧困に喘ぐ者の手にはほとんど渡らない。今のグラーデンの体制だと、これが当たり前のように起こる。このまま大公国になったとしても、貴族たちはピースフィアの支援に自分たちを通すように主張してくる。それを跳ね除けようとすれば、結局今と同じような状況になってたってわけ」

「はぅぅ……」

「もちろん、平民との付き合いがあるような貴族は彼らの苦しみがわかるから、分かち合おうとする。だけど、そうじゃない貴族の方が大多数なんだ。そして、残念ながらそういう貴族は恭順派の方にこそ多い」


 俺はチグリの手を握った。

 ちょっとビクついたものの、チグリは俺の視線を受け止めてくれる。


「今回のやり方は、正直な話……無血はほぼ無理だ。うまく言ったとしても死人は出る。だからこそ、ループではグラーデンには一切手出ししないという事も多かった……でも、今回はやる」

「へ、陛下……」

「チグリ。お前の力を貸してくれ……おそらく、最終的には」


 その言葉は、自分でも驚くぐらいはっきりと明瞭に聞こえた。


「グラーデンと、戦争をすることになる」

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