Vol.16
「美味い……」
俺はすっかりワインの飲み比べに嵌っていた。
屋敷に滞在している俺の役割は『待つこと』であり、その間は結構暇を持て余すことになる。
捕えられていた人物は保護し、コピーボットとすり替えてあるから、本当にやることがない。
排泄物も分泌する精巧なタイプなので、バレることもないだろうし。
「ん、チグリが到着したか……」
馬車のテレポータ―を経由して、宇宙艦隊勤務の合間を縫ってチグリが帰郷した。
その様子はドローンやナノマシンを介して、俺の知るところとなる。
迎えに行こうか迷ったが、王たる俺が配下でもある側室のために足を運ぶのは、グラーデンの流儀からすると褒められた行動ではない。
ここは素直に待つべきだろう。
チグリは浮かない表情で、外で花に水をやっていた使用人に声をかける。
使用人はすぐにチグリを俺の部屋まで案内した。家族より俺に面を通すのが先だからだろう。
「失礼致します、聖鍵陛下。チグリ様がお帰りになられました」
「入れ」
使用人が扉を開けると、チグリが犬耳をぴょこぴょこと動かしながら一礼する。
「陛下ぁ~……先ほどぶりです」
「ああ。さっき別れたのに、なんか変な感じだな」
部屋に入ってきた犬耳を撫でると、チグリは甘えるような声を出した。
俺たちのやりとりに使用人が首を傾げていたが、己の立場を弁えて部屋に踏み入ることなく扉を閉める。
「今さっき宇宙で『あっちの俺によろしく』っておっしゃてったのに……不思議ですぅ」
「まあ、気にするな。もう俺はたくさんいるんだ」
エージェント・ス○スもびっくりのたくさんっぷりである。
そうか、アンダーソンをなんとなく君付けしてたのは伏線だったのか。
「まあ、座って。美味い酒があるんだ」
どことなく居心地が悪そうなチグリに席を勧めた。
「は、はいぃ。でも……」
「ああ……そうか。お腹の子がいるのに酒はまずいね。すまない、無神経だった」
「はい、いいえ……ご好意だけでも嬉しいです」
「じゃあ、お茶を用意してもらおう」
使用人を呼んで頼むと、執事がお茶を煎れてくれた。
俺の分も用意してくれたが、グラスにはまだワインが残っている。
いやぁ、それにしてもなんでこんなに酒が美味いのだろう。
胃が溶かされてるような刺激を感じて、微妙に気持ちいい。
「実家はいつぶり?」
「かれこれ……1年ぶりぐらいですぅ」
「結婚した後も帰らなかったもんな」
当時はクラリッサの反応を見るという政治的な意味合いも兼ねて、チグリとの結婚式はしめやかに執り行われた。
その際、グラーデン王都には赴いたものの、ついにユーフラテ領に足を向けることはなかった。
1年ということは、学院に入る以前から、チグリは実家と距離を取っていたことになる。
「やっぱり、まだ居づらい?」
「……一時期に比べれば、まだ」
チグリは家の期待を背負って、ロードニアの魔法学校を受験した。
だが、結果は既に知ってのとおりである。
現在でこそチグリは各方面に才能を発揮し、ピースフィアにとっても必要不可欠な人材となっているが……家の期待に応えられなかった経験は、チグリのような小心の女性にはきついものがあっただろう。
「チグリはもう立派になって、故郷に錦を飾ったんだ。胸を張っていいと思うよ」
「故郷に錦……ですか?」
「ああ、この表現はアースフィアでは使われてないのか……要するに、大きな成果を挙げて実家に帰ってきたってことだよ」
「そうでしょうかぁ……わたしなんか、まだ全然……」
チグリはこんなふうに言っているが、聖鍵領直轄軍幕僚長とアースフィア星系宇宙軍副司令を兼任している。
役職なんて外向けの飾りではあるが、彼女にはかなりの権限を与えてある。
チグリの最高傑作ドリッパーちゃんカスタムも大戦果を上げているし、先日の艦隊運用も素晴らしい。
ぶっちゃけ、側室の中で一番功績がある。もっと誇ってくれていいのだが……。
「まだまだ実感がついてこないか」
「はいぃ……すいません」
今のチグリを見ていると、少し昔の俺を思い出す。
何をやっても聖鍵のおかげだと、自信を持つことができなかった。
俺がこうして変わることができたのも、ラディやシーリアを救えたことが大きい。
チグリの場合はドリッパーの凄さがイマイチわかっていないようだし、海賊と勝利した件についても死人を出した罪悪感の方が大きいみたいだ。
彼女の実力を見込んでのことだったが、失敗だったか……?
「今回はゆっくり時間が取れる。家族たちといろいろと話してみるといいよ」
「……はいぃ」
チグリも決して弱い子ではないとは思うのだが。
できるだけ俺が優しくしてあげないといけない。
「ほらほら、チグリだってお母さんになるんだから。子供にそんな顔見せてたら、不安になっちゃうよ」
「そ、そうですね……!」
お、ちょっとだけやる気出たっぽい。
大きな胸の前で両手を胸を寄せるようにぐっと握りこんで、耳も尻尾もピンと立てている。
チグリは本当にエロかわいいなぁ。
またセクハラしたくなってくる。
その後は普通の雑談で、ティータイム。
優雅なひとときを過ごしつつ、話題は生まれてくる赤ちゃんの話にシフトした。
「まだ、全然実感がないんですぅ~……ほ、本当に陛下の子なんでしょうか?」
「ぶッ……!?」
あんまりにも衝撃的だったんで、思わず口に含んだワインを噴き出してしまった。
「おいおい、他に心当たりがあるのか!?」
「いやいやいやいやっ! すいません、そういう意味じゃなくてっ……!」
「他にどういう意味があるんだよ……」
「そのー……わたしなんかが、陛下の子供を産んでいいのかな、と……」
「ちょっと苦しいと思うぞ、それ。まあDNAからして、は間違いなく俺とチグリの子に間違いないよ」
「DNAですか……」
遺伝子関係の研究もチグリは進めている。
アースフィアの他の誰よりも、メシアスの科学技術に精通した彼女なら通じると思ったのだが、ピンと来てないようだ。
頭を掻きつつ、チグリに向かって指を立てる。
「あのなぁ、チグリ。お前は俺の一号側室なんだぞ。リオミやシーリアの王妃組に次ぐ、ナンバー3なんだ。そのことをもっと自覚してだな……」
「あぅぅ~……」
チグリは犬耳を垂らして、すっかりしょんぼりしてしまった。
うーむ、この子には説教しても逆効果になってしまうのか。
コンプレックスは根深い。どうしたものか……。
というか、あれだけ無双しておいて……どうしてこんなに自信が持てないのだろう。
彼女は俺とよく似ている。俺が聖鍵頼みだったころと……って、そうか。
チグリはそもそも、聖鍵の絡んでない完全に自力の手柄が何一つないんだ。
どこかしら負い目があるのだろう。
俺とまったく一緒じゃないか。何故もっと早く気づいてやれなかったんだ。
となると、解決策は……。
「チグリ。しばらく、俺達はここで過ごすことになる」
「は、はいぃ」
「そういうわけで、とりあえず家族を紹介してくれない?」
「えええええっっ!!」
まずは苦手分野を克服させる。
これがうまくいかない場合は、得意分野で自信を付けさせることに専念しよう。
「俺の命令は?」
「絶対ですぅ!」
「じゃあ、お願い」
「はいぃ……」
チグリの家族は多い。
まず、ポタミアには正妻に加え妾が2人いる。子供は正妻の子が4人、妾の子が7人。
チグリはルド氏族である正妻の次女で、魔法方面に期待をかけられていた。
家族仲は決して悪くはないものの、チグリが魔法学校を落第頃はかなり微妙な雰囲気に。
現在、屋敷にいるのは正妻とその子どもたちだけである。
「兄のガルシアと、姉のミグルですぅ……」
「聖鍵陛下に拝謁を賜り、光栄の至りです」
「ご機嫌麗しゅうございますわ、陛下」
長男ガルシアと長女ミグルは仕事の最中だったが、俺に正式に紹介してもらえると知って部屋に跳んできた。
ガルシアは線の細いポタミアに似ず、ガタイがいい。獣耳も凛々しく立ち、精悍な面構えだ。祖父似らしいので、隔世遺伝なのだろう。
ミグルは、チグリよりもしっかりしていそうなお嬢様だ。犬耳はふわふわとやわらかそうで、ぺたんと倒れている。
チグリを娶る話になった際、彼女の方を勧められたが丁重にお断りした経緯があるので、やや気まずい。
両方もらうのは、さすがに憚られた。
だが、今なら考え直すのもいいかもしれない。
ミグルも安産型で、いい子供が産めそうだ。
「あいてて!」
脳に急激な負荷がかかり、思わず頭を抱えてしまった。
「へ、陛下ぁ!?」
「だ、大丈夫だチグリ……」
オリジナルの俺が脳に圧力をかけてきたのだ。
えっちなのはいけないと思うってか、それでも男かよ。
種無しか、コラ。
「いててて!!」
「陛下がぁ~!」
くそっ……ここぞとばかりに復讐してきてるな。
しばらく呼吸を整えた後、兄姉に向き直る。
「もう平気だ。それより忙しいところ、すまないな」
「いえ。妹が普段からご迷惑をお掛けしていると思いますが」
ちらり、とチグリの方に視線を送るガルシア。
チグリは一瞬びくりと耳を立てると、目線を逸らしてしまう。
ガルシアの瞳に失望の色が浮かんだので、俺がフォローを入れる。
「チグリは、非常に役に立ってくれているよ」
「それは重畳ですわ」
応じたのはミグルの方だった。
彼女はチグリに優しげな視線を送っている。
「はうぅ~……」
だが、チグリは居心地が悪そうに俯くのみ。
ガルシアは既にそんなチグリの方を見てはいない。
ミグルも首を横に振って、俺の相手に専念することを決めたようだった。
お互いに軽い挨拶の応酬を交わしつつ、杯を酌み交わす。
チグリは縮こまったまま、何も言わない。
「一応、2人とも俺の義理の兄と姉ということになるが……」
「お気になさらず。わたくし共は一介の地方貴族の子供に過ぎませんので」
「あら、お兄さま。せっかく陛下に義姉さんって呼んで頂けると思いましたのに」
「ははは、無礼だぞミグル」
「ほほほ、お兄さまったら」
「2人とも、仲がいいのだな」
俺を置いてけぼりにして2人とも楽しんでいるように見えるが、彼らはこうして俺の動きを観察しているのである。
なんとも、そらぞらしい遣り取り。
だが、このあたりは貴族社会で暮らしている者たちの間では当然のことだ。
いちいち不快に感じていてはやっていけない。
「それにしても、陛下。何故急に、ユーフラテ領への訪問を?」
ガルシアの質問に、俺はチグリの方へ首を回す。
「チグリの里帰りも兼ねて、一度正式に挨拶をしたかったんでな」
「まあ。でしたら、もっと早くおっしゃっていただければ、こちらも相応の準備ができましたのに」
だが、2人ともチグリの方へ視線を向けることなく、ミグルが話題をチグリの方から逸らした。
「俺はこういうサプライズが好きでね」
その態度に幾分か思うところを感じつつも、冗談を返す。
「ははは、左様で」
「ほほほ、陛下ったらお戯れを」
そんな調子で、腹の探り合いが続いていく。
少し前の俺だったら、この2人のいいようにされていただろうが、フェイティス直々の指導を受けた今ならば特に問題はない。
何しろ俺は、聖鍵王としての振る舞いが一番得意な三好明彦だ。貴族同士の化かし合いで遅れをとることなど有り得ない。
チグリは一切話題に入ってこない。部屋の隅の方で固まっている。
兄姉はそんなチグリに一瞥もくれることなく、丁重に無視しているようだ。
内心、腹は立つものの……これは結婚後にチグリが努力をすれば解消可能だったこと考えれば、彼女自身が望んで手に入れた立ち位置であるとも言える。だから、今はツッコまない。
しばらくすると使用人が三女マグナが帰宅したことを告げた。
そうか、来てしまったのか……。
「チグリ、迎えに行ってやれ。マグナとは1年ぶりってわけでもないだろう」
「は、はいぃ……」
それまで沈黙を守っていたチグリが、俺の指示で逃げ出すように部屋を出て行った。
すると、ミグルがため息混じりに呟いた。
「あの子、まだ気に病んでますのね」
「……義姉殿はわかった上で声をかけなかったのか」
「まあ、義姉殿なんてやめてくださいませ。ミグルで結構です。チグリは昔からああいう子でしたから……私たちから声をかけようとすれば、怖がられてしまいますし」
「聖鍵陛下の側室となったことで、何か変わったのではないかと期待していたのですが……」
ガルシアも妹に気を揉んでいるようだ。
チグリのコンプレックスが家族を怖がらせ、彼らに気を遣わせているのだろう。
ここまでの遣り取りで、この2人も決してチグリのことを嫌ったり、嫉んだりはしていないことは充分理解できた。
マインドリサーチを使わずとも、その程度のことならばわかる。
結局、チグリの心ひとつということか。
部屋の扉がノックされる。
チグリがマグナを連れて戻ってきたのだ。
「せいけんへーかさま! おひさしぶりです!」
扉が開けられると同時に、元気な声が飛び込んできた。
「あっ、マグナ……」
チグリが咄嗟に止めようとしたが、愛らしい童女が作法も構わず、俺の方へ駆けて来る。
そして足にすがり付いてきた。
俺の腰あたりにマグナの犬耳が揺れ、尻尾が乱舞する風が頬を打つ。
いかん。
まずい、これは非常にまずい。
手の震えが止まらない。発作だ、発作が来ている。
ここでは、公人としての振る舞いに徹しなくてはならないというのに。
くっ、だがこれほどのモフモフ少女をモフらずして、何がモフリストか。
一度は自身の並行世界ですべてのモフモフ少女たちを侍らせた聖鍵王として、ここは逝かねばならないのではないか?
今や俺はロリコンであり、モフリストである。
このような愛らしいケモミミ幼女にべったりされて、辛抱できるものか。
「ぐぅ……!」
オリジナルがキリキリと俺の頭を締め付ける。
だが、負けん!
そうだ、頭ぐらいなら赦される。
尻尾は不味いが、頭ならいいのだ。
だから俺は震える手を、そっとマグナの頭に乗せる。
「やあ、マグナ。学院は楽しいかい?」
「うん、とっても!」
そう。
マグナはかつて、俺が尻尾をモフモフしてしまい大変なスキャンダルになりかけた事件の、ブルマ少女である。
あれは”俺”が暴走したせいです。サーセン。
「ぎゃああああッ!!」
「へーかー!?」
オリジナルからの攻撃が最高潮に達し、俺は気絶してしまった。
「クッ、お前のせいで俺が説教を受けることに……!」
「へ、陛下。急にどうしましたの?」
「なんでもない!」
現在、本体の俺は中枢区を通さずともクローンを操作するための『ビットクローン・オプション』の試験運用のため、俺はヒルデとともに宇宙艦隊を率いている。
時空オンライン接続を利用しているので距離などは関係ないとのことだったが、俺の負担が増えるかもしれないらしいので、こうしてヒルデのパトロールに付き合っている。
まあ、もうひとつやっておきたいことがあったからなのだが。
「陛下、宇宙怪獣ブランドンを補足しましたわ。惑星ディスターブ…位置座標を送りますわね」
「了解だ」
「ご武運をお祈りしますわ、陛下」
俺は格納庫へと転移、俺専用の人型ロボット兵器グラナドの勇姿を見上げる。
全長40.2m、重量195.5トン。
メインカラーはグレーがかった白。
傾向武装はすべて空間収納されているため、見た目はなんの武装もないように見える。
鋭角的なデザイン形状をしており、無駄に突起物やアンテナが多い。だがそれがいい。
ハイパーイオノクラフトとフォトンウィングを装備しており、地形適正は宇空陸海Sランク。
通常武装がすべて必殺技なんじゃないかと思えるような大火力であり、某作品に参戦すれば「もう全部あいつひとりでいいんじゃないかな」とタグがつくこと請け合いのバランスブレイカーである。
グラナドに対面して聖鍵を掲げると、頭部の球体が輝き、そこから俺に光が伸びる。
俺の体がふわりと浮き上がり、球体の中へと吸い込まれた。
気がついたときには、グラナドと一体化していた。
既に何度か体験しているものの、奇妙な感覚である。俺がグラナドで、グラナドが俺で。
操縦というよりは、融合である。
「さて、ちょっと遊びに付き合ってもらうぞ……宇宙怪獣」
俺は格納庫からグラナドを惑星ディスターブへと転移させた。
グラナドのデフォルトの構えは腰部のあたりに肘をつけ、手の平とマニュピレータを上に向けている。
俗にいう支配者のポーズ、悪魔と相乗りした某ヒーローの姿勢である。
「キシャアアアアアアアアアアアア!!!」
一方、目の前に俺が突然現れたにも関わらず、驚くどころか嬉々とした様子で咆哮しているのが宇宙怪獣ブランドン。
全長は50mほどで、宇宙怪獣としては中型サイズだ。重量は約200トン。
早速、ブランドンは突進攻撃を仕掛けてくる。惑星ディスターブの小山を吹き飛ばし、丘を踏みつぶしてグラナドへと一直線にかかってくる。
体当たりが命中する瞬間、グラナドは消えた。転移回避である。バランスを崩したブランドンが地面にめり込んでクレーターを作る。
グラナドはブランドンの背後を取るも、何をするでもなく、その姿勢を変えずに浮かぶ。
ブランドンが起き上がり、グラナドに向かって怒りの咆哮。
怪獣の口腔が青く輝き、光線を吐き出した。ブランドンの必殺攻撃、重陽子プルトンブレスだ。ディスターブを死の星に変えてしまった、災厄の光。命中した場合はルナ・オリハルコニウム合金であろうと十数秒耐えた後、溶解を始める……そう聞くと、そんなに凄くない気がするから不思議だ。
グラナドは回避することなく、不可視の重力フィールドで受け止める。ブランドンは負けじとプルトンブレスを吐き続けるがグラナドはビクともしない。
やがてブランドンのプルトン袋が限界に達し、ブレスが途切れる。
「さて、少し小手調べといこう!」
グラナドの手に聖鍵が収まる。俺が使っているサイズではなく、グラナドサイズにまで調整された聖鍵だ。
転移で背後を取り、直接殴りつける。
ブランドンは上と下の泣き別れ、哀れ真っ二つと……って、え?
「おい、なんで殴っただけで真っ二つになるんだよ!」
宇宙怪獣ブランドンは持ち前の再生能力を発揮することもできず、完全に沈黙してしまった。
「陛下、グラナドの基礎スペックが高すぎるのですわ。この程度の宇宙怪獣と戦うための機体ではありませんもの」
「これでも、何重にもリミッターをかけてるのに……何の盛り上がりもなく終わっちまった……」
こちらはまだ、必殺らしきものを何も使っていないというのに。
不完全燃焼もいいところである。
「アレでもアースフィア星系では、一番の大物ですわ……あれ以上のサイズとなると、宇宙要塞パズスとペネトレイター艦隊が片付けてしまいますし」
「……それだ」
「はい?」
「そもそも、アースフィア星系にこだわる必要はないじゃないか。この間の実験をしたのだってダリア星系の惑星ジュゴバだったわけだし」
現在は、別の星系にもクローンの生産やメンテナンスに必要な施設を建造してある。
だというのに、アースフィアにこだわるあまり、他の星系に戦場を広げるという発想がなかった。
「それはそうかもしれませんけど、アースフィア防衛という観点からはあまり意味がないのではありませんこと?」
「アースフィア防衛だけならな。でも、できればグラナドについても使いこなせるようになっておいたほうがいい気がするんだ」
そもそも、聖鍵のスペックはアースフィア星系などという狭い範囲で終わるものではない。
パトリアーチも言っていたではないか。俺が外宇宙へと出かけていくのも自由なのだと。
いや、待った。
別に宇宙じゃなくてもいい。
あるじゃないか……もっと大暴れ出来る場所、そして俺の現在の最大の問題にも繋がる一挙両得の世界が。
「……ちょっくら行ってみるか」
「どこへですの?」
「造物主退治」




