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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode04 Dark Menace

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Vol.02

 ……懐かしい空気。

 久々に帰ってきた東京は、まるで変わっていなかった。


 パトリアーチの言っていたことは本当だった。

 俺は、聖鍵の転移で地球に帰ってきたのだ。

 どうやらアースフィアのある宇宙とは明確に別の宇宙らしいが、何の問題もなかったらしい。


 召喚前に使っていた地球のスマートフォンは今まで電源を切ってあったが、案の定……電池は切れていた。

 近場のショップの電源コーナーで充電し、アースフィアで進んでいた時計を最新に合わせる。


「……時間がほとんど変わってない」


 リオミが前に言ったとおり、召喚から帰還する際の時間は巻き戻せないらしいが、進めなければ元の時間に帰れるらしい。

 俺が帰宅してDVDを見ようと思っていた日のままだ。

 結局、あんな回想をしておきながら、俺は今まで一度も地球には戻っていなかった。


 もちろん、俺はアースフィアで過ごした分は齢を重ねることになる。

 完全に元通りとはいかないようだが……。


 一応、空間収納装置から聖鍵を取り出せるか試す。

 一部の出し入れも普通に出来、一度アースフィアに転移を試みたところ問題なく帰れた。


「……帰れたって。もう、俺にとってアースフィアのほうが故郷みたいな感覚だな」


 地球に再度戻りつつ、マインドリサーチを感情共有なしで使ってみる。

 人々の雑多な感情が流れ込んできた。

 日々の不満や明日の予定の確認、仕事の約束や家で居場所がなくてどうしようとか、実に日本人が抱いていそうな声が聞こえてくる。


 転移すると人目につく可能性が高いので、普通に電車を使って自宅に帰ろうと試みる。

 ドローンがいないので、離れた場所の情報が得られないのが不便だとか思っているあたり、俺もすっかり超宇宙文明メシアスの技術に染まっている。


 特別なんのトラブルもなく実家に帰宅を果たした。


「……ただいま」

「おかえり、明彦」


 居間では、母さんがソファーに寝転がりながらTVを観ていた。

 いつもの光景が懐かし過ぎて、逆に涙が出そうになる。


「今日は遅かったのね」

「ちょっとケータイのキャリアショップ寄ってたから。いい加減母さんも、スマホに変えたら?」

「いいのよ、普通の折りたたみので充分。それに、料金も高くなるんでしょ?」

「そうだけどさ」

「ネットとかしないし、いいのよ」


 そうそう、いつもこんな感じの会話だった。

 変わらない。

 何一つ、変わっていない。


「父さんは、まだ帰ってないの?」

「今日は飲み会があるんだって」

「そっか」

「お弁当買っておいたから、適当なタイミングで温めて食べてね」

「うん、ありがと」


 言われたとおり、カルビ弁当をレンジで暖める。


「母さん、コーヒー飲む?」

「うん、お願いね」


 コーヒーメーカーでコーヒーを作る。

 これが俺の家での役目みたいなものなので、久しぶりでも特に迷いはない。

 セットを完了したついでに、居間のパソコンの電源を入れた。


 スタートアップのアプリケーションが立ち上がったところで、弁当とコーヒーができた。

 母さんの分はミルクだけ入れて、俺はブラック。


「はい、ここ置くよ」

「ありがとね」


 淡白に会話を終え、俺はパソコンの前の机でカルビ弁当をかっ食らう。

 ……コンビニ弁当の味が懐かしく感じるとは。如何にもジャンクって感じがする。


 俺はまず、メールを開いた。

 広告系しかない。

 次にフィードリーダーを開いた。

 最新のニュースやらをチェックする。

 俺の知ってる日からの延長でしかないので、特に真新しいものはない。


 Twitterを開く。

 @ツイートは特に無し。ダイレクトメールなし。フォロワー増減なし。

 見事に、いつもどおりのぼっちさん。


 Skypeには何人かのネットの知り合いが会話をしていた。

 特に加わる気にもなれず、終了する。


 借りていたDVDを観よう。

 家のDVDレコーダーは壊れているので、パソコンで観る。

 俺が借りていたのは、戦国武将の女の子が地球に召喚されて、彼女たちが地球で暮らしていくというアニメだ。

 日常系の延長みたいな出来なので、特に言うべきことは思いつかない。


「さて……」


 かれこれ過ごしてみたが、もうやりたいことがなくなってしまった。

 積み本は大量にあるが崩す気にもなれない。

 まあ、暇なときに読むものなんだから、何冊か空間収納装置に入れておこう。


「どうするかな」


 せっかく聖鍵を持ってこれたんだ。

 ちょっとぐらいなら、何かしてもいいんじゃないだろうか。


「うーん、物騒ね」


 母の呟きに、思わずTVに振り返る。

 連続殺人事件の報道だった。

 既に5人殺されていて、警察の必死の捜索も虚しく犯人は捕まっていないという。

 ふと思う。


 ……聖鍵の調査能力を使えば、犯人逮捕に協力できるのではないだろうか?


 だが、ここはアースフィアと違って光学迷彩ドローンが調査用ナノマシンを散布したり、データを蓄積するためのルナベースがあるわけではない。

 ちょちょいと調べて、犯人確定というわけにもいかない。

 聖鍵だけだと、できることが非常に限られれてしまう。

 パトリアーチが何故、下地を作っておいたかよくわかる話だ。


 いや、諦めるには早いかな?

 やるだけやってみよう。


 ――聖鍵、起動。

 ――月内部とルナベースⅡを交換せよ。


 窓から月を見上げる。

 特に変わった様子はないが……。

 もし成功しているなら、月の中身はまるまるルナベースと同等の基地施設ができているはずだ。


 ――聖鍵、起動。

 ――転移先、ルナベースⅡ中枢区。


 到着したのは、いつもの中枢区のミラーボールのある光景。


「うーん、見た目だけじゃアースフィアのルナベースと大差ないからわからないな」


 台座に聖鍵を挿しこみ、座標を確認する。


「よし、うまくいってる」


 無事、月をルナベースにすることができたようだ。

 生産施設も揃っている。フル稼働で量産すれば、日本ぐらいは10分程度でカバーできそうだ。

 早速、調査用ドローンを増産し、順次東京に送り込んだ。


 事件現場からして、犯人は東京付近に潜伏しているはず。


「ん、こいつか?」


 見た感じ、大人しそうな40代ぐらいの中年男性。

 名前は松井門明。

 マインドリサーチ結果からして、犯人に間違いなさそうだ。

 殺人の動機は何なんだ? むしゃくしゃしてやったとか、その程度か。

 松井の自宅を調査する。凶器やら証拠の類は見つからない。


 どうやら、使ったサバイバルナイフは隅田川河川敷に捨てたようだ。

 ナイフを購入した店まで判明。


 警察の調査状況と照らし合わせる。

 どうやら、松井が本星であるところまではマークしているようだ。

 ナイフの指紋は拭き取られているが、松井のDNAがわずかに付着している。

 凶器の場所をタレこめば、充分に逮捕まで持っていけそうだ。


 隅田川均衡にある公衆電話に転移、周辺に人がいないのを確認して、手袋をつけてから110する。

 隅田川河川敷で40代ぐらいの男がナイフを捨てているのを見た、と匿名で電話を入れておいた。


 すぐに転移で自宅の自室に戻る。


「犯人見つかるといいね、さっきのやつ」

「そうね」


 母に話しかけて、アリバイを作った。これで電話と俺に共通項を見出すのは難しくなるだろう。


「ふーむ、地球でも使えそうか……」


 さすがにマザーシップを置くのはやりすぎだと思うが、一応ルナベースⅡで建造させよう。


「そういえば、地球にダークスはいないのかな?」


 東京にばら撒いたドローンから、ダークス係数が1以上になった報告はない。

 地球にはダークスの魔の手は伸びていないようだ。

 しばらく、こっちでも様子を見るために地球全土にドローンを派遣させよう。順次生産後、散布するように命じる。


「はは、さすがにこっちで建国とかにはならないだろうし、お忍びでできるところまでやろう」


 その気になれば、地球に大いなる変革をもたらせそうな気もするが……今はやめておく。

 性急に事を進めるべきではない。

 そもそも、こちらで時計を進める気はほとんどないのだ。


 たまに帰ってきて、日常を満喫する。

 その程度の場であってくれればいい。



 そんなわけで、あっさりアースフィアに帰ってきた。

 もう眠いというのに、こっちはまだ晩餐の済んだ夕方だ。

 ヤムエルと戯れるとしよう。


「お父さんも入れてくれないかな?」

「うん!」


 リプラとヤムエル、あとフランがままごとをしていたので、入れてもらった。


「あなた、わたしとヤムというものがありながら、その女の人はなに!」

「自分は真剣にアキヒコさんと愛し合ってる! 邪魔をするな!」

「お父さん、ヤムはいらない子なの……?」

「まてまてまてまて! 今まで、どういう設定でやってたんだ!

「アッキーがリプラを捨てて、自分と一緒になる話だよ!」

「そんな! 不倫を乗り越えて、夫婦愛を蘇らせる話じゃないの?」

「お父さん、お母さんを捨てないで!」


 カドニア王族姉妹って、結構ドロドロしてるなぁ……。

 ヤムエルは結構楽しんでたみたいだ。こりゃ将来は天使から小悪魔になってるかも……。


「普通に行くぞ、普通に。えー……最近、学校はどうだヤム」

「好きな男の子ができたよ!」

「お父さんは許しませんよ!?」

「あなた、駄目よ。せめてヤムには自由な恋愛をさせてあげたいのよ」

「だったら、自分が手ほどきするよ!」


 そんなこんなでカオスなおままごとが終わり、ヤムエルはおねむになったので、リプラさんに連れられて行った。


「いやー、楽しかったね、アッキー!」

「お前が俺を気安くアッキーって呼ぶな」

「いいじゃんいいじゃん、リプラから譲ってもらったんだよー」

「……そういえば、前から聞こうと思って聞けなかったけど、案外リプラと双子だって話、あっさり受け入れたよな」

「んー……まあね。なんかシンパシー感じてたし、他人とは思えなかったから。ああ、そうなのかって感じだったよ」


 確かにフランとリプラは、知り合ってからすぐに仲良くなっていた。

 俺もバルド・フリスカ氏のことを詳しく知るまでは、随分と短期間で意気投合したものだと思っていた。


「それにしても……なんというか、うちらの一族って、そういう星の下に生まれてるのかね。自分も散々だと思ったけど、リプラの方も大概ハードでさ。こっちは自分ひとり食わせるのに精一杯だったけど、あっちなんて子供までできちゃってね……しかも、あの若さでさ」

「……そうだな」


 俺にはリプラの歩んできた人生がどんなだったかなんて、想像するしかない。

 大変だったと思う。


「それでも、彼女は自分が不幸だとは思っていなかったんじゃないかな?」

「どうして?」

「誰よりも身近に天使がいたから」

「……ああ」


 フランも得心したようだ。


「あの子、凄いよね。自分もどれだけあの子に救われたか……」

「俺もだよ。ヤムがいなかったら、今頃は……」


 ベニーから、リプラとヤムエルが殺されるルートの俺の話は聞いた。

 散々だった。何もいいところはない。

 浄火派を始末した後の俺は修羅そのものとなり、殺人になんの忌避感も見せなくなった。

 殺しを厭わなくなった後の俺は、アースフィアを震撼させる殺戮王として名を馳せたのだそうだ。


「盗賊に誘拐されたっていうけど、案外優秀な種馬がいたんだろうね」

「…………」

「あ、ごめん……」

「いや……」


 ヤムエルの出生は決して公にできるようなモノではない。

 彼女は聖鍵王の養娘。そういうことにしなければならない。


「ごめんね。どうしても自分の場合、そういう方面はどうにもノリが軽くてさ……」

「ああ、いや。フランは別に悪くない。俺が考えてたのは、別のことだからさ」

「別のこと?」

「……フランには、話してもいいか。リプラには言うなよ。言ったら2人とも記憶を消す」

「……」


 フランがいつになく真剣な表情……王女モードになった。

 冗談では済まされない話題だと悟ったのだろう。


「……わかった、一体何だ?」


 俺も知ってから受け入れるのには、時間がかかった。

 フランは強い。大丈夫だと信じる。

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