Vol.40
魔王ザーダス。
彼女は、超宇宙文明に管理される植民惑星で生まれた。
植民惑星の住民は、ある程度まで成長すると全身義体に肉体を換装される。
ザーダスはそんな星で、愛玩用のサイボーグとして生体義体に脳殻を移された。
生体義体とは、機械ではなくその者の遺伝子から培養した細胞パーツで組み上げられた、生体サイボーグの肉体のことである。
超宇宙文明は、高度にシステム化された文明である。
支配者はいない。
人々を管理する機械はプログラミングされたAIであり、すべての人が何らかの義務を課される代わりに生活を保証される。
他の文明との星間戦争でも、人々が駆り出されることはない。すべて意思なきドロイドやクローン兵が投入され、消耗する。
敢えて、繰り返そう。
超宇宙文明は、高度にシステム化された文明である。
ルールから外れ、枠からはみ出た者に対しては情状酌量などの余地なく刑罰が課される。
ザーダスは、見世物にされる生活から逃げ出し、捕縛され、流刑罪に処された。
送り込まれた先が……アースフィア。
第19304宇宙惑星、エグザイル……その意味は、流刑。
そう、アースフィアは超宇宙文明の数ある流刑地のひとつだったのだ。
自我も薄弱なザーダスは、未開の惑星で無限の自由を手に入れた。
与えられたマザーシップ利用権限はAA。
元々、俺達が使っているマザーシップは彼女に与えられたものなのだ。
テレポーターが動作するのは当然だったのである。
ボディは何度でも交換可能だし、メンテナンスも自由。
マザーシップの戦力を使って惑星を支配してもよし、地上にプラントを建設して、慎ましく暮らすもよし。
唯一、母星に帰ることだけが許されない。
彼女は永遠に、アースフィア星系から出ることができないのだ。
ここからは俺の推測も入るが……彼女は、自分が流刑罪に処された超宇宙文明人であるという記憶を自身で消去した。
純粋にアースフィアの人間として暮らすことを選んだのだ。
最も魔力適正の高い生体義体に自身を換装した彼女は、以後マザーシップに戻ることなくアースフィアで暮らしていた。
だが、あるときアースフィアにダークスの魔の手が迫った。
超宇宙文明にとって、最大の敵であったダークス。当然、ザーダスも知っていた。
ダークスに関する知識だけは残しておいた彼女は、自分の故郷を守るために、戦った。
その過程で、どんなことがあったのかは彼女しか知らない。
結果的に彼女は魔王となる道を選び、ダークスを制御しながら人と魔の均衡を保ち続けた。
「これが、俺に開示された魔王ザーダスのルーツ。そして、宇宙の敵ダークスについてだ」
俺は、みんなを王宮に集めて、すべてを話した。
リオミはもちろんのこと、フェイティスや側室、リプラさんやフラン、そしてフォーマンのみんなだ。
「……瘴気がそのような存在だったとは。でしたら、ジャ・アークによって人々を不安にするような策は、取るべきではなかったですね……」
「いや、俺が話していなかったのも悪い。フェイティスの言うとおり、俺達は共犯者だ」
話の流れから、ジャ・アークの封じ込めに成功したようだ。
怪我の功名かもしれない。
「むー……話して、よかったんですの? ザーダスやジャ・アークの真実をわたくしが兄に報告すれば、それこそピースフィアは世界から爪弾きにされるのではなくって?」
「ヒルデがそうしたいと思うなら、構わない。そのとき俺は、アースフィアを去る。そして、ダークスとの戦いを続ける」
「……はぁ。左様でございますの。まあ、わたくしとて王族の端くれ。それが世界のためにならないことぐらいは理解できますわ」
「すまない」
チグリはもちろんのこと、リプラさんやフランも驚愕の真実に打ちひしがれて言葉もないようだ。残念ながら、メリーナは治療中。
ヒルデはむしろ、冷静に受け止めている。
ベニー? 新ルートが開拓できてニコニコしてるよ。
「というより、シーリアはこれで納得したんですの? ザーダスが両親を奪ったという事実には、変わりないような気がするのですけど」
「……彼女は罰を受けるつもりでいる。ならば、手を下すのは私ではあるまい」
「ま、貴女がいいならいいのですけど?」
「父と母も……生きているなら、会うこともあるだろう。それで、充分だ」
シーリアは静かに頷いた。
「それとみんなに頼みがある。ザーダスのことはこれまでどおり、ラディとして扱ってほしい。魔王だって知ってることは伝えてもいいけど、サイボーグの件はまだだ。俺が折を見て話すよ」
「……口止め料は高いですわよ?」
ブレないな、ヒルデ。
俺は頭を抱えつつ、問う。
「いくらだ、いくら出せばいい」
「フフ、1万円と夜の寵愛3日間独占で手を打ちますわ」
「安いな、おい!」
と、俺は突っ込んだのだが、俺の独占権と聞いた王妃組及び側室ズが猛反発し、100万円だけになった。
それでも安いと感じてしまう俺の経済感覚。もう庶民には戻れない。
それにしても……アースフィアの女の子は、本当に肉食系だよ。
フランなんて、今すぐ本番を始めようと言い出しかねない勢いだった。
この環境に慣れてきているのか、俺も「みんな好きだなあ」ぐらいにしか感じない。毒されたか。
「俺がアースフィアにとって害になったときは、去る。俺が欲望に飲まれてしまうようなら、打倒してもらっていい。これは、最初に決めておいたことだ」
喧嘩が収まったのを見て、改めて宣言する。
そんなふうにならないように頑張ると言ってくれるリオミを筆頭として、反対意見はなかった。
一時の感情かもしれないけど、嬉しいね。
「それで……お姉ちゃんは結局、どうなるの?」
「彼女の本体は電脳……つまり、機械化された脳だ。アースフィアのみんなにはピンと来ないかもしれないけど、ザーダスはこの電脳が完全に破壊されない限りは死なない。肉体が耐用年数を迎えても、脳殻を他のボディに入れ替えれば大丈夫だ」
「あ、だから、肉体は限界って……。ごめんなさい、お兄ちゃん。早とちりして」
「いや……俺も言い方が悪かったよ」
ディーラちゃんを撫でる。
微笑んでくれた。これで、仲直りできたのかな。
「一応話は終わりだけど、何か質問はあるか?」
「失礼します」
手を挙げたのはフォーマンだった。
発言を許すと、彼は一礼の後、口を開いた。
「聖鍵陛下は今後、世界をどのように導くおつもりでしょうか?」
「これまで通りだ。何も変わらない」
ただし、と一言付け加える。
「しばらく後で、新しい情報が開示されるんだけど……それが『外宇宙』なんだ。情報によっては、俺は宇宙に上がるかもしれない」
「では、アースフィアを去ると?」
フォーマンが不安を顕にした。
「時空オンライン通信なら、どんなに離れてもやりとりはできるから大丈夫とは思うけど……実際にアースフィアにいる時間は減る可能性がある」
実際、まだどうなるかわからない。
だが、俺がアースフィアを離れても聖鍵王国がやっていける土壌は整える必要がある。
そのことを、みんなに伝えた。
「そこは、お任せください。もはや、ご主人様が何も決断されずとも、ピースフィアはやっていけます」
「ちょっとは必要ですって言って欲しかったー」
フェイティスの容赦ない宣言に思わず悶える。
だが、彼女の言うとおり、ピースフィアの実質的な運営を取り仕切っているのはフェイティスだ。
「ダークスのことをお教え頂きましたので、無闇に人々の不安を煽るような策は自重致します」
「それはよかった」
悪癖さえなければ、フェイティスは充分に為政者としてやっていけるだろう。
大丈夫だ。
「じゃあ、もういいかな? 俺はそろそろ、ザーダス……じゃない。ラディのところに行ってあげたいんだ」
「では、皆で行きましょう」
リオミの一声に、全員が頷いたのだが。
「あー……すまん。後でもいいか? 先にディーラちゃんと、シーリアだけ来てくれ」
俺がそのように希望すると、やはり反対する者はいなかった。
あ、ひょっとして俺が王だから、さっきから反対が出ないのかな。
ザーダスは、かつて目覚めたベッドで眠っていた。
「各種数値、正常です」
「じゃあ、頼む」
医療スタッフに頼んで、ザーダスに覚醒を促す薬剤を投与してもらう。
「む……」
効き目はすぐに現れ、ザーダスが目を覚ました。
「余は、一体……」
「お姉ちゃん!」
ディーラちゃんが、ザーダスに泣きついた。
「む、ディーラ……」
「ばかばかばか! お姉ちゃんのばかぁ! なんであんなことしたの……!」
「……今回の話を持ちかけられたとき、天啓と思ったのだ」
泣きじゃくるディーラちゃんに気まずさを感じるのか、ザーダスは困ったように俯いた。
シーリアはなんとも言えない顔で、その様子を眺めている。
「ザーダス……お前らしくもない、馬鹿なことをしたな」
「……勇者。そなたには、あまり言われたくないのだが」
へいへい、オイサはどうせ馬鹿ですよ。
聖鍵の使い方も中途半端な、無能でござんすよ。
「ふむ。さすがにあの状態になった余なら、お前も殺すしかないだろうと思っていたが、甘かったか。このようなことを言うと、余計にそなた達の怒りを買うだろうが」
「あのことに関しては、俺はそこまで怒ってない」
「…………」
これは本音だ。
自分にシーリアを殺させようとしたザーダス。
これまで自分の罪を真摯に見つめてきた彼女にしては、ひどく短絡的な逃げにも思えたが……彼女にも、解放されたいという欲求があったのだろう。
あるいは、ダークスの近くに立ったことで、タナトスの誘惑に屈したのかもしれない。
俺なんて、しょっちゅう逃げ出したくなる。どうにも、ザーダスを攻める気にはなれない。
「ただ、シーリアとディーラとはよく話しておけよ」
「……わかった。だが……どうして、余は生きておるのだ?」
「自分の体をよく見てみろよ」
言われてザーダスは改めて自分の体を見て……怪訝そうに眉を顰めた。
「この姿は、余の……魔王としての姿」
「ああ、お前が成長したときの姿だ。もともと、そういうボディを作っておいただろ?」
ザーダスの行為が発覚した後。
万が一、彼女を殺してしまったときに備え、本来は身代わり用だったザーダスクローンを予備ボディに使えるよう用意したのだ。
要するに、彼女の脳殻を新しい体に入れ替えたのである。
元々、彼女の肉体は長い魔王生活により限界が近かったらしい。つまり、あの無茶がかつてのロリボディに終止符を打ってしまったということだ。
脳殻云々について、今は話さない。彼女のアイデンティティに関わる部分だから、慎重に時期を見計らう。
ちなみに、ゴズガルドもあの後、ちゃんと回収して接合手術を行った。
屈辱のあまり男泣きしていたそうだ……さすがにかわいそうかもしれない。
「また、おめおめと生き残ってしまったか……」
「……ラディ」
泣いていたディーラを宥めていたシーリアが、ザーダスに声をかけた。
「余はラディではない。ザーダスだ……」
「いいや。お前は私の家族……ラディだ」
「なっ……!?」
ザーダスがこれまでにない狼狽を見せた。
シーリアが、彼女を抱きしめたのだ。
「一体何を……余は、お前の両親を……」
「……そのことはもちろん、全部赦すわけではない。世界もお前を赦さないだろう。それでも」
「……」
「私はお前を、赦す努力をする……」
俺は、このふたりがどういう交流をしていたのかを、それほど知ってるわけじゃない。
変態モードになったシーリアが、ロリババアのザーダスに萌え萌えキュンしてたことぐらいしか、知らない。
どうやら、俺が思ってた以上にシーリアとザーダスは深い交流をしていたようだ。
「シーリア……余は……あたしは……!」
「ああ、大丈夫だ。もう、何も心配するな」
あのザーダスが、泣いている。
初めて見た。
ふたりはお互いに抱き合って、涙を流している。
「よかったね……お姉ちゃん」
ディーラちゃんも、もらい泣きしていた。
いや、確かに感動的な姿なのだが……俺は少々、思考が不埒な方向に向かっていた。
うーむ。百合百合しい。
ザーダスが大人の姿になってるから、余計だ。
キマシタワーだ。
ここにキマシタワーを建てよう。
「お兄ちゃん」
「っっつ!!」
いってぇ!
尻つねられた!
涙目でディーラちゃんに抗議したら、睨まれた。
うう、俺が悪かったよう。
結局、俺がディーラちゃんに追い出される形で、部屋に3人が残った。
「いてて……そんなに顔に出てたかなぁ……」
感動のシーンのはずなのに、シリアス維持できなかった俺が悪いか。
「どうでしたか?」
「ん、リオミか。ああ、問題はなさそうだ」
リオミだけではなく、他のみんなもやってきていた。
「さっきは驚いてて聞けなかったんだどさ」
「ん、どうしたフラン」
「ヴェルガードを操ってたのがザーダスだったってことは、自分にとってもあの子が仇ってこと?」
「……そうなるね」
シーリアがよくても、フランが許さない。
その可能性は確かにあった。
だからといって、彼女にこのまま真実を告げないというのも違う気がする。
「……そっか」
「怒らないのか?」
「そう言われてもね……あんまり実感もないし。ヴェルガードに対しても、もう怒りとかそういうのはないからね。どうでもいいっていうか」
フランは確かに、ヴェルガードに関してはそう言っていたな。
「罪を犯したって点に関しては、自分も同じ。だから、ザーダス……じゃなくてラディか。彼女の気持ち、何となく分かるよ」
……やっぱり、フランは強い。
あれほどの境遇で孤独と戦い、何度も裏切られて尚、潰れない。
俺の説得なんて、きっかけに過ぎなかったんだろう。彼女は立ち直りも切り替えも早い。
乗り換えも早いが。
「ん、どしたー?」
俺がフランのことをじっと見ていると、彼女が気づいた。
「いや、フランって凄いなって……」
「えっ……」
ボッと凄い湯気が立って、フランが真っ赤になった。
そういや、フランってこういう直球に弱いんだった。
「そそそそんなことないし!?」
「あははは」
慌てるフランをからかうのは楽しい。
どうにも、つっけんどんな態度になってしまうが、俺も結構フランには心を許してるのかもしれない。
「むー……」
リオミたちが睨んでいる。
このままだとラブコメ空間に突入することは目に見えてたので、話題の転換を試みようと思ったのだが……。
「む、みんな来てたのか」
ちょうどシーリアとディーラちゃんが出るところだった。
「もういいのか?」
「ああ。みんなも会うなら、大丈夫だぞ」
ちょうどいい具合にメンツが入れ替わった。
ふぅ、助かった。
「お兄ちゃん、なんでふたりのこと変な目で見てたの!?」
「い、いや、それは……」
一難去ってまた一難。
「まさか、今度はお姉ちゃんと……」
「え、何?」
「ずるい! なんであたしだけ妹なのー!」
「ウボァー」
ドゴォっと、俺に見事なトンファーキックが決まった。
トンファーないけど。
「いつつ……でも、よかったな、ディーラちゃん」
「……うん」
ザーダスと一緒に罪を背負うと決意していたディーラちゃん。
もちろん、魔王としての罪が赦されることは、永遠にない。
だが……。
「なあ、アキヒコ」
「ん?」
「私も少しは、お前に近づけたか……?」
少し自嘲気味に笑みを浮かべるシーリア。
腰には不殺の剣。
俺の強さを学ぶという決意。
「……ああ、そうだな」
なあ、ザーダス。
贖罪の時間は、たっぷりあるみたいだぞ。
突然だが、因果律の話をしよう。
詳細な説明はググってもらうなりして、簡単に言ってしまうと、何かしらの事象には必ず原因があるという話だ。
因果律は常に原因があって、結果がある。
俺で例えると、召喚されたから魔王を倒した……となる。
魔王を倒したから召喚された……とはならない。
ところで、俺の目の前には格納庫に搭載された人型ロボット、グラナドがある。
今は詳しく描写しないが、なんというか中二感溢れるグッとくる形状だ。
こいつだけは俺がつけた名称ではなく、最初から名前がつけられていた。
あるいはモビルスー○などような種別を表す言葉なのかもしれないが、まあいい。
さて、ベニーから詳しい事情を聞き、改めて聖鍵のマニュアルから記憶を引っ張りだした。
それによると、このグラナドは因果律を逆転させることができるようだ。
これにより、ループを形成することが可能らしい。
一番最初……というと語弊があるが、ベニーたちに一切介入されず、教団もなく、聖鍵のマニュアルもなかったときの俺が手に入れた聖鍵。
俺の聖鍵は当然、どこか別の世界の俺から順次リレーされてきたモノなわけだが。
当然、リレーが始まるには、最初の俺に最初の聖鍵が渡されなくてはならないはずなのだ。
ならば、最初の聖鍵はどこからやってきたのか。
その正解が……グラナドの因果律逆転による、最後の俺から始まりの俺への逆リレーである。
アンカーと言っても、そいつがループを始めるという意味では、一番最初の俺とも言える。
聖鍵をほぼ完全に初期状態と言える状態にして、始まりの俺に渡すというリレーをするように設定すれば……ループ世界が形成されるというわけである。
ややこしい話だが、いつか俺がこの宇宙での役目を終えたとき、次期並行世界に俺の聖鍵を送り込むというわけだ。
『俺がいるから、次の俺に聖鍵が渡る』のではなく。
『次の俺に聖鍵が渡るから、俺がいる』のだ。
グラナドによる因果律の逆転。
聖鍵。最初にして最後。始まりであり終わりでもある。
本来は平行に走るだけで交わることのない世界の線を、最後の俺が、無限の円環へと将来束ねるのだ。
無論、アイオンでも観測のみしかできない世界もあるわけだが、それでもループの途上に組み込まれることに大差ない。
俺が何も知らなくても、一度始まったリレーはグラナドによって維持されるようになっているからだ。
このループを作ったのがアンカーで。
ループを開始するのがスターター。
ループを外側から観測・介入しているのが、ベニーのような情報電子生命体アイオンというわけだ。
むしろ、ループは観測者が現れたことによって認識され、存在するようになったとも言えるかもしれない。
そして、このループを作ってまで世界を繰り返す最大の理由。
それが、グラナドの進化……因果律を自由自在に操作可能なインフィニティ・グラナドへの昇華だ。
スターターからアンカーに至るまでの無限のリレーの中で、俺が目指すべき最終目標。
とはいえ。
ブラックボックスの開放方法不明、開放条件不明。
最終到達までに必要なループの回数、不明。
どーしよーもない。
「まあ、無理に俺が頑張る必要もないわけだが」
そうやって、今までは先々の俺に転嫁してきたのだろう。
何しろ、自分の知らないどこか別の俺が散々な目に遭ったのだとしても。
極端な話を言えば、今さえ良ければいいと考えれば……無理をする必要はない。
最も高いモチベーションとなり得るディオコルトでさえ、その存在そのものを消し去る労力に見合うかと言われると……正直わからない。
俺の知っているヤツには、充分に苦痛を与えることができている。ヤツの存在を消去するならば、ヤツに与えた苦痛もなかったことになるということだ。
最後の俺は、ダークスという存在を宇宙から消し去るためにリレーを始めると思われる。
少なくとも、アンカーは俺ではないはずだ。
アンカーはループがあるなら理論上存在するはずというだけで、実際には無量大数回後の俺のはず。
当然、アイオンが俺に介入しているのを俺が観測している以上、彼らもアンカーは知らない。
俺がなるとすれば、最終の俺。
因果律奏者となって、神となる俺が……ループを終わらせることになる。
「可能性がひとつだけの世界……か」
果たしてそれは、本当に理想郷なのだろうか。
馬鹿な俺が始めたことに、馬鹿の俺が付き合うのは自然なことだと思ったけど。
あるいは、こうやって俺、やめたのかもしれない。
俺らしい結論ではあるが。
「なんで俺なのか……っていう答えは、出ないままだな」
聖鍵が俺を選んだ理由。
超宇宙文明の遺産。
ザーダスの情報から、超宇宙文明が実在するのは間違いなさそうだ。
ならば、聖鍵のルーツもそこにあるのかもしれない。
「……やっぱり行ってみるか」
宇宙。
アースフィアの、外へ。
知らないことを曖昧なままにしておくのも、答えを探さずにいるのも、もうやめだ。
いい加減、前に進もう。
「アキヒコ様ー!」
リオミが俺を呼ぶ声が聞こえる。
わざわざ俺の場所を調べて、格納庫まで来てくれたようだ。
「リオミ!」
俺は手を上げて歩いて行く。
生涯の伴侶と誓った女性のもとへ。
大事なことを教えてくれた人たちと共に、俺は征く。
Episode03 Sinner Zardas ~FIN~
第三部「咎人ザーダス篇」完。
第四部「ダークスの脅威篇」は次話から。
第四部は多少の鬱展開があります。
雰囲気も結構変わると思います。




