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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode03 Sinner Zardas

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Vol.39

 シーリアが二刀流の構えを取る。

 剣聖アラムの流派には、二刀流の型も当然ある。

 白閃峰剣とソード・オブ・メンタルアタックの二刀流。

 今のシーリアに相応しい装備だ。


 ザーダスは完全に魔王の姿を取り戻していた。

 壮烈なる邪悪の気配を漂わせながら、口端を歪めた。

 圧倒的な負の魔力が漏れ出ている。


「余は、()魔王ザーダスなり」


 その目に、かつてのザーダスの光はなかった。

 瘴気に完全に飲まれた、おそらく魔王時代以上の力を持っている。

 3日でアースフィアを滅ぼせると言われた力をセーブすることなく、全開にしてくるということだ。


「愚かなる人間どもよ……なにゆえ藻掻き、生きるのか? 滅びこそ我が喜び。死にゆく者こそ美しい。さあ、我が腕の中で息絶えるが良い」


 ザーダスの意図は明確だ。

 魔王には二度と戻りたくないと言っていたのに、自分を犠牲にしてまで舞台を整えた理由。


 シーリアに、自分を殺させる。

 両親の仇を討たせ、邪悪をすべて自分が持っていく。


 実に、良心に目覚めた魔王らしい行動だ。


「だけどさ、ザーダス。それって、新しい罪をシーリアに背負わせるってことだぞ」


 ビジョンは見えない。

 当然だ。このルートは開拓された新しい未来。

 どの俺も到達し得なかったクライマックスなのだ。


「さて、場所を変えようか。ここだと、アースフィアにも被害が出かねないからな」


 ――聖鍵、起動。

 ――範囲転送。半径50m以内の有機生命体。

 ――転移先、ルナベース地表!


 全員が、土の上に転移した。

 空には星々が輝いて見えるが、合間の闇々が……ダークスが歓喜に打ち震えているように見えた。


「ここは!?」

『見て、小さいアースフィアだよ!』


驚くシーリアに、ディーラちゃんが顎先で示す。

マザーシップから見るよりも、はるかに小さい青い天体が浮かんでいる。


「見ての通り、ここはアースフィアじゃない。とにかく一切、被害とか気にしなくていい場所!」


 ここはルナベース……月の地表部分だ。

 大気も重力もアースフィアと同じに設定してある。

 月の表側、太陽の光が届く部分は偽装された月部分、裏側はルナ・オリハルコニウム装甲と鏡面装甲などの複合による要塞部分が露出している。

 イゼル○ーン要塞で直径60km、あのデス・○ターですら直径120km。ルナベースは直径約3500kmである。その規模は宇宙要塞と呼ぶには巨大過ぎる。


 場所を変えた理由はアースフィアに気を遣った以外に、もうひとつある。

 ここは周辺をホワイト・レイのフィールドで覆っているため、ザーダスが瘴気を補充することはできない。

 魔法をどんどん使わせれば、いずれ彼女は自滅する。

 もちろん、先に倒すつもりマンマンであるが。


「ディーラちゃんは、シーリアを載せろ! 魔王になったザーダスは飛行するぞ!」

『うん、わかった!』

「アキヒコはどうする!?」

「俺は大丈夫!」


 ディーラちゃんたちが離脱すると、ザーダスは俺に向かって《メテオスウォーム》をぶちかましてきた。

 さすがに容赦がない。


 無数の火球が俺に降り注いだ。


「アキヒコー!」

『お兄ちゃん!?』


 彼女たちの叫びも虚しく、俺の冒険は終わってしまった。

 わけもなく。


「ふぅ、絶対魔法防御がなければ即死だった」


 さすがパワードスーツに装備してある絶対魔法防御オプションだ、なんともないぜ。


「じゃあ、今度は俺から行くぞ」


 ザーダスに向けて、無数のソード・オブ・マインドアタックを装填する。

 数万本の投擲に対し、ザーダスは《レスキューテレポート》を駆使、当たりそうになると転移を繰り返す。


『お姉ちゃん、ごめんね!』


 ディーラちゃんが、くわっと巨大な顎を開く。

 すべてを焼きつくす炎の吐息がザーダスを包み込んだが、彼女はびくともしていない。


「ならば、これはどうだ!」


 ディーラちゃんの背中から飛び降りたシーリアが、自由落下から五月雨の如き二刀の剣技を繰り出した。応じるザーダスは正面に闇の障壁を展開、これを凌ぐ。

 やがて落下を始めたシーリアに追撃の炎弾が放たれるが、これはディーラちゃんが尻尾ではたき落とした。再び背にシーリアを回収する。


 ――聖鍵、起動。

 ――召喚転移、メタルノイド・アンダーソンタイプ100機!


 俺の名に応じ、白光騎士アンダーソンの軍団がずらりと現れる。

 メタルノイドは素材の希少さから量産の難しい機体だと思っていたが、3Dプリンタの仕組みが判明して以降、実際は生産数にリミッターがかけられてだけだと判明した。

 並行大宇宙ペズンでもそこそこ稀少な素材だから、そして生産プラントでの製造方法が丸々コピーではなく部品から組み上げるから、らしい。

 このリミッターも情報開示レベル3の段階で開放可能だったんだと。ベニーめ。

 

 ま、そんなことはどうでもいい。

 アンダーソンズが両手から無数のホワイト・レイを発射し、魔王を打ち据えた。


「……おのれ!」


 ザーダスの《チェーン・ボルト》がアンダーソンたちを焼くが、彼らの耐久力は伊達ではない。構うことなくホワイト・レイの掃射を続ける。


「次はこいつだ!」


 ――聖鍵、起動。

 ――召喚転移、グロース・イェーガー10隻!


 周囲を埋め尽くすように出現した艦隊が、一斉に砲火を繰り出す。

 こいつらの主砲火力は、アンダーソンのマイクロ・ホワイト・レイの比ではない。見る間に瘴気を削られていく。


「我が右手に紅の炎、我が左手に碧き氷結……」

「……まずい、極大魔法が来る」


 これほどの戦力を展開すれば、当然薙ぎ払おうとするだろう。

 一度、ディーラちゃんとシーリアを強制転移で避難させ、部隊には敢えて対ショック姿勢を取らせた。

 アンダーソンなら魔法を跳ね返すことも可能だが、それをしたらザーダスが完全消滅してしまう。


「正負合わさりし時、万物を滅する輝きとなれ! 《フューネラル・インスパイアー》!」


 眩い輝きがあたりを包み込んだかと思うと、遅れて爆音が轟いた。

 絶対魔法防御があるとはいえ、完全に衝撃を殺せるわけではない。

 パワードスーツの出力を上げて、吹き飛ばされないように耐える。


 極大魔法が放たれた後には、グロース・イェーガーの残骸と、かろうじて何機か動いているアンダーソン君が視認できた。

 月面のクレーターも含め、綺麗まっさらになっている。


「さすがに出鱈目な強さだ」


 ザーダスがこちらを見下ろしている。

 極大魔法を放った直後なだけに、インターバルがあるようだ。

 今のうちにシーリアとディーラちゃんを再召喚する。彼女たちも、転送先のブリッジルームで状況は把握できていたはずだ。


「さすがに強いな。元々、これほどの力を持っていたのか?」

『ううん、確かに凄かったけど、ここまでとんでもなくはなかったよ!?』


 ディーラちゃんは本気で驚いているようだ。

 つまり……。


「前のザーダスは、自我を保つために瘴気に自分を完全に支配させていなかった。今は違うってことか」


 ザーダスは魔力を失っていたなんて言っていたけど、魔力は回復していたに違いない。ダークスに食わせる魔力がなければ、これ程の力を発揮できないはずだ。

 あるいは、これでも病み上がりだというのだろうか。冗談ではない。


「我が呼び声に応えよ。八鬼侯第七位ヴォイエルトよ」


 こちらの召喚に対抗したのだろうか、ザーダスは仲間を呼んだ。

 ヴォイエルトは、巨大なスライムだ。物理攻撃は通用せず、魔法のみが通用する。

 本来であれば、膨大なる瘴気が魔法を封じ、物理攻撃をヴォイエルトが無効化する無敵のコンボ。


 最も、超宇宙文明の兵器の前には関係ない。


 ――聖鍵、起動!

 ――召喚転移、ドリッパーちゃんカスタム!

 ――初期数1000機! 増殖、任意モードで展開!


 円錐を底面でふたつ重ねあわせたような全長5mほどの物体が、次々に現れる。

 さらに、円錐が上下に動いたかと思うと、基部の円盤からさらに小型のドリッパーが2~3機ずつ射出され、ザーダスに殺到する。

 上下のドリルを回転させながら、ホワイト・レイ・ソーでヴォイエルトの粘膜を削り取っていく。


「面妖な……!」


 ザーダスが極大魔法の詠唱に入る。

 させるか。空間拘束で口を封じる。さすがのザーダスと言えど、あの魔力放出を無詠唱ではできまい。

 だが。


「あれ、拘束できてない……!?」


 ザーダスはあろうことか、拘束された口を普通に振り切ってしまった。

 別に何か魔力を使ったようには見えない。


「そうか、ゲストアカウント……!」


 ディーラちゃんにも、さくっと説明したのだが。

 ザーダスが中枢区に迷い込んだのは、偶然などではない。

 彼女にはAAランクのゲストアカウントが、初めから付与されているのだ。

 しかも、俺の聖鍵では取り消し不可。より上位の権限を必要とする特別製である。


 どうしてザーダスがそんなものを、という話は今度にしよう。

 ともかく、AAランクの権限を持つ彼女を空間拘束することはできないようだ。

 いざとなれば、ザーダスの両手両足を封じてシーリアに奥義を使わせることを考えていたが……どうやら、その案は破棄せねばならない。


『あたしに任せて! ふたりとも、耳塞いでね!!』


 ディーラちゃんが叫ぶ。

 俺とシーリアは言われたとおり、両耳を手で塞いだ。


 直後、ディーラちゃんが吠える。

 ドラゴンの咆哮だ。ホワイトドラゴンと同様の攻撃の一種だが、体内の魔素を放出することで使用するので、指輪で瘴気さえ防げれば使用可能。

 咆哮が攻撃として有効になるにはアダルト以上の成長段階でなければならないが、ダーク・ドラゴニオン形態のディーラちゃんなら問題ない。

 さすがにザーダスが混乱状態に陥ることはなかったが、集中は乱せた。極大魔法の詠唱がキャンセルされる。


「でかした、ディーラ! 喰らえ!」


 シーリアの闇避けの指輪が輝き、白閃峰剣に白光属性が付与された。

 猛烈な連撃でもって、ヴォイエルトを切り裂いていく。


「シーリア、ヴォイエルトの弱点は体内にある、ふたつの核だ! 核には物理攻撃も効くから、同時に潰せ! 援護するから!」


 いつか検索したヴォイエルトの弱点をシーリアに伝える。


「造作もない!」


 ドリーパーとシーリアの攻撃によって、防護粘膜を大幅に削られたヴォイエルトだが……攻撃に転じることなく、ザーダスを守護している。


 ――ドリッパー、全方位展開。

 ――ザーダスにオールレンジ攻撃!

 ――不殺属性をキャンセル!


 ランダム軌道を描いていた自動兵器たちが、ザーダスを360度あらゆる方向から一斉包囲し、ドリルによる突撃を試みる。

 ヴォイエルトはザーダスを守るように球状に展開、貫通されないように一定の厚さを維持する。

 だが、それが命取りだ。


 ドリッパーちゃんのイレイサードリルは、空間ごとヴォイエルトを消滅させる。

 不殺属性のないドリル攻撃は、削りとった粘膜を無条件再生させない。

 ヴォイエルトは自力で再生を試みるが……。


「シーリア、あの光ってるのが核だ!」

「応!」


 再生のために活性化したヴォイエルトの核が露出している。

 ディーラちゃんは旋回して、まっすぐに核に向かって飛んでいく。

 彼女に騎乗するシーリアは、慣性の変化などものともせず直立し、二刀を構えた。


 そうはさせじと、ザーダスが詠唱短縮メテオスウォームで迎撃する。

 空間収納装置による防御は間に合わない。


 ディーラちゃんは必死に機動回避を試みるが、数発の炎弾を食らってしまった。

 だが、黒闇の竜は止まらない。


「滅びの風、波となりて彼の者を払え! 《トルネードワルツ!》」


 ザーダスの唱えた魔法が、無数の竜巻となってディーラちゃんとシーリアを襲う。


『……アーマーパージ!!』


 ディーラちゃんの叫んだキーワードに応じ、ダークドラゴニオン装備が爆ぜる。

 たった一度だけ、装備を犠牲にすることによってダメージを0にする切り札だ。

 収まった嵐の中から、美しい紅の輝きが飛び出した。


「はあああああああああああッ!!」


 強化された動体視力で、かろうじて剣筋が見えた。

 ディーラちゃんとヴォイエルトのすれ違い様、白閃峰剣で赤いコア、ソード・オブ・メンタルアタックで青いコアを切り裂いた。


 ヴォイエルトが声もなく、形を失い、青いゼリーとなって地に落ちた。

 あのスライムは無機物を溶かす赤と、有機物を溶かす青のスライムが合体したフレイザ○ド枠である。

 ただのブルースライムになってしまったヴォイエルトも、コアを攻撃されれば1時間きっかり気絶しているはずだ。


 ザーダスが防御の下僕を突破され、舌打ちする。


「よし、今だ。不殺再エンチャント! 行けドリッパーちゃん!」


 今や小型も含めて4000機ほどに増殖したドリッパーたちが、ザーダスの周囲に漂う瘴気を喰らっていく。

 ザーダスも果敢に迎撃するが、一向に数が減る様子はない。

 飽和攻撃により、極大魔法を詠唱する暇さえない。


 このまま放っておいても、ザーダスを撃破することはできるだろう。

 だが、彼女に引導を渡す人物は決まっている。


「シーリア、とどめを!」

「……わかった!」


 彼女は白閃峰剣を捨てて、ソード・オブ・マインドアタックだけに切り替える。

 全く迷いがない動作。

 ザーダスを殺さない。

 誰に言われるまでもなく、シーリアがそう決めたのだ。

 

 俺は思わず嬉しくなって笑ってしまったが、おそらく誰にも見られなかっただろう。

 聖鍵から命じて、ドリッパーにシーリアとディーラちゃんが突入する道を作らせる。


「お姉ちゃん、目を覚ましてーッ!」

「ザーダス! いや、ラディ……! 帰って、来いぃぃッッ!!」


 ディーラちゃんが一条の紅き閃光となって、月の空を駆け抜けた。

 不殺の剣に白い光を纏わせたシーリアが、ザーダスの懐に飛び込む。


 インパクトの瞬間は、強化された俺の視力でもまったく捉えられず。

 ザーダスも、防御魔法を割り込ませられなかった。

 剣聖アラムの剣技と、成長したシーリアの精神が成さしめた神速の剣。


 こうして……すべてが、終わった。



 元の姿に戻ったザーダスを、地面に横たえるシーリア。

 ザーダスは、苦しげに呻いていて、人型になったディーラちゃんが必死に呼びかけている。


「シーリア……よくやってくれた」

「…………」


 シーリアは、何も言わなかった。

 表情には憎悪も満足もなく、ただ悲しみだけがあった。


「私は……」

「シーリア、今は……」

「お兄ちゃん! お姉ちゃんの様子が!」

「「!?」」


 ディーラちゃんの叫びで、俺達もザーダスの下に向かう。


「これは……」


 ザーダスの容態が、どんどん悪化している。

 顔色は青く、喉をかきむしるような動作を繰り返していた。


「お兄ちゃん! どうして……シー姉は、ちゃんと不殺の剣を使ったのに!」

「今、診てみる」


 俺はすぐにダークス係数をチェックした。

 問題ない、0まで下がっている。

 次にメンタルチェック。精神汚染なし。

 フィジカルチェック。む……。


「肉体を侵蝕されすぎたんだ……瘴気を排除できても、体にかかった負担が回復するわけじゃないから……」

「そんな……!」


 ディーラちゃんが悲しみに顔を歪め、シーリアが顔を伏せた。

 前と違って、完全に瘴気に身を委ねた為、負担が肉体にかかったようだ。

 もともと、666%なんて普通の有機生命体ならば耐えられないのだ。

 そう、ザーダスが普通なら。


「……残念だけど、ザーダスの肉体はもう限界だ。諦めるしか無い」

「やだ! そんなの、やだよ! お兄ちゃん、言ったじゃない! お姉ちゃんのこと、絶対助けてくれるって! アレは嘘だったの!? お兄ちゃん! ねえ、お兄ちゃん!」

「落ち着いて、ディーラちゃん!」

「嘘つき! お兄ちゃんの嘘つき! お兄ちゃんはいつも嘘ばっかり! あたしを騙して、世界の人達も騙して、思ったとおりに踊らせてるんだ! 信じたあたしが馬鹿だった……」

「ディーラちゃん……」


 彼女の糾弾を、俺は受け入れるしかなかった。

 俺は嘘つきだ。

 弁解のしようがない。

 ジャ・アークの一件では世界中の人達を騙したし、今回もシーリアを騙してザーダスを協力させた。


「お姉ちゃんがこんな目に遭ったのも、お兄ちゃんのせいじゃない! こんなのイヤ! もう誰も信じない……!」

「…………」


 ディーラちゃんの信頼を失った。

 もう、俺が何を言ったところで彼女が俺に心を開いてくれることはないだろう。

 だが、しょうがない。それだけのことを、俺はしてしまっている。

 これが罰なら受け入れよう。


 そう、思っていた。


「いい加減にしろ!」

「っ!」


 シーリアが、ディーラちゃんの頬を張った。


「アキヒコを責めて何になる! 確かに、アキヒコは嘘をついていた。そのことは私も怒りを感じる。だが、すべて私とザーダスのためだと信じてやったことだ。お前がついていた嘘と同じだ!」


 俺とディーラちゃんは、呆然とシーリアを見ていたが……彼女が俺の方に向かってきた。

 俺も、頬を張られた。

 ヒリヒリする……。


「私を騙したことは、これで許してやる。それより今は、ザ……いや、ラディを助ける方法が先だ。何かないのか?」

「あ、ああ……」


 そう言われて、俺もようやく頭の回転が戻ってきた。

 呆気にとられて、何も言えなくなっていたのだ。


「もう、フェイティスには連絡して準備をさせてある。行こう」


 俺達は、マザーシップのメディカルルームに跳んだ。

 すぐに気づいたフェイティスが一礼する。


「ご主人様、お待ちしておりました。ザーダス様は?」

「瘴気はなくなったが、肉体が限界だ。替えるしかない」

「かしこまりました。すぐに手術を行います」


 俺はザーダスの小さな体を、手術台に横たえた。

 フェイティスが機器を操作すると、苦しんでいたザーダスにドロイドが麻酔を注射した。

 すぐに大人しくなる。


「お兄ちゃん、一体どうするの……?」


 不安げに聞いてくる。

 やや、気まずそうにしていたので、俺は敢えて気にしていない風を装った。


「さっき言ったとおりだ。彼女の肉体はもう、耐用限界を超えている。交換するしかない」

「こ、交換って……」

「よく聞いてくれ、ディーラちゃん……彼女は人間でも魔物でもない」


 俺は一呼吸置いて、ザーダスの正体を明かす。


「超宇宙文明出身の市民……生体サイボーグだ」

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