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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode03 Sinner Zardas

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Vol.37

 ゴズガルドを下したシーリアは、さらに先へと進んでいく。

 俺達も、慌てて後へ続いた。


「……アキヒコ様、やはり瘴気がどんどん濃くなっています」

「…………」


 ――聖鍵、起動。

 ――ダークス係数、計測。


「279%だと……人間なら、即死のレベルだ」


 人間が侵されたときの致死率を100%で設定しているので、2人死んで1人が致命的な障害を受ける濃度だ。

 「永劫砂漠 ダークス係数 活性化」で検索。

 マジかよ……。今いる場所のダークス係数がどんどん上がっていく……!

 闇避けの指輪の耐久度は1000%まで安全を保証されているとはいえ、精神衛生上よくない。


「……明かりが消えた。リオミ、補充を頼む」

「……いえ。これは無理ですね。正常な魔力があらかた食いつくされています」

「じゃあ、暗視装備に切り替えよう」


 こんなこともあろうかと、俺は暗視用のコンタクトレンズを全員分用意していたのだ。

 空間から取り出して、全員につけさせる。


「ううっ……目が痛いよぅ」

「つか、ディーラちゃんは付けなくても大丈夫なんじゃないのか?」

「ホントだ! じゃあ、なんで渡したの!?」

「いや、俺も忘れてた」


 ドラゴンはもともと暗視能力がある。

 ディーラちゃんは、ぶーぶー言いながらも、不安げに俺に耳打ちした。


「ねぇ、どうしてこんなに瘴気が集まってるの?」

「多分、ザーダスを見つけたことで集まってきたんだろうが……」


 クローンで、ここまで反応してくるのか。

 確かに最近魔力が回復してきていると言っていたから、本体なら理解できなくもない話なのだが。


「いや、待て。まさか……」


 咄嗟にザーダスの位置情報を見る。

 スマートフォンの位置は中枢区と出る。確かに、今回のクローンの操作のために彼女にはあそこにいてもらったが……。

 さらにスマートフォンから、彼女のフィジカルチェックを行おうとして……異変に気づいた。


「……いない」

「え?」


 ディーラちゃんがきょとんとしている。


「ザーダスが、中枢区にいない……」


 どういうことだ?

 いや、見たほうが早い。


「悪い、俺はちょっとディーラちゃんと一度戻る。ふたりは待機しててくれ」

「わ、わかりました」

「大丈夫だ、先に行くぞ」

「くっ……しょうがない。ただ、リオミを置いていくなよ」

「……わかった」


 一応釘を刺した上で、リオミには時間稼ぎをするよう目配せする。

 頷いてくれたから、多分伝わっただろう。


 ――聖鍵、起動。

 ――転移対象は俺とディーラちゃん。

 ――転移先、マザーシップ中枢区。


「えっと、ここは……?」

「くっ……やっぱりか!」


 悪いが、ディーラちゃんには構っていられない。

 中枢区には、クローンを操作するためのコンソールを用意してあった。

 そこにはザーダスが座っていなければならないのだが、姿がない。


「お姉ちゃん……!?」

「どうした!」

「お兄ちゃん、こっちにお姉ちゃんが倒れてる!!」


 ディーラちゃんが指し示しているのは、ミラーボールを迂回した裏側のほうだ。

 俺からは見えないが、彼女は超感覚でわかったのだろう。急いで駆けつける。

 確かにそこには、ザーダスが横たわっていた。だが……。


「これは……ザーダスのクローンだ……」


 年齢は20代前半に見える。

 俺が用意しておいたザーダスクローンは、魔王時代の成長した形態をベースにしている。

 本来このクローンは、ザーダスの代わりにシーリアと戦わねばならない。こんなところに転がっているはずはない。


「まさか、お姉ちゃん……」


 ディーラちゃんの呟きに、思わず聞こえなかったフリをした。

 今何が起きているのかを、俺は正確に把握すべきだというのに、本能が邪魔をする。


「裏切ったのか、ザーダス……!?」

「そんな、お姉ちゃんが……嘘……」


 考えたくはないが、彼女が裏切って魔王としての力を取り戻そうとした可能性は有り得る。

 ザーダスの情報開示から、信用できる人物だと思っていたが……まさか、魔王に戻ろうというのか!


「瘴気は集まってるんじゃなくて、集められているんだ!」

「で、でもどうやってお姉ちゃんは地上に……」

「方法ならある。彼女には特別なゲストアカウントが設定されているんだ」

「ゲストアカウント……?」

「とにかく、説明は後だ。こっちへ!」


 俺は中枢区に設置されているテレポーターのところにやってきた。

 あるいは、間違いであってほしいと。

 だが、俺は更に決定的な証拠を見つけてしまった。


「ザーダスに渡してあったスマートフォン……」


 常に身に付けておくように指示しておいたアイテムなのに。

 テレポーターに接続されたまま放置されている。


「転移先を変更したのか……クローンを送り込むはずの地点だ」


 彼女には、事前にクローンを転送する先を伝えてあった。

 いや、確か……ザーダスから聞いてきたんだ。どこなのか、と。


「ザーダス……」


 信じてたのに。

 俺を、裏切ったのか。

 

「お兄ちゃん、待って! お姉ちゃんがそんなふうに考えるわけないよ!」

「でも、これが動かぬ証拠じゃないか。彼女は魔王に戻ろうとしてるんだ!」

「よくわからないけど……違う気がするの! お姉ちゃんを信じてあげて!」

「一体何を根拠に……くそっ!」

「だって、お姉ちゃんは逃げたわけじゃないんでしょ!? あたしたちの向かおうとしていた場所には、確かにいるんでしょ!?」

「む……」


 確かに。

 もし逃げるだけなら、自力で瘴気の濃い場所を調べて転移先をそこに設定すればいい。

 なにしろ、彼女には今と同じ行動がいつでもできたのだから。


「きっとお姉ちゃん……シー姉に斬られるつもりなんだよ」

「……なんだって?」

「シー姉から、両親が魔王と戦って死んだって話……お姉ちゃんも聞いたから。もし魔王に戻ることがあったら、シー姉に殺されたいって……」

「ザーダスが、そんなことを……」


 彼女は終わりなき贖罪に臨んでいた。

 だが、同時に疲れてもいた。

 シーリアとも仲良くなっていたし、彼女の両親を自分が殺したことを知ったら……彼女は……。


「くそっ、馬鹿は俺のほうか」

「すぐに止めないと!」


 どうする。

 シーリアとリオミは、スマホがあるから今すぐ転移で呼び戻すこともできる。

 ザーダスも、今から回収しに行けば間に合うだろう。

 今回は、発見が早かった。対応は充分に間に合う。


 だが、クローンを使うやり方に比べれば、むしろ堂々としている。

 本来の予定では、ザーダスクローンの姿を見て、さらに瘴気にあてられ顕在化したアラムがクローンを倒し、その後ろから俺がアラムを倒すという算段だったが……。

 放置しておけば、どちらかが確実に死ぬ……。


 感じるんじゃない。考えるんだ。

 このトラブルを逆に利用しろ。

 ザーダスの開示情報を思い出せ。

 シーリアに復讐を果たさせた上で、アラムを沈静化し、尚且つ彼女を説得させるだけの材料。

 ザーダスの罪悪感を払拭させる方法。

 魔王ザーダスの真実と、瘴気の関係。


 ある。

 方法ならある。

 だけど。

 迷う。

 悩む。

 決めなくてはならない。


 思考迷宮に入り込む。

 あらゆる情報が、俺の中で氾濫する。

 ルナベースで新たなキーワードを検索しながら、新たな情報を組み込んで、古い情報と合体させていく。

 その中を泳ぎながら、俺は娯楽のためではなく、勝利のために一心不乱にゴールを目指す。


 情報に耽溺し、漂うばかりだった俺に、答えを見つけられるのか。

 決断から逃げてきた俺が、今更壁を超えられるのか。

 そもそも俺はどうして、こんなにも中途半端な立ち位置を望んできたのか。


 ビジョンが見える。

 おそらく、今のルートと直結しないビジョン。

 俺とは別の俺たち。


 俺の迷いが、誰かの未来を奪う光景。

 俺の演技が、誰かを傷つける光景。

 俺の決断が、誰かを殺す光景。


 何かするたびに失敗し。

 失敗するたびに俺は慄いた。

 失敗を恐れるな? そんなのは無理だ!


 何かすれば、何かを得る代わりに何かを失ってしまう。

 何かやれば、何かを失う代わりに何かを得てしまう。

 どちらも等しく怖い。


 何も迷わなければ。

 何も決めなければ。

 弱い自分を守ることができる。


 だが、それでいいのか。

 同じ場所に留まり続けるということは、どこにも行けないということだ。

 あるいは、昔の俺ならよしとしたかもしれない。


 だが、俺は繰り返し過ぎた。 

 いつしか絶対に成功する方法を検証するため、ベニーとともに情報電子生命体へとその身を昇華した俺がいた。

 リオミが魔王となり、それを殺してしまったことでダークスに身を堕とした俺がいた。

 ディオコルトにあらゆるヒロインを寝取られ、ヤツへの憎悪とともに聖鍵に情報を入力した俺がいた。

 リプラさんとヤムエルを浄火派から守れず、怒りのあまり浄火派をなぶり殺しにして、フランを糾弾した俺がいた。

 アースフィアを恐怖に陥れる虐殺政治を行なって、かつての仲間たちに謀殺される俺がいた。


 すべて俺だが、違う俺だ。

 地球での経験次第で、どうとでも化ける。


 だが、俺は?

 ごく一般的な経験を積んだ、どこにでもいる普通の男だ。

 人と違うのは、演技がうまいことぐらい。


「……はは、そうだな」


 ならば、自分の特技で勝負してみるとしよう。

 俺だけが他の俺と違って、失敗しないなんてのはない。

 何度繰り返しても、どれだけ日和見でいても、どこかで破綻するのだ。


 だったら、自分から飛び込んだほうがいい。

 少なくとも、俺はこの世界で仲間になったみんなから、そう教わった。


「ディーラちゃん、ちょっと付き合ってもらいたい。多分、ショッキングな場面を見ることになると思う」

「お兄ちゃん……」

「でも、俺を信じてほしい。どんなことになっても、ザーダスは……お前のお姉ちゃんだけは、聖鍵が……いや、俺が助ける」

「……わかった。お兄ちゃんのこと、信じる」

「準備する。手伝ってくれ!」


 俺は、ディーラちゃんとともに駆け出した。



「遅かったな」

「ああ、待たせた」


 と言っても、シーリアとリオミは随分と進んでいた。

 もうすぐ、ザーダスの座標へと到着する。

 リオミには、事情を既にメールした。


 予定とはだいぶ変わったが、作戦は続行。

 おそらく、ザーダスとガチで一戦交えることも伝えた。

 ここからは芝居じゃない、本当の戦闘になる。


 俺は歩きながら、シーリアに声をかける。


「魔王ザーダスを殺すのか?」

「無論だ。この手で、必ず……」


 シーリアは前を歩いたまま振り向かず、自分の右の手の平を見つめた。


「俺が常々やってきたこと、覚えてるよな」

「何?」

「俺はこれまで、誰も殺さずにやってきた。お前も、俺のやり方から強さを学ぼうとしてくれた」

「……それとこれとは、別だ。魔王ザーダス。ヤツだけは決して許せん」

「例えばの話だ。もし、俺の正体が勇者でなく、魔王ザーダスを操る黒幕だったら?」

「ははっ、なんだそれは。突拍子がなさすぎて、笑い話にもならないぞ」

「真剣に答えてくれ」

「…………もしそうだとしたら、アキヒコのことは許せない。だが、それでも……殺しはしない、と思う」


 そう呟くシーリアも、自信はなさそうだった。


「それは、どうしてだ?」

「貴方のことを、愛しているからだ」

「……っ」


 ぐっ。

 今のは不意打ちだった。真っ赤になる自分を自覚する。


「……もし貴方なら、私は騙されても構わない。できれば、その話が本当なら……これからも私を騙し続けてほしい」

「……今の話は嘘だけど、もしそうだったらそうするよ」


 魔王を操る黒幕。

 ある意味、少し前までの俺がそうだと言えなくもない。

 だが、騙し続けるのは今日限り。

 最後の大芝居で終わりにしたい。


「……アキヒコ様。この先で瘴気が渦巻いています」


 リオミが注意を促した。


「わかった。リオミは、先に戻っていてくれ。どのみちこれじゃあ、魔素が足りない」

「いえ、いざというときには自分自身の魔力が使えますし、魔力石もいくつか持参しています。大丈夫です」

「リオミ……状況が変わったんだ。事はシーリアだけじゃすまない。それにもう、お前ひとりの命じゃないんだぞ」

「……!」


 リオミが葛藤する。

 俺たちとともに、戦いたい。側にいたい。

 だけど、お腹の赤ん坊を巻き込むのは彼女の本意じゃない。


 もともと、リオミには瘴気を理由に帰ってもらうつもりだった。

 俺も赤ん坊のことは本気で心配なのだ。

 危険度が上昇した以上、リオミには安全なところにいてもらいたい。


「頼む」

「……わかりました。必ず、生きて帰ってください。そして、みんなで一緒に戻ってきてください」

「俺を誰だと思ってる。予言の勇者アキヒコ様だぞ? リオミが見込んだ男だ。やってやるさ」


 俺は聖鍵を取り出し、リオミをマザーシップに転送した。


「ディーラちゃんはダーク・ドラゴニオンセットを装備してくれ。戦闘力が格段に向上する」

「う、うん」


 ダーク・ドラゴニオンセットに搭載されているオプションは、ドラゴン用に開発した成長段階上昇オプションだ。

 彼女の成長段階はヤングアダルトだが、これを装備したディーラちゃんの段階は100年分、2つ進み、アダルトを飛び越えてマチュア・アダルトとなる。

 残念ながら精神年齢までは成長しないが、マチュア・アダルト・ルビードラゴンになれば、新たに習得する擬似魔法能力を含め、全体的な戦闘力が格段に向上する。


「俺はバトルアライメントチップ、パワードスーツにオプションは絶対魔法防御、動体視力強化でいく。どのみち、この瘴気じゃ普通の魔法は使えないからな」

「……アキヒコ。私は白閃峰剣を頼む」

「む……」


 剣聖アラムの失われた魔剣。

 俺が既に原子分解してしまったが、実は解析データから3Dプリンタで復元できている。

 念のため、空間収納装置に何振りか入れてあるのだが……。


「必要なのか? ダーク・シーリアスセットの魔剣士オプションで充分なんじゃ」

「いや。私はこの戦いにおいてのみ、剣聖アラムに戻る」

「…………」


 やはり、そうなるか。

 だが、このあたりは想定済み。

 俺は彼女に白閃峰剣を取り出して渡した。


「無茶はするなよ。お前も俺の妻なんだから」

「フッ、任せておけ」

「……お前の子供も欲しいんだからさ」

「ぶふッ!?」

「おいおい大丈夫か?」

「び、びっくりしただけだ」


 少しでもシーリアの緊張をほぐそうと試みる。

 ディーラちゃんは無言でダーク・ドラゴニオンに変身していた。

 彼女はこの手の話で怒られて以来、他人のエロネタには決して口出ししてこないのだ。


「よし、行くぞ……!」


 俺達は、瘴気の立ち込める広間へと突入した。

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