72、既知故に
「我は領主だぞ!」
「村の実権は私のモノよ!」
「ワタシも〜〜! え〜と、え〜〜っと……」
私達は村へ向かい、村人と交渉して村唯一の宿屋を貸し切る事で住宅問題を解決しました。
それで一件落着かと思われましたが、私の宿泊先をどこにするかで対立が発生。
幼女しゅ……とにかく私を婚約相手に選んだ気違い領主達と、数少ないそれに私はひそかに水上艦で寝てみたい欲求があるので、最低一日は逃げますし。
そんな中で、私はヤニトーさんや村人達と隅の辺りでのんびりとお話をしています。
まあ、東領や私自身についての質問に私がはぐらかしたりしながら答えてたり、私がエルフについて気になる事を聞いたりといった形ですかね。ちなみに私が失踪した件はヤニトーさんが上手く執り成して東領へ遊びに出た事になってました。
「わー、髪の毛さらさら〜」
「肌もキレ〜」
「どうしたらここまで完璧に……? あぁっ!」
……いや、何かもう見世物になりつつあります。
「あ、サイト! どこ行く気ですか?」
空気になってこの場を抜けていくサイト。ずるいです。私も自由が欲しいです。
「……秘密。楽しそうだな」
どこをどう見ればですか……。サイトは私の姿に対し、嫌みを言い消えていきました。
あー、暗くなって来ました。
未だ宿屋の前で言い争う幾人を除き、村人達は夕食を食べるべく家々に戻っていきます。私を連れ帰ろうとする人もいましたが、どこかから鋭い視線を受け諦めたみたいです。
私、そろそろお腹空いてきました。
「ヤニトーさんはこれからどうしますか?」
「う〜ん……プルチェによりますねぇ」
「そうですよね。サイトは?」
「彼なら自分の荷物を確認しに行きましたよ」
サイトはヤニトーさん宅から自分の荷物を持ち出しに行って……帰っていないようですね。何やってんでしょう。
ヤニトーさんはプルチェさん待ち。サイトは使い物にならない。プルチェさんはまだ言い争い、というか駄々をこねてる。ウルースマ様にアッリウス様はそれをなだめている。村長はイーザル様とイエラウ様と激論を繰り広げている。もちろん部下である執事やメイドさんはおそばについている。
暇ですねー。ご飯まだですかねー。ちょっと見に行きましょうか。
宿屋の厨房に向かうと、そこには苦悩している宿屋の夫婦の姿が。
「どうかしましたか?」
「いえそれが……」
話を聞くと、お偉いさんに何を出せばいいのか悩んでいるみたいです。
「領主と言っても領民の税で暮らしているんですから、質素でも味がよければ大丈夫ですよ」
「味ですか……果たして領主様のお口に合うかどうか…………」
この人達……自信というモノがまるでないです。ですがやる気を取り戻してもらわないと、今夜はすきっ腹で寝る事になりかねません。
どうしたら………………私が、調理しては駄目でしょうか。何か食材を見ていたら無性に料理がしたくなってきたんですけど。
包丁……鍋……。
「あの、アレシア様? 何を……」
「ここは……私に任せて下さい」
「はい?」
肉よ……切れなさい。
「おぉ…………何という包丁捌き」
「あ、あのアレシア様! 何か手伝えませんか?」
「では……それをみじん切りにしなさい」「分かりました! あ、あなた! やりましょう!」
「よ、よし! そうだな!」
「はぁ……はぁ……。我らは一体どれだけ口論をしているのだ?」
「……ごふっ。喉が痛いわ…………」
「ワタシ疲れた……お腹空いた……」
「そう言えば、食事はまだかなー?」
「皆様〜! お食事でございます」
料理、と言っても調味料の数が少ない為塩でやりくりするしかなかったのは辛かったです。
宿屋の部屋に急遽設置された、二十数人が座れるテーブルに次々と着席していく中を私に宿屋夫婦が給仕をします。
「何故イブキもそのような事をしているのだ?」
「私も料理を少しばかり手伝ったので」
「いえいえいえ! アレシア様が殆どなされました!」
「その通りですよ、もうこんなに愛らしいのに……」
宿屋の奥さんに抱き抱えられます。ふぅ……いい感じの疲労感に人肌の温もりは眠気をさそ…………………………。
「「「「「おぉ〜〜」」」」」
「この寝顔は何とも……」
「村長として命令します。彼女を渡しなさい」
「………………どうぞ」
「はぁ……ん」
「く、卑怯だぞ!」
「おいしい……」
「う、ウルースマ様! まだ私が毒味しておるません!」
「毒なんて入ってないってば。はい、あーん」
「もご…………まだよく分かりませんね。毒味しなくては」
「ちょっと、それ毒味の料超えてる! 食べ過ぎだって!」
「イブキを引き渡せぇ!!」
「いやに決まってるでしょ!!」
「…………ん」
朝……あれ? 結局何も食べずに寝てしまったんでしたっけ。
さて、私はどこにいるんでしょう。誰が私を獲得したんでしょうか。
ベッドから起き上がり、寝室から出て辺りを見回してみた所、ヤニトーさん宅みたいです。
数日前の記憶を引き出して居間へと向かいます。
「ヤニトーさん、おはようございます」
「アレシアちゃん、おはよう。ご飯食べるかな?」
「お願いします」
「じゃあ、準備するから顔を洗っておいで」
という訳で近くの井戸に行き、バシャバシャと水を使っていると後ろから気配がします。よし、今回は察知出来ました。
「誰ですか? あ、サイト」
サイトは挨拶代わりに手を軽く振り替えして来ます。
「……なぁ。学園都市にはいつ行くんだ?」
学園都市。私が通っていたのではないかと推測している場所、ですね。
「うーん、荷物を整えたり何なりしますから……まあ、一週間内には出るとは思いますけど。珍しいですね。何でそんな事聞くんです?」
サイトは自分勝手だと思ってましたが、私の事も少しは気にかけていたのでしょうか。
「ただ気になっただけだ……気にすんな」
……えー。むしろあおってますよね、これ。
その後、色々とありましたがサイトの言動が気掛かりで何とも落ち着かない気分です。
その午後。村の宿屋で、私は誰? 会議を開いているさなかにも気になって仕方がありません。
というか……どうでしょう。以前地図を見た時の印象だと、私やディーウァレベルの速度なら日帰り感覚で行けるのではないでしょうか。
「イーザル様。伝えたかどうか分かりませんが、一つ大きな手掛かりがあるんです」
「ほう。何だ?」
かくかくしかじか……と。私は学園都市について話しました。
「それは……重要そうだね」
「えぇ。だから明日行こうかと思ってるんですが」
「何? しかし遠いだろう」
「イエラウ様。この村まで来るのに乗って来た乗り物があるでしょう。あれならすぐに行って帰れます」
概算ですが、ヘリコプターなら数時間で、飛行ユニットとディーウァだけなら数十分で到着出来るのです。まあ、方角が曖昧にしか分かりませんから学園都市を探すのに時間を食われそうですが。
「ふむ。あの乗り物なら、我らも着いて行けるな」
「まあ、そうですけど……目立ちますよ?」
みーんな、サイト含めて美形ばっかりですからね。注目集めるばかりで身動き取れなくなりそうな予感がします。
しかし皆さん着いて行く気まんまんみたいです。ウルースマ様付きの彼女は……? 彼女は反対しそうな気がしたんですが……む、旅行前日みたいな表情。駄目ですねこれは。
仕方ありません。明日は学園都市へ、エルフの大使節団が向かう事になりそうです。




