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52、特殊急襲




課長さんに看破されたタルクィニウス……さん。正に一部の隙もない論理展開にタルクィニウスさんはなすすべもなく敗退していました。ただし、後から考えると屁理屈だったような気がしないでもない感じでしたが……。


ともかくその後、馬車は駐車場へ移され、私は税務官が勤めている建物に移されました。建物は石造りの二階建て。建築費は高そうですが、何百年も住めそうな印象を受けます。


今はその建物の一部屋、机四台が左右に二台ずつに分かれて向き合わせに、一台が教壇の位置にあり、さらにそれらの脇にある応接用のソファーに座らされ、タルクィニウス……さんの仕事仲間に囲まれながらお茶を啜っています。


「取り敢えず自己紹介でもしておこうか。私はディケシルだ」


「私はイブキ‐アレシアと名乗っています」


「私はベレークと言います」


「あたしはルーストラ。よろしくね」


「おれはアルツム。よろしく頼みまーす」


四人掛けソファーが対面に二脚並べられていて、私の左右隣りににルーストラさん、ベレークさん。

対面真ん前にディケシルさん、右側にアルツムさん。タルクィニウス、さんは一人業務用机にふて腐れながら座っています。


「さて……ではこれからどうするか、だが……アレシアさんは考えがあるのだろうか?」


「私はとにかく元いた場所に帰して頂ければいいです」


帰り道が分からないですし、タルクィニウス、さんにしか責任はありませんからね。


「元いた場所……タルクィニウス君が出張した村は確か……デキムス村だったかな?」


「その通りです、課長」


ベレークさん、すかさず合いの手を入れます。やっぱり秘書……?


「因みに……どうやって海を越えて来たのかな? 島は精霊師に守られている筈だが……」


ディケシル課長が興味深けな表情を見せ、質問して来ます……飛んで来たんです、と言っても大丈夫なんでしょうか。そもそも私もディーヴァのEDA、戦闘機状態を見た事がないので半信半疑なんですよね。


「……飛んで来た、と言ったらどうします?」


一応、おずおずと真実を話してみます。


「……ほう、人間は飛べるのか」


「すごーい! 人間て飛べるの!?」


そしたら人間が更なる不思議生物扱いされてしまいました。まずいまずい。


「ち、違います! 私は、飛べるんです。えーと、精霊(?)を使って」


ディーウァは何に分類すればいいんですかね?

私には分かりません。


「ほう……それは」


ディケシル課長が何か話しかけていましたが、ドゴオアン! と鳴り響く建物の破砕音に中断に追い込まれます。


何事? 私は魔力を魔術式へ流し込み、発動待機状態に。


他の方々は荒事は経験がないようですね。唖然とした表情を見せています……場合によれば何やかんや問題があるかも知れませんね。






もうもうと立ち込めていた粉塵が晴れた先には……サイト!?


「どうして……?」


私はサイトに駆け寄ります。え……何で、何でいるんでしょう? どうやって来たんでしょう? 何の為に来たんでしょう? ???


「な、何で場所が分かったんですか?」


「こいつ」


サイトは肩に乗っかっていたディーウァをつまみ上げます。


『ご主人様〜!! 会いたかったです〜!!』


ディーウァは手を振り切り、私の頭に乗って泣き出しました。何で泣いているのでしょう。私に何かあったと思っているのかも知れません。だとしたら泣き止ませるのは簡単です。たいしたことはなかったですからね。


私はディーウァを両手で持ち上げ、目の高さに保持します。


「私は大丈夫です。怪我はありませんし、酷い仕打ちも受けていません。だから、大丈夫です」


目と目を合わせて話せば安心してくれるでしょうか? あまり自信はありません。私はあまり心の機微に聡くはないですから。


『よかったです……心配したです』


「そうですね。そこは謝ります」


でも、安堵の表情と私は思う表情を浮かべてくれたので多分おーけーです。


私はディーウァを胸に抱きしめます。私を案じてくれるのは嬉しいです。私は、必要とされている……ふふ、まだ心は癒されていないみたいですね。他人に必要とされていないと不安になるのですから。コードレッドとやらは危険なようですね。私はその当時の事を覚えていないので実感が湧きませんが。

いや……誰でも自分を案じてくれている人がいたら喜ぶものかも知れません。そうならば、問題はないのですが……しかし、私は記憶を失い自分の存在感というものが今一掴めません。だから存在感を明確にする何かを求めているだけなのかも知れません。




さてと、少し考え込んでしまいましたね……正直サイトが、ここまでするとは思っていませんでした。多少私を助けてはくれたりはしたのですが、それでもただ単に道中が同じだからだと思ってました。

しかしここまで……サイトは私を仲間だと思ってくれているのかも知れません。だとしたら、やはり嬉しいです。嬉しいという感情が、私の存在感を明確にしてくれたという自分本位な理由かも知れなくても。いや、だからこそ? 

それは分かりませんが、今はその喜びを、ただ喜びという感情を私が持っている事を伝えたくて、微笑みながらこの言葉を言います。


「サイト、ありがとうございます」


「…………………………! オレは、ディーウァを届けに来ただけだ」


そう言いつつそっぽを向くサイトの頬は、非常に僅かに赤みを帯びていました。照れ臭いんですかね? ふふふ……何だか心が温かいです。それにしてもお礼を言ってからの切り返しがサイトにしては遅かったですね。もしかしなくても、疲れているんでしょうか。


「アレシアは返して貰う」


顔の赤みが取れた途端、サイトは私を自身の背中へ下がらせ、言い放ちます。サイトから放たれる威圧感は物凄い重いです。

何というか、魔王に囚われた姫……いやまあ私なんかじゃサイトに釣り合わないし、こういう展開に吐き気を催す派ですけど……を救いに来た勇者の図に重なり合うものがあります。

しかし、しかしですね……魔王(下級官吏タルクィニウス)は既に勇者(中間管理職ディケシル課長)が討伐しているのです。


むしろ注意すべきなのはディケシル課長達ではなくて……


「貴様! 何をしている!?」


後ろから走り寄って来ているのが分かる衛兵達です。いや、警察でしょうか? 服装は軽鎧を装備し、西洋剣を所持しているのでまんま衛兵に見えるのですが……。




またまた厄介な事になりそうです。


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