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49、閉鎖された島




あれから、一週間。


私の体調は日常生活に支障がないくらいは回復しました。


今でも、仕事はさせて貰えませんが。過保護です。


看病を一ヶ月もされたのに何もしないのは、私の良心が痛みます。


サイトは何か色々手伝っているみたいですよ。


あの夫婦は町外れに住んでいるのでまだ他のエルフに会った事はありません。




という訳で暇なのです。そして暇なので抜け出しちゃったりしてます。


海沿いにある家ですが、百八十度向きを変えるとそこは森。

その森をお散歩している訳です。

冬なので木々は葉を落とし、木陰には雪も積もっています。


そうして三十分ばかり歩くと森を抜けます。


森を抜けると……村落を発見しました。


私はディーウァと共に近くの茂みを影に様子見します。


ディーウァは初めの内こそ私を引き止めていましたが、私がバックに入れていた飴玉を餌に買収しました。ちょろいですね。


うーむ、しばらく観察してみましたがエルフが全員美形だと言うのは……事実のようです。


もうみんながみんな、道を歩けば視線の的になりそうです。


『ほえ〜、みんな綺麗です。でも……ご主人様が上です』


お世辞をありがとう、ディーウァ。


ディーウァは私が死の窮地にさらされた時に誕生した、とサイトが言っていました。


だから、私びいきなんでしょうね。




私達は、ぼんやりとエルフを眺めてました。


冬ですが、寒くはありません。

記憶と共にある魔法を思い出したからです。


ハリソンコード562【灼熱】。


頭に浮かぶ魔術式通り、私に実はあった魔力を流し込み、発動させます。


記憶が戻ると共に、魔力の扱い方も分かるようになりました。


それにより、私達の周りだけ春のような暖かさが訪れています。


あ……瞼が重くなってきました。ディーウァも寝てますし、いいですよね?




何だか…………騒がしい、です。


「あー……」


「起きた……」

「起きたぞ……」

「何と、神々しい……」

「ねーねー、あの娘誰ー?」

「しっ、そんな無礼な口を聞いてはいけません!」


寝てる間に、見つかっちゃいました。ははは。はあ……ツイてないです。


現在、私はエルフに取り囲まれています。


エルフは人間に対し、どんな感情を持っているかが対処の鍵ですね。


友好か、無関心か、敵対か。


どれでしょう?


まず、敵対はしていないようです。現に私は生きてますし、縛られてもいませんし、嘲笑も受けていません。


残るは友好、無関心。

まあ、特に何もされないでしょうから大して差はないでしょうね。


とにかく無難に切り抜けましょう。


あ、何か代表者らしき人が出て来ました。


やはり綺麗ですねー。どんな遺伝子構造してんでしょう。


「貴女様は、何者なのでしょうか?」


出て来た人は淡い桃色の髪をした大人な女性。

純朴な田舎から都会に来た青年とかがやられそうなフェロモンを放っています。体型は……一番大きい、とだけ言います。場所は察して下さい。お願いします。


「名前はイブキ‐アレシア。このエルフの島に誤って来てしまった人間です」


エルフはロミリア共和国のとある半島から南西に進むと突き当たる島に住んでいると言われています。曖昧なのは、エルフ以外が島に近付くと嵐や台風やその他諸々が発生して進入出来ないからなんだそうです。


何故そんな情報が知られているかと言うと、数十年に一度くらいの頻度で、変わり者のエルフが人間の領土に来るからです。そのうち僅かなエルフは人間と共存しています。どうやらエルフだけが自由に行き来出来るみたいですね。


まあそんな訳でエルフが実在する事は知られているのですが。


「人間…?」

「何だっけ?」

「ニンゲン……何それ? おいしいの?」

「馬鹿だね、君達人間を知らないのかい? 人間とは土から出来た生き物で赤い木の実を食べると死ぬんだよ」

「えー? 私は満月を見ると猿になって暴れるって聞いたけど」

「俺は手を叩くとでかい扉を作って、扉から黒い手が出て敵を引きずり出すって父さんから聞いたけどなあ」

「ぼくは夜更かししたときママが、夜遅くまで起きてるとニンゲンがくるぞって言われたよ」

「待て、待て。全員の意見を並べると人間とは、土から生まれ、扉から黒い手を出して攻撃し、満月になると猿になり暴れ回り、夜遅くまで起きる子供の元へやって来る、赤い木の実が弱点の生き物な訳だ」

「「「「「恐ろしい…………」」」」」


…………エルフ側は人間を知らないようです。


「いえ、違います」


何か頭痛いです。しかし誤解を解かないと……人間代表として、やらなくてはなりません。


「では、貴女様は何者でしょう?」


「人間です」


言うなりエルフ達は後退りします。


「……違うんですよ」


「では何者ですか?」


「そうじゃなくて!! あなた達の人間の想像図が実物とあまりに違うんです!! 人間は土から出来てないです! 扉も出しませんし、猿にもなりません! 夜遅くまで起きてる子供の元にも行きません! 人間とは、人間の男と女から生まれ! ちょっと魔法が使える私みたいな存在です!!」


うぅ、怒鳴り過ぎてフラフラします。まだ体調は万全ではないのです。でも人間代表としてビシッと言ってやりましたから、良しとしましょう。


エルフ達はしばらく呆然としています。


「な、何だって……」

「人間は全てあの娘みたい……なのか?」

「エルフより人間が……上?」

「あの娘みたいな女の子が沢山……おっと、よだれが」


……何か、更なる誤解を生んだような?


まあ、いいや。帰りましょう。


「私、ヤニトーさんの所に泊まっているので、失礼します…………だから、出してくれませんか?」


私はエルフに取り囲まれ、半径一メートル程しか自由がないのです。


「人間……なら、敬語使わないでいいわね?」


「はい。大丈夫ですよ」


「フフフ……あなた、イブキだったかしら。今日から私の家に泊まりなさいな」


「いや、遠慮しときます」


私の何かが拒否反応を起こしています。彼女に関わるな。大切な何かを奪われるぞ、と。


「私、村長なの。だからこの村で一番偉いのよ?」


「いや、遠慮しときます」


「みんな! イブキの歓迎会を開くわよ!」


掛け声にエルフ達は歓声をもって反応します。


何だか村長宅に泊まる事が既定事項になっているような気がします。


「いや、あの…………」


歓声に打ち消され、私の声は誰にも届きません。


……でも、悪い気はしないです。


何だか、私がいる事を祝っているみたいです。


ふふ……他人の目を気にしている。


私の心は、弱くなってしまいました…………。


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