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36、冤罪を見逃すと罪?




……死体は全て眉間を撃ち抜かれています。


つまり、私が殺した?


なら何故覚えていないのでしょう?


……………分からない。何が何だか……私は…私は、何をしたんですか?


「……う」


気分が悪くなってきました……特に頭痛が…うぐぅ…あ……あぐぁ…


「あぁああぁああぁぁぁああアあぁアアァアアアア!!!!!……」












『どうやら負担が大きかったみたいですよ?』


『あぁ……表層に出られる限界は約五分だが、干渉も使ったからな』


『干渉だけなら問題はなかったですよね?』


『やめておいた方がいい。自分ならまだしもアレシアは存在が大きい。恐らく干渉でも自分が表層に出たのと同程度の負担がかかる』


『でも…生きた長さはあなたが上のはずですが』


『あの肉体において、自分は記憶以上の価値はない』


『……私とあなたが別れたのは何故でしょうね? 元々私達は一つだったのですが』


『分からない。……これからどうなるのかも』












……ここは、何処でしょう。


「イブキちゃん!!」


「あぁ、気が付きました……」


あ、ティアね…皇女です。私はベッドに寝かされていて、ティア皇女が私に抱き着き、ノビリア皇女とタリアさんが横に座り、傍には見た事のない騎士が立っています。

街にいる騎士は装飾がない、安かろう悪かろうといった鎧を着ていましたが、ここにいる騎士はペロポネアの国旗の紋章である緑竜が意匠として各部に彫られている鎧を着ています。

きっと立場も高いのでしょう。


「イブキちゃん大丈夫? どこか痛いトコある? あ、お腹空いてる? いやまずはお水かな? タリア、お水取って」


ティア姉、そんないきなり言われてもどれから答えればいいのか分からないです。


「…飲んで下さい」


うっ、いきなり口に流し込まないで欲しいです。まあ、喉は渇いてましたけど。


「あぁ! 私があげたかったのに!!」


「…ふっ」


「な、な、な……くっ! みんなー!! タリアって実は可愛フグゥ…」


「…それを言ったら、分かりますね?」


タリアさんの脅迫にティア姉は屈します。でも、皇族に脅迫なんかしていいんですかね?

その間を縫ってノビリア姉がベッドに寄って来ました。


「イブキ、本当に何ともないですか?」


「はい、何処も問題ありません」


「本当ですか? あんな戦いの後ですし、二日間ずっと眠っていたんですよ」


「二日も……」


寝てる間にそんな時間が経っていたんですか……


「大丈夫です。強いて言えば、少しお腹が空いてるかも知れません」


「…団長への報告のついでに何か持って来ます」


私の言葉を聞き、タリアさんが出ていってしまいました。


「団長……?」


何のですかね。もしかしたら皇室騎士団かも知れないですね。

皇室騎士団は読んだ通り皇室を守る為の騎士団ですし。


「クリス団長の事ですよ。クリスは私達皇族を守る皇室騎士団の団長です」


いつも説明してくれるティア姉はタリアさんとの口戦で今へばってますから、代わりにノビリア姉が答えてくれます。


「どんな人ですか?」


「そうですねぇ……真面目な方です」


今一印象が分からないままですが、タリアさんとクリス団長が入って来ました。クリス団長は体の一部を守る軽鎧を身に着けた目つきが鋭い青年です。……皇族に仕えると目つきが鋭くなるんですかね?


「イブキ‐アレシア、君にいくつか質問がある」


クリス団長はいきなりこう切り出しで来ました。


「クリス、イブキは病み上がりです。まず食事をさせてからでもいいんではないですか?」


「簡単かつすぐ終わる質問です」


「…分かりました。手短にお願いします」


「では、君はギルドカード偽造の容疑がかかっているそうだが事実か?」


「…分かりません。ただ、他人のカードを拾っただけかも知れませんし、カードの読み取り部分が壊れていただけかも知れないです。しかし一つ言える事は、ギルド側は今言った可能性を全く考慮に入れずに私を拘束下に置き、さらに性的暴行を加えようとしました」


「…確かに納得出来る。それが事実ならばだが。そうだな……食事を取った後、我々と離れるならば不問に付す。それでいいか?」


クリス団長、融通はきかなさそうですが優しいですね。犯罪者を見逃すのは辛いでしょう。


「はい。十分過ぎるくらいです。配慮いただきありがとうございます」


「では、最後の時間を過ごすといい。スタンリー、お前も来い」


「はっ、分かりました」


クリス団長が出ていきました。


「イブキちゃんは私達と離れてもいいの?」


不満そうなティア姉。


「良くないです。しかし元々ティオキアまでの約束でしたから……」


「あ……そうだったね」


「確かに約束通りになってしまいましたね。イブキが寝ている間に私達はティオキアに到着しましたから」


「あ、そうなんですか」


何だかしんみりとした雰囲気です。


「…では、侘しいかも知れませんがお別れの食事です」


その雰囲気の中タリアさんの発言にズキリとします。あぁ、やはりお別れなんですね。


確かに今までに比べると侘しいかも知れませんね。パンに塩漬け肉、果物ジュース。


「…お互いの無事を祈り、乾杯」


「「「乾杯」」」




「で、イブキちゃんはロウダスに行くの?」


「はい、そこに何かがあるかも知れませんから」


「気をつけて下さいね。戦争が起きてから何処も治安が悪いそうですから」


「はい、気をつけます」


「…名残惜しい」


「……私もです」


交互に私を愛でるみんな。これが皇族独自の別れの儀式なのでしょうか。




そしてあっという間に時間は過ぎて行き……別れの時間です。


前回襲われた事から警備の都合上、ティオキアの宮殿の外にティア姉達は出れないそうです。


入口に案内されながら見た内装はすごかったです。

柱の一つ一つにすら装飾が施され、天井にはモザイク画が……


見送りにはティア姉にノビリア姉、タリアさんにカシウスさん、後は何故かクリス団長。


私は灰色ローブに全身を包み、フードを深く被り、耐寒装備は万全です。


「イブキちゃん、元気でね」


「…辛くなったら戻って来なさい」


「頑張って下さい」


「イブキ、諦めずに進んで下さい」


「みなさんお世話になりました。またいつか会いましょう……さようなら」


こうして私は別れを告げました。

あぁ、別れは辛いですねぇ。




宮殿はとても広く迷う者もいるらしいです。

という訳で何故かクリス団長が案内役となりました。私は、タリアさんやカシウスさんがよかったんですが二人は皇族を一番近くで守る役目があるので駄目なんだとか。

でも、クリス団長が代われば問題なかったのではと思ったりしています。


かれこれ十分歩いていると、やっと門に辿り着きました。


「案内役、ありがとうございました」


「……俺は違和感がする」


「はい?」


いきなり何を言ってるんでしょう。


「この戦争、ギルドの対応、世論の流れ……まるで、人類を…いや、何でもない。ただ、俺はお前を疑ってはいない。それだけだ」


「はあ……では、さようなら」


「ああ」




さて、ロウダス島に行きますか。


あ…、雨が降って来ました。


…………しょっぱい雨ですねぇ。


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