表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家族に売られた薬草聖女のもふもふスローライフ【WEB版】  作者: あろえ
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/81

第77話:選択

「魔王ベリアス……」


 今までで見たこともないほど険しい表情をしたリクさんが、ベリーちゃんを警戒した。


 どうやら顔は知っているものの、交流はないらしい。明らかに敵対しているような雰囲気を放っている。


 他国の人が急に侵入してきたんだから、リクさんの気持ちはわかる。でも、今はそれどころじゃない。


「落ち着いてください、リクさん。エイミーさんの容態に関わりますから」


 ベリーちゃんが悪い人ではないと、私は知っている。


 今までトラブルを起こさないようにと、ベリーちゃんはコソコソと様子を見に来ていた。何か理由がなければ、獣人たちを警戒させるように姿を現すような人ではない。


 ただ、どうにも敵対心を露わにするリクさんが気に入らないみたいで、ベリーちゃんも鋭い目つきをしている。


「ほお。貴様がリクとやらか。よもや、この時代の獣王だったとはな」

「こんな場所に出てきておいて、何を言う。目的はなんだ」

「焦るでない。まだ魔獣化も制御できていない子犬であろう。ちょいと躾でもしてやろうか?」


 一触即発の空気になり、二人に声をかけられないでいると、亀爺さまが間に入ってくれた。


「旦那さま、待ちなされ。敵対しなければ、()()()()()()は害を及ぼす方ではありませんぞ」


 ……ん? ベリーちゃん? もしかして、亀爺さまとベリーちゃんって、知り合いだったの?


 亀爺さまの発言により、場が異様な空気に包まれる。


 ただ、ベリーちゃんと呼ばれた本人はしっくりと来ていないみたいで、目を細めて亀爺さまを見つめていた。


「んー? 貴様は……もしや、あの時の亀の小僧か!」

「思い出していただけましたか。いや、実にお懐かしい」

「魔力を探らねばわからなかったぞ。随分と年老いた爺になったものだな。昔は甲羅をブイブイと言わせておったというのに」

「皆の前ですので、やめてくだされ。お恥ずかしい。年寄りが過去の栄光にすがるものではありませんぞ」


 唐突に同窓会みたいな雰囲気に変わるが……。


 状況が読めないこっちの気持ちにもなってほしい。


 こんなタイミングで感動の再会なんてやられても、全然心に響かないから。


「亀爺さまもベリーちゃんも、思い出話はその辺にしてください。今はとても大変な――」

「ベリーちゃん……?」


 いつもの調子で話しかけた途端、リクさんに不審な目で見られてしまう。


 なぜそんなに魔王と親しそうなんだ、と言わんばかりに赤い瞳が揺れていた。


「深い関係ではないですよ。ちょっとした知り合いなんです」

「……そうか」

「ほ、本当ですよ。素性とかも全然知らなくて……」


 どうしよう、どんどんと話がややこしくなる。そう焦る私をよそに、ベリーちゃんがニヤニヤした顔を向けてきた。


「リクとやら。男と話した程度でヤキモチを焼いていたら、不仲の原因を作るだけだぞ」

「魔王ともあろう奴が、つまらんことを言ってくるものだな」

「クククッ。それでは図星だと言っているようなもの。まだまだ青い奴だのぉ」


 ベリーちゃんは何をしに来たんだろう、と思いつつも……。


 リクさん、ヤキモチを焼いてくれているんですね。へぇ~。それは夫としての自覚があるということでしょうかね。


 やっぱり本当は魔獣さんと同じように甘えたいんじゃ……って、今はそんな場合じゃなかった。


「ちょっと皆さん、いったん落ち着いてください。今はエイミーさんを最優先に――」

「懐かしい声がするわ。きっとパパね」

「パ、パパー!?」


 なんなんだ、この状況は! エイミーさんの父親って、もしかして!!


「我が娘よ。残念ながら、魔族化するみたいだな」


 カオス……。この空間、めっちゃカオス……。


 頭の中がこんがらがって、全然状況の整理ができないよ。


 でも、二人の関係性を知ったら、ベリーちゃんがコソコソと裏で動いていた理由がなんとなくわかる。


 だって、亀爺さまが『普通のヒールライトでは、魔蝕病の進行を抑えることができない』と言っていたから。


「ベリーちゃんが銀色のヒールライトを探していたのは、エイミーさんの治療薬を作るためだったんですね」

「正確に言えば、魔族の血を封印するために探していた。魔蝕病を治療するには、それしか方法がないのだ」


 確か、お守りに使用した儀式魔法は封印術の一種だった。本来は、それに使うためのものだったのか。


「じゃあ、エイミーさんは魔族になるしかないんですか?」

「いや、それもない」


 真剣な顔したベリーちゃんに、アッサリと否定されてしまう。


 魔蝕病の治療法がなく、魔族化が進む今、魔族にならない選択肢があるとすれば――。


「我が永遠の安らぎを与えてやろう。魔族化する前に、な」


 ベリーちゃんの言葉に部屋の空気が張り詰めると、彼を妨害するようにリクさんが手をつかんだ。


「待て。魔王とはいえ、勝手な真似は許さん」

「貴様の意見など聞いていない」

「彼女はこの国の人間だ。魔族のルールは通用しない」


 再び一触即発な空気になる中、エイミーさんが微笑む。 


「マーベリックさん。気持ちは嬉しいけど、落ち着いて。こう見えてもパパは優しい魔族よ。私が苦しまない方法を取ろうとしてくれているだけだわ」


 純血の魔族であるベリーちゃんにとって、ヒールライトは猛毒になるだろう。それでも、彼はこの地に訪れ、銀色のヒールライトを探していた。


 すべてはエイミーさんの魔蝕病を治療するために。


 そんなベリーちゃんが厳しい結論を出したのは、大きな理由があるに違いない。魔蝕病とは、それほど難儀な病に違いない。


「我が娘の体は、魔族の血に耐えうるものではない。このままでは、急速に体が腐敗し、不死者(ゾンビ)となるだろう。この場で選択を誤れば、生涯を苦痛で過ごす運命を背負うのだ」


 一生の苦しみから逃れるために、死を与える。ベリーちゃんの選んだその選択が正しいのかどうかはわからない。


 ただ、エイミーさんが受け入れている以上、私が口出しすることではないと悟った。


「大丈夫よ。私は最初から覚悟ができていたわ。悔いのない人生だった。唯一、心残りがあるとすれば、最後までイケメンさんを育てられなかったことね。もう少し一緒に生きていたかったわ」


 そんな彼女の僅かな後悔を聞いた時、不意に私は何かに呼ばれている気がした。


「もはや時間がない。今代の獣王よ。今回は見逃し……」


 同じように何かを感じたのか、ベリーちゃんは言葉に詰まり、ゆっくりと部屋の中を見渡す。しかし、この部屋からは何も聞こえてこなかった。


 獣人のみんなが反応していないのであれば、これは音じゃない。


 この感覚は……ヒールライトの、魔力? でも、なんかちょっと違うような気が……。


 少しずつ反応が近づいてくると、廊下をドタバタと大きな音を立てて、マノンさんがやってくる。


 その手に握られていたのは――。


「奥方、大変! この薬草が急に暴れ出して、地面から飛び出てきた!」


 待たせたな、と小さく揺れたイケメンさんは、銀色に輝く魔力を解き放っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2023年8月10日に書籍1巻が発売しておりますので、ぜひぜひチェックしてみてください!

家族に売られた薬草聖女のもふもふスローライフ

画像クリックで公式へ飛びます。

 

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ