第53話:カボチャプリン
朝ごはんの肉まんを食べた後、私はリクさんお手製のカボチャプリンをデザートにいただいていた。
「くぅ~! この濃厚な味わいが堪りませんね……!」
スイート野菜を使用していることもあって、口に入れた瞬間、カボチャの甘みが一気にブワッと広がる。その豊かな香りが鼻に抜けると、とても幸せな気持ちになってしまう。
これには、野菜にうるさい侍女たちもウットリとしていた。
「おいしいね~」
「おいしいよね~」
「おいしいな~」
本当においしい時は、おいしい以外の言葉が出てこないと聞くが、まさにそれだろう。完全に語彙力が消失して、ゆっくりと味わって食べていた。
そんな現状に驚いているのは、カボチャプリンを作った当事者、リクさんである。
「思ったよりも好評だな……」
カボチャプリンの出来栄えに自信はあったと思うが、予想以上の反響に戸惑いを隠せていない。
それもそのはず。肉食系獣人たちも大人しく席に着き、じっくり味わって食べているのだから。
「たまにはこういうのも悪くないよな」
「肉の代わりと言ったら、やっぱり甘いものしかねえよ」
「ぶっちゃけ、俺は肉より甘いものが好きだぜ」
ミノタウロスが勢力を拡大している今、街の周辺で魔物の肉が取れなくなり、お腹いっぱい食べられていない。てっきり酒に走るのかなと思っていたけど、意外に甘いものに走っているみたいだった。
「うぐぐっ、リクめ。なかなかやる」
そして、なぜかリクさんに対抗意識を燃やすマノンさんが悔しがっている。
しかし、カボチャプリンを口に入れると、すぐにだらしない笑みを見せていた。
素直においしいと言えばいいのに、と思いつつ、私も残っているカボチャプリンをいただく。
「はぁ~、幸せの味がするー……」
この濃厚なカボチャの甘みが、私を何度でも幸せにしてくれる。
最初は濃厚すぎてクドくなりそうな気がしていたけど、卵の味でまろやかなので、食べ進めてもあまり重く感じない。意外に後味も良く、最後までおいしく食べられそうだった。
一足先に食べ終えた亀爺さまは、腕を組んで何かを考え始める。
「ふむぅ。ねだったら怒られそうなやつじゃのう」
いつも怒られないとわかっていて、朝ごはんのおかわりを催促していたとは。完全に確信犯なのであった。
***
朝ごはんを済ませると、私はマノンさんと一緒に裏山に向かい、野菜の水やりを済ませる。
その後、薬草菜園を管理しようと思っていたのだが。
……ガサッ
他に行く場所があるんだろう? と言わんばかりに軽く揺れた薬草たちが、妙に大人しくしていた。
「もしかして、朝ごはんに行く前の光景、見てた?」
ガサガサッ
バッチリね、と大きく頷くように薬草たちは縦に揺れた。
予想外の目撃者たちである。
変に嫉妬されるよりはいいし、我が儘を言われるよりもいい。でも、どうして薬草たちが後方父親面しているんだろう。別にいいんだけどさ。
薬草たちの厚意に遠慮なく甘えさせてもらい、私はデートの支度に時間をかける。
髪型や服装、化粧など……。普段とは違う印象を抱くように、マノンさんにおめかししてもらっていた。
「奥方、こういう時にアクセサリーがないと不便」
「うっ、確かにそうですね。ドレスに合わせるものも必要ですもんね」
「ドレスが完成したら、買いに行こう」
「……わかりました。でも、高価なものは控えてくださいね?」
「わかった。その分、いっぱい買う」
何もわかっていなさそうなマノンさんは、手慣れた動きでパパッと髪をまとめてくれる。
少し伸びた髪をアップスタイルにして、ちょっぴり大人っぽい雰囲気を演出。メイクは軽く、頬にピンクチークを入れて、あどけない感じにしてくれた。
意外と言ったら失礼だけど、マノンさんのメイド力はすごい。流行にも詳しいし、おしゃれセンスは抜群だ。
「奥方、初デートはロングスカートで決まり。公爵夫人らしく、お淑やかな雰囲気を出さないと」
気合いがみなぎるマノンさんの言葉に、私は思わず納得して、うんっと頷くのであった。





