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家族に売られた薬草聖女のもふもふスローライフ【WEB版】  作者: あろえ
第一部

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第25話:嵐の前の静けさ

 分厚い雲に覆われた翌朝。私はリクさんと一緒に風で揺れる薬草を眺めている。


「今夜は荒れるかもしれないな」

「やっぱりそう思いますか……」


 嫌な予感は当たるとよく言うものの、今日ばかりは外れてほしかった。


 どれだけ強く願ったとしても、自然災害が避けられるとは思わない。それでも、もう少し遅れてきてくれたら、先にスイート野菜を収穫できたのに……、そう思わずにはいられなかった。


 だって、今までにないくらい不気味な雰囲気を感じるから。これが嵐の前の静けさだとしたら、予想以上の嵐が来そうで怖い。


「街に大きな被害が出ないといいですね」

「すでに騎士団をいくつかのグループに分け、街に派遣している。年老いた者や病弱な者に手を差し伸べないと、大変なことになるからな」


 この街は魔物災害がある影響か、防災意識が高いんだろう。朝から屋敷も大騒ぎで、みんながテキパキと動いて対処していた。


 普段はおっとりしている侍女たちも、木の板で窓を塞いだり、風で飛ばされそうなものを中に入れたりと、(せわ)しない。


 いつものように賑やかな朝ごはんを過ごすこともなく、軽食を済ませた者から仕事に取りかかっている。


 私もマノンさんの手が空いたら、急いで野菜畑に向かわなければならない。今日ばかりは無事に成長している薬草よりも、実り始めた野菜畑の方が心配で仕方なかった。


「騎士団も忙しいのであれば、野菜畑まで手が回りそうにありませんね……」

「人材を確保するのは難しい。だが、できる限り声をかけるつもりだ」

「わかりました。何とか嵐が来る前に、防災対策が間に合うよう努力してみます」


 領民たちにも生活があるし、家族を守らなければならない。いくら領主さまに仕事をもらっているとはいえ、野菜畑は二の次になってしまう。


 これには、裏山で栽培している弊害もあるだろう。


 騎士やマノンさんの手が空かないと、私も領民も野菜畑に向かうことができない。こんな日はどこでも人手が欲しいので、もう割り切るしかなかった。


 リクさんも同じような気持ちみたいで、ずっと浮かない顔をしている。


「悪いな。嵐で農作物に被害が出る可能性を考慮していなかった。裏山の方が地盤が緩く、被害は大きくなりやすいだろう」

「いえ、リクさんが気にすることじゃないですよ。街の中で栽培していても、うまく嵐に対処できるかどうかは別の話ですから」


 肝心の雨よけもまだ完成していないし、今まで大雨の対策をしてきただけで、こんなに大きな嵐は想定していなかった。


 ハッキリ言って、不安要素が大きく、無事にやり過ごせる可能性は低い。私の経験から推測すると、野菜畑が半壊で済めばいい方だと思っている。


「薬草の方はどうだ?」

「こっちは問題ありません。屋敷から様子を見ながら対処できますので、心配不要です。いざとなったら、魔法で防ぎますし」


 株分けして薬草菜園の規模を拡張したとはいえ、最初から自然災害を考慮して、雨風の対策はバッチリと準備してある。


 もしもの時は、風魔法を使った捨て身の防風壁を展開すれば、被害は最小限に抑えられるだろう。


 私が大雨でビタビタに濡れても、ここでは湯浴みができるし、薬草菜園は何とでもできる自信があった。


「植物を育てていれば、遅かれ早かれ自然災害はやってきます。あまりクヨクヨしていても仕方ありません。何とか乗り切りましょう」

「そうだな。まずは無事にやり過ごすことを考えるが……、今回の嵐が落ち着いたら、一度ゆっくりと話し合おう」

「ん? 別に構いませんけど」


 嵐が落ち着いた後にリクさんが話し合いたいことって、体調不良の件についてかな。無理に聞くつもりはないんだけど。


 そんなことを考えていると、マノンさんの手が空いたみたいで、遠くの方からやってくる姿が見えた。


「じゃあ、私は裏山で野菜畑の対処をしてきます」

「頼む。俺もできる限り急いで、裏山に向かう。うまく雨よけが設置できたら、今夜はそこに泊まって様子を見るつもりだ」

「風で破れることもあるので、夜間に雨よけの修理をお願いできるとありがたいですが……、本当に大丈夫ですか? 近場と言っても、山ですよ?」

「それくらいのことはさせてくれ。どのみち土砂崩れが起きないように注視しておきたい場所だからな」


 そう言ったリクさんが背を向け、走り去っていく姿を見て、ふとあることに気づく。


「あれ? リクさんの尻尾、あんな色だったっけ?」


 綺麗な銀色の毛並みの中に、金色の毛が混じっている。


 もしかしたら、毛が生え変わる時期なのかもしれない。


 近づいてきたマノンさんの毛は、そんな様子は見られないが。


「奥方、どうかした?」

「……いえ、何でもないです。早く裏山に向かいましょう」


 少しばかり不思議に思いつつも、深く考えないようにする。


 いま優先すべきことは、獣人の毛並みではなく、野菜畑の対処だ。何とか防災対策を間に合わせないと、野菜畑を見捨てることになってしまう。


 できる限りの範囲で対処しようと思いつつ、私はいつも持っていかないリュックを担いだ。


 これを使わずに対処できたらいいんだけど……、そう思いながら。

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家族に売られた薬草聖女のもふもふスローライフ

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