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家族に売られた薬草聖女のもふもふスローライフ【WEB版】  作者: あろえ
第一部

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19/81

第19話:スイート野菜の栽培3

 領民たちと協力してスイート野菜を栽培することになった私は、三つのグループに分けることにした。


 一つ目は、魔物の骨を砕いて肥料を作る係。二つ目は、その肥料を畑にまき、種を植える係。三つ目は、魔物の皮を繋ぎ合わせて、雨よけを作る係だ。


 少し変わった作業もあるが、基本的には農家の仕事と変わらない。


 イレギュラーなことがあるとすれば、急に公爵夫人として私が現れたことくらいなのだが……。


 のびのびと骨を砕く人たちを見ると、あまり気にする必要はないと実感した。


「そんなにおいしい野菜ができるもんかねー」

()()()()()の公爵夫人が言うんだ。間違いない」

「収穫を楽しみにする公爵夫人の顔が目に浮かぶよ」


 屋敷よりも緩い雰囲気で作業が進むのには、大きな理由がある。


 バシッと言おうと思い、つまみ食いに制限をかけたところ、食いしん坊な人だと思われてしまったのだ。


 栽培を手伝う彼らは、貴族のものを食べるつもりはないらしいが、それはそれで納得できない。育てた野菜を最初に味見するのは、栽培者の特権であり、一番の醍醐味である。


 ましてや、寒い時期に採れる野菜には甘みがギュッと閉じ込められていて、生でも十分においしい。貴族だけで独占する方が食いしん坊だと思う。


 そのため、スイート野菜について熱弁したところ、公爵夫人はとても野菜好きだと誤解されてしまった。


「自分で野菜を栽培するなんて、珍しい娘さんだねー」

「貴族がこだわった分だけ、仕事が増えるってもんさ」

「野菜をつまみ食いする公爵夫人の姿が目に浮かぶよ」


 本当に貴族令嬢なのか怪しいイメージにたどり着いてしまったが……うぐぐっ。否定できない自分が悔しい。


 順調に魔物の骨が砕かれていることを確認した後、種を植える班の元へ向かった。


「お嬢さんや、この骨の粉末を全部土に混ぜてしまってもいいのかい?」

「構いません。混ぜたところから順に種も植えていってください」

「そうかい、わかったよ。もうそっちの畑は、言われた通りに種を植え終えたからね」

「ありがとうございます。では、私の方で水をあげておきますね」


 畑仕事の経験者を集めたこともあり、こっちはかなりスムーズに進んでいるみたいだ。


 年配のお爺さんたちが多くて、ゆったりと時間が流れているけど、とても丁寧に仕事をやってくれている。


 ただ、農家の経験がある影響か、普通の野菜とスイート野菜の栽培の違いが気になるらしい。私から目を離そうとせず、変に注目されていた。

 

 別に隠すようなことではないけど、水をやる姿はあまり見られたくない。長い付き合いになることを考えたら、恥ずかしがっていても仕方ないが。


 お爺さんたちの熱い視線を感じながら、魔法で水球を作り、種を植えたばかりの畑に水やりをする。


「が、頑張って芽を出すんだよー」


 おばあちゃんの教えを貫くのは、恥ずかしい。恥ずかしいのだけど……。


「お嬢さんはよくわかっておるな。植物に話しかけると、育ちが良くなるんだよ」


 意外にもおばあちゃんの教えは、老人世代に人気だった。


 何十年も植物を育てていると、共通の価値観が生まれるのかもしれない。律儀におばあちゃんの教えを守り続けてきてよかったと思った。


 最後に、魔物の皮で雨よけを作ってもらう女性陣の元へ向かう。


 ここは一番やることが多いだけでなく、魔物の皮は加工が難しいので、慣れるまで厳しい仕事になるだろう。


 まずはしっかり皮を洗ってもらい、余分な油脂を取り除いてもらっている。


「けっこう力仕事だねー」

「本当にね。これ、鍛冶屋さんに依頼した方が早いんじゃない?」

「コラッ、つべこべ言わずに手を動かしな。仕事が無くなったらどうするんだい」


 キレの良いお婆さんが一人いるので、ここは彼女に任せよう。下手に教えに入ると、私も怒られそうで怖い。


 なんといっても、私も薬草菜園用に雨よけを作らなくてはならないのだ。まとまった魔物の皮が手に入ったことだし、みんなに紛れて一緒に作ろうと思う。


 洗い終わった魔物の皮をいくつかもらって、早速、それらを繋ぎ合わせる。


 本来なら針と糸を使ってやるところだが、私はおばあちゃん直伝の魔法を使った方法で作成していく。


 魔物の皮を火魔法で溶かし、すぐにくっつけたい魔物の皮を重ねる。そこを水魔法で一気に冷やすと、しっかりと固着するのだ。


 繊細な作業であり、加減を間違えると皮を燃やしてしまうので、みんなには裁縫でやってもらうしかないが。


 そのまま作業を続けていると、周囲の警戒に向かっていたジャックスさんとマノンさんがやってきた。


「器用なもんだな」

「奥方、じょうず」


 二人は褒めてくれるが、私はちょっとムスッとした表情を向けてしまう。


 ジャックスさんがスピーチの無茶振りをしなかったら、食いしん坊のイメージが付かなかったと思うと、やるせない気持ちが芽生えてくる。


 言葉を口にしたのは自分であったとしても、あんなに急に出番を与えられたら、混乱するのも当然のこと。


「こんなことになったのは、ジャックスさんのせいですからね」

「嬢ちゃんが早く打ち解けられたようで何よりだ」

「恥ずかしい思いをしただけですよ。さっきなんて、孫娘でも見られているような視線を感じたんですから」

「嬢ちゃんの気持ちもわかるが、残念ながら、すでに気高い猛獣枠は埋まっているぜ」


 ジャックスさんがマノンさんを指差すと、彼女は大きく胸を張った。


 魔物を追い払う力はあるかもしれないが、品があるとは思えない。どちらかといえば、可愛い猛獣枠の間違いではないだろうか。


「別にそういう風になりたかったわけではありません。もう少し普通の枠に収まりたかっただけです」

「嬢ちゃんは愛想を振り撒いていた方がいい。今後の作業にも影響するだろうし、自然体で過ごした方がいいんじゃねえか?」


 ジャックスさんの言うことは、一理ある。でも、スイート野菜の監修を考えたら、それほどやることは多くない。


「私のやることは、水やりに来て、魔力を確認する程度ですよ。明日には芽が出ますから、あとは雑草との勝負ですね」


 畑に魔物の骨を使うデメリットは、大量の雑草が生えてくることだ。スイート野菜を作るためとはいえ、すぐに忙しくなるだろう。


「嬢ちゃん、さすがに明日には芽が出ねえよ。野菜だからな」


 呆れるジャックスさんは信じていないみたいだが、魔物の骨と魔力が浸透した水を得た植物は、常識では考えられない早さで成長する。


 明日の野菜畑の光景を見たジャックスさんは、いったいどんな顔を見せてくれるのか。今から楽しみにしておこうと思う。

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