63 疾風怒濤
オペレーターはカウントするように報告し始めた。
「高度二〇〇キロ。目標、大気圏を脱出! 残り一七〇〇キロ、一六〇〇キロ」
「一秒間に一〇万メートル!? 倍以上、加速した?」
大気圏の再現CGは、それまでジャマーの動きを亀の歩幅くらいに動かしていたが、ここに来て指で力いっぱい弾いたように飛び上がった。
CG内では扇型の飛行物体はギロチンのように平面を移動していた。
唖然とする安曇顧問へ鬼塚課長は短く解説する。
「障害物となっていた地表の電波影響を受けなくったんだ。ヤツのスピードを遮るモノは何も無いない」
本部内は報告だけで混乱が生じる程、入り乱れていた。
オペレーター同士の報告合戦は熾烈さを増す。
「目標、到達まで一八秒!」
「衛星離脱まで一五秒!」
「課長! AIが現出位置を算出。極軌道衛星の真横をかすめます」
これだけ報告が混在しても上司たる鬼塚課長はしっかり聞き取り、的確に指示を飛ばす、
「人工衛星の照準を目標に合わせた状態で待機」
「了解!」
ここまで頼りない様相を見せていた課長が力強い口調で指示する。
「宇宙ならスプリアスは気にしなくていい――――撃って、撃って、撃ちまくれ!」
標的をロックオンした衛星のカメラ映像は、みるみると迫って来る飛行形態のジャマーに、たじろぐように映像が揺れる。
マグマのような赤い二つの目玉がモニター全面を支配した後、消え失せ、湾曲した青い地球の姿が映る。
安曇顧問はうろたえるながら言葉を発する。
「通り過ぎたぞ!?」
モニターの端に再現されたCG画像は電波ナマズが攻撃準備を整えた極軌道映像を飛び越え全体像を見せていた。
高度一〇〇〇キロの極軌道衛星を過ぎ去った電波ナマズは、そのままビーコンを発する低軌道衛星へ一直線に進む。
だが、これにより巨大ジャマーの動きが読めなかったオペレーターが冷静さをとりもどした。
「AI、目標の進路固定」
ジャマーの進路を予測していたCG画像は扇型からしぼみ、一本の直線が地球と低軌道衛星を繋いだ。
それに合わせて宇宙空間を監視していた他の衛星カメラが、ついぞジャマーが通り越えたばかりの極軌道衛星を見つめる。
極軌道衛星が攻撃態勢を整えて傾く。
女性オペレーターのカウントダウンが役目を終える。
「三〇〇キロ、ニ〇〇、一〇〇、ゼロ!」
鬼塚課長は静かに発報。
「――――――――撃て」




