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47 たった一つの冴えたやり方

 自分で語るもの恥ずかしいくらい、万城目・縁司(えんじ)という人物は、少年だろうと大人だろうと関係なく、つくづく意気地の無い人間だと思う。

 僕は電波監視官の美女が励まし、奮い立たせる言葉を、真っ向から否定してしまった。


「ム、ムリです……僕は本城さんみたいに戦えない……出来ません!」


「あぁーーっ! うるさいっ!! 一人で戦えなんて言ってない! 君を守る為に私がいる。誰かを頼って戦うのよ!」


 彼女の気迫に押され、それ以上、返す言葉が喉に引っ込んでしまった。


「この国に生きる人達は、譲れない明日の為に、眠い目をこすりながら起きて一日、必死で働いて、次の日も負けないように立ち上がる。そうやって世の中や自分と自分に関わる人を守ってる」


「ゆ、譲れない明日を守る?」


「その人達がきっと、最高の未来を作ると信じてる」


「最高の未来……」


 本城さんの言葉を聞いていると、まるで魔法にかけられたように、根拠の無い自信と勇気が芽生えた。


「だから私達は、この国で生きる人を守るの――――ジャマーなんかに未来を譲らない。一緒に戦ってくれるよね?」


 自分でも最初は恐怖から首が震えてるだけだと思っていたが、自然と首を縦に振り続け、決意を固めていたことに驚く。


 思い出したように取り巻きの若手官僚二人は、本城さんの両腕を掴んで、再び拘束しようとするので彼女は抵抗した。

 

「ちょっと、離してよ! セクハラで訴えるぞぉ!?」


 小競り合いで注目を浴びた電波監視官の美女は、上司に進言。


「課長ぉお! 私に作戦があります」


 男性二人に(あらが)う彼女を見た鬼塚課長は、ため息をついた後、隣で険しい顔で眺める安曇顧問へ一言。


「安曇君。もういいかな?」


 安曇顧問もそれ以上、意見を聞くこともなく本城さんを拘束する取り巻き二人に「君たち、彼女を離して下さい」と指示する。


 解放された本城さんは二人の官僚をそれぞれ恨みがましく睨むと、乱れた髪と襟を直してから考えを述べた。


「巨大ジャマーは今、都心部にいるせいで軌道衛星の誘導電波に食い付きません」


「建造物から発せられる電波が交差して、街全体をシールドのように覆っているからね。それで、君の作戦は?」


「ジャマーを誘導する為の誘導を行います。宇宙からではなく地上で、電波が混線している地区から、電波の少ない地区まで誘きだします」


「なるほど、君の考えはわかった。しかし、東京で飛び交う電波で成長したジャマーは、我々が有する誘導電波には反応を示さない」


「誘導なら出来ます」


 すると本城さんは僕の腕を掴んで、今、初めて紹介するかのように言った。


「彼が誘導してくれます」


 鬼塚課長は腕組みをして部下の内心を探っているのか、本城さんと僕の顔を交互に見てから話し出す。


「なるほど、それならジャマーを誘導できるかもしれないね」


 話に付いていけない安曇顧問が横槍を入れる。


「待って下さい。そんなに簡単に誘導されますか? その根拠はなんですか?」


 鬼塚課長は聞かれたことに答える。


「ジャマーは電磁波の体を持つ生物だ。その行動原理は野生動物と差して変わりない。野生の生き物には帰巣きそう本能がある」


「帰巣本能ですか? 巣から離れた鳥が数ヶ月や数年後に巣へ戻ってくると聞きますが、それがジャマーにも?」


「あの電波ナマズは元々、少年の身体に寄生し、住みかにしていた生物だ。長いこと潜んでいたのだから、居心地が良かったのかもしれん。宿主である少年へ回帰しようとする習性があるやもしれん」


「少年を現場へ派遣する気ですか? 危険が伴うかと……」


 僕や本城さんを拘束させておいて、今になって気遣うなんて、少し都合が良すぎる気がするけど、こんな状況で些細なことを気にしても仕方がない。


 鬼塚課長は本部(ここ)に来て初めて僕へ語りかける。


「万城目少年。今がどんな状況か理解してくれますね? 君の力が必要です。我々に協力してくれますか?」


 改めて言われると面を喰らう。

 僕は少し戸惑いを見せつつも、その返事は一つだと心に誓った。


「はい!」

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