聖女は騎士とダンスの特訓がしたい
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(なんだろうこれ…そう。野良ネコに餌付けをする時の構図だわ。)
今日は、ヴィルヘルムとダンスの練習だ。しかし、ヴィルヘルムはやや離れたところからこちらを伺うばかりで、なかなかミサキに近づこうとしない。
(初対面の時より距離が近い気はするけれど?)
イザークに付き合ってもらって、だいぶダンスは上手くなった気がするミサキ。ヴィルヘルムも、嗜みとしてダンスは踊れると聞いている。
「ヴィルヘルムさま?練習しないと…。」
「はっ、…そうですね。」
ジリジリ…ジリジリ…。しかし、ミサキが近づいくと少しずつヴィルヘルムは後退ってしまう。
(むむ。このままでは埒があかないわ。)
「目を瞑っていてください。」
「…。」
ヴィルヘルムが目を瞑っている間に、ミサキはそっとそばに近づいた。
(驚かさないようにそっと声をかけて…。)
近づいて来た野良ネコに、食べ物を乗せた手を差し伸べる時のようにミサキはヴィルヘルムにそーっと声をかける。
「ヴィルヘルムさま。もう大丈夫ですよ?」
あえて目線は合わせない。
「これは訓練です。特訓です。きちんとやりたいんです、私。」
「…特訓?」
そう目を光らせヴィルヘルムが答えた時に、初めてミサキは目を合わせた。
「そう。特訓です!」
そこからはスムーズだった。むしろ、ヴィルヘルムの鬼教官っと叫びたくなるくらい順調に特訓された。
「足捌きが遅い!それでは敵に打ち負ける!」
「ハイッ」
「ターンのタイミングが悪い!連携を崩すな!」
「はぁはぁ、ハイッ。」
日が暮れた頃、2人はロマンチックとは程遠いものの素晴らしい連携で踊ることができるようになっていた。
「あの。ヴィルヘルムさま?」
踊りが終わって我に返ったヴィルヘルムは、再びミサキと距離を取っている。
それでも、ダンスを始める前に比べて格段に距離は近い。これなら大きな声を出さなくても、普通に会話できそうだ。手を伸ばしても届かない距離ではあるが。
「おぉ。随分と打ち解けたではないか。ヴィルヘルムが家族と騎士団の同僚以外の女性とここまで近い距離にいるの、ワシ初めて見た。」
(この距離で…。本当に普段はコミュニケーション苦手なのね。ヴィルヘルムさま。)
「ミサキ殿。其方のドレスが出来上がったそうだ。試着してきなさい。ヴィルヘルムの分もできているから、お前も一緒にな。」
足早に向かった来賓室には、再びユリアーネが待っていた。部屋に入ったミサキとヴィルヘルムを見比べたユリアーネが指先で口を覆って目を見張った。
「あのヴィルが、家族以外の女性とこんなに近くにいる?!さすが聖女様…尊い。」
こちらを振り返り、両の手でミサキの手を握りしめて握手してくるユリアーネ。
それを見たヴィルヘルムが、顔を片手で覆って天井を仰いでいる。
その後に、袖を通したドレスは、全体的にホワイトを基調とし、スカート部分はプリンセスラインで青みがかった光沢のあるシルバーで透ける素材の布が幾重にも重ねられている。
裾部分は濃い紫の刺繍が施され、上質なアメジストが煌めいていた。
(でもこれって、ヴィルヘルムさまの色そのままではないかしら?)
同じく試着を終えたヴィルヘルムは、白い上下の盛装に身を包んでいるが、飾りひもなどの装飾品は黒と青みがかったシルバーでまとめられている。
(まさかのお揃い!!)
ヴィルヘルムの反応が気になって、そっと見ると呆然とこちらを見つめて固まっている姿が目に入る。
(ヴィルヘルムさまも困惑している…。)
「ほらぁ。かわいいと思ったら、ほめ言葉の一つもかけなさい。ダメな弟ね。…耳が赤くなっているわよ?」
後半は良く聞こえなかったが、ユリアーネが気を使ってくれているようだ。ミサキは少しいたたまれない気持ちになった。
「あの…かわいいです。ミサキ殿。」
もはやヴィルヘルムの頬は赤くなってしまっている。そんなに緊張しながらもほめてくれたヴィルヘルムにミサキは感謝した。
「ありがとうございます。ヴィルヘルムさまの隣ではかすんでしまうかもしれませんが、素敵なドレスのおかげで夜会、頑張れそうです。」
「あらぁ、本当に素敵よ。きっとみんな振り向くわ。当日は私も参加します。よろしくねミサキ様。」
ミサキが返事をすると、ふふふ、楽しみだわ。と扇で口元を隠し愉快そうに笑ったユリアーネがヴィルヘルムの耳元で何かを呟いた。そして呆然とするヴィルヘルムを置いて退室した。
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