大聖女と勇者たるもの
最終話です。途中に残酷表現ありますので、苦手な方はご容赦ください。
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「久しぶりだな。ミサキ?」
「夜光草の精霊の主殿。此度はどのようなご用件ですか?」
流石に剣を抜いていないが、相変わらずの冷たい声音でヴィルヘルムが牽制する。
「んー。そろそろ俺が誰かわかってるんだろう?ヴィルヘルムは。」
「…王国の始祖。光の大精霊様とお見受けします。」
光の大精霊が心底おかしそうな表情を見せた。
「そこまでわかっていてその態度。さすがと言えば良いのか。」
「え。ヴィルヘルムさま?光の大精霊さまって、神殿にも女神様と共に祀られている…。」
(それがわかってて、その態度。たしかに不敬極まりないよ。)
「あ、あの。でも私たちは本当に何故またここへ呼ばれたのですか?」
「君のヴィルヘルムだけど、だいぶ変わったね?」
大精霊が、ヴィルヘルムを見る目は以前に比べると柔らかい。
「はっきり言って、ヴィルヘルムのその髪色。俺と同じ精霊の色そのままだ。瞳だって、ファフニール王の色そのものだし。」
「……。」
「君の過去、周りからの仕打ち、人とはかけ離れた精霊の力。その結果として君が闇に堕ちたら魔王にだってなれるだろうね。」
ミサキは思わず2人を見比べた。たしかに髪の毛の色はそっくりだった。
ヴィルヘルムは、口を閉ざしてしまった。その姿に不安を感じたミサキは、その手をそっと握りしめた。
「ミサキ殿。もう、大丈夫ですよ。」
「ヴィルヘルムのあの子。ミーティアと言ったか。」
「………!」
ギリ…
ヴィルヘルムが、はっきりと歯軋りをした。握ったその手は汗ばんで、温度がどんどん下がっていく。
「その呪縛から解かれない限り、君の未来は開けない。君の未来が開かなければ、人々のの未来も。」
―――もう一度、きちんと折り合いをつけておいで。
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「ヴィルヘルム!逃げるのよ!」
ミサキはひとりの少女の目から、成り行きを見ていた。何か言いたくても言えず、体も自分では動かせない。ただ、物語の進行を少女の目線で見るだけ。
「ミーティア!逃げられるはずがない。仲間たちは倒れてしまったが、ここで俺は戦う。」
「ヴィルヘルムのバカ!貴方は王になりなさいよ。こんなことしてくる奴らに王国の未来を任せてはいけないわ!」
まわりには倒れ伏したヴィルヘルムの部下たち。
「あ……。」
その時、少女の胸を矢が突き刺した。
「ミーティア!!」
(…痛い、苦しい。でも、ヴィルヘルムさま…。)
「「泣かないで、貴方には生きて欲しいの。」」
下を向いていたヴィルヘルムが、剣を掴み裏切った王国の兵たちに突っ込んでいく。その姿は、ヒトではないだ。
鬼神のような強さに、裏切り者たちは逃げることもできずに、斬り伏せられていく。
(ヴィルヘルムさまの哀しみが、流れ込んでくる。)
その時戦場は、薄いピンクの花びらと光の粒で満たされた。
ミサキは、ミーティアと呼ばれた少女と向き合っていた。かつて、ミサキと同じく聖女と呼ばれた少女と。
「ごめんね。ヴィルヘルムを助けたかったの。だから最後の力で貴女に助けを求めたの。」
「あ。あの時の、女神…。」
ミサキの隣には、いつのまにかヴィルヘルムが立っていた。
「ヴィルヘルムを勇者にして、魔王にしないで欲しい。…勝手なお願いだけど私が大好きなこの王国を助けて欲しい。」
「ミーティア…。」
少女は笑う。そして願う。
「悲しんでもいい。でも、闇に堕ちたりしないで。」
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ミサキは泣きながら目覚めた。そこは神殿で、大精霊の姿はなかった。
「ヴィルヘルムさま?!」
「あの時一枚だけ飛んできた花びら…ミサキ殿だったんですね。」
「ヴィルヘルムさま。泣かないんですか?」
ヴィルヘルムは、微笑んだ。その笑顔は強がりには見えない、ヴィルヘルムは前を向いているようだった。
「涙なら、先日ミサキ殿の前で流しましたよ。貴女は俺を救ってくれた。それでもう、十分です。」
ヴィルヘルムは、ミサキの前に膝をつきその手に口づけした。
「俺が王になるとしたら、隣に立つのは貴女がいい。俺と結婚してくださいませんか。」
「ヴィルヘルムさま。私はそんな器では…。」
「いつか貴女は大聖女になります。王国の初代ファフニール王の生涯愛した妃は王国の始祖、光の大精霊の愛子、大聖女でした。」
ヴィルヘルムとミサキが、これから進む道は苦難の連続に違いない。
「たまには、お忍びで観光に連れて行ってくれますか?」
「貴女が望むなら。」
後世、勇者と謳われた英雄王、そしてその妃である大聖女が、訪れた地で次々と起こした奇跡は、伝説として語り継がれている。
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