守護騎士の出生の秘密
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「其方は結局、なぜ何かするたびそんなに目立ってしまうのだ。」
こめかみを抑えて、大神官イザークがため息をついた。ミサキの周りには、クルクルと夜光草の精霊が2人浮かんで楽しそうにミサキにじゃれついている。
あまりに可愛いから、夜会のあとにルルとララなんて名前を付けてみたら、帰らなくなってしまったのだ。精霊に名前を付けるのは、主従契約だと脱力したイザークがあとから教えてくれた。
(もう少し早く教えてほしかった。)
「…そんなに目立ってました?」
「目立たないわけがないだろう?あんなに花びらをまき散らして…。精霊まで召喚して。今、王都ではお前たちを題材に王室を舞台にした恋愛小説が重版に重版を重ねているらしいぞ?もちろん版権の一部は、其方につけているからな?」
「うひゃー。」
だれが、そんなものを書いているのだろうか。アレを見ていた貴婦人か、それともうわさを聞いたハーフリングか…?どちらにしても由々しき問題だ。
「それに、ヴィルヘルムのこともある…。」
「え?」
「ヴィルヘルムは、公爵家の六男だと前に話したな?」
「ええ…。」
その後、イザークが話し出したのはミサキにとって青天の霹靂だった。
「え?ヴィルヘルムさまって、王位継承権あるんです?しかも、継承権第2位です?は…何言ってるんですか?」
「…ヴィルヘルムの母親は、隣国の王女だ。ハーマン公爵家は、長男とヴィルヘルムだけが正妻の子。長男は公爵家を継ぐ故、王位継承権はないからな。」
「え?でも、この前の夜会で第3王子さまと踊りましたよ?」
「…其方が踊った王太子。つまり第3王子以外は陛下の愛妾の子どもだ。ファフニール王家には、継承権がある男子は一人しか生まれなかった。」
重い沈黙がミサキとイザークの間を流れる。
「ヴィルヘルムは、王位争いに加わらせないために、ワシの手元に置いていた。幼いころから何回も命を狙われ、戦争でもいつも最前線に送り出されていたからな。」
「……。」
「そなたの守護騎士にしたのも、裏を言えば王位争いを抜けいずれ神殿に入ることを印象付けるためだ。だが、其方はワシの娘になり大聖女候補に挙がってしまった。そして、婚約者と踊るラストダンスをヴィルヘルムと踊った。」
「…私は、どうしたらいいのですか。」
長い溜息と沈黙の後に、イザークは優しく微笑んだ。
「其方の思うとおりに。…ワシは最高神官になることにしたからな。」
「大神官…さま?」
「ワシの権力も、生まれも、養女になったこともうまく利用するがよい。まぁ、すべてを捨てて旅をするのもよい。其方の思うとおりに生きろ。」
「大神官さまは、もしかして私のせいで…。」
大神官は、微笑んでミサキの頭を優しく撫でた。
「ワシは其方にほだされてしまったようだ。…可愛い娘にな。以後2人きりのときはお父様と呼ぶように?」
イザークが目線を向けた先には、ヴィルヘルムの姿があった。思いつめた瞳だったが、今は下を向くことなくまっすぐミサキを見つめている。
「ワシはヴィルヘルムがどうしたいのかも聞いていない。まあ、あいつが王になったらそれはそれで退屈しないが?」
ヴィルヘルムのもとへ、まっすぐかけていくミサキ。
「答えは結局のところ、その姿にあるな。」
少しだけ寂しそうに、イザークが呟いた。
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「ミサキ殿、俺のこと伯父上から聞いたんですね。」
「うん。聞いた。目立たないようにしていたのに、私のせいで…。」
「ミサキ殿のせいではないです。…ただ、過去にとらわれ続けていた俺に意気地がなかっただけです。」
その時、ミサキの周りを漂っていた夜光草の精霊が強い光を発した。
―――ミサキ、ダイセイレイサマ、ヨンデル
―――シカタナイカラ、ヴィルモ、ツレテッテアゲル
「え?」
「くっ。またか?」
ミサキはヴィルヘルムに抱きしめられていた。足元の床が溶けてしまったような浮遊感。でも、ヴィルヘルムがそばにいるおかげで以前のような怖さは感じなかった。
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